)” の例文
「どれ」いや応なく取って見ると、桐油紙とうゆぐるみ、上に唐草銀五郎様、の名は裏に小さく「行きいの女より」としてあった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帽も上衣うはきジユツプも黒つぽい所へ、何処どこか緋や純白や草色くさいろ一寸ちよつと取合せて強い調色てうしよくを見せた冬服の巴里パリイ婦人が樹蔭こかげふのも面白い。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
春田といふ測量師の子に、觀音堂のある寺の子の參平をあはせた六七人連れは、それぞれの家庭にはる番に遊び順を持つてゐた。
めたん子伝 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
なんでも、こんなような、さむふゆばんで、くももなく、かぜもあまりかないときでなければ、かれらは言葉ことばわしわないのであります。
ある夜の星たちの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
馬車あまた火山のあなより熔け出でし石を敷きたる街をひて、間〻馬のその石面のなめらかなるがためにつまづくを見る。小なる雙輪車あり。
左の腕を切断され、右の大腿ふとももを砕かれ、死人のごとく横たわっているイワノウィッチの上で、露独の烈しい砲火がわされたのであった。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
帽子屋ばうしやッた一人ひとり場所ばしよへたために一ばんいことをしました、あいちやんは以前まへよりもぽどわりわるくなりました、だつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
水鳥の雌雄の組みが幾つも遊んでいて、あるものは細い枝などをくわえて低く飛びったりしていた。鴛鴦おしどりが波のあやの目に紋を描いている。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そうして昔にも増した友情を回復しました二人はその芝生の上で手を取りわして、膝を組み合わせながら色々と善後策を協議しましたが
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
双方でちょっとたいわせば、それぎりで御互にもとの通り、あかの他人となる。しかし時によると両方で、同じ右か、同じ左りへける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんとも珍妙な風態だけれど、いつものことだから、行きおく女中、茶坊主、お傍御用の侍たちも、さわらぬ神にたたりなしと、知らん顔。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鋪道の上で、彼にすれう人たちは、いずれも若く、そして美しかった。男よりも、どっちかというと若い女性が多かった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目近かく仰ぎ上げる頂上をかすめて、白い雲が飛んでは碧空に吸われるように消える。岩燕が鏑矢のような音たててう。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
そうして、投げ槍のう下で、ほこや剣がかれた氷のように輝くと、人々の身体は手足を飛ばして間断なく地に倒れた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
亜欧堂田善あおうだうでんぜん銅版画どうばんぐわの森が、時代のついた薄明りの中に、太い枝と枝とをはしてゐる。その枝の上にうづくまつた、可笑をかしい程悲しいお前の眼つき……
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等が料理屋の広い座敷で、上の空な劇評などをわしている内、あんじょう、そこへ和服姿の木下芙蓉が案内されて来た。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こんな会話がわされるあいだ、ブロックは絶えず唇を動かしていたが、明らかにレーニに言ってもらいたい返事をつぶやいてみているのだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
女の人の話なんぞもかなり修飾のない程度でわされた。が主な話は遠漕中の失策とか、練習中の逸話とかであった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
其の時は二月の末で、港の山々にはまだ雪が消え残つてゐたが波はもう春らしい丸みを見せて鷹揚おうやうに揺ぎ、商船や軍艦の間を白いかもめが飛びうてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
侍従長のタレーラン公と大蔵大臣に就任したルイ師とは、互いに顔を見合って占考官のようなみをわしていた。
お常は三十日の芝居を、十八日までつゞさまに、通ひ詰めたがうしても徳三郎と言葉をはす事が出来なかつた。
遠く望めばブランデンブルク門を隔てゝ緑樹枝をさしはしたる中より、半天に浮び出でたる凱旋塔の神女の像、この許多あまたの景物目睫もくせふの間にあつまりたれば
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
母子の如く往きふひろ子との縁のつながり始まりを今もなほ若蔦のいきおいよき芽立ちに楽しくかえりみる為めであらうか。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
必ず初志をつらぬきて早晩自由の新天地に握手せんと言いわし、またの会合を約してさらばとばかりたもとわかちぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
この辺は別に名所となっている訳ではないが、もう一週間も立つと、この近所の田圃たんぼの中の名もない小川のほとりでも、やみに飛びう蛍の景色が随分美しい。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
祖母そぼと、ちゝと、きやくことばはしたが、言葉ことばも、晃々きら/\と、ふるへてうごいて、さへぎ電光いなびかり隙間すきまた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は郷家に帰省して、二三日の滞在中、殆んど父母と言葉をわさずに帰って来ることが少なくなかった。
秋草の顆 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
