うさぎ)” の例文
十一二のあみさげで、そでの長いのが、あとについて、七八ツのが森の下へ、うさぎと色鳥ひらりと入った。葭簀ごしに、老人はこれを透かして
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うさぎに荒されたらしいいたって不景気な豆畠に、もう葉を失って枯れ黒んだ豆がショボショボと泣きそうな姿をして立っていたりして
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「こゝはまっくらだ。あゝ、こゝにうさぎの骨がある。たれが殺したらう。殺したやつはあとで狸に説教されながらかじられるだらうぜ。」
洞熊学校を卒業した三人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭のうさぎとは、舌切雀したきりすずめのかすかな羽音を聞きながら、しづかに老人の妻の死をなげいてゐる。
かちかち山 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『それも駄目だめだ』とこゝろひそかにおもつてるうちあいちやんはうさぎまどしたたのをり、きふ片手かたてばしてたゞあてもなくくうつかみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
よるになると方々ほう/″\あるまはつて、たけのこ松茸まつたけいもいね大豆等だいずなど農作物のうさくぶつをあらしたり、ひ、野鼠のねずみうさぎなどもとらへて餌食ゑじきにします。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
さては、射的場で、うさぎったことも、十仙出して本物のインディアンと腕角力うでずもうをしたことも、マジック・タアオンの鏡の部屋で——。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「お熊さん、お腹がへったでしょうね。いま持ってきて上げますよ。お前の好物のうさぎの生きたやつをね。しばらく待っているんですよ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黒い頭巾ずきんをかぶって、姿はだかい修道士イルマンだが、中身なかみ裾野すその蚕婆かいこばばあだ。たきびで焼いたうさぎの肉をひとりでムシャムシャべている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬鈴薯じゃがいも甘藷かんしょ胡羅蔔にんじん雪花菜ゆきやさいふすまわら生草なまくさ、それから食パンだとか、牛乳、うさぎとり馬肉ばにく、魚類など、トラックに満載まんさいされてきますよ
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だんだんに声を辿たどって行くと、戸じまりをした隣家の納屋なやの中に、兵児帯へこおびふんどしをもって両手足を縛られ、はりからうさぎつるしにつるされていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
マーキュ はて、うさぎではない、うさぎにしても脂肪あぶら滿ったやつではなうて、節肉祭式レントしき肉饅頭にくまんぢうはぬうちから、ふるびて、しなびて……
そして、ふたつの前足で、袋のひもをおさえて、なかなか気取ったかっこうで、うさぎをたくさん、はなしいにしてあるところへ行きました。
うさぎにたんぽぽをやっていると、用吉君ようきちくんが、いまおろすところだよ、といってたので、おくれちゃたいへんと、桑畑くわばたけなか近道ちかみちはしっていった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
吾平爺の遺骨の片腕ほどもないものだった。うさぎの骨と思ってみれば、ちょうどそんな大きさであった。猫の骨と思われないこともなかった。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「なんだって君は、脳みそを半分き取られたうさぎみたいな顔をしているのですね?」と、出会いがしらにルーシンが言った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そして猟をすると、きじはと山鶏やまどりうさぎ穴熊あなぐまなど、面白いほどとれましたし、ときには、大きな鹿しかゐのししなどもとれました。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
山に居る頃はお房もよく歌ったうさぎの歌のことや、それからあの山の上の家で、居睡いねむりしてはよく叱られた下婢おんなかわずの話をしたことなぞを言出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
弱いうさぎを、苛責いじめる牝豹めひょうか何かのように、瑠璃子は何処どこまでも、皮肉に逆に逆に出るのであった。美奈子は、青年の顔を見るのにえなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
されば竹にさへづ舌切雀したきりすゞめ、月に住むうさぎ手柄てがらいづれかはなしもれざらむ、力をも入れずしておとがひのかけがねをはづさせ、高き華魁おいらんの顔をやはらぐるもこれなり。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今日では色つけ玉子を草の中へかくして子供に捜させる、そしてこの玉子はうさぎが来て置いて行ったのだと教えるという。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今より数十年前冬期に当たり、箱根村の猟師二、三人相誘いて、雪中にうさぎを狩りせんために駒ヶ岳に登りたることあり。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
やまかへると、親兄弟おやきやうだい勿論もちろんともだちもおどろいてしまひました。そしてかわいさうにうさぎは一しやうわらはれものとなりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
二、三日して「はたして雪が出来ました」というS君の案内に急いで低温室の中へ入って見ると、なるほどうさぎの毛の先に六花の結晶が白く光っている。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
