薄暗うすくら)” の例文
旧冬きうとうより降積ふりつもりたる雪家のむねよりも高く、春になりても家内薄暗うすくらきゆゑ、高窓たかまどうづめたる雪をほりのけてあかりをとること前にもいへるが如し。
彼女かのぢよ小使部屋こづかひべやまへとほりかゝつたときおほきな炭火すみびめうあかえる薄暗うすくらなかから、子供こどもをおぶつた内儀かみさんがあわてゝこゑをかけた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
やま全体ぜんたいうごいたやうだつた。きふ四辺あたり薄暗うすくらくなり、けるやうなつめたかぜうなりがおこつてきたので、おどろいたラランは宙返ちうがへりしてしまつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
それとればにはかかたすぼめられてひとなければあはたゞしく片蔭かたかげのある薄暗うすくらがりにくるまわれせていこひつ、しづかにかへりみればれも笹原さゝはらはしるたぐひ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その翌日よくじつから、わたくしあさ東雲しのゝめ薄暗うすくら時分じぶんから、ゆふべ星影ほしかげうみつるころまで、眞黒まつくろになつて自動鐵檻車じどうてつおりのくるま製造せいぞう從事じゆうじした。
荒物屋あらものや軒下のきした薄暗うすくらい処に、斑犬ぶちいぬが一頭、うしろむきに、長く伸びて寝て居たばかり、事なく着いたのは由井ヶ浜である。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今迄三千代のかげかくれてぼんやりしてゐた平岡のかほが、此時あきらかに代助のこゝろひとみうつつた。代助は急に薄暗うすくらがりからものに襲はれた様な気がした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
道翹だうげうくもはらひつゝさきつて、りよ豐干ぶかんのゐた明家あきやれてつた。がもうかつたので、薄暗うすくら屋内をくない見𢌞みまはすに、がらんとしてなに一つい。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
それに四辺あたりみょう薄暗うすくらくて滅入めいるようで、だれしもあんな境遇きょうぐうかれたら、おそらくあまりほがらかな気分きぶんにはなれそうもないかとかんがえられるのでございます。
駄夫は変にモソモソして、何んだか妙にまじろぎばかり為たいやうな気になりながら、階段に浮かぶ朦朧とした薄暗うすくらがりを吸ひ又吐いて静かな階下したへ降りて来たら……
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
その樣は恰も、彼處の安全と幸福の爲めには、此處にあるすべてのものは、一瞬の内に犧牲に供されてもよいと云ふかのやうに見えた。薄暗うすくらがりの部屋はまぼろしで一ぱいになつた。
土浦つちうらからかれつかれたあしあとてゝ自分じぶんちからかぎあるいた。それでもならへはひつたときちがひとがぼんやりわかくらゐ自分じぶん戸口とぐちつたとき薄暗うすくらランプがはしらかゝつてくすぶつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
坪内博士は薄暗うすくらい土間の隅つこを、鶏のやうに脚で掻き捜してゐる。
薄暗うすくらい長屋の隅で
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
云へ御殿場迄ごてんばまで旦那殿だんなどの讓合ゆづりあう中何時か我家のおもてへ來りしが日は西山へ入て薄暗うすくらければ外より是お里遠州ゑんしうの兄が來たと云にお里はあいと云出る此家のかまへ昔は然るべき百姓とも云るれど今はかべおちほねあらはかや軒端のきばかたむきてはしらから蔦葛つたかづら糸瓜へちまの花のみだ住荒すみあらしたるしづが家に娘のお里は十七歳縹致きりやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
旧冬きうとうより降積ふりつもりたる雪家のむねよりも高く、春になりても家内薄暗うすくらきゆゑ、高窓たかまどうづめたる雪をほりのけてあかりをとること前にもいへるが如し。
荒物屋あらものや軒下のきした薄暗うすくらところに、斑犬ぶちいぬが一とう、うしろむきに、ながびてたばかり、ことなくいたのは由井ゆゐはまである。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八カ月の長い間薄暗うすくらい獄舎の日光に浴したのち、彼は蒼空あおぞらもとに引き出されて、新たに刑壇の上に立った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、親も家もない私だつたから、變な昂奮や向う見ずや熱狂からではあつたが、風がもつと劇しくえ、薄暗うすくらがりが暗黒になり、この混雜が大騷ぎになればいゝと思つてゐた。
勿論もちろんここは墓場はかばではない。はか現界げんかいのもので、こちらの世界せかいはかはない……。現在げんざいそなたのにはこの岩屋いわや薄暗うすくらかんずるであろうが、これは修行しゅぎょうむにつれて自然しぜんあかるくなる。
ことならば薄暗うすくら部屋へやのうちにれとて言葉ことばをかけもせずかほながむるものなしに一人ひとりまゝの朝夕てうせきたや、さらば此樣このひやうことありとも人目ひとめつゝましからずはくまでものおもふまじ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
猛狒ゴリラ大奮鬪だいふんとう塲所ばしよからおよそ七八ちやうあゆんだとおもころふたゝうみえるところた。それから、丘陵をか二つえ、一筋ひとすぢ清流ながれわたり、薄暗うすくら大深林だいしんりんあひだぎ、つひ眼界がんかいひらくるところ大佐たいさいへながめた。
いや、行燈あんどうまた薄暗うすくらくなつてまゐつたやうぢやが、おそらくこりや白痴ばか所為せゐぢやて。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ものいはねばせまいゑうちなんとなくうらさびしく、くれゆくそらのたど/\しきに裏屋うらやはまして薄暗うすくらく、燈火あかりをつけて蚊遣かやりふすべて、おはつ心細こゝろぼそそとをながむれば、いそ/\とかへ太吉郎たきちらう姿すがた
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
翌朝よくあさ薄暗うすくらうちから此處こゝ出發しゆつぱつした。