うし)” の例文
かれは、このはなしをきくと、なんとなくからだじゅうが、ぞっとしました。おんな姿すがたると、ながくろかみむすばずに、うしろにれていました。
山へ帰りゆく父 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのうちにふと振り返ると、校長の佐佐木ささき中将を始め、武官では藤田大佐だの、文官では粟野あわの教官だのは彼よりもうしろに歩いている。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ハハハハ。あの煙りが前に見えたんだが、もうずっと、うしろになってしまった。すると我々は熊本の方へ二三里近付いた訳かね」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お綱も自分と同じような縄目にかかるのを見ながら、数人の原士に蹴仆され、周馬だかお十夜だかにうしに締めあげられたまま
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、だしぬけに、まちの角で向い側の歩道の上に突っ立ち、両手をうしろに組み、巻き煙草たばこを口にくわえている彼の姿を見つけ出すのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
その歩き方は持ち前だが、これをうしろから見るたびに、かの女のまだ本統に直らないしもの病を義雄は思ひ出さずにはゐられないのであつた。
『おたすくださいませ』と帽子屋ばうしやつゞけて、『なんだか澤山たくさんうしろにちら/\してます——はなしをしたのは三月兎ぐわつうさぎだけです——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そのうちとうとう貞任さだとうがかなわなくなって、うまくびけかえして、げて行こうとしますと、義家よしいえうしろから大きなこえ
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
女はこゝぞ一生懸命ヤレ人殺し/\助け給へと泣叫なきさけべは侍士是に心付ヤレ南無三法何時いつに同類めらがうしろへ廻り我が女房を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平たきおもてに半白の疎髯そぜんヒネリつゝ傲然がうぜんとして乗り入るうしろより、だ十七八の盛装せる島田髷しまだまげの少女、肥満ふとつちようなる体をゆすぶりつゝゑみかたむけて従へり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そして凝り上がるほど肩をそびやかして興奮していた自分をうしろめたく見いだした。父はさらに言葉を続けた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし我邦の有様ありさまでは婿むこの候補者を定めるために晩餐会を開くから若い男に来てくれろと言うとかえって男の人たちがうしろめたく思って来にくいでしょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十一月の廿七日かに大山おほやまの(相州)うしろの丹波山たんばやまの森へはいつた時などは雪中せつちうで野宿同樣な目をした事もある。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
花のうしろのきょつぼの形をしているからツボスミレという、という古い説はなんら取るにらない僻事ひがごとである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「大兄、大兄。」彼女は鹿の毛皮をうしろに跳ねて彼の方へ近か寄った。「夜は間もなく明けるであろう。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「どつこい、さうは問屋で下ろさない」と、うしろから、ウラップがその手をしつかりと押へつけました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
熊さんが、よく薬瓶くすりびんなんかを左手にさげて、お使いにゆく姿をみつけると、子供が寄って来てうしろから
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
平次は無造作むざうさに笑い飛ばして、縁側にうしろ手を突いたまゝ、空のあをさに見入るのでした。七夕たなばたも近く天氣が定まつて、毎日々々クラクラするやうなお天氣續きです。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
Fなる魔法使いは領主の館に向かい竪琴を弾じつつうし退さがりに罌粟畑を歩み出ず。一間ほどをへだてて女子、両手を前に差し出し足をつま立てて歩く、眠れるが如き様子
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うし袈裟げさに、ザックリと思う壺に浴びせられて、二言にごんともなく息が絶えている形であります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なが大河おほかはみづしづ覺悟かくごきわめしかどひかれしうしがみ千筋ちすぢにはあらで一筋ひとすぢふといふ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
場面はれヴェネチアに近き、チチアンが別荘の高台テラスの上である。この高台、うしろはところどころ打崩れたる石欄に仕切られてあり。それを越えて遠方の松樹白楊の梢が見られる。
そうして思いもかけぬうしろから、そっと姫の肩に手をかけた者がありますから、ハッとしてふりかえって見ますと、それは懐かしい藍丸王でありました。王は親切に姫の手をって——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
すると一首の意は、私のおっとがこのように、死んで行くなどとは思いもよらず、生前につれなくして、うしろを向いて寝たりして、今となってわたしはくやしい、ということになるであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
