終日ひねもす)” の例文
「きのうは終日ひねもす、山をあるき、昨夜は近来になく熟睡した。そのせいか、きょうはまことに気分がよい。風邪かぜも本格的になおったとみえる」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土の色は白く乾いて、木の葉は大抵落ちた。圃に残った桑の葉は、黒くしぼんだ。天地は終日ひねもす音もなく、死んだように静かであった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
人の哀れを面白げなる高笑たかわらひに、是れはとばかり、早速さそくのいらへもせず、ツとおのが部屋に走り歸りて、終日ひねもすもすがら泣き明かしぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
山百合やまゆりは花終らば根を掘りて乾ける砂のなかに入れ置けかし。あれはかくせよ。これはかうせよと終日ひねもすたすきはづすいとまだになかりけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「春の海終日ひねもすのたりのたりかな」……「海」を「河」に置き代えよう。「春の河終日のたりのたり哉」まさに隅田がそうであった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鏡にむかひて自ら喜ぶことをえんため我こゝにわが身を飾り、わが妹ラケールは終日ひねもす坐してその鏡を離れず 一〇三—一〇五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かの夢殿の霞にやんごとなき籠りを籠りとせられた終日ひねもすの春を慕ふものである。少くとも私の道に於て私は楽しんでゐる。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
死骸しがいはその日終日ひねもす見当らなかったが、翌日しらしらあけの引潮ひきしおに、去年の夏、庵室あんじつの客が溺れたとおなじ鳴鶴なきつるさきの岩にあがった時は二人であった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
盡し神佛かみほとけへも祈りしかど其しるしかつてなく後には半身はんしん叶はず腰も立ねば三度のしよくさへ人手をかりるほどなれどもお菊は少しも怠らず晝は終日ひねもす賃仕事ちんしごと或ひはすゝ洗濯せんたく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この恩を謝せんとて、自ら我僑居に來し少女は、シヨオペンハウエルを右にし、シルレルを左にして、終日ひねもす兀坐こつざする我讀書の窻下に、一輪の名花を咲かせてけり。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
終日ひねもす灰色に打曇りて、薄日をだにをしみてもらさざりし空はやうやく暮れんとして、弥増いやます寒さはけしからず人にせまれば、幾分のしのぎにもと家々の戸は例よりも早くさされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わしは昨日きのう森の中を終日ひねもす花を捜して歩いた。みやこにあるような花は一つもなく、皆わしの名を知らぬ花ではあったけれど、それでもわしに春のこころを告げてくれた。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そが中にしやを築きて居れるは膠州の黄生とて、終日ひねもすふみ読みくらしたる。ある日のことなりき。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
くれは日曜にちえう終日ひねもすてもとがむるひとし、まくら相手あひて芋虫いもむし眞似まねびて、おもて格子こうしにはでうをおろしたまゝ、人訪ひとゝへともおともせず、いたづらに午後ごゝといふころなりぬれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一言ひとこと……今一言の言葉の関を、えれば先は妹背山いもせやま蘆垣あしがきの間近き人を恋いめてより、昼は終日ひねもす夜は終夜よもすがら、唯その人の面影おもかげ而已のみ常に眼前めさきにちらついて、きぬたに映る軒の月の
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
仙洞忠勤のおんむかし、九夏三伏のあつさにも、あせをのごひて終日ひねもす庭中にかしこまり。
山家ものがたり (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼女は終日ひねもすこの恐ろしい災難をとやかく思い煩うて、恐ろしさにうちわなないていた。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
終日ひねもす雀の鳴聲を聽きながら、優しく、惱ましく、恥かしげに、思ひをこめて針仕事をして居る娘を見る時、私はいつもこの抒情味の深い、そして多分に加特力教的な詩人の言葉を思ひ起す。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
冬になって骨あらわに瘠せて見えると「あらお山が寒そうな」という。雪げに見えなくなると、お光は終日ひねもす悵然ちょうぜんとして居る。年とる程したしみが深うなって、見れば見る程山はいよいよいきて見える。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
終日ひねもす家にのみ閉じこもることはまれにて朝に一度または午後に一度、時には夜に入りても四辺あたり野路のみちを当てもなげに歩み、林の中に分け入りなどするがこの人の慣らいなれば人々は運動のためぞと
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼女は人が変ったように終日ひねもすおのれの小さい室に引籠ひきこもって、家人にさえ顔を合わすのをいやがったが、遂には極度の神経衰弱に陥り、一時は、あられもない事を口走るようになってしまったのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小笠原の大蝙蝠は終日ひねもすを簑蟲のごとぶら下りたり
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
城兵終日ひねもす討ち出でて奮戰苦鬪なす處
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
きよきを攻むやと、終日ひねもす啄木鳥きつつきどり
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
うれしき春の終日ひねもす
