“内(なか)” の例文
その入口らしい処にはただ粗末な二本の杙(くい)が建っているばかりで内(なか)の様子を覗いたけれど、ただ一人の土方等(どかたら)の姿すら見えなかった。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
成程左様(さう)言はれて見ると、少許(すこし)も人を懼(おそ)れない。白昼(ひるま)ですら出て遊(あす)んで居る。はゝゝゝゝ、寺の内(なか)の光景(けしき)は違つたものだと思つたよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私達は内(なか)へ這入(はい)りました。小屋の中には上品な老(とし)寄りの土人が居りましたが、私達を見ると立ち上り、機嫌よく迎えてくれました。
寝所のすぐ前の築山(つきやま)の木立(こだち)の陰に入って、じっと木立の内(なか)の暗い処を見廻わしたが別に異状もないので、そこにあった岩へ腰をかけた。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
冬の寒い時であったにも拘らず、家の内(なか)は愉快でした。暖炉には火がかんかん燃えていて、室(へや)には暖かい幸福と優しさが溢れていました。
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
内(なか)からは張子の虎が一匹現れた。可なり大きい。頻りに首を振っている。近辺の旅客の注意は忽ちこの異様な携帯品に集まった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
津田の明(あく)る朝(あさ)眼を覚(さ)ましたのはいつもよりずっと遅かった。家の内(なか)はもう一片付(ひとかたづき)かたづいた後のようにひっそり閑(かん)としていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
斯(こ)う云(い)われても嘘(うそ)とは云いません。しかし家の内(なか)では実に私は一平の召使(めしつかい)のような働きをする時がいくらもあるのですから。
中沢博士は「ははは……」と言つて、あんぐり口を開(あ)けて笑つたばかしで、別に描(か)くとも描(か)かないとも判然(はつきり)返事をしなかつたが、腹の内(なか)では
すみ子は引戸をあけて内(なか)に入り、室の番号をしるした下駄箱に草履をしまうので、種田も同じように履物を取り上げると
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それで私は想当(おもいあた)ってる事があるから昨日(きのう)お源さんの留守に障子の破目(やぶれめ)から内(なか)をちょいと覗(のぞ)いて見たので御座いますよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
院長(ゐんちやう)のアンドレイ、エヒミチは玄關(げんくわん)の間(ま)から病室(びやうしつ)の内(なか)を覗込(のぞきこ)んで、物柔(ものやは)らかに問(と)ふので有(あ)つた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぐづ/\してゐる氣になれず、とても我慢出來ない程胸が一杯になつてゐた私は——精神的にも肉體的にも鋭い痛みを感じてぶる/\震へながら——扉(ドア)を内(なか)へ押して覗(のぞ)きこんだ。
昔(むかし)の人(ひと)は暗(くら)い室(しつ)の内(なか)でどうしてこんな繪(え)を描(か)いたのでせうか。おそらく燈火(とうか)を用(もち)ひたとすれば動物(どうぶつ)の脂肪(あぶら)をとぼしたことゝ思(おも)はれます。この洞穴(ほらあな)の繪(え)を發見(はつけん)したのに面白(おもしろ)い話(はなし)があります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
まア此寒(このさむ)いのに可愛(かあい)い手で足を撫(なで)てゝ遣(や)るところは何(ど)うだえ、……可愛想(かあいさう)だなー、……彼(あ)の残余(あま)つた料理(もの)があつたツけ……賓客(きやく)の残(のこ)した料理(もの)が皿(さら)の内(なか)に取つてあるだらう、……アーそれさ
彼(かれ)は膝(ひざ)がしらで四(よ)つ偃(ばひ)に歩(ある)きながら座敷(ざしき)へあがつて財布(さいふ)を懷(ふところ)へ捩(ね)ぢ込(こ)んでふいと出(で)た。彼(かれ)は風呂敷包(ふろしきづゝみ)を持(も)つて歸(かへ)つた。彼(かれ)が戸口(とぐち)に立(た)つた時(とき)は家(うち)の内(なか)は眞闇(まつくら)で一寸(ちよつと)は物(もの)の見分(みわけ)もつかなかつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と、お前が眼を覚(さ)まして内(なか)から忍ぶように低声(こごえ)で合図をしてくれた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
三軒が皆行(ゆ)き通(とお)しのようになっていて、その中央(なか)の家の、立腐(たちぐさ)れになってる畳の上に、木の朽(く)ちた、如何(いか)にも怪し気な長持(ながもち)が二つ置いてある、蓋(ふた)は開けたなりなので、気味悪(わ)る悪(わ)る内(なか)を覘(のぞ)いて見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
さ緑のキヤベツの球葉(たまば)いく層(かさね)光る内(なか)より弾(はぢ)けたりけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
民弥は、思出したように、室(へや)の内(なか)を眗(みまわ)しながら
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さてこの頃宗三郎とお絹は、宗春と浜路の籠っている、その岩部屋の左手の戸口、その外側に立ち縮(すく)みながら、内(なか)の様子を窺っていた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お母(かあ)さん、きゅうりがあんなに大(おお)きくなりましたよ。」と、二郎(じろう)は、外(そと)から家(いえ)の内(なか)に入(はい)ると、毎日(まいにち)のように母親(ははおや)に告(つ)げました。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
岡の地勢を成した牧場の内(なか)の樹木から遠景に見えるリモオジュの町々、古い寺院の塔などが牧野の画の中に取入れられてあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
門前で自動車を乗り捨てたのは病人への遠慮、見舞い品を運転手に持たせて表玄関へ近づくと、内(なか)から障子が明いて松浦さん自らが現れた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「まアお珍しいじゃありませんか。ちょいと今戸(いまど)の御師匠(おししょう)さんですよ。」と開(あ)けたままの格子戸から家(うち)の内(なか)へと知らせる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
