ちょう)” の例文
何もも忘れ果てて、狂気の如く、その音信おとずれて聞くと、お柳はちょう爾時そのとき……。あわれ、草木も、婦人おんなも、霊魂たましいに姿があるのか。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでもなお、平太夫はしばらくためらっていたようでございますが、やがて扇をつぼめたと思うと、それで欄干をちょうと打ちながら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よろい三千領、かぶと五千箇、かたな、長槍三千余本、ほこ、なぎなた五千ちょう、弓、たてなどは数知れずだ。このほか火砲、石砲、戦車。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてもなく、わたくし住宅すまいとして、うみから二三ちょう引込ひっこんだ、小高こだかおかに、土塀どべいをめぐらした、ささやかな隠宅いんたくててくださいました。
この頃はおとなり(大家さん)で倒れた塀を直すためにずっと大工が入っていて、昼間はずっとカンナ、ノミ、ちょうナの音が絶えません。
妻は下の男の子を背負い、共に敷蒲団しきぶとん一枚ずつかかえて走った。途中二、三度、路傍のどぶに退避し、十ちょうほど行ってやっと田圃に出た。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あるあさのことです。ちいさな子供こどもたちは、一、二ちょうはなれた、いけみずこおったといって、そのほうへ、足音あしおとをたててかけてゆきました。
愛は不思議なもの (新字新仮名) / 小川未明(著)
その山の頂上まで十ちょうほどある所を下僕しもべ二人にぶさって昇りましたけれども、何分にも痛くて動けませんので二日ばかり山中に逗留とうりゅういたし
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しろまつかげきそうな、日本橋にほんばしからきたわずかに十ちょう江戸えどのまんなかに、かくもひなびた住居すまいがあろうかと、道往みちゆひとのささやきかわ白壁町しろかべちょう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
正面には高さ四尺の金屏きんびょうに、三条さんじょう小鍛冶こかじが、異形いぎょうのものを相槌あいづちに、霊夢れいむかなう、御門みかど太刀たちちょうと打ち、丁と打っている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
落付おちつく場所は道庁のヒュッテ白銀荘はくぎんそうという小屋で、泥流でいりゅうコースの近く、吹上ふきあげ温泉からは五ちょうへだたっていない所である。
前には熊谷より前橋へ出ますには本庄宿の手前に御堂坂みどうざかと申す所より榎木戸村えのきどむらから八ちょう川岸がし、それより五りょうと申す所に日光一の関所がございます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのころはお豆腐が一ちょうとは買えませんで、それに姑はぜいたくになれておるのですから、ほんとに気をもみましたよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかも、その指には、おきまりのハスの茎ではなくて一ちょうのピストルが、ピッタリと賊の胸にねらいをさだめて、にぎられていたではありませんか。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とんでかかれば黄金丸も、稜威ものものしやと振りはらって、またみ付くをちょう蹴返けかえし、その咽喉のどぶえかまんとすれば、彼方あなたも去る者身を沈めて、黄金丸のももを噬む。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そののち阿利吒は薪を取らんと山に行きしが、道にて一匹のうさぎを見ければつえふり上げてちょうちしに、たちまち兎は死人と変じて阿利吒のうなじからみ着きたり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
誰かいないかと思って周囲を眺めると半ちょうばかりの先きに道路を修繕している人夫にんぷがいたのでともかく「私は今死にかかっています、早く来て下さい」
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ちょうばかりも登ると、屏風びょうぶを立てたような巌石がんせきみちを挟んでそびえている処へ出た。一番前を歩いていた李張は、夢のなかの秀才が云った処はここだなと思った。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ちょうどその日の薄暮はくぼ韮崎にらさき方面からこの甲府城下へ入り込んだ武者修行ていの二人の者。前に進んでいたたくましいのが、何を思い出したか、刀の柄袋つかぶくろちょうと打って
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おかあさんのお里の村までは、おかづたいに入江いりえをぐるりとまわっていけば、二あまりありましたが、舟でまっすぐに入江を横ぎっていけば、十四、五ちょうしかありません。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「こちらが八せん、こちらが十銭、こちらの鋏は二ちょうで十五銭にいたしておきましょう。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一、二ちょういって、またふりむいてみますと、さっきのやせ犬が、まだとぼとぼあとを追ってきています。うす暗いおうらいのまん中で、二、三人の子どもが、こまをまわしています。
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
それになかなかの雄弁家で、手も八ちょう口も八丁とはこの人のことでありましょう。
この警戒管制には、市民の生命が、ちょうはんかのさいころの目に懸けられているのだ!
