紳士しんし)” の例文
やあ? きぬ扱帶しごきうへつて、するりとしろかほえりうまつた、むらさき萌黄もえぎの、ながるゝやうにちうけて、紳士しんし大跨おほまたにづかり/\。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
英国の一紳士しんしにしてながく日本に滞在し、日本の婦人を妻とせる人がすこぶる日本贔屓びいきで、種々の著述ちょじゅつもして日本を世界に紹介しょうかいした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
『どうして、岩のようにじょうぶだ』とその紳士しんしが言った。『十人に九人までは死ぬものだが、あれは肺炎はいえん危険きけんを通りこして来た』
その時、そこのプラットホオムに四十五六の紳士しんしがいて、僕のいる車室へ乗りんで来た。その後から赤帽あかぼうが大きなかばんを持ち込む。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
「あ、もしもし、二せんでも、三せんでも、げてやったら、どうだ?」とかぜが、あといかけていって、紳士しんしみみにささやきました。
ある冬の晩のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
二人の青年紳士しんしりょうに出てみちまよい、「注文ちゅうもんの多い料理店りょうりてん」にはいり、その途方とほうもない経営者けいえいしゃからかえって注文されていたはなし。
ぼくはこんなことを、日本選手でもあり、立派な紳士しんし淑女しゅくじょでもあるみなさんに、お話するのは、じつに残念であるが、むを得ん。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
左側にはハツカネズミの紳士しんしたちが立ちならんでいて、前足でひげをなでていました。部屋のまんなかに、花嫁はなよめ花婿はなむこの姿が見えました。
長いヴェールをかぶった花よめもいますし、りっぱなふくをきた紳士しんしもいます。それから、美しいまっ白な服をきた、まき毛の子もいます。
ちゃんとした服装をした紳士しんしであったが、私の方を指さして、子供に「あれは日本人ヤパーナーだ。支那人ヒニーゼとはちがう」と説明していた。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あゝおいとが芸者になつたら一緒に手を引いて歩く人は矢張やつぱりあゝ立派りつぱ紳士しんしであらう。自分は何年たつたらあんな紳士しんしになれるのか知ら。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『さうです。きみられた學校がくかうです。三田みたですか、早稻田わせだですか。』と高等商業かうとうしやうげふ紳士しんし此二者このにしやいでじといふ面持おもゝちふた。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
突然声をかけたのは首席教官の粟野あわのさんである。粟野さんは五十を越しているであろう。色の黒い、近眼鏡きんがんきょうをかけた、幾分いくぶん猫背ねこぜ紳士しんしである。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてうたひをはつてせきについたときに、拍手はくしゆとゝもに「モア、モア!」とこえわかいRこく紳士しんしによつてかけられた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
恐らくこの紳士しんしは、最初車室にはいって来たときに、素早すばやくあたりを見廻して、クルミさん一人だけのこの席をみつけると、相手を少女とみくびって
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
こうかれはいつもいった、だがいまきてみると子供等ばかりでなく、労働者も商人も紳士しんしも役人も集まっている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かれは、人柄ひとがらとしては、まことに温和おんわ風貌ふうぼう分別盛ふんべつざかりの紳士しんしである。趣味しゅみがゴルフと読書どくしょだという。そして、井口警部いぐちけいぶとのあいだに、つぎのような会話かいわがあつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
りっぱなひげをはやした三十あまりになる紳士しんしと、それよりすこし下かと思われる婦人とが、かけこんで来た。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、それまで隊のあとから見えがくれについて来ていた背広の紳士しんしが、つかつかと進み出て、まず荒田老と、つぎに朝倉先生と、あいさつをかわした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
中島はまた紳士しんしの生活とかっさいする。矢野は準備を楽しむという大木のことばを思い出して愉快になった。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
其先そのさきは、つい、したの、圓長寺えんちやうじ日蓮宗にちれんしう大寺おほでらである。紳士しんし帽子ぼうし取去とりさると、それは住職じうしよく飯田東皐氏いひだとうくわうし
紳士しんしたちよ、わたしは二人にお礼をいひます。」と言つて頭を下げました。兵卒のことは、だれでも、たゞ、「マン」と言つて「ゼントルマン」とは言はないのです。
パナマ運河を開いた話 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
神さまの道、教えるの学校! 基督教キリストきょう紳士しんし、組み立ての学校! 今からそれ分らない人、後から失望、お気の毒であります。学問の為め勉強の人、早くお帰りなさい。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
町のものに取っては幾個の中学校よりもこの石油会社の方がはるかにありがたい。会社の役員は金のある点において紳士しんしである。中学の教師は貧乏なところが下等に見える。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぜひおよめに来てもらいたいという紳士しんしは、あとからあとからとたえませんでしたが、むすめは、こうなると、よけいおとうさまのそばをはなれることはできないとおもって
