したゝ)” の例文
即ち彼はひそかに密告状をしたゝめて、彼の家の隣人谷田義三が保険金詐取の目的で放火を企てたものであると錦町署へ訴えたのである。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
新納武蔵に可愛がられてゐた若い小間使こまづかひがあつた。ある日雨の徒然つれ/″\に自分の居間で何だかしたゝめてゐると、丁度そこへ武蔵が入つて来た。
かさね右のおもぶきまで願書にしたゝめ居たるに加賀屋長兵衞入り來り我等何分なにぶんにも取扱ひ候間いますこし御待ち下さるべし白子屋方へ能々よく/\異見いけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
成るべく叮嚀に書く積であつたが、状袋へ入れて宛名迄したゝめて仕舞つて、時計を眺めると、たつた十五分程しかつてゐなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
中食もしたゝめさせますが、横へ廻ると立派な旅籠はたご屋で、土地も家作も持ち、車町から金杉へかけての、物持として有名な家でした。
もし自分じぶん文字もんじつうじてゐたなら、ひとつ羊皮紙やうひしれて、それにしたゝめもしよう。さうして毎晩まいばんうんとうまものべてやる。
ぐに硯箱を取寄せ、すら/\としたゝめ、店出しの折には必ず千両の荷を送ろうという証文を書き、印形をして多助に渡す。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
したゝめ是より我は足の痛み強ければ一人東京へ歸らんと云ひ梅花道人は太華氏露伴氏の跡を追ふて西京に赴むくといふつひこゝにて別杯を酌みかはし
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
すなはち定かにしたゝめんとて足をとむれば、やさしき導者もともに止まり、わが少しくあとに戻るを肯ひたまへり 四三—四五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
自分はこれに對して返書をしたゝめるに當つては、先づ第一に自分の漢字を書くことのつたなさに閉口し、次には綴り馴れぬ文體に苦しまなければならぬ。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
今度は此方こつちも意地になつて、菓子折で作つた札に、「X—新聞固く御断り申候まうしさふらふ」と油絵具でしたゝめ、それをくぎづけにした。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
拿破里ナポリに往くとしたゝめあり、御名をさへ書添へ給へれば、おうなの云ふに任せて、旅行劵と路用の金とをわたし候ひぬ。
『もツとそばつて、ほんたうに檢死けんしをなさらんと、玄竹げんちく檢案書けんあんしよしたゝめませんぞ。』と、玄竹げんちくおほきなこゑした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
翌朝早く目を醒すと、私は廣告を書いて起床の呼鈴ベルが鳴る前に封をし、宛名あてなしたゝめた。それは次の通りである——
世話になつたことの感謝は云ひ切れぬから君から重々申しつたへて呉れといふ意味が長々としたゝめられてあつた。
金の受取と、そして今後何事があつても何等の迷惑を持込まないことと、子供が磯村に関係ないこととが、定法ぢやうはふどほりに女の手によつてしたゝめられてあつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『東京にて、猪子蓮太郎先生、瀬川丑松より』としたゝめ終つた時は、深く/\良心こゝろいつはるやうな気がした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
目科は更に手帳の紙を破り之に数行の文字をしたゝめ是非とも別室にて面会したしとの意を云い入るゝに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
したゝをはりし書面しよめんをば幾重いくえにもたゝみ、稻妻いなづま首輪くびわかたむすけた。いぬあほいでわたくしかほながめたので、わたくしその眞黒まつくろなるをばでながら、人間にんげん物語ものがたるがごと
神仏の前に誓言することが出来る、で、此の心が何時いつか肉体を分離したる未来世みらいせに於ては、幸に我妻と呼んでれよと云ふ意味を、縷々るゝしたゝめてありました、言々げん/\れ涙
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
みね引出ひきだしたるはたゞまいのこりは十八あるべきはづを、いかにしけんたばのまゝえずとてそこをかへしてふるへども甲斐かひなし、あやしきは落散おちちり紙切かみきれにいつしたゝめしかうけとりつう
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其の手紙には羽織のことをくれ/″\も頼んだ末に、使の娘は近々に私の妹分として御座敷へ出る筈故、私の事も忘れずに、このも引き立てゝやって下さいとしたゝめてあった。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
又、父の死後一週間目に僅かな額の貸金の請求を葉書に朱筆でしたゝめて寄越した男があつた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
君! 僕は今この手紙を、研究室の電気心働計の側に置かれた机の上でしたゝめつゝあるのだ。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
御新姐樣ごしんぞさまうへ御無理ごむりは、たすけると思召おぼしめしまして、のおうた一寸ちよいとしたゝくださいまし、お使つかひ口上こうじやうちがひまして、ついれませぬこと下根げこんのものにわすれがちにござります
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
したゝをはりてこの一通の段落を見るに「と存候ぞんじそろ」の行列也ぎやうれつなりさらに一つを加へて悪文あくぶん存候ぞんじそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
