勝手かって)” の例文
そして、だれかていぬかと四辺あたりまわしますと、勝手かってもとのところで、まだわかおんなが、しろぬぐいをかぶってはたらいていました。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
勝手かってなりくつをかんがえて、ぴょいと、木へ飛びつくと、これはまたあざやかなもの。なにしろ、本場ほんば鞍馬くらまの山できたえた木のぼり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日ではこのアアチの下をば無用の空地くうちにして置くだけの余裕がなくって、戸々ここ勝手かってにこれを改造しあるいは破壊してしまった。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これほど明白にわかり切った事をおとよが勝手かって我儘わがまま私心わたくしごころ一つで飽くまでも親の意に逆らうと思いつめてるからどうしても勘弁ができない。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
イヤイヤあれはれいによりて人間にんげんどもの勝手かって仮構事つくりごとじゃ。乙姫様おとひめさまけっして魚族さかな親戚みうちでもなければまた人魚にんぎょ叔母様おばさまでもない……。
それだのに、なぜ、昔から男は、食後でも人前でも勝手かってに足を出し欠伸をし、云い度いことも云えるのに、女にそれが許されないのだろう。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勝手かって口の方もまだ締りをはずしたばかりで、女中共がずっと勝手もとにいたのでございますから、とても知れぬ様に出て行くことは出来ません
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おまえの勝手かってだが、ただひとつ、この小べやだけは、けっしてあけてみることも、まして、はいってみることはならないぞ。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
そのうちに比叡山ひえいざん西塔さいとう武蔵坊むさしぼうというおてらぼうさんがくなりますと、弁慶べんけい勝手かってにそこにはいりこんで、西塔さいとう武蔵坊弁慶むさしぼうべんけいのりました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「ヒトミちゃん。ぼんやりしているね。三次元世界ならポーデル博士に連れていってもらわなくても、ぼくらが勝手かってにゆける世界なんだもの」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれ詮方せんかたなくおやすみなさい、とか、左様さようなら、とかってようとすれば、『勝手かってにしやがれ。』と怒鳴どなける権幕けんまく
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ふん、おめえまで、余計よけいなことはおいてくんねえ。おいらのあしでおいらがあるいてくんだ。どこへこうが勝手かってじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
下は獣類じゅうるいのあいだに介在かいざいするものであるから、両者の性質を兼備けんびし、自分の勝手かって都合つごうよきほうにくらべ、ある時はみずから尊者そんじゃの敬称をあまんじて受け
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わたくしはあの救助係きゅうじょがかりの大きな石を鉄梃かなてこうごかすあたりから、あとは勝手かってに私の空想くうそうを書いていこうと思っていたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ヂュリ いますぐにくわいの。……縁談えんだん斷然ふっゝりめ、わしをば勝手かってかしてくだされ。明日あす使つかひをげませうぞ。
勝手かって気ままに、あっちへ飛んだり、こっちへ飛んだりして、たがいにほかの仲間なかままよわそうというのです。
旗本の神尾主膳かみおしゅぜんはお預けから、とうとう甲府勝手かってうつされてしまって、まだ若いのに、もう浮む瀬もない地位に落されたが、当人はいっこう平気らしくあります。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「てめえら、みんなぐるになって勝手かってなことをしてやがるんだな。よし、どうするか見てやがれ。」
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
勝手かってに屋敷の中を通る小学校通いの子供の草履ばた/\で驚いて朝寝のねむりをさましたもので、乞食こじき物貰ものもらい話客千客万来であったが、今は屋敷中ぐるりと竹の四ツ目籬めがきや、かなめ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
反抗的に言ったりもしましたが、本心ではわれわれの関係が解消されるものでないことをよく承知しながら、幾日も幾日も手紙一つやらずに私は勝手かってな生活をしていたのです。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
翌朝、郁治が眼をさましたころには、清三は階下したで父親を手伝って勝手かってもとをしていた。いまさらながら、友の衰弱したのを郁治は見た。小畑に聞いたが、これほどとは思わなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この時に至ればもはや平生の厳しい法律も宗規しゅうきもみな自由に解かれてしもうて、さながら魚が網から飛出して再び大海に泳ぎ出したかのごとくに、銘々めいめい勝手かってに自分の思う儘をやるという有様です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「そんなら勝手かってにするがいいよ。」
おじいさんは、わざと勝手かってもとから、もんほうへまわりました。そして、へいについている節穴ふしあなから、そとのようすをのぞいてました。
日の当たる門 (新字新仮名) / 小川未明(著)
主人は目で細君をせいす。勝手かってで子どもがきたったので細君はった。花前もつづいて立ちかけたのをふたたびになおって
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
何卒なにとぞ神様かみさまのおちから子供こども一人ひとりさずくださいませ。それがおとこであろうと、おんなであろうと、けっして勝手かってもうしませぬ……。
