臆病おくびやう)” の例文
進撃的アグレシイヴで、意志いしつよさうなところがあり乍ら、どつか臆病おくびやうなところがあるではないかといつたやうな言葉ことばを聞かされた事があります。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「下手人は岩吉でもない。——岩吉は臆病おくびやう過ぎるし、お六を殺した覺えがあるなら、手文庫から自分の入れた證文だけを拔いて行く筈はない」
我が蔭口を露ばかりもいふ者ありと聞けば、立出たちいでて喧嘩口論の勇気もなく、部屋にとぢこもつて人におもての合はされぬ臆病おくびやう至極の身なりけるを
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おもへば臆病おくびやうの、ふさいでや歩行あるきけん、ふりしきるおとこみちさしはさこずゑにざツとかぶさるなかに、つてはうとふくろふきぬ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いや最初からおいと長吉ちやうきちよりも強かつた。長吉ちやうきちよりもはるか臆病おくびやうではなかつた。おいと長吉ちやうきち相々傘あひ/\がさにかゝれてみんなからはやされた時でもおいとはびくともしなかつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
診察しんさつとき患者くわんじや臆病おくびやうわけわからぬこと、代診だいしんそばにゐること、かべかゝつてる畫像ぐわざう、二十ねん以上いじやう相變あひかはらずにけてゐる質問しつもん是等これら院長ゐんちやうをしてすくなからず退屈たいくつせしめて
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
其はりにお房に手をにぎる資格のあるものとして、果してお房が手を握らせて呉れるかどうかといふ氣懸だ。無論むろん臆病おくびやうな氣懸である。雖然彼はながい間此の氣懸に惱まされてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
彼等かれらはさういふ特性とくせいつてながら了解れうかいがたほど臆病おくびやうである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
臆病おくびやうな、低い、そして真剣な音だ……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
れば臆病おくびやうふるごゑ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
良くして置かうと言つたまでの話し。あれは大それた惡黨のする事ではなくて、臆病おくびやうな商人だからやつた事で御座います
いや、なにより、こんなときねこだが、飼猫かひねこなんどは、ごろ人間にんげんとともに臆病おくびやうで、ねこが(ねこ)につて、ぼやけてる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
午過ひるすぎ川端かはゞたはます/\しづかになつて犬さへ歩いて来ないところから、流石さすが長吉ちやうきちも自分は何故なぜこんなにまりを悪がるのであらう臆病おくびやうなのであらうと我ながら可笑をかしい気にもなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「だけど、貧乏びんぼういやだわ。」とお房は、臆病おくびやうらしく投出なげだすやうにいふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかしながら不死ふし代替だいたいもつて、自分じぶんなぐさむるとこと臆病おくびやうではなからうか。自然しぜんおいおこところ無意識むいしきなる作用さようは、人間にんげん無智むちにもおとつてゐる。なんとなれば、無智むちには幾分いくぶんか、意識いしき意旨いしとがある。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
臆病おくびやうな、低い、そして真剣な音が
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
新助は長年の米屋奉公できたへて、身體こそ立派ですが、人間は少し不愛想で、何となく臆病おくびやうらしいところさへあります。
要心えうじん通越とほりこした臆病おくびやうところへ、かわくのは空腹ひもじいにまさるせつなさで、ひとつはそれがためにもつい出億劫でおつくふがるのがくせで。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小鳥までが臆病おくびやう
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
う言ひきつて了ふと、臆病おくびやうらしい佐太郎もすつかり勇氣づいて、まだ憤々ぷん/\とした怒りの納まらぬ母親の袖にすがつて、子供のやうにねだるのでした。
れば平日ひごろまでに臆病おくびやうならざるはいも、船出ふなでさいかく縁起えんぎいはひ、御幣ごへいかつぐもおほかり。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
