脚絆きやはん)” の例文
この娘が手甲脚絆きやはん負摺おひづるを背負つて、饅頭笠まんぢゆうがさに顏を隱したとしても、その楚々そゝたる姿や青春の美しさが沁み出るやうな御詠歌ごえいかの聲や
のべ用意ようい雨具あまぐ甲掛かふかけ脚絆きやはん旅拵たびごしらへもそこ/\に暇乞いとまごひしてかどへ立出菅笠すげがささへも阿彌陀あみだかぶるはあとよりおはるゝ無常むじやう吹降ふきぶり桐油とうゆすそへ提灯の
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
丁度そこへ足を投出して、脚絆きやはんを着けて居るところへ、下女の袈裟治に膳を運ばせて、つゞいて入つて来たのはお志保である。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あしには脚絆きやはん草鞋わらぢとを穿はいにはござうてる。ござえずかれ背後はいごにがさ/\とつてみゝさわがした。かれつひ土手どてかられてひがしへ/\とはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
べつに一尺八寸の打刀うちがたなをも同じ拵にて、髪は掴み乱して荒縄にてむづとしめ、黒革くろかは脚絆きやはんをし、同行常に二十人ばかり、熊手、まさかりなどを担がせて固め、人々ゆきあふ時は
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つたとふ——眞個ほんたうらん、いや、うそでない。これわたしうちて(久保勘くぼかん)とめた印半纏しるしばんてんで、脚絆きやはんかたあしをげながら、冷酒ひやざけのいきづきで御當人ごたうにん直話ぢきわなのである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
田の境のどぶにはがツンツン出て、雑草が網のやうに茂つてゐた。見てると街道には車が通る、馬が通る、をたゞおんぶした田舎のかみさんが通る、脚絆きやはんかふかけの旅人が通る。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「そんな事だつたら、何で脚絆きやはんだ、草鞋わらぢだつて穿かせてやることがあらうば。」
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
脚絆きやはん草鞋わらぢ足拵あしごしらへは、見てくればかり軽さうだが、当分は御膝許おひざもとの日の目せえ、拝まれ無え事を考へりや、実は気も滅入つての、古風ぢやあるが一足毎に、後髪を引かれるやうな心もちよ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
駕籠かごつてかうかとおもつたけれど、それも大層たいそうだし、長閑のどか春日和はるびよりを、麥畑むぎばたけうへ雲雀ひばりうたきつゝ、ひさりで旅人たびびとらしい脚絆きやはんあしはこぶのも面白おもしろからう、んの六ぐらゐの田舍路ゐなかみち
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
男も女も脚絆きやはんして足早あしばやのぼりゆく旅姿こそをかしからめ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かさ脚絆きやはん、手甲、つゑ掛絡けら
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
萬筋まんすぢの野暮つたいあはせに、手甲てつかふ脚絆きやはんをつけ、置手拭までした恰好は、誰に教つたか知りませんが、すつかり行商人の板について居ります。
彼の男それ結構けつこうなこと隨分ずゐぶん御達者で御歸りなされましハイ然樣さやうならばとわかゆくを重四郎は振返ふりかへり見れば胸當むねあてをして股引もゝひき脚絆きやはんこしには三度がさを附大莨袋おほたばこいれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
脚絆きやはん草鞋わらぢとでかためた勘次かんじ容子ようす不審ふしんおもつたみなみ亭主ていしゆ勘次かんじ突然とつぜんうつたへるやうにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこできのこ扮裝ふんさうは、しま着附きつけ括袴くゝりばかま腰帶こしおび脚絆きやはんで、見徳けんとく嘯吹うそぶき上髯うはひげめんかぶる。そのかさいちもつが、鬼頭巾おにづきん武惡ぶあくめんださうである。岩茸いはたけ灰茸はひたけ鳶茸とびたけ坊主茸ばうずたけたぐひであらう。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
われは身に一枚の藺席ござを纏ひ、しほたれたる白地の浴衣ゆかたを着、脚には脚絆きやはん穿うがたず、かしらには帽子をも戴かず、背には下婢げぢよの宿下りとも言ひつべき丸き一箇ひとつの風呂敷包を十文字に背負ひて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
まるで夜逃げでもするやうに、近所の方に辨當まで拵へて貰ひ、草鞋わらぢやら脚絆きやはんまで、軒の下に用意して置いたんだと聽いては、腹も立ちません。呆れ返つた野郎で
脚絆きやはんきれまゝあさあしくゝけた。れも木綿もめんつた頭陀袋づだぶくろくびからけさせて三かは渡錢わたしせんだといふ六もんぜにれてやつた。かみあさむすんで白櫛しろぐししてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ほがらかなこゑねんじながら、つゑおろさず、團子だんごつたなりにひたひにかざして、背後うしろ日陰ひかげむかつて日向ひなたへ、相坂あひざかかたへ、……ひやめし草履ざうりを、づるりといて、白木綿しろもめん脚絆きやはんつけたあし
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
考へ居たりしが大概おほよそ丑刻やつ時分じぶんとも思ふ頃そつと起上り寢床ねどこにて甲懸かふがけ脚絆きやはん迄も穿はきいざと云へば逃出にげだすばかりの支度をなし夫より後藤がたるそばさしより宵の酒宴さかもりの時見て置きたる胴卷の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また万金丹まんきんたん下廻したまはりには、御存ごぞんじのとほり、千筋せんすぢ単衣ひとへ小倉こくらおび当節たうせつ時計とけいはさんでます、脚絆きやはん股引もゝひきこれ勿論もちろん草鞋わらぢがけ、千草木綿ちくさもめん風呂敷包ふろしきづゝみかどばつたのをくびゆはへて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平次は脚絆きやはん草鞋わらぢと言つた裝束で、手槍を擔ぎ、子分達はさすがにそれほど大袈裟には用意しませんが、それでもいゝ若い者が、百姓一見たいに、竹槍までひつさげて押し廻したのですから
うすの、かじかんだお盥結たらひむすびで、えり手拭てぬぐひいてる、……きたな笈摺おひずりばかりをにして、白木綿しろもめん脚絆きやはん褄端折つまばしよりして、草鞋穿わらぢばきなのが、ずつと退いて、トあとびしやりをした駅員えきゐんのあとへ
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「へい、殿樣とのさまへ、御免ごめんなせいまし。」としりからげのしまつた脚絆きやはん。もろにそろへてこしかゞめて揉手もみでをしながら、ふとると、大王だいわう左右さいう御傍立おわきだちひとつはちたか、こはれたか、大破たいは古廟こべうかたちめず。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)