たき)” の例文
旧字:
午後五時ごろ、一同は岩壁がんぺきの南のほう、一マイルのところまでくると、そこに一じょうの細いたきが、岩のあいだから落ちているのを見た。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私たちはその溜り水からせきをこしらえてたきにしたり発電処はつでんしょのまねをこしらえたり、ここはオーバアフロウだの何のながいことあそびました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ユパダールの荘園しょうえんの上や、ロンネビュー町のくらい屋根やねの上や、白いたきの上をこえて、すこしも休まずに、ぐんぐんんでいきました。
、三このいのりをりかえしてうちに、わたくしむねには年来ねんらいみこと御情思おんなさけがこみあげて、わたくし両眼りょうがんからはなみだたきのようにあふれました。
けてゐる眼鏡めがねをはづして、蘿月らげつつくゑを離れて座敷ざしき真中まんなかすわり直つたが、たすきをとりながら這入はいつて来る妻のおたき来訪らいはうのおとよ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
渡れば喜十六の山麓さんろくにて、十町ばかり登りて須巻すまきたきの湯有りと教へらるるままに、つひ其処そこまで往きて、ひる近き頃宿に帰りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
爆音も相当に強く明瞭に聞かれ、その音の性質は自分が八月四日にせんたきで聞いたものとほぼ同種のものであったらしい。
小爆発二件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と思うとまた、たき水沫すいまつがたちこめている岩層がんそうふちにそって、水面を注意ちゅういしながらかける宮内くないの小さいかげが見いだされた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、ひとつのたるのかがみ板が、とんでしまい、ちょうど車が坂にかかって、かたむいていたので、白いおりがたきのように流れ出していました。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
またあの奈良へ行くと「般若坂」という坂があり、また般若寺というお寺もあります。日光へゆくとたしか「般若はんにゃたき」という滝があったと思います。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
消えかけて居た雪の帽が、また地蔵の頭上に高くなった。庭の主貌あるじがおした赤松の枝から、時々サッと雪のたきが落ちる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、台所の軒下、たきと落ちる雨だれのなかを、黒い影がすうっと横ぎるのを守人は見た。さっと戸をあけて——
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私はすっかり服装を改めて、ついの大島の上にゴム引きの外套がいとうまとい、ざぶん、ざぶんと、甲斐絹張りの洋傘に、たきごとくたたきつける雨の中を戸外おもてへ出た。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おせんちゃんにゃ、千にんおとこくびッたけンなっても、およばぬこいたきのぼりだとは、知らねえんだから浅間あさましいや
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御当人は仕方がないとしても社会の人がそれを読んでその不平や悲みに伝染するから困る。伝染の極端が華厳けごんたき飛込とびこむという事になるからいよいよ困る。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのとき春木は、例の生駒いこまたきの事件のことをいってみようかと思った。あのときからヘリコプターにねらわれているのではなかろうかといい出したかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
総滝そたきとは新潟にひがたみなとより四十余里の川上、千隈川ちくまかはのほとり割野わりの村にちかき所のながれにあり。信濃しなの丹波島たんばじまより新潟にひがたまでを流るゝあひだながれたきをなすはこゝのみなり。
父君は樋口則義ひぐちのりよし、母君はたきといって、安政年間に志をたてて共に江戸に出、母は稲葉家いなばけに仕え、父は旗本菊池家に奉公し、後に八丁堀はっちょうぼり衆(与力同心)に加わった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
緒挊おがせたきを見に行けば、がけの樹のこずえにあまたおり、人を見ればげながら木のなどをなげうちて行くなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
華厳けごんたきや、吉野山など、ことにも色彩が見事で、いまでもあざやかに記憶に残っているが、時事の画片としては、やはり、旅順港封鎖、水師営すいしえい会見、奉天ほうてん入城など
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は漫然と万年筆を手にしたまま、不動のたきだの、ルナ公園パークだのと、山里に似合わない変な題を付けた地方的の景色をぼんやり眺めた。それからまた印気インキを走らせた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうど紅葉もみじ時分で、王子おうじたきがわって瓢箪ふくべの酒を飲干して、紅葉を見にく者は、紅葉の枝へ瓢箪を附けて是をかつぎ、なりは黒木綿の紋付に小倉の襠高袴まちだかばかま穿いて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これはちょっともののけの感じが出ている、『四谷怪談』中の唯一の怪味であろう。『源平げんぺい布引ぬのびきたき
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
(はい、この水は源がたきでございます、この山を旅するお方はな大風のような音をどこかで聞きます。貴僧あなたはこちらへいらっしゃる道でお心着きはなさいませんかい。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ、わたしたち人間が、大きなたきにむかって流れていくのと同じことなのですからね。