くちでそういわれても、勝手かってらないやみなかでは、手探てさぐりも容易よういでなく、まつろうやぶたたみうえを、小気味悪こきみわるまわった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かくのごとくその理想なるものを実行するさいにその翻訳の任にあたる自分の考え一つで、勝手かって次第に意味をとる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そう信じているからこそ、最初さいしょにしめした、試合掟しあいおきてにも、相手がた騎乗きじょうでも徒歩かちでも勝手かってしだいと傲語ごうごしたのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
威張いばってそういましたらもうその風は海の青いくらなみの上に行っていていまの返事へんじも聞かないようあとからあとからべつの風が来て勝手かってさけんで行きました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ご主人がいらっしゃるのを知らないままに、わたしが勝手かってなことをしてしまいまして申しわけありません。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早速右の肩がこぶの様にれ上がる。明くる日は左の肩を使う。左は勝手かってが悪いが、痛い右よりまだましと、左を使う。直ぐ左の肩が腫れる。両肩りょうかた腫瘤こぶで人間の駱駝が出来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして、どこまでも、あとをつけていきましたが、お勝手かってに近いところで、ふと豹のすがたを見うしなってしまいました。そこには、庭ばんの助造じいさんの部屋があります。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると為朝ためとものために大島おおしまわれた役人やくにんがくやしがって、あるときみやこのぼり、為朝ためとも伊豆いずの七とう勝手かってうばった上に、おにしまからおにをつれてて、らんぼうをはたらかせている、ててくと
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「ごらん、あちらのやまもりも、みんなはやまっしろになったから。」と、あにはせわしそうにたきぎを勝手かってもとへはこびながら、いいました。
ペスときょうだい (新字新仮名) / 小川未明(著)
わがまま勝手かってそだてられてたおこのは、たとい役者やくしゃ女房にょうぼうには不向ふむきにしろ、ひんなら縹緻きりょうなら、ひとにはけはらないとの、かた己惚うぬぼれがあったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
なぜかといえば、その人選じんせんはとにかく、あらそうべき焦点しょうてんにはこちらになんの相談そうだんもなく、こういう無類むるい部門分ぶもんわけをして、勝手かって註文ちゅうもんをつけてきたのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり自然界しぜんかい仕事しごと幾段いくだんにもおくがあり、いかにかかりの竜神りゅうじんさんでも、御自分ごじぶんちからのみで勝手かってあめらしたり、かぜおこしたりはできないようでございます。
「さあ、ぼくの方が早いか。それとも牛丸君が勝ったか。なにしろ牛丸君は、この土地に生れた少年だから、山の勝手かってはよく知っている。だから、ぼくはかなわないや」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしノルムにして自己以外にあるものならんには、自分の勝手かってにならぬことは確実である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もうあとはおれたちの懇親会こんしんかいだ、と云うつもりでめいめい勝手かってにのんで勝手にたべました。ところが山男にはそれが大へんうれしかったようでした。しきりにかぶりかぶりとお酒をのみました。
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
勝手かってなことをいいながら、どんどんして行きました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
次郎じろうさんが、おこってていってしまったあとで、きよは、どうしていいかわからないので、鉛筆えんぴつって、お勝手かってもとでいていました。
気にいらない鉛筆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして思い出すと、こんどはひとり勝手かってなふしをつけて朗詠した。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またその桔梗ききょういろのつめたい天盤てんばんには金剛石こんごうせき劈開片へきかいへん青宝玉せいほうぎょくとがった粒やあるいはまるでけむりの草のたねほどの黄水晶きずいしょうのかけらまでごく精巧せいこうのピンセットできちんとひろわれきれいにちりばめられそれはめいめい勝手かって呼吸こきゅうし勝手にぷりぷりふるえました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すすけた湯沸ゆわかしは、お勝手かってもとのつめたいいたかれたときに、おたけはその湯沸ゆわかしをて、かわいそうになりました。
人間と湯沸かし (新字新仮名) / 小川未明(著)
まれに、お勝手かって道具どうぐ農具のうぐなどをならべたものがあったけれど、スケートのくつをおくようなみせは、つかりませんでした。
緑色の時計 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのは、ついに、ねこはかえってきませんでした。そして、二日ふつかめのばんに、勝手かってもとで、ねこのこえがしたのであります。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
しょうちゃんは、お勝手かってもとへいってみました。ガスにがついて、おしるのなべが、かかっていました。そこにもおかあさんは、いらっしゃいません。
お母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちに、くぐりもんひらくと、ぼろぐつを、玄関口げんかんぐち敷石しきいしっかけるようにして、きずりながら、勝手かってほうへまわったおとがしました。
金歯 (新字新仮名) / 小川未明(著)