カピ長 まゝ、堪忍かんにんして、放任うちすてゝおきゃれ、立派りっぱ紳士しんしらしう立振舞たちふるまうてをるうへに、じつへば、日頃ひごろヹローナが、とくもあり行状ぎゃうじゃうもよい若者わかもの自慢じまんたねにしてゐるロミオぢゃ。
むかしむかし、あるところに、なに不自由なく、くらしている紳士しんしがありました。
其結果は如何である? 儂が越して程なくようあって来訪した東京の一紳士しんしは、あまり見すぼらしい家の容子ようすに掩い難い侮蔑を見せたが、今年来て見た時は、眼色にあらそわれぬ尊敬を現わした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
無論むろんわたくしほのおの中の方が熱いと思います」とひとりの紳士しんしがいいました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
朝の光線のせいか、何もかも新しいものをつけている紳士しんしが、このように早く与一を尋ねて来ると云う事は、よっぽど親しい、遠い地からの友人であろうと、私は忙がしく与一を揺り起した。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
艦長かんちやうすで虎髯大尉こぜんたいゐよりの報告ほうこくによつて、輕氣球けいきゝゆうとも落下らくかした吾等われら二人ふたり日本人につぽんじんであることも、一人ひとり冐險家ぼうけんからしい紳士しんしふうで、一人ひとりおな海軍かいぐん兵曹へいそうであることしつつたとえ、いま
三十歳前後に至って始めて顔があかく焼けて来て脂肪しぼうたたえ急に体が太り出して紳士しんし然たる貫禄かんろくを備えるようになるその時分までは全く婦女子も同様に色が白く衣服の好みも随分柔弱にゅうじゃくなのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美青年の紳士しんしであった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勾玉まがたま? さかずきのかけたようなもの? きみは、またどうしてそんなものに趣味しゅみっているのです。」と、紳士しんしは、おどろいたようです。
銀河の下の町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど四十フランの金をくれるものは子どもではなかった、ふところの大きい、物おしみをしない紳士しんしが来てくれなければならなかった。
見るとそれは実に立派なばけもの紳士しんしでした。貝殻かいがらでこしらえた外套がいとうを着て水煙草みずたばこを片手に持って立っているのでした。
長吉ちやうきちはれるまゝに見返みかへると、島田しまだつた芸者と、れに連立つれだつてくのは黒絽くろろ紋付もんつきをきた立派りつぱ紳士しんしであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
てよ、先刻さつき紳士しんしは、あゝして、鹽尻しほじり下車おりたとおもふが、……それともしつへて此處こゝまでたか、くるまが三だいそろつて。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とソフアにけてたオックスフオード出身しゆつしん紳士しんしおこしていた。其口元そのくちもとにはなんとなく嘲笑あざけりいろうかべてる。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
もちろんこれら一派の紳士しんしは腕力をほしいままにしたのでなく、基督キリストの仁と称するは決して悪き意味における婦女子の愛のごとき猫可愛がりでないと説いた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
これはお金持のりっぱな紳士しんしの心でした。おそらく、この人の名まえは紳士録にのっているでしょう。
六、それから又玉突きに遊びゐたるに、一人ひとりの年少紳士しんしあり。僕等の仲間に入れてくれと言ふ。
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
クルミさんは、横顔のあたりに紳士しんしの気味悪い視線しせんを感じながら、ひそかに溜息ためいきをついた。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
其所そこ來合きあはせた一紳士しんしが、貴君方あなたがたなにをするんですかととがめたので、水谷氏みづたにし得意とくい考古學研究かうこがくけんきう振舞ふりまはした。其紳士そのしんししきりに傾聽けいちやうしてたが、それではわたくし仲間なかまれてもらひたい。
それがおわると、れい大入道おうにうどう紳士しんしが、どもりのやうな覚束おぼつかない日本語にほんご翻訳ほんやくしてくれた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「明治学園、それはお金儲けする人を養わない。それは基督教キリストきょう紳士しんしを養う。人はパンのみにて生きない。それを教えるのが学校、それ、私共の学校明治学園、みんなさん、うでありますか?」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それからまた進んで、いくつかのへやを通って行きますと、どのへやにも、紳士しんしたちや貴婦人きふじんたちが、立っているものも、腰をかけているものも、みんな、たわいなく眠りこけていました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
友人というのは、某会社ぼうかいしゃ理事りじ安藤某あんどうぼうという名刺めいしをだして、年ごろ四十五、六、洋服ようふく風采ふうさいどうどうとしたる紳士しんしであった。主人は懇切こんせつおくしょうじて、花前の一しんにつき、いもしかたりもした。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
東京客が沢山たくさん来た。新聞雑誌の記者がよく田園生活の種取たねとりに来た。遠足半分えんそくはんぶんの学生も来た。演説依頼の紳士しんしも来た。労働最中に洋服でも着た立派な東京紳士が来ると、彼は頗得意であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
東海さんが、顔馴染なじみのフォオド会社のふとった紳士しんしに、ゴルフを教えてもらい、なんども空振からぶりをして、地面をたた恰好かっこう面白おもしろがって、みんな笑いくずれていましたが、ぼくにはつまらなかった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)