一緒に住んでいるのは横山町の店の支配をしていたおい駒三郎こまさぶろうという五十二三の男と、中年者の下女おたき、その亭主で下男をしている元助もとすけの三人だけ、ほかに瓢々斎の友達で
又、鉄製のたるの中へ入ってナイヤガラのたき飛込とびこんだ男の話を聞いたことがある。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
またやまでは、おいしげる木々きぎに、あらしがおそうと、はげしくえだえだをもみあい、そして、頂上ちょうじょうから落下らっかするたきが、さながらかみなりのとどろくように、あたりへこだまするものすごい光景こうけい
うずめられた鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
左の足を乳牛にゅうぎゅうむねあたりまでさし入れ、かぎの手にった右足のひざにバケツを持たせて、かた乳牛にゅうぎゅうのわきばらにつけ、手も動かずからだも動かず、乳汁にゅうじゅうたきのようにバケツにほとばしる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
硫黄いおうたきで……今夜、今!」島君は太息を吐きながら、「こうしている間も気にかかる! おおどうしようどうしよう!」島君は無残に身を揉んだ。それに連れて丑松は周章あわて出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこへ来ると、水は大きなたきになつて、まつさかさまに落ちこんでゐました。
一本足の兵隊 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
すると源三は何を感じたかたきのごとくに涙をおとして、ついにはすすなきしてまなかったが、泣いて泣いて泣きつくしたはて竜鍾しおしおと立上って、背中に付けていたおおき団飯むすびほうり捨ててしまって
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「お母さん、たきという方ですよ」と細君はマドマゼエルの手紙を見て言った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その拍子ひょうしに跣足の片足を赤土に踏み滑らし、横倒しになると、坂になっている小径をたきのように流れている水勢が、骨と皮ばかりになっている復一を軽々と流し、崖下の古池のほとりまで落して来た。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
殊に一番人気のある信乃を主役として五犬士の活躍するは、大塚を本舞台として巣鴨すがも池袋いけぶくろたきがわ王子おうじ・本郷にまたがる半円帯で、我々郊外生活者の遊歩区域が即ち『八犬伝』の名所旧蹟である。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
温泉宿からつづみたきへ登って行く途中に、清冽せいれつな泉がき出ている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくしは牧野の家内でございます。たきと云うものでございます。」
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
信越線の沓掛くつかけ駅からせんたき行というバスが出ている。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
ほかなにもさしげるものとてございませぬ。どうぞこのたきのおみずなりとあがれ……。これならどんなに多量たんとでもございます……。』
そして、急流をさかのぼり、たきをとびこえて、ひと休みもせずに、年とった巨人きょじんのいるスモーランドまでのぼっていきました。
また、その山毛欅が枝をはっている下をのぞくと、気のちぢむような断崖だんがいだ。はばはせまいが、嵐弦らんげんたきとよぶ百しゃくほどの水がドウッと落下らっかしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とよ何分なにぶんよろしくと頼んでおたき引止ひきとめるのを辞退じたいしていへを出た。春の夕陽ゆふひは赤々と吾妻橋あづまばしむかうに傾いて、花見帰りの混雑を一層引立ひきたてゝ見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
向うにも一つたきがあるらしい。うすぐろい岩の。みんなそこまで行こうと云うのか。草原があって春木もんである。ずいぶんのぼったぞ。ここは小さなだんだ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
刺青ほりものの膚にたきなす汗を振りとばして、車坂くるまざか山下やましたへぶっつけ御成おなり街道から筋かえ御門へ抜けて八つじはら
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼はようやく生駒いこまたきの前に今ついたのであった。彼にはまだこの場の事態じたいがのみこめていなかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なみだたきのように出ました。そして、そのとき魔法まほうはとけて、うるわしいもとの王女になりました。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
驟雨浴しゅううよくもこれまでと、彼はたきの如くほとばし樋口といぐちの水に足を洗わして、身震いして縁に飛び上った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
○さてさけは川下よりながれさかのぼりて打切にいたり、ふねのかよふべき所は流れ打切にせかれて小たきをなすゆゑ滝にのぼるをいとふにや、大かたは打切のよどみにいたりかのかきにせまり
これは友人たき君が京都大学で本邦美術史の講演を依託された際、聴衆に説明の必要があって、建築、彫刻、絵画の三門にわたって、古来から保存された実物を写真にしたものであるから
『東洋美術図譜』 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その実谷の奥をさぐれば無数の温泉が渓流けいりゅうの中に噴きで、明神みょうじんたきを始めとしていくすじとなく飛瀑ひばくかかっているのであるが、その絶景を知っている者は山男か炭焼きばかりであると云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)