産婆(さんば)は細(ほそ)い硝子(がらす)の管(くだ)の樣(やう)なものを取(と)つて、小(ち)さい口(くち)の内(なか)へ強(つよ)い呼息(いき)をしきりに吹(ふ)き込(こ)んだが、効目(きゝめ)は丸(まる)でなかつた。生(うま)れたものは肉丈(にくだけ)であつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして檻の内(なか)から手を伸ばして娘の肩を撫でた。娘は嬉しさうにきやつ/\軽躁(はしや)ぎながら色々な事を猩々に話しかけた。
大病と云うので、何人(だれ)も家の内(なか)で大きな声をする者がなく、親類の者同志で顔を見あわすと、何か黒い重い物が眼前(めさき)に浮んでいるような顔をしました。
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
院長(いんちょう)のアンドレイ、エヒミチは玄関(げんかん)の間(ま)から病室(びょうしつ)の内(なか)を覗込(のぞきこ)んで、物柔(ものやわ)らかに問(と)うのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其処(そこ)で真蔵はお清の居る部屋(へや)の障子を開けると、内(なか)ではお清がせっせと針仕事をしている。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と、一瞬間ざわめいた室(へや)の内(なか)は、すぐにまた静寂(ひっそり)となった。時計のチクタクもちょっと息どまったが、又も忙(せわ)しげに無限の彼方に向って、例の小エゴイストの小刻みな歩みをつづけて行った。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
向う脛(ずね)ぶっぱらえなんかと仰しゃるお気早(きばや)な方もございますが、正直に申すとまア左様(そう)言ったようなもので、扨(さ)て門外(おもて)にたちました一中節の門付屋さんでげすが、頻(しき)りに家(うち)の内(なか)をのぞいて居ります。
慣れない床、慣れない枕、慣れない蚊帳(かや)の内(なか)で、そんなに前後も知らずに深く眠られたというだけでも、おげんに取ってはめずらしかった。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、いつになく、家(うち)の内(なか)が、しんとしていましたから、どうしたのだろうかと思(おも)ったのでした。そこへ正(しょう)ちゃんのお母(かあ)さんは顔(かお)を出(だ)して
幼き日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
で、紋太夫は元気よく、しかし充分用心して窟(いわや)の内(なか)へはいって行った。道が一筋通じている。その道をズンズン歩いて行く。
「その折、手洗の傍に袱紗包(ふくさづつみ)が落ちていた。拾って見ると、内(なか)が紙入のようだったから、交番へ届けたら、『一寸(ちょっと)来い』と警察へ引っ張られた」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「まアお珍(めづら)しいぢやありませんか。ちよいと今戸(いまど)の御師匠(おししやう)さんですよ。」と開(あ)けたまゝの格子戸(かうしど)から家(うち)の内(なか)へと知らせる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
産婆は細い硝子(ガラス)の管のようなものを取って、小(ち)さい口の内(なか)へ強い呼息(いき)をしきりに吹き込んだが、効目(ききめ)はまるでなかった。生れたものは肉だけであった。
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親類では夕飯の時刻だからと云って引留めようとしたが、許宣は家の外に幸福が待っているような気がして、家の内(なか)に置かれるのが厭(いや)だから、強いて傘ばかり借りて外へ出た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると、内(なか)から「どなた?」といふ声がして、扉(と)は静かに開けられた。
路(みち)は野原の薄(すすき)を分けてやや爪先上(つまさきあがり)の処まで来ると、ちらと自分の眼に映ったのは草の間から現われている紙包。自分は駈(か)け寄って拾いあげて見ると内(なか)に百円束が一個(ひとつ)。自分は狼狽(あわて)て懐中(ふところ)にねじこんだ。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
屋(うち)の内(なか)で飼はれて居た獣は、ある時は少年時代の友達のやうに、ある時は極く無気味なものゝやうに、私の眼前(めのまへ)をよく往つたり来たりした。
犬 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
このとき、家(うち)の内(なか)では、こたつにあたりながら、年子(としこ)は、先生(せんせい)のお母(かあ)さんと、弟(おとうと)の勇(いさむ)ちゃんと、三人(にん)で、いろいろお話(はなし)にふけっていたのでした。
青い星の国へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
内(なか)には主人(あるじ)の宗匠(そうしょう)が万年青(おもと)の鉢を並べた縁先(えんさき)へ小机を据え頻(しきり)に天地人(てんちじん)の順序をつける俳諧(はいかい)の選(せん)に急がしい処であった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はKもお嬢さんもいなくなって、家の内(なか)がひっそり静まった頃を見計(みはか)らって寝床を出ました。私の顔を見た奥さんは、すぐどこが悪いかと尋ねました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「噂によれば南蛮寺には、大変もない値打ちのあるものが、貯えられているということだが、どうぞして内(なか)へ忍び込み、そいつをこっちへ奪いたいものだ」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『それじゃ村岡君は最早(もう)寝たろうね?』と受け流す。外で待っているんだから内(なか)に寝ている筈はない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小供等は怖くなって家の内(なか)へ入った。
白い花赤い茎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「いくらでも、其樣(そん)な警句の材料にするが可いサ。」斯うA君も苦笑して、痩せた足に大きな足袋で、部屋の内(なか)を歩いて見た。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
年(とし)ちゃんは、しまいには、ごろりと畳(たたみ)の上(うえ)へ寝(ね)ころんで、びんの内(なか)で風船虫(ふうせんむし)の体(からだ)が、ぴかぴかと輝(かがや)くのを見(み)ていました。
風船虫 (新字新仮名) / 小川未明(著)