きら)” の例文
一人でこうしていると、寂しくって寂しくって、たまらない! こうしてあやまっているんだから、俺をそんなにきらわなくたって——
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
この花粉には色があって、それが着物にくと、なかなかその色が落ちないので困る。ゆえに、人によりユリの花をきらうことがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
このころひとはすべて、あまり自分じぶん生活せいかつうたあらはれるといふことをきらつたので、さういふふうなのを無風流ぶふうりゆうだとしりぞけてゐました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「こんなおばあちゃんじゃ、きらい」とN子はぼくの頸にぶら下がったまま、ぼくのひざに坐り、白粉おしろいと紅の顔をぼくの胸におしつけます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わざと江戸っ子を使った叔父は、そういう種類の言葉を、いっさい家庭に入れてはならないもののごとくにきらう叔母の方を見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の父は神奈川かながわにある店の近くにアトリエを建ててくれるはずだったが、彼女は物堅い旧家の雰囲気ふんいきのなかへ入って行くのをきらって
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
が、まけきらひでもあつたし、またさうなると、今までの力の報いられなかつた悔しさから、成功せいこうへの要求ようきうぎやくつよくなつた。
成り立ったり破れたりするものではあるまい、少くとも自分は、なつかしい初恋の人をそう云う功利的な理由できらいにはなれない
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「メロンはもうないよ、お前の分は……」と、ルピック夫人はいう——「それに、お前はあたしとおんなじで、メロンはきらいだね」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
食物のきらひと云ふ事は一家族の中にさへ有る事故、異りたる國民、異りたる人種じんしゆの間に於ては猶更なほさら甚しき懸隔けんかくを見るものなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
きらひ鎌倉の尼寺あまでらへ夜通のつもりにて行れるなり出入の駕籠舁かごかき善六といふがたつての頼み今夜はこゝに泊られしなりと聞かぬ事まで喋々べら/\と話すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうせねばいけなかつたのです。しかし、わたしにはそれが出来ません。わたしはほんたうのことが好きです。嘘はきらひなのです。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
『あなたがたなかにも、人間にんげんきなものときらいなもの、また性質せいしつのさびしいものと陽気ようきなものと、いろいろ相違そういがあるでしょうね?』
そのうへ個人こじんには特殊とくしゆ性癖せいへきがあつて、所謂いはゆるきらひがあり、かふこのところおつきらところであり、所謂いはゆるたでむしきである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
一方では季題やきらいや打ち越しなどに関する連句的制約をある程度まで導入して進行の沈滞を防ぎ楽章的な形式の斉整を保つと同時に
俳諧瑣談 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お婆さんは首を振って、「捨さんの学校は耶蘇やそだって言うが、それが少し気に入らない。どうもあたしは、アーメンはきらいだ」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
文壇の表面に立って居る人は常に流行のさきがけにおる人である。青年には常に古いことがきらわれる。私はあえて文壇の表面に立とうとは思わない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そしてもちろんそのほうがよかった。なぜなら、クリストフは人に世話をやかれることがきらいだったから。でも彼は夕食の招待を承諾した。
わたし所有あらゆるしらべました、堤防どてました、それからかきも』として、はとあいちやんにはかまはず、『けどへびは!だれでもきらひだ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かてて加えて、どこの馬の骨だか知れないような相手と、わけのわからない場所をうろつくのは、だいきらいだよと言い足した。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
刺身さしみきらいな者は医師よりいかに刺身さしみの消化よきこと、滋養分じようぶんの多きことを説かれても、何とかけちをつけて毒でもあるかのごとくけなす。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
然し、間がことばを尽しても貴方が聴かんと云ふ、僕のことばれやう道理が無い。又間をきらうた以上は、貴方は富山への売物じや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
トレープレフ (小さな花の弁をむしりながら)好き——きらい、好き——嫌い、好き——嫌い。(笑う)そうらね、おっ母さんは僕が嫌いだ。
きらつて——沢山の詩や文章を書いて——超人といふものを夢に見て——妹さんに看護されて——そして気が狂つてお亡くなりになりましたわ。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
もしあるいは、いてこれを批判するものがありとすれば、それは単なる趣味の好悪こうお、個人としての好ききらいにすぎないだろう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
