ごく)” の例文
すべての生活を規定するとゞのつまりが、村であるとすれば、村々の間に、相容れぬ形の道の現れて来るのも、ごく自然な筋道である。
万葉びとの生活 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
飯「おれほかたのしみはなく釣がごく好きで、番がこむから、たまには好きな釣ぐらいはしなければならない、それをめてくれては困るな」
「この方は性質がごくいいです。年も若いです。これで十七です。——これなら持参金が千円あります。——こっちのは知事の娘です」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのカツフエはごく小さかつた。しかしパンの神のがくの下にはあかい鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
四十前後の、ごく率直な、アッサリした人で、今の話をしてくれた揚句あげく、不良少女の男性誘惑法を記者に教えてくれたのには驚いた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
この家に住む人達は親子とも産婆であると書いてよこした。ここは東京から汽車でごくわずかの時間に来られる場処であると書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また和歌は俳句に比して上品なりといふも、ごく大体の比較にして、実際一首一句の品格は、その意匠材料音調の上に係る者多し。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わしは習い覚た冷淡な態度で、そんな手紙に驚きもせず、ごくあたり前のことの様に、平然として読み下し、平然として屑籠くずかごに投げ込んだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「君は喰わず嫌いだよ。会って見もしないで悪くいうやつがあるもんか。一度会って見ろ、決して不快わるい気持はしない、ごくさばけた男だよ、」
予が書いたものの中に小説というようなものは、僅に四つ程あって、それが皆ごくの短篇で、三四枚のものから二十枚ばかりのものに過ぎない。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
而もこの一片の貴さは、ごくの貧しい者をも富ますに足るのである。われらの麺麭ぱんは白くとも黒くとも、心を安じて、これを咬み食はしめよ。
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
余はようやく安心して進みながら「随分険呑けんのんな犬ですね」と云う「なにそうではありません心はごく優いですが番犬ばんいぬの事ですから私し共夫婦の外は誰を ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今柳橋で美人に拝まれる月も昔は「入るべき山もなし」、ごく素寒貧すかんぴんであッた。実に今は住む百万の蒼生草あおひとぐさ,実に昔は生えていた億万の生草なまくさ
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
この三枝家が私の師匠東雲師の仕事先、俗にいう華客場とくいばであったので、師匠は平常ふだん当主の竜之介とごく懇意にしておりました。
さういふ折に漁師が水棹みづさをを貸してやらなければ、空へ帰る事が出来ないので乱暴者の雷も漁師だけにはごく素直だといふ事だ。
わたくしどもでは皆さんの御便宜を図って、羅紗屋と特約を結んで、精々勉強いたしますから、どうぞ御贔屓に……スタイルもごく斬新ざんしんでございます」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そういう意味では、可なり多くの書物を覗いて見た、また今でも覗くといってよいかも知れない。本当に読んだという書物はごくわずかなものであろう。
読書 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
そんなサンスクリットで書いた論文のようにごく少数の人にしか分らないものは、どんな卓説でもちょっと困るのである。
科学と文化 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
此度このたび徳川の橋詰に店出みせだし仕り候家餅いへもちと申すは、本家和歌山屋にて菊の千代と申弘もうしひろめ来り候も、此度相改め新製を加へごくあめりかに仕立したて趣向つかまつり候処
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あとでぺろり舌を出されるとは知りながら、上等のをいやごく上等じょうとうのをと気前を見せて言いでさっさと買って来る様な子供らしいこともついしたくなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いはゆる公儀の御役おやくに立たうといふごく單純な考へであつた。然して此心は大抵な人が皆同じであつたらうと思つて居る。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
今では御本丸へ出仕するような身分になっているのを幸い、是非にもと縋付すがりついてごく内々ないないに面会を請うた次第であった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私の両親は私のごく幼い時に共に若くて世を去りまして、私は両親の顔も両親の慈愛も知りません。兄弟も無かったので私独りポッチであったのです。
あの濠の上に貸ボートが浮ぶようになったのは、ごく近年のことで確か震災前一、二年頃からのことのように記憶する。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
どうか小金も有るやうな話で、鴫沢隆三しぎさわりゆうぞうと申して、ぢき隣町となりちように居りまするが、ごく手堅く小体こていつてをるのでございます
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その瑣細ささい道理だうりふのはたとへば、眞赤まツかけた火箸ひばしながあひだつてると火傷やけどするとか、またゆび小刀ナイフごくふかると何時いつでもるとかふことです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ソレゆえ私なども江戸にれば何は扨置き桂川の家には訪問するので、度々たびたびその家に出入しゅつにゅうして居る。その桂川の家と木村の家とは親類——ごく近い親類である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「あるですとも。申立てをしなさるがよい。」役人はごく優しい声でこう云った。長く浄火の中にいたものには、詞遣ことばつかいを丁寧にすることになっているのである。