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ここは山城の綴喜郡つづきごおり河内かわち交野郡かたのごおりとの境をなす峠路である。光秀は旌旗せいきを立てて、終日ひねもす、何ものかをこの国境に待ちうけていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幕を引上げない以前に、濁つた流れに終日ひねもす絲を垂れて居てもうをはつれないと云ふ貧しい漁夫の歌を獨唱させるつもりである。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
くも時雨しぐれ/\て、終日ひねもす終夜よもすがらつゞくこと二日ふつか三日みつか山陰やまかげちひさなあをつきかげ曉方あけがた、ぱら/\と初霰はつあられ
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この恩を謝せんとて、自ら我僑居けうきよし少女は、シヨオペンハウエルを右にし、シルレルを左にして、終日ひねもす兀坐こつざする我読書の窻下さうかに、一輪の名花を咲かせてけり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
このピアノ中古ちゆうぶるぞとよ。塗りみがき、うつくし黒し、大きなりしつにそびやぐ。かうがうしこのピアノ、立ち添ひて、かがみ見て、蓋をひらき、鍵たたき見て、見も飽かず終日ひねもすありける。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
その平生へいぜい怠無おこたりなかりし天は、又今日に何の変易へんえきもあらず、悠々ゆうゆうとしてあをく、昭々としてひろく、浩々こうこうとして静に、しかも確然としてそのおほふべきを覆ひ、終日ひねもす北の風をおろし、夕付ゆふづく日の影を耀かがやかして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これのまでははしられず、一日おこたことのあれば終日ひねもす氣持きもちたゞならず、物足ものたらぬやうにるといふも、ひとみゝには洒落者しやれもの蕩樂だうらくられぬべきこと其身そのみりてはまことせんなきくせをつけて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
日本海の風に吹かれて、滄浪そうろうの寄せ来る、空の霞める、雲も見えず、うららかなる一日を海辺にさまよい、終日ひねもす空想に耽っていたことがあるが、その時の文章と閲歴とを思い出さずにはいられなかった。
春の海終日ひねもすのたりのたりかな
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
羽を振りて晝は終日ひねもす
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
知りて付込れなば如何なる變事へんじの出來んも知れずいづれにも又々明日馬喰町へ行きて尋ね當り次第市之丞へ渡す迄ははなはだ以て心遣ひなりと云に女房も御道理ごもつともなり今日は終日ひねもす尋ねあぐまれさぞかし御勞おつかれならんにより貴郎あなたよひうち御臥おやすみありて夜陰よはよりは御心だけもねむり給は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
終日ひねもす、隣り合って、黙々と、おしぎょうをまもり通して働いていた石権や職人たちは、はや手もとも暗くなったので、仕事をしまいながら呟いた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひる終日ひねもす兵術へいじゆつしうし、よる燈下とうか先哲せんてつとして、治亂ちらん興廢こうはいかうずるなど、すこぶいにしへ賢主けんしゆふうあり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この恩を謝せんとて、自らわが僑居きょうきょし少女は、ショオペンハウエルを右にし、シルレルを左にして、終日ひねもす兀坐こつざするわが読書の窓下そうかに、一輪の名花を咲かせてけり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
このピアノ中古ちゆうぶるぞとよ。塗りみがき、うつくし黒し、大きなりしつにそびやぐ。かうがうしこのピアノ、立ち添ひて、かがみ見て、蓋をひらき、鍵たたき見て、見も飽かず終日ひねもすありける。
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そも三田みたの校内にては奢侈しゃしの風をいましめんとて校内に取寄すべき弁当にはいづれもきびしく代価を制限したり。されば料理の材料おのづから粗悪となりてこれをくらへば終日ひねもす胸苦むなぐるしきを覚ゆ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
乾坤けんこんの白きに漂ひて華麗はなやかに差出でたる日影は、みなぎるばかりに暖き光をきて終日ひねもす輝きければ、七分の雪はその日に解けて、はや翌日は往来ゆきき妨碍さまたげもあらず、処々ところどころ泥濘ぬかるみは打続く快晴のそらさらされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
春の海終日ひねもすのたりのたりかな
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
しかし今日ばかりは、その賑わいも心に持てず、ほんとの独りぼッちの身を、終日ひねもす、硯に水もない小机に支えられていた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればたまの絶えしにあらねば、うつゝ号泣がうきふする糸より細き婦人をんなの声は、終日ひねもすひまなかりしとぞ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日がな終日ひねもす昼間ひるまから、今日けふの朝から、昨日きのふから、遠い日の日のゆふべから
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
書斎の丸窓も芭蕉ばしょう朽ちておだやかなる日の光終日ひねもす斜にさすなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
終日ひねもす怒りうゑを感じ
焼け落ちたのちも、巨大な火の山は、終日ひねもす、紫いろの余燼よじんをめらめらあげている。そしてようやく夕方には灰になった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日がな終日ひねもす、昼もも、一昨日をととひも、昨日きのふも、今日けふ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)