と、つめたい声で不満ふまんそうに言った。おかみさんは、たじたじとうしろにさがり
わが眠りし間に幸助いずれにか逃げせたり、来たれ来たれ来たれともに捜せよ、見よ幸助は芥溜ごみためのなかより大根の切片きれ掘りだすぞと大声あげて泣けば、うしろより我子よというは母なり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「屹度庄吉のうしろには誰かついてるよ。」と彼女は或る時金さんにいった。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
うしろでだれかこごんで石ころをひろっているものもある。小松ばやしだ。んでいる。このみちはずうっと上流じょうりゅうまで通っているんだ。造林ぞうりんのときはなえや何かを一杯つけた馬がぞろぞろここを行くんだぞ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ひた駈けに黄沙わうさの原を乗り進む蒙古の騎馬はうしろ見ずけり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
目無めながたまうしにふたくごとく
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かうべのうしかはで澄んでゐる。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
うしろにゐるのは誰れかいな
秋の小曲 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
河水かわみずは、行方ゆくえらずにながれてゆきました。まえにも、また、うしろにも、自分じぶんたちの仲間なかまは、ひっきりなしにつづいているのでした。
河水の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人間断末のうめきをすごくあげて、爪先立った万吉の体は、キリキリとつるに締められてゆく弓のようにくうをつかんでうしろへそる——。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お嬢さんははっとした彼をうしろにしずしずともう通り過ぎた。日の光りをかした雲のように、あるいは花をつけた猫柳ねこやなぎのように。………
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
うしろを顧みる必要なく、前を気遣きづかう必要もなく、ただ自我をおもいのままに発展し得る地位に立つ諸君は、人生の最大愉快をきわむるものである
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それと同時に、ルピック夫人が、しかもあのすばやい耳で、唇のへんに微笑を浮かべながら、塀のうしろから、物凄ものすごい顔を出した。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ふとつなっていたうまがぶるぶるとぶるいをしました。そのとたん、ずしんとなにおもたいものが、うしろのくらの上にちたようにおもいました。
羅生門 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
見返みかへり/\やゝかげさへもみえざればうしがみをや引れけん一あし行ば二足ももどる心地の氣をはげまし三河の岩井をあとになし江戸を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
花が開いていると、たちまち蜜蜂みつばちのごとき昆虫の訪問がある。それは花のうしろにあるきょの中のみつを吸いに来たお客様である。さっそく自分の頭を花中へ突き入れる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
一方の傘でうしろにつきささへ、お負けに、片足をあげて、まさに段々をおりようとするところだ。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
英吉利イギリス海岸かいがんけば何所どこにでも、うみなかおよいでる澤山たくさん機械きかいられる、子供等こどもらくわすなぽじりをしてゐる、そして一れつならんでる宿屋やどや、それからそのうしろには停車場ステーシヨン
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
がたりとおとして一ゆりれヽば、するりおちかヽるうしろざしの金簪きんかんを、令孃ひめ纎手せんしゆけとめたま途端とたん夕風ゆふかぜさつと其袂そのたもときあぐれば、ひるがへる八つくちひらひらとれてものありけり
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この男を、この部屋へやから外に出してはならない。博士はドアをうしに開いて廊下ろうかにとびだし、バタンとめた。カギがない。透明人間が内側うちがわから開けようとして、博士がにぎる把手とってをひねった。
大原思わず「ヒャー」といってうしろへ飛退とびのきたり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「行け。」と再びうしろで宿禰の声がした。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
みだうしろかげ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
りょうちゃんには、ひかっていれば、みんなぎんになってえるのね。」と、おねえさんは、そのうし姿すがた見送みおくりながらおっしゃいました。
小さな弟、良ちゃん (新字新仮名) / 小川未明(著)
玩具屋おもちゃやの主人は金属製のランプへ黄色いマッチの火をともした。それから幻燈げんとううしろの戸をあけ、そっとそのランプを器械の中へ移した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
へっついは貧乏勝手に似合わぬ立派な者で赤の銅壺どうこがぴかぴかして、うしろは羽目板のを二尺のこして吾輩の鮑貝あわびがいの所在地である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)