小松の温泉いでゆに景勝の第一を占めて、さしもにぎわい合えりし梅屋の上も下も、尾越しに通う鹿笛しかぶえに哀れを誘われて、廊下をう足音もややさびしくなりぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「おはずかしいことでございますけど、常どんの命に係わることですから、何もかも申し上げます。二人は……常どんとわたくしは、言いわした仲でございます」
しよううちまた言葉ことばはすこと出來できるかとゆめのやうにねがふてました、今日けふまでは入用いりようのないいのちものとりあつかふてましたけれどいのちがあればこその御對面ごたいめん
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その目の上に大きな黒子のあるおじいさんみたいな人は、母とは丁寧な他人行儀の挨拶あいさつわしていたが、私には何んとなく人の好い、親切そうな人柄のように見えた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
何でもない顔をして模本の雲林を受取った。敵の真剣を受留めはしないで、澄ましてたいわして危気あぶなげのないところに身を置いたのである。そしてこういうことを言った。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし二人にはそうして話すほかに、言葉をわすことができないのである、桑の実は古い思い出でかれらを結び、桑の枝葉は今、あまりに明らさまな感動を隠して呉れる。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
会話というものと理屈の違うところは、会話というものは自然な自由なものを含蓄したものを出すわけで、そういうものは自由自在にあっちからも、こっちからもわされる。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
おつぎはどうといふこともなくむしほとん無意識むいしき青年せいねんるのであつたが、手拭てぬぐひしたひかあたゝかいふたつのひとみにはじやうふくんでることが青年等せいねんらにも微妙びめう感應かんおうした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その人の心がこちらのすぐ胸の傍にあり、心はたがひに行きひ、温め合ひ、それによつてこの世の中そのものが今までよりもはるかに広く、なほ確かに感じさせるやうなもの
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
と左右から小太い竹の息杖を押取おっとって打って掛りましたが、打たれるような人ではない、ヒラリと身をわしながら、木剣作りの小脇差を引抜き、原文の持ってる息杖を打払ぶっぱら
「袖へし」のカフは行下二段に活用し、袖をさしかわして寝ることで、「白妙の袖さしへてなびし」(巻三・四八一)という用例もある。「過ぐ」とは死去することである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
三伏の大なるしもとの下に蜥蜴籬とかげまがきへ、路を越ゆれば電光いなづまとみゆることあり 七九—八一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
棧敷をけ、やぐらを並べ、諸商人、諸藝人聲をらして呼びふのに、川の上はまた、いろ/\の趣向をらした凉み船が、藝子末社を乘せ、酒と、さかなと、歡聲と嬌聲とをこね合せて
階を登れば老侠客莞爾くわんじとして我を迎へ、相見て未だ一語をはさゞるに、満堂一種の清気てり。相見ざる事七年、相見る時ににはかに口を開き難し、斯般このはんの趣味、人に語り易からず。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
大勢の奴隷たちがっている本邸の中も、そこに奴隷たちの姿はありながら、そこはまったくいつもとは違って、何とも言えぬしめやかさ……常の日よりも一倍ざわめきながら
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし、二人の胸の中にう想いは、ヴァイオリンの音になって、高く低く聞こえている。その音は、あらゆる人の世の言葉にも増して、ない悲しみを現わしたものである。
秋の歌 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それははたから見れば何だかつまらなさうではあるが、しかし実は長い友達の間にしかはされることのない、親しい愛情のかよつた会話だつた。何故なぜならば二人は古い幼な友達なのだ。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
さきほどの広闊こうかつとした海でなく、湾であり入江である。その入江を抱く左手の山から、からすの声が聞えて来る。それも一羽ではなく、数十数百羽の鴉が、空に飛びいながら鳴いていた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ところで武の妹はおこうと申しまして若い者のうちで大評判な可愛い娘でございまして年はそのころ十七でした。私も始終顔を見知っていましたが言葉をわしたことはなかったのです。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
二つ三つ語をわす内に、男は信州、女は甲州の人で、共に耶蘇信者やそしんじゃ、外川先生の門弟、此度結婚して新生涯の門出に、此家の主人夫妻の生活ぶりを見に寄ったと云うことが分かった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
町の物音や、眼の前をう人々が何だか遠い下の方にあるように思われた。木之助の心だけが、むれをはなれた孤独な鳥のように、ずんずん高い天へ舞いのぼって行くように感ぜられた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
という奇妙なささやきもわされているらしく、とすると仙之助氏の生活の場所も合計三つになるわけであるが、そのような囁きは、貧困で自堕落な画家の間にだけもっぱら流行している様子で
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は、その夕、電燈煌々こうこうとして自動車の目まぐるしく飛びにぎやかな町中で、一枚の号外を握って、地質時代の出来事であるところの、氷河退却時代が、のあたりに見られるのだと思った。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)