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから酒をしたたかに飲んで、大きい声で罵りわめきながら、墓場の森の方角へたずねてゆくと、およそ五、六里(六ちょう一里)の後、柏の樹の森の上で又もやかの音楽の声がきこえた。
けれど、秋のは、いつまでわたしをそのままにしておかなかった。菊のかおりが、ふと心をひくと、頭の底の方でつづみの音がちょうと響ききこえた。さわやかにえた音は、しんと頭を澄ませてくれた。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
岡崎——本多中務大輔殿ほんだなかつかさたいすけどの御城下。八ちょう味噌みその本場で、なかなか大きな街。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
此のあたり、礁湖すこぶる浅く、ボートの底が方々にぶっつかる。繊月光淡し。大分沖へ出た頃、サヴァイイから帰る数隻の捕鯨ボートに追越される。灯をつけた・十二ちょう・四十人乗の大型ボート。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その当時藤村は本郷の新花町にいた。春木町はるきちょうの裏通りを、湯島ゆしま切通しの筋へ出る二、三ちょう手前で、その突き当りが俗にいうからたち寺である。藤村は親戚の人と同居して、そこの二階で起臥きがしていた。
「長町三番ちょうはどうまいるのか、教えてくれ。」
ゆめの話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と、人形師の梅市、蓑直みのなおしの安蔵、針屋のちょう二郎、そう三人がぐるりと向きを変えて、またその古屋敷を不審そうに見直しました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人仕事ひとしごといそがわしい家の、晩飯の支度は遅く、ちょう御膳ごぜん取附とっつきの障子をけると、洋燈ランプあかし朦朧もうろうとするばかり、食物たべものの湯気が立つ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やがておんなは二、三ちょうもくると、いきをせいて、わたしろしてやすみました。けれど、まだわたしからぬぐいをはずしませんでした。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そんなことはござんせんよ。お組頭くみがしらのお屋敷は、ここから五ちょうとは、離れちゃいないんですもの。きっと将軍のお成りが、遅れているんでしょうよ」
次の日私は先生のあとにつづいて海へ飛び込んだ。そうして先生といっしょの方角に泳いで行った。二ちょうほど沖へ出ると、先生は後ろを振り返って私に話し掛けた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ものの二ちょうばかりもすすんだところひめ御修行ごしゅぎょう場所ばしょで、床一面ゆかいちめんなにやらふわっとした、やわらかい敷物しきものきつめられてり、そして正面しょうめんたなたいにできた凹所くぼみ神床かんどこ
実際その何分かの間は、当人同志は云うまでもなく、平常は元気の好い泰さんさえ、いよいよ運命のさいを投げて、ちょうはんかをきめる時が来たような気がしたのでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お銀様は「三世相」の余憤を以て、そこにも若干の軽蔑を施しつつ、でも、これは一概に投げ出すようなことをせずして、不承不承にちょうを繰りながら読み下してみました。
「電車をおりて、十ちょうぐらいだと聞いたが、どうして一里もあるじゃないか、やれ、やれ」
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すると氏郷は物も言わずに馬の上で太刀たちを抜くが否や、そっ首ちょうと打落して、兜を別の男に持たせたので、士卒等これを見て舌を振って驚き、一軍粛然としたということである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
武男は浪子をたすけ引きて、山の根の岩を伝える一条の細逕さいけいを、しばしば立ちどまりてはいこいつつ、一ちょうあまり行きて、しゃらしゃら滝の下にいたりつ。滝の横手に小さき不動堂あり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
常念坊じょうねんぼうはかた手におまんじゅうのつつみと、ちょうちんをさげ、かた手にだんごのつつみをもって、とうげにかかりました。その峠をおりて、たんぼ道を十ちょうばかりいくと、じぶんの寺です。
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
黄金丸は鷲郎とおもてを見合せ、「ぬかり給ふな」「脱りはせじ」ト、互に励ましつ励まされつ。やがて両犬進み入りて、今しも照射ともしともろともに、岩角いわかどを枕としてねぶりゐる、金眸が脾腹ひばらちょうれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
それから更に二十里(六ちょう一里。日本は三十六丁で一里)
さて、この辻から、以前織次の家のあった、なにがし……町の方へ、大手筋おおてすじ真直まっすぐに折れて、一ちょうばかり行ったところに、小北の家がある。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はらがへったからあるけない。」といった。おとこはしかたがないから、お菓子かしってやった。また二、三ちょういくと乞食こじき
つばめと乞食の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いて行くと、お角はお厩河岸うまやがしを五、六ちょうほど下って、鳥越川が大川にそそぎ出る丁字形ていじがた河岸縁かしぶちに立ちどまりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にぎやかな町の方へ一ちょうほど歩くと、私も散歩がてら雑司ヶ谷へ行ってみる気になった。先生に会えるか会えないかという好奇心も動いた。それですぐきびすめぐらした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて二三ちょうさきってしまった徳太郎とくたろう背後はいごから、びせるようにののしっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その事、その事と、道庵が額をちょうと打って、吾ながらその妙案に感心しました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)