これらはきたないことのおきらいな水の神をいからせて、大いにあばれていただくという趣意らしく、もちろん日本に昔からあったまじないではない。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それがいつたずねても同じことなので、三度に一度は私ということを知ってわざときらってそういわしているのかも知れないと疑ってみたりした。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ほかのこととはわけちがい、あたしゃかずあるおきゃくのうちでも、いの一ばんきらいなおひと、たとえうそでも冗談じょうだんでも、まないことはいやでござんす
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ことに、その引手茶屋ひきてぢややには、丁度ちやうど妙齡としごろになるむすめ一人ひとりあつて、それがその吉原よしはらるといふことを、兼々かね/″\非常ひじやうきらつてる。むすめまち出度でたいとふ。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
料理の時手数をかけるのがきらいな人は胃と腸とに大手数をかけさせる事が好きな人だ、我が手足をあわれむ事を知って胃腸を憐む事を知らない人だ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
両部神道が起って、神様が肉のけがれを忌み給うという思想が盛んになっては、彼らは一層きらわれるの運命に陥りました。
と彼は思っているのであろう。悲憤慷慨ひふんこうがいということが抑〻そもそもきらいなのだ。涙をすらうっかりは買わない内蔵助なのである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きらいぢやありません、きですからおそれてゐるのです、たゝくにしのびません、そしてうことは懲々こり/\してゐるんです」
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
ふるいもあたらしいも、愚老ぐらう洒落しやれなんぞをまをすことはきらひでございます。江戸えどのよくやります、洒落しやれとかいふ言葉ことばあそびは、いやでございます。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
いまでも世界中せかいちうからすくちなかには、そのとき火傷やけどのあとが真赤まつかのこつてゐるといふ。ひときらはれながらも、あのあはれなペンペのためにいてゐるのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
さすがにその場へ打倒れる醜さをきらい、席まで飛び込んで師の蔭に打伏したが、その時はモウ息が絶えていたのです。
私は生れつきするめがきらいであり、いまなお嫌いで、酒を飲みにいっている店でするめを焼き始めでもすれば、待ったなしに退散するくらいである。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、さまざまに姿を変えた刑事たちは、公園の四方から、住宅、商店、飲食店のきらいなく、ほとんどシラミつぶしに捜索の輪をせばめて行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
温藉おんしゃで美しいものを持っているにしても、シューマンやヴォルフの才能に欠けていたために、はなはだ平凡らしく見えるきらいがあり、やや魅力に乏しい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
と、この紳士は、少し飜訳ほんやく口調のきらいあるとはいえ、先ずそんなに間違いのない日本語で梶にびてから、ヨハンというハンガリヤ名の名刺を出した。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
貧弱な無勢力なものだと思って、きらいになったって、そうなの。もっともだけれど少しくちおしいね。昔の宮様のお嬢様で、東の姫君という方にね私を
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「それから手前どもでも、春水しゅんすいを出そうかと存じております。先生はおきらいでございますが、やはり俗物にはあの辺が向きますようでございますな。」
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それのみならず今日けふまたおよそ世の中でなによりもきらひななによりもおそろしい機械体操のある事を思ひ出したからである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さうして、一番もろいやうだ。生命いのちといふやつは、心臓のすぐ近くにあるんだな。末子さん、うちの細君はね、わたしが病気になるのを、それやきらつてね。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「……でもね、おじいさん。……あたしたちなら、ひとの親切を感じたら、どうしてもきらいでないかぎり、我慢して食べるようなことだってしますわね」
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
尤も老人病弱者にてもし肉食をきらうものがあればこれに適するような消化のいい食品をつくる事については私共只今充分努力を致して居るのであります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あれでは今に維康さんにきらわれるやろ」夫婦はひそひそ語り合っていたが、案の定、柳吉はある日ぶらりと出て行ったまま、幾日いくにちも帰って来なかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私もまた部分的考察に走り過ぎたきらいがないとはいえない。私は人間に現われた本能即ち愛の本能をもっとくわしく語ってやむべきであったかも知れない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
文三と意気そりが合わねばこそ自家じぶん常居つねからきらいだと云ッている昇如き者に伴われて、物観遊山ものみゆさんに出懸けて行く……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いや、馬鹿ばかはさみは使ひやうだ、おまへきらひだが、おれすきだ……弥吉やきち何処どこつた、弥吉やきちイ。弥「えゝー。長「フヽヽ返事が面白おもしろいな……さ此方こつちい。弥 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)