心のごく低いところの書生を動かすということを力めないで、教師は教師で切口上きりこうじょうで堅苦しいことを言ている。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大理石色なめいしいろ薔薇ばらの花、あかく、また淡紅うすあかじゆくして今にもけさうな大理石色なめいしいろ薔薇ばらの花、おまへはごく内證ないしよ花瓣はなびらの裏をみせてくれる、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
○また鍋にて湯を沸し塩少しを入れ脳味噌を入れておよそ二十分間湯煮て引上げ薄皮を剥去りごく細かに切り
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
れはごく大切たいせつうたにてひとすべきではけれど、若樣わかさまをおたせまうしたく、ほかひと内證ないしよにて姉樣ねえさまばかりに御覽ごらんたまへ、はやく、内證ないしよで、姉樣ねえさまにおげなされ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其のかわりようく物を見る、ようく聴いて居る。ごく小さい時分から自在にかけた薬缶やかんの湯気の立のぼるを不思議そうに見送る。蝶々の飛ぶのを不思議そうに眺める。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この店の品は誠に上等で、山の手のごくいいところに得意が多い由、そのかわり昔は少々高価であった。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
何年かあの港は賑な遊び場だったのに、禁止後たちまちスペインのなかでもごく平凡な工業港に変っちまいました。それで今度の政府は大々的に賭博の復興をもくろんだの。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これ丈の服装と容貌とを持つてゐれば、幸福の女神ぢよしんに対して、ごく大胆な要求をしても好ささうだ。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
「国手、臓腑からを吐くまで何事もぶちまけたで、小児を棄てた処を言うですれど、これだけは内分に願いたいでね、ごくねえ。……巡査にでも知れるとならんですだ。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祐信すけのぶ長春ちょうしゅんを呼びいかして美しさ充分に写させ、そして日本一大々尽だいだいじんの嫁にして、あの雑綴つぎつぎの木綿着を綾羅りょうら錦繍きんしゅうえ、油気少きそゝけ髪にごく上々正真伽羅栴檀しょうじんきゃらせんだんの油つけさせ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かういふ空想に耽りつつ、義雄は一方に森本のごく皮相的な、一般世俗的な事業觀や處世觀を聽くと、自分の自慢ではないまでも、大音樂の前で蚊がうなつてゐる樣に見える。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
女房に茶を汲んで出し、善太に賭事を教へ、金を股倉またぐらへくぐらするなどの仕草は場当りなれど、本文の権太ももどりにならぬまではごく安敵やすがたきなれば深く咎むるにも及ばざるべし。
裏手はごくまばらな垣根で小川に接して居る許りであるが、そこにはけやき、樫、櫻、無花果いちじゆくなどの樹がこんもりと繁つて居り、低い葡萄棚の下が鷄の小屋になつて、始終鷄の聲がしてゐる。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
問題は、彼は車中に既に死んでいたか、頭部を粉砕されるまでなお生きていたかだね。どうもそこがはっきりしないと解剖の報告にあるんだがいずれにせよ、ごくきわどい刹那の話だ。
死者の権利 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
それでおしまいかと思うと、まだ、上陸するとからここのキト旅館で、あの無数の意地悪鴉を恐れ恐れ、それこそごく内密でまた、こつこつ、ほのぼのである。何の因果かと思うのだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
まち小學校せうがつかう校長かうちやうをしてゐた彼女かのぢよをつとは、一年間ねんかんはいんで、そして二人ふたり子供こどもわかつま手許てもとのこしたまゝんでいつた。のこつたものは彼女かのぢよおも責任せきと、ごくわづかなたくはへとだけであつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
故郷ふるさとを離れる事が出来ないので、七年という実に面白い気楽な生涯をそこで送り、ごくおだやかに往生をとげる時に、僕をよんで、これからは兼てのぞみの通り、船乗りになってもよいといいました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
歌ちゃんあれは、あれッてなに、おとぼけでない彼れさ、知らないよ、知らないはずがあるものかねと叱るように早口に云えば、実は七赤儂とはごく不可いけないの、その不可いけないのがいいのだろう
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
その様な談話はなしが始まると、お政は勿論、昇までが平生の愛嬌あいきょうは何処へやらッて、お勢の方は見向もせず、一心になッて、あるいは公債を書替えるごく簡略な法、或は誰も知ッている銀行の内幕
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ことにローバの住民はごく野蛮やばん人でただその陰部だけをおおうて居る種族である。これはチベット人ともインド人ともつかないですが、その言葉によって見るとどうやらチベットの方に近い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大切に養育やういくなし殊に半四郎は至て正直律儀なる者故近所隣村の者ども半四郎々々とて何事によらたのみ使ひて贔屓ひいきせしが人にはなくて七癖なゝくせと言如く半四郎事ごく酒好さけずきにていにしへの酒呑童子しゆてんどうじも三舍を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すこしも勞れ不申、朝暮は是非散歩いたし候樣承り候得共、小あみ町に而は始終相調あひかなひ申候處、青山之ごく田舍ゐなか信吾しんご之屋敷御座候間、其宅をかり養生中に御座候間、朝暮は駒場野はわづか四五町も有之候故
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)