とはいうものの耳だけはうさぎのように伸ばして、一語も聞きらさじと冬木の言葉に注意していたことは無論である。
五階の窓:02 合作の二 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「お旗下はたもとの葛西さんか、知ってるとも、私なんかは、あすこのかまうちやぶん中へ入って、きじや、うさぎをとったもんだ」
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そしてどこかでは、恐らく、震え上がっていた一匹のうさぎが、ほっと安心して、また巣の縁に鼻を出したことだろう。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ただ反蒭者にれはむものと蹄の分れたる者のうち汝らのくらうべからざる者は是なり即ち駱駝らくだうさぎおよび山鼠やまねずみ、是らは反蒭にれはめども蹄わかれざれば汝らにはけがれたる者なり。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
うさぎ經行きやうぎやうの者を供養せしかば、天帝哀みをなして、月の中にをかせ給ひぬ。今、てんを仰ぎ見るに月の中に兎あり。
ちょうど峠の頂上に近かき所において、路傍の木陰より一頭のうさぎが飛び出した。それッと木川君と吾輩はステッキ待ち直すが早いか、あとを追っかけた。
北は荒川から南は玉川まで、うそもない一面の青舞台で、草の楽屋に虫の下方したかた,尾花の招引まねぎにつれられて寄り来る客はきつねか、鹿しかか、またはうさぎか、野馬ばかり。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
僕はその時、白い石でうさぎを、黒い石でかめを作ろうとした。亀の方は出来たけれども、兎の方はあんまり大きく作ったので、片方の耳の先きが足りなかった。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
七八年前の冬休みに、うさぎを一匹もとめて、弟と交互かたみかついで、勤先から帰省したことが、ふと彼れの心に浮んだ。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
お城に続いてる古い森が大層広いのを幸いその後鹿しかうさぎを沢山にお放しになって遊猟場ゆうりょうばに変えておしまいなさり、また最寄もより小高見こだかみへ別荘をお建てになって
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
「私にはとうに解っておる。二人の武士が私の後を町から追従けて来た筈じゃ——向こうの林の木の蔭とこっちの土手の草のかげにうさぎのように隠れておるわ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大木の根本には燃えてる火が見えていて、そこでひとりの猟師がくしにさされて三匹のうさぎからあぶられていた。
時には草一本ないところに出るかと思えば、時には深い草叢くさむらのところに出くわした。そんなところからは雉子きじが驚いては飛び立ったり、うさぎが跳び出したりした。
かも小鴨こがも山鳩やまばとうさぎさぎ五位鷺ごいさぎ鴛鴦おしどりなぞは五日目ないし六日目を食べ頃としますがそのうちで鳩は腐敗の遅い鳥ですから七、八日目位になっても構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その動物の中にもう死期が近づいたかころげまはつて煩悶はんもんして居る奴がある。すると一匹の親切なうさぎがあつてその煩悶して居る動物の辺に往て自分の手を出した。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
よく検討したしかめてみたあとで「どうも月にゃうさぎんでねえようだな」と答えるということであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、その時、眼の前を一匹のうさぎが駈け過ぎるのを見た途端に、自分の中の人間は忽ち姿を消した。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
が、彼はひどく神経質で、無口で、可愛いうさぎのような顔のくせに、おそろしく不愛想なのであった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
貢さんはうさぎぶ様に駆け出して桑畑に入つて行つた。はたけなかにお濱さんは居ない。ぬまほとりに出た。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
ところで、シュトルツ氏の家にはジャアマンポインタア種の犬と、欧羅巴ヨーロッパ種の全身真っ黒なねことがいたが、その外に、裏庭の方に箱を作ってアンゴラうさぎを飼っていた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
雪がつもって、うさぎがそばをはねまわったりするじぶん、あの町そとの森のなかは、ずいぶん、よかったなあ。そうそう、うさぎがよく、あたまのうえをとびこえたっけ。
まるで、たかが獲物をねらふ時の智恵とそつくり同じだよ。弱いうさぎが鷹に文句が云へないやうに、鋏を椅子のうへに放り出しておいた君はこの子に文句は云へないんだよ。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
そのときふと私はその四五日前に見た、加藤家の半白の猫が私の家のうさぎの首をくわえたと見る間に、垣根かきねくぐりり脱けて逃げた脱兎だっとのような身の速さを何となく思い出した。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
沈澱素というのは人間の血をたびたびうさぎに注射しますと、兎の血液の中に、人間の血と混じると白い沈澱を起こすものが生じますから、その兎の血を取って、血清を分け
髭の謎 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
形はうさぎのごとく、両眼は鏡の如く、馬のゆくさきにおどり狂っているので、進むことが出来ない。
私たちが一隅の卓で殻つきの牡蠣かきを食っていると、うさぎの耳のようにケープのえりを立てた、美しい、小柄な、仏蘭西女らしいのが店先きにつと現われて、ボオイをつかまえ
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)