めぐ)” の例文
もう尾瀬沼に近い随分不便な村ですが、ここで色々面白い品にめぐり会います。手彫てぼり刳鉢くりばち曲物まげものの手桶や、風雅な趣きさえ感じます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しばらく虚々実々、無言にして、天体の日月星辰を運行めぐる中に、新生の惑星が新しく軌道を探すと同じ叡智が二人の中に駈けめぐった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
暑い時分だったので、わしは朝早く、一番汽車に乗って、Y温泉地に出掛けたが、ここでまた、思いもかけぬ幸運にめぐり合った話だ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すすけた破れた障子と、外側にめぐらした亜鉛トタンの垣との間はわずかに三尺ばかりしかなかった。女の苦しみ悶える声がみちの上に聞えた。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
徘徊はいくわいめぐり/\て和歌山わかやまの平野村と云へる所にいたりける此平野村に當山派たうざんは修驗しゆけん感應院かんおうゐんといふ山伏やまぶしありしが此人甚だ世話好せわずきにて嘉傳次を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ソシテ世ニモ珍シイめぐリ合セト云ウベキハ、陰険ナ四人ガ互イニあざむキ合イナガラモ力ヲあわセテ一ツノ目的ニ向ッテ進ンデイルヿデアル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つひには元禄七年甲戊十月十二日「たびやみゆめ枯埜かれのをかけめぐる」の一句をのこして浪花の花屋が旅囱りよさう客死かくしせり。是挙世きよせいの知る処なり。
「まあ俺の方は俺の方でいいが、金公、手前こそ命拾いをした上に、俺の命を拾ってくれたんだから、めぐり合せがよく出来ている」
例のその日はたびめぐりて今日しもきたりぬ。晴れたりし空は午後より曇りてすこし吹出ふきいでたる風のいと寒く、ただならずゆる日なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
谷口金五郎に至つては、莫逆ばくぎやくの誓を破つて毒計をめぐらし、この小倉嘉門を殺害せる罪、千萬供養を重ぬるといへども忘るゝ由はない。
この前、日名子ひなこ氏に案内されて地獄めぐりをした時は、人力車でなければ通れなかった。所によると徒歩でなければ通れなかった。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あの自動車のまぎれない特徴は、仏国警察の頑丈な盗難台帳に記帳しておいたから、もし縁があれば、まためぐり合うこともあるであろう。
今こそ、まことのこころを持ったひとにようやくめぐり逢うことが出来たのです。本当に永い苦労の仕甲斐しがいがあったと云うものです。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
一歳ひととせか、二歳ふたとせか、三歳みとせの後か、明さんは、またも国々をめぐり、廻って、唄は聞かずに、この里へ廻って来て、空家なつかし、と思いましょう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
角に土蔵があって幅一間ほどの広い下水が塀をめぐって流れていた。門前の路を東に向って行けば一、二町にして三味線堀に出るのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
孝「まだ仇にはめぐり逢いませんが、主人の法事をしたく一先ず江戸表へ立帰りましたが、法事を致しましてすぐに又出立致します」
決して一直線に付いて居るのでなくって山のうねうねとねくって居るところをめぐり廻って、あるいはあがりあるいはさがって行きますので
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その下で八十の彼女は、日ごとに、六ツ折りのすそに絵をかいた障子屏風しょうじびょうぶめぐらし黒ぬりの耳盥みみだらいを前におき、残っている歯をお歯黒で染めた。
むずかしそうな在所の両親ふたおやの顔や、十両の小判や、黄八丈の小袖や、それが走馬燈まわりどうろうのように彼女かれの頭の中をくるくるとめぐった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
試みに四国八十八ヶ所めぐりの部を見るに岩屋山海岸寺といふ札所の図あり、その図断崖だんがいの上に伽藍がらんそびえそのかたわらは海にして船舶を多くえがけり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
印度人たちの少年に対する鄭重ていちょうさやさっきからの食い違っていた問答やが、瞬間旋風のように私の頭の中でぐるぐるとめぐって、腑に落ちた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼の頭は焦燥いらだつと共に乱れて来た。彼の観念は彼のへやの中をめぐって落ちつけないので、制するのも聞かずに、戸外へ出て縦横に走った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに、既成きせい政治家の張りめぐらした奸悪かんあくな組織や習慣を一つ一つ破砕はさいして行くことは、子路に、今まで知らなかった一種の生甲斐いきがいを感じさせる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼はその周囲まわりめぐりに廻って二つ横に並んだ男女のすがたを頭の方からも足の方からもながめて、立ち去るに忍びない気のしたことを思出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その曙光しょこうを見出して来るとともに、日本左衛門中心の一味にとって、事ごとに邪魔になるものは、その短刀をめぐッて同じ猟奇心りょうきしんに動く人間と
