坊主ぼうず)” の例文
たとえば、きかん坊主ぼうず秀吉ひできちが、先生せんせいにしかられて、この運動場うんどうじょうたされたとき、かれかなしくなって、しそうになりました。
学校の桜の木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗俊の語のうちにあるものは懇請の情ばかりではない、お坊主ぼうずと云う階級があらゆる大名に対して持っている、威嚇いかくの意もこもっている。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
袈裟けさ坊主ぼうずが必ずしも伴うものじゃない。いわゆるそうにあらざる僧も世には許多あまたある。またその代りには袈裟けさを着た俗人もまた多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
坊主ぼうずではない、てんぐだというものもありました。そしてみんなこわがって、日がれると五条ごじょうはしをとおるものがなくなりました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おやじの葬式そうしきの時に小日向こびなた養源寺ようげんじ座敷ざしきにかかってた懸物はこの顔によく似ている。坊主ぼうずに聞いてみたら韋駄天いだてんと云う怪物だそうだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坊主ぼうずは、たてつけのわる雨戸あまどけて、ぺこりと一つあたまをさげた。そこには頭巾ずきんかおつつんだおせんが、かさかたにしてっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
何かが破裂はれつしたのだ。客はギクリとしたようだったが、さすがは老骨ろうこつだ。禅宗ぜんしゅう味噌みそすり坊主ぼうずのいわゆる脊梁骨せきりょうこつ提起ていきした姿勢しせいになって
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「口で言う分には簡単なものなんだ。ケシの花が落ちた直後の、あのケシ坊主ぼうずに、鋭利な小刀で浅い傷をうっすらとつけるんだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
橋と正面に向き合う処に、くるくるとうずを巻いて、坊主ぼうずめ、色も濃くくわッと赤らんで見えるまで、躍り上がる勢いで、むくむく浮き上がった。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その意味はラマの宝と言うので、ちょっと道で逢っても貧乏な乞食坊主ぼうずのような修験者に立派な紳士が舌を出して頭を下げて最敬礼をやって居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかし、それから間もなく、KOのボオトの連中が坊主ぼうずになるような事件をき起したとき、ぼくは、なにか危なかったと胸をなでる気持がありました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「そうだ。最初さいしょの坊主の姿が見えなくなったのも、二番目の坊主ぼうずほねばかりになって死んでいたのも、みなおににやられたのだ。えらいことになったものだ。」
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「まやかし坊主ぼうず祈祷きとう」と呼び、シューマンのある種の歌曲リードを、「小娘の音楽」と見なした——しかもそれは
真にまたと見ることの出来ぬと思われるほどの思いつきで、赤や浅黄あさぎ無垢むくを重ね、上に十徳じっとくを着たお坊主ぼうずまでついて、銀の道具のお茶所まで従がっていった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
僕は、坊主ぼうずにくければ袈裟けさまでものたとえのとおり、この美青年の給仕を呶鳴どなりつけたい衝動に駆られたのを、ようやくにしてぐっとこらえ、誘導訊問風に呼びかけた。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また、頭はみなまる坊主ぼうずり、眉毛まゆげもないし、わきやその他の躰毛たいもうもすべて剃りおとしているといわれる。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それなら閣下かっかか。あら、閣下、何んていけかないんでしょうね。この石の斑点は坊主ぼうずでしょうか? あら、蛸だわ! ねえ、ちょいと、閣下ってば……かね?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
岩はあかくかわき、石垣はいぶり、樹木の葉は、みなカラカラ坊主ぼうずになって黒いみきばかりが立っていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文麻呂 大丈夫だいじょうぶですよ、お父さん。まだ大丈夫です。第一、この頃の坊主ぼうず達のやることなんて何が当てになるもんですか? 勤行の時間なんて出鱈目でたらめですよ、お父さん。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
坊主ぼうずまでが陰氣いんきらしうしづんで仕舞しまいましたといふに、みれば茶椀ちやわんはし其處そこいてちゝはゝとのかほをばくらべてなにとはらずになる樣子やうす、こんな可愛かわひものさへあるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こうしてじぶんたちは、すっぽかされて、青坊主ぼうずにされて帰るのだと思うと、松吉は、日ぐれの風がきゅうに、かりたての頭やえり首に、しみこむように感じられました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
其は庭の片隅かたすみに、坊主ぼうずになる程られた若木わかぎ塩竈桜しおがまざくらであった。昨年次郎さんが出京入学して程なく、次郎さんの阿爺が持って来てくれたのである。其時は満開であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そして「恨み重なるチャンチャン坊主ぼうず」が、至る所の絵草紙えぞうし店に漫画化されて描かれていた。
そうだとすればおれは一層いっそうおもしろいのだ、まあそんな下らない話はやめろ、そんなことは昔の坊主ぼうずどもの言うこった、見ろ、向うをかりが行くだろう、おれは仕止しとめて見せる。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
平凡な、そして静かないこいの巣。僕には、帰るところがない。落第坊主ぼうず。なんという不名誉だ! 僕は今まで、落第生というものをどんなに強く軽蔑けいべつしていたか知れやしない。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
与一が灯を持って、三ツの部屋を廻るたび、私はまるでのようにくっついて歩いた。右側の坊主ぼうず畳の部屋には、ゴッホの横向きの少女が、おそろしくせこけて壁に張りついている。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
御側用人おそばようにん、お坊主附添いでまず老中ろうじゅうの用部屋まで運び入れ、用部屋から時計とけい坊主ぼうず、側用取次と順々に送られ、お待ちかねの将軍が、これをうつわに盛って、今年の雪は、ことのほか冷たいの
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
船をさえ見ればそうした悪戯わるさをしおるんだから、海坊主ぼうずを見るようなやつです。そういうと頭のつるりとした水母くらげじみた入道らしいが、実際は元気のいい意気な若い医者でね。おもしろいやつだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
坊主ぼうずの二十を後家ごけごろしというが知っちょるか」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
おじさん——ろよ、坊主ぼうず、もう眠ろ!