臆病おくびやう馬吉は尺八ばかり吹いてやがる。尤も隣の騷ぎがしやくにさはつて、默つて寢ちやゐられなかつたかも知れない」
臆病おくびやうだね、……よろひきみ可恐おそろしいものがたつて、あれをむかつてけるんだぜ、むかつて、」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
兼松は四十七八の臆病おくびやうさうな中年者、常吉は十三四の生意氣盛り、どちらも若い女などをあやめる人間とは縁が遠く、兼松は小金をめるに餘念がなく
それだから追分おひわけ何時いつでもあはれにかんじらるゝ。つまるところ卑怯ひけふな、臆病おくびやう老人らうじん念佛ねんぶつとなへるのと大差たいさはないので、へてへば、不殘のこらずふしをつけた不平ふへい獨言つぶやきである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
指圖をしてゐるのは、内儀のお春、弱氣で臆病おくびやうを賣物にしてゐるやうですが、この女は美しさも非凡ですが、いざとなると、なか/\心持も確りしてをります。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
彼等かれらかろんずる人間にんげんたいして、きのこのためにいたものである。臆病おくびやうくせわたしはすきだ。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「武士に向つて卑怯、——とは聞捨にならんぞ。卑怯や臆病おくびやうで休んで居るのではない。酒が切れて、お燗番の勝造が眼を白黒させて居るではないか——三吉はまだ戻らぬか」
はやく、この十日とをかごろにも、連日れんじつ臆病おくびやうづかれで、るともなしにころがつてゐると、「きやうさんはゐるかい。——なには……ゐなさるかい。」と取次とりつぎ……といふほどのおくはない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、暮方くれがた掃除さうぢると、おなじやうに、ずらりとならんでそろつてた。これきのこなればこそ、もまはさずに、じつとこらへてわたしにははなさずにかくしてた。わたし臆病おくびやうだからである。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
嫁の死骸を見てきもをつぶしたが、この男は武家奉公もしたくせに恐ろしく臆病おくびやうだから、岐阜提灯へ照れ隱しに灯を入れて店先に持つて來たが、蝋燭らふそくがよく釘に立つて居ないから
まど筋斜すぢかひ上下うへした差向さしむかつて二階にかいから、一度いちど東京とうきやう博文館はくぶんくわんみせはたらいてたことのある、山田やまだなにがしといふ名代なだい臆病おくびやうものが、あてもなく、おい/\としづんだこゑでいつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「世の中に何が臆病おくびやうと言つたつて、二本差の武家ほど氣の小さいものはありませんね」
はげてるくせに、いやに臆病おくびやうだね——なに泥龜すつぽんだつたがね、のさ/\ときしあがつてると、あめ一所いつしよに、どつとあしもとがかはになつたから、およかたちひとりでにげたつけ。ゆめのやうだ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母は病氣で臆病おくびやうだし、妹はお轉婆だけれど、まだ十八になつたばかり、猫の子が死んでも二日も物を食はないくらゐだから、そんな大外だいそれたことが出來さうもないし、お徳は給金を
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
そらぶ——火事くわじはげしさにまぎれた。が、地震ぢしん可恐おそろしいためまちにうろついてるのである。二階にかいあがるのは、いのちがけでなければらない。わたし意氣地いくぢなしの臆病おくびやう第一人だいいちにんである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
筵の上につまんで置いたやうな寒々とした老爺は、二人の姿を見ると、臆病おくびやうらしくお辭儀をしました。老けては見えますが、それは貧苦と勞働のせゐで、本當は精々五十四五でせう。
尾久の奴等は臆病おくびやうだから、そんな物を見るんだらうと言ふと、尾久の手合は口惜しがつて、何を小臺の寢呆ねぼけ野郎——といふ騷ぎで、こいつは何時まで噛み合せてもらちはあきませんよ。
おや/\裏庭うらにはえのき大木たいぼく散込ちりこむにしてはかぜもないがと、おもふと、はじめは臆病おくびやう障子しやうじけなかつたのが、いま薄氣味惡うすきみわるくなつてこまぬいて、おもはずくら天井てんじやうあふいでみゝました。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その下手人の疑ひが臆病おくびやうな與茂吉に行くと、お前はそれが可哀さうになつた。
佐助は臆病おくびやうらしく揉手をし乍ら、考へ/\三郎兵衞のために辯ずるのです。
忌々いま/\しいぢやないか。——裏の臆病おくびやう馬吉奴、まだ尺八を吹いてやがる」
その後ろから臆病おくびやうらしく挨拶したのは、殺された主人の弟の三五郎です。
と同時に、この法師、思ひの外臆病おくびやうで人が良ささうでもあります。
勘五郎は臆病おくびやうさうに固唾を呑むのです。