ゆか)” の例文
モミの木は、ちょっとあらっぽくゆかに投げだされましたが、すぐに下男が、お日さまの照っている、階段の方へ引きずっていきました。
電光がすばやく射し込んで、ゆかにおろされてかにのかたちになっている自分の背嚢はいのうをくっきりらしまっ黒なかげさえ おとして行きました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
掃除し、それからゆかの絨毯の上に横わりながら、わずかに燈明の光りだけに照らされた暗の中で長いこと親しく囁き声で話し合った。
ジノーヴィー・ボリースィチがおのれの寝間のゆかにのこしていった血のしみを、束子たわしにシャボンをつけて入念に洗いおとすのだった。
「あっちへ行って貰おう」と私はどなりつけ、怖ろしく腹が立って、わけもいわれもなしにビスケットの籠を掴んでゆかへ叩きつけた。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
島民家屋の丸竹を竝べたゆかの上に、薄いタコの葉の呉蓙を一枚敷いて寢てゐた時、私は、突然、何の連絡も無く、東京の歌舞伎座の
そう感じると、わしの前に、あの牢獄の切窓から、闇のゆかへ、一尺ほど映した太陽のように——救いの光がくわっと胸へよみがえって来た。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから黙ったままおもむろに暖炉から窓へ、窓から暖炉へと、二度へやの中を横ぎり、石の像が歩いてるようにゆかをぎしぎしさした。
ゆかには泥がべたべたついていた。悪党どもが野営キャムプの周りの沼地を捗って来た後に、ここに坐って酒を飲んだり相談をしたりしたのだ。
なぜなら、火の手は、ずんずんひろがって、もうベッドもほのおにつつまれてしまいましたし、ゆかからも、煙が立ちのぼっています。
りたてのかべ狹苦せまくるしい小屋こや内側うちがはしめつぽくかつくらくした。かべつち段々だん/\かわくのが待遠まちどほ卯平うへい毎日まいにちゆかうへむしろすわつてたいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ゆかより引下しこぶしを上てすでうたんとなす此時近邊きんぺんの者先刻よりの聲高こゑだかを聞付何ことやらんと來りしが此體このていを見て周章あわて捕押とりおさへ種々靱負を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いと良き月に弾く人のかげも見まほしく、ものがたりめきてゆかしかりし、親しき友に別れたる頃の月いとなぐさめがたうも有るかな
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
眞紅しんくへ、ほんのりとかすみをかけて、あたらしい𤏋ぱつうつる、棟瓦むねがはら夕舂日ゆふづくひんださまなる瓦斯暖爐がすだんろまへへ、長椅子ながいすなゝめに、トもすそゆか
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ゆかの上には古びた普及版ばかりが恰も骨塚のやうに重なり合つて、小雨そば降る停電の夜などは何となく鬼気人に迫るものがある。
書狼書豚 (新字旧仮名) / 辰野隆(著)
(板を壁にがたりと寄せ掛く。さてチョッキのみになりたるに心付き、ゆかの上にある上着を取上げ着る。娘、そばに寄る。)なんだ。
然し彼女は瀕死の病人に似もやらず、素早すばやくもコップの水をゆかにあけて、それを口許に持つて行つた。コップには八分目程血が滿ちた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
うつるにつれて黄蝋の火は次第にすみにおかされて暗うなり、燭涙しょくるいながくしたたりて、ゆかの上にはちぎれたるうすぎぬ、落ちたるはなびらあり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ひさしのもとにゆかありて浅き箱やうのものに白くかくなる物をおきたるは、遠目とほめにこれ石花菜ところてんを売ならん、口にはのぼらずとおもひながらも
ゆかは瓦を敷きつめ、中央にはさらに三尺ほどの高さの板の床を作り、その上に屋根もあり板壁もある小さい家形が構えられている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
相手は一たまりもなくゆかに倒れて、苦しそうな呻吟しんぎんの声を洩らした。——それはあの腰もろくに立たない、猿のような老婆の声であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の人となりは含蓄の多いゆかしい感じを人に与えるが、真摯しんしな静かな性格の反面には常に愛すべきユーモアがあったということである。
隣席との境のゆかに、大きなトランクがあって、その上に、小さな赤革のスーツケースがのっていた。彼はそれを指し示していた。
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
どんなときでも、どういうことをしてる時でも、たとえば片足かたあしでとびながら往来おうらいを歩きまわっている時でも——祖父そふの家のゆかにねころがり
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
王さまは、若者わかものゆかの上にねているのを見ますと、おばけのためにころされてしまったのだろうと思いました。それで、王さまは
斎戒沐浴して髪に香を焚きこめる、——刺客の手にかかることがあろうとも、見苦しい首級しゅきゅうさらしたくないとのゆかしい御覚悟からなのだ。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