めいめいの意見をお聞かせする筈としたゝめてあるだけで、千種は、その時、そばから
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
わたくししたゝめた所書ところがきやゝ不完全ですからこの手紙が果してお手もとに達するか否かを懸念しますが、しかしあなたは巴里パリイに於て既に著名なおひとですから多分無事にお手許てもとに届くだらうと思ひます。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さて流るゝ涙をきあへず。迫り来る心を押し鎮めて此文をしたゝめ終りぬ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
父母は何事かと聞いたのでお桐は浪子の話をして聞かせた。そして自ら手紙をしたゝめて舞鶴に居る夫に送つた。同時に夫が戻つて来るまで相談を中止して貰ふ様に縁家へ頼んで呉れと両親に頼んだ。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
利章は只此度このたびの事はいさゝか存ずるむねがあつて申し上げた、先年自分が諫書にしたゝめて出した件々、又其後に生じた似寄の件々を、しかと調べて貰ひたい、さうなつたら此度の事の萌芽が知れやうと云つたきり
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
したゝめたひのきの高礼がいかめしくてられてゐた頃の事である。
のべ長助お光の兩人は是で此方こなた拔目ぬけめはないと小躍こをどりをして立戻り長助はたゞちに訴訟書をぞしたゝめけるすべて公事は訴状面によつ善惡ぜんあく邪正じやしやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ゲエテだつたか、「今日は時間ひまが無いから、仕方なく長い手紙をしたゝめる」と言つたが、これは演説にもまたよく当てはまる。
斯うなっては幸三郎も母に明さん訳には参りませんから、母にも明し、是から番頭を呼んで来まして、くまなく取調べた上、訴書うったえしょしたゝめさせました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかして我等石垣をくだらん、そはこゝにてはわれ聞けどもさとらず、見れどもしたゝむるものなければなり —七五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二年目の終り頃のある朝、彼の命に從つて手紙をしたゝめてゐると、彼がやつて來て私の上に身をかゞめて云つた——
日頃目を掛けて居る安祥あんしやう旗本中でも家柄の赤井左門を使者に立てゝ、別に家光公直々の祈願文をしたゝめ、二千兩の大金と一緒に上方へ送ることになつて居たのです。
手形は多く外國文とつくにおんもてしたゝめたるに、境守る兵士は故里ふるさとの語だによくは知らねば、檢閲は甚しく手間取りたり。瞳子青き男はてふ一つ取出でゝ、あたりの景色を寫せり。
それは思いがけなく逃走中の支倉喜平から来たもので、巻紙に肉太の達筆で長々としたゝめてあった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一昨年いつさくねんあき九月くぐわつ——わたし不心得ふこゝろえで、日記につきふものをしたゝめたことがないので幾日いくかだかおぼえてないが——彼岸前ひがんまへだつただけはたしかだから、十五日じふごにちから二十日頃はつかごろまでのことである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
既に文書したゝおはりし篠田は、今や聖書ひもときて、就寝前の祈祷きたうを捧げんとしつゝありしなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
生田なる者に対する逮捕状をしたゝめて差出すや目科は受取るより早く、余と共に狂気の如く裁判所を走り出、またせある馬車に乗り、ロイドレ街を指して馬の足の続く限りはしらせたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
やがて自分の宿処と姓名とを先方さきの帳面へしたゝめてやつて、五十五銭を受取つた。念の為、蓮太郎の著したものだけを開けて見て、消して持つて来た瀬川といふ認印みとめのところを確めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ほんのわづかな藥禮やくれいけて、見立みたきをしたゝめたとき、じつ感心かんしんしたのだ。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
人人は食堂や喫煙室にはひつて明朝新嘉坡シンガポオルから出す手紙をしたゝめるのにせはしく
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
小六ころくたもとさぐつてその書付かきつけしてせた。それに「このかき一重ひとへ黒鐵くろがねの」としたゝめたあと括弧くわつこをして、(この餓鬼がきひたへ黒缺くろがけの)とつけくはへてあつたので、宗助そうすけ御米およねまたはるらしいわらひらした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
で、「道阿弥話」に拠ると、その女文字は左の如くしたゝめてあったと云う。
わたしは電燈を机の上に引寄せて、すぐさま先生御夫婦に報告をしたゝめた。「何事も親馬鹿と申すべきか」——形容詞を使ふやうにこんな文句を使つた時、それが何故なぜか今のわたしには気に入つた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
追立おつたてて見ませうかと云ふ我手を振りて是を願ひ下げこゝにて晝餉をしたゝめしが雨はいよ/\本降となりしゆゑかねて梅花道人奉行となりて新調せしゴム引の合羽かつぱを取りいだし支度だけ凛々敷りゝしく此所こゝを出れば胸を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)