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳥の羽音、さえずる声。風のそよぐ、鳴る、うそぶく、叫ぶ声。くさむらの蔭、林の奥にすだく虫の音。空車からぐるま荷車の林をめぐり、坂を下り、野路のじを横ぎる響。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それが自分の肉親の子である。肉親の父と子が、一人の女をめぐって争っている。親が女のもとへ忍ぶと子が先廻りしている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その中に唯独り正面の時計の振り子は、硝子ガラスの鉢に水銀の波を湛えて、黄金の神殿の床を緩やかにめぐって行き、又、ゆるやかに廻りかえって来た。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼等が悟を説くや、到底城見物の案内者が、人を導きて城の外濠そとぼり内濠をのみ果てしなくめぐり廻りて、つひに其の本丸に到らずしてめる趣きあるなり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
油を吸う燈心の音、与惣次は首をめぐらした。身の自由も今は幾らか返ったらしい。が、起き上ることはできなかった。
初めは怨めしさうに女教師の顔を見て居たが、フイと首をめぐらして、側に立つ垢臭い女神、頭痛の化生、繻子の半襟をかけたマダム馬鈴薯を仰いだ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
裁判所へ行けば倉子が既に行て居るから吾々が逮捕状を得るのを見て、生田を逃す様な工夫をめぐらせるかも知れぬぜ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
たとへば、それがあさの九であつたと假定かていして、丁度ちやうど其時そのとき稽古けいこはじめる、時々とき/″\何時なんじになつたかとおもつてる、時計とけいはりめぐつてく!一時半じはん晝食ちうじき
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
突当つきあたりは奥の家の門で横に薄青く塗つた木製の低い四角な戸のあるのが自分達の下宿の入口いりくちである。同じ青色を塗つた金網が花壇にめぐらされて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
弟はめぐり合せがわるく、これまで転々と職業を変えて、この節はそれでも千住のゴム会社に勤めているが、衣川は去年から職を失って、ぶらぶらしていた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
和尚のはからいに男を伏せてかくまったこの鐘よ、硫黄いおう色のほのおを吐きながらいくめぐり巻くかと思ううち、鐘も男も鉛のようにどろどろ溶けてしまったわ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
一層頻繁ひんぱんに落ちて来る血潮を受け止めながら、赤羽主任は反射的に天井を見上げた。それに誘われて傍の人々もひとしく高い浴室の天井に首をめぐらせた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おおきな楼房にかいやがあって高いへいを四方にめぐらしていた。小婢はその前に往ってちょっと足を止めて許宣の顔を見た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かういつて火皿へ紙を押込んでぐりつとめぐして烟脂のついた紙を火鉢の隅へ棄てゝ詰つた羅宇をふうと吹いた。
おふさ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
四人バラバラに森林の中へ入ると、四方八方へ駈けめぐって、手に石を拾い取ると、一種の合図めいた調子を取って、老木の幹を叩きつづけたのであるから。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
南の空に引きめぐらす、ブリュームリスアルプの、ふと火のように輝くのを見た、私は草に寝て、ぼんやりと幻のように、アルペングリューンを眺めている。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
いまつばかりなり。すなはなん貴下きかもとほうず、稻妻いなづまさひはひせずして、貴下きかこのしよていするをば、大佐たいさよ、はかりごとめぐらして吾等われら急難きふなんすくたまへ。
一階にはまだそのほかに暗い部屋が二つあって、一つは毛蒲団けぶとんをいちめんに張りめぐらし、もう一つは板張りだが、いずれも兇暴性きょうぼうせいの患者を収容するのである。
今にして思えばこれは安政六年の夏に、香以が三十八歳で江の島、鎌倉をめぐった紀行の草稿であったらしい。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「林をいでかえってまた林中に入る。便すなわち是れ娑羅仏廟さらぶつびょうの東、獅子ししゆる時芳草ほうそうみどり、象王めぐところ落花くれないなりし」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
永住方針で居たが、果して村に踏みとどまるか、東京に帰るか、もっと山へ入るか、分からぬと言うて居ます。其挙句あげく前述ぜんじゅつの通り十年のドウ/\めぐりです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よしや一の「モルヒ子」になぬためしありとも月夜つきよかまかれぬ工風くふうめぐらしべしとも、当世たうせい小説せうせつ功徳くどくさづかりすこしも其利益りやくかうむらぬ事かつるべしや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そのコース以外にはのがれる気遣いのない白襟嬢に、めぐり合うことすら、仲々天日に恵まれないのだから、思えば昔の仇討ちなんて、余程精神修養を積まないと
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
大八の片輪かたわ田の中に踏込んだようにじっとして、くよ/\して居るよりは外をあるいて見たら又どんな女にめぐあうかもしれぬ、目印の柳の下で平常ふだん魚はれぬ代り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
神が鳴鏑なりかぶらの矢をさがしに、大野の中に入って行かれると、火をもって焼きめぐらされて、出るみちがわからなくなった。鼠来て云ひけるは、内はほらほらはすぶすぶ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)