舊くはあるがゆかしい家中かちゆう屋敷で、庭に咲く百日紅さるすべり、花はないまでも桔梗、芍藥なぞ、この地方の夏はそこにも深いものがあつた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わたしは、つんつるてんの短い上着を着たまま、じっとそこにって、死刑しけいを言いわたされた囚人しゅうじんよろしくのていでゆかを見つめていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ゆかに穴がいていて、気をつけないと、縁の下へ落ちる拍子ひょうしに、向脛むこうずね摺剥すりむくだけが、普通の往来より悪いぐらいのものである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『戀塚とは餘所よそながらゆかしき思ひす、らぬまへの我も戀塚のあるじなかばなりし事あれば』。言ひつゝ瀧口は呵々から/\と打笑へば、老婆は打消うちけ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
小男はさるのように花瓶のふちにしゃがんだまま、しばらくあたりをうかがっていたが、やがて、ひらりと音もなくゆかのうえにとびおりた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やはり、手探りしながら、歩く暗さで、しばらくゆくと、突然とつぜん、足下のゆかが左右にれだし、しっかりみしめて歩かぬと、転げそうでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
舞台横手のチョボのゆかには、見た様な朝鮮簾ちょうせんみすが下って居ると思うたは、其れは若い者等が彼の家から徴発ちょうはつして往った簾であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
てんじょうからはギラギラひかる水晶玉すいしょうだまのついたシャンデリアがさがり、ゆかにはまっかなじゅうたんがしきつめられ、壁には大きなだんろ
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
船虫が蚊帳の外のゆかでざわざわさわぐ。野鼠のねずみでも柱を伝って匍い上って来たのだろうか。小初は団扇うちわで二つ三つ床をたたいて追う。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ゆかには塵が三センチほども積もっている。鼠が糞をしちらしたなかに、古い几帳きちょうを立てて、花のように美しい女が、ひとりですわっている。
妹背山いもせやまの両ゆかで、大判司の人形は国五郎、太夫は綾瀬、定高さだかの人形は伊三郎、太夫は播磨という時にもやはり大入りであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆかと同じ赤い小花のじうたんが敷きつめてあり、その真中に孔があつて黒ぬりの円い蓋がしめてあつた、そこで腰かけて用をすますのである。
トイレット (新字旧仮名) / 片山広子(著)
しかし、お母さんが、そのランプをこするかこすらないうちに、大きなまっ黒いおばけが、ゆかからむくむくと出て来ました。
横穴よこあななかでも格別かくべつめづらしい構造かうぞうではいが、ゆかみぞとがやゝ形式けいしきおいことなつてくらゐで、これ信仰しんかうするにいたつては、抱腹絶倒はうふくぜつたうせざるをない。
今日記憶の旗が落ちて、大きな川のやうに、私は人とわかれよう。ゆかに私の足跡が、足跡に微かな塵が……、ああ哀れな私よ。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
彼が二人を見つめる注意が次第次第に弱くなり、その眼は陰鬱な放心状態で前のようにしてゆかを捜し自分の周りを見𢌞した。
真っ黒に焼けた柱の燃え残りが、あちらこちらに不気味に突っ立って、テラスの混凝土コンクリートゆかだけが残っているのが、何ともいえぬ凄惨せいさんさです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
気中きあたりがして、中をのぞいて見ると、寝台の上にフェルナンデスが俯伏せになり、知世子のほうは、ひどくちぐはぐな恰好でゆかの上にのびている。
予言 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いいえ、私は自分の身にはどんな想像もしませんけれど、芭蕉にそういう句があったことは、なにかゆかしい気がして。」
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
小石こいしゆかうへつたときに、それがのこらずちひさな菓子くわしかはつたのをて、あいちやんは大層たいそうおどろきました、がまた同時どうじことかんがへつきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「ウーン」と、いったきり、さすがのジョージも、ゆかの上にひらたくなったまま、肩で息をしてる。起きられないのだ。
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
あんな馬鹿力を出して加害者をゆかへ叩きつけたあの瞬間に、きれいさっぱり自分を去ってしまったのだと確信していた。
障子しようじのような建具たてぐえついたならば、この建具たてぐたふすこと、衣類いるいえついたときは、ゆかまた地面じめん一轉ひところがりすれば、ほのほだけはえる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
うれしい消息しらせなら、それを其樣そんかほをしてきゃるのは、ゆかしいらせのこと調しらべを臺無だいなしにしてしまふといふもの。