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
斉広なりひろの持っている、金無垢きんむく煙管きせるに、眼をおどろかした連中の中で、最もそれを話題にする事を好んだのは所謂いわゆる、お坊主ぼうずの階級である。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
名人めいじんとか上手じょうずとか評判ひょうばんされているだけに、坊主ぼうずぶ十七八の弟子でしほかは、ねこぴきもいない、たった二人ふたりくらしであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「困った男だなあ」としばらくさじを投げて、すいとって障子をあける。例の梧桐ごとう坊主ぼうずの枝を真直まっすぐに空に向ってさらしている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黄色にすれば坊主ぼうずに似たりとか、紺色こんいろにすれば職工みたいだと言い、何を着ても批評する人の心がめられぬ間は非難が尽きないものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あきけて、すえになると、いつしかかきの坊主ぼうずになってしまって、さむ木枯こがらしが、ひるよるきさらしました。
お化けとまちがえた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
や、二人とも気に入った、坊主ぼうずになれ、女はそのおっかになれ、そして何時いつまでも娑婆しゃばへ帰るな、と言ったんです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その税を納める苦しさにえずして坊主ぼうずになる者も沢山ある。坊主になると人頭税を納める必要がないからです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おえねえ頓痴奇とんちきだ、坊主ぼうずけえりの田舎漢いなかものの癖に相場そうば天賽てんさいも気がつええ、あれでもやっぱり取られるつもりじゃあねえうち可笑おかしい。ハハハ、いいごうざらしだ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところが、やがて、「やア、坊主ぼうず、ねてるな」という兄の親しい笑い声と、同時に、夜着をひッぱがれました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「やい、坊主ぼうずめ、あれほどるなといった部屋へやをなぜたのだ。げたってがしはしないぞ。」
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
坊主ぼうずッ、徳川家とくがわけにくだって伊那丸をわたしてしまえ、さすればよいように取りなしてやる」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「てめえのうし? これをよ。椿つばきをみんなってすっかり坊主ぼうずにしてしまったに。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
山崎、熊井くまい、宇津木、大竹、いそ、月村、この六人を呼んで来い。いや、短慶坊主ぼうずも加えて、七人。大急ぎで呼んで来い。帰りは酒屋に寄って、さかなは、まあ、有合せでよかろう。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
おまえたちが青いけし坊主ぼうずのまんまでがりがり食われてしまったらもう来年はここへは草が生えるだけ、それに第一スターになりたいなんておまえたち、スターて何だか知りもしないくせに。
ひのきとひなげし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
藤本ふぢもと坊主ぼうずのくせにをんなはなしをして、うれしさうにれいつたは可笑をかしいではいか、大方おほかた美登利みどりさんは藤本ふぢもと女房かみさんになるのであらう、おてら女房かみさんなら大黒だいこくさまとふのだなどゝ取沙汰とりさたしける
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
坊主ぼうず、眠ってるかい?」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
では、つま子供こどもらにたいして、厳格過げんかくすぎるといってもいいのに、上役うわやくいえでは、やんちゃ坊主ぼうず脊中せなかせて、馬替うまがわりとなってあるきます。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから一時いっときばかりたったころです。あの怪しい行脚あんぎゃ坊主ぼうずは、ちょうど雪の止んだのを幸い、小川通おがわどおりをくだって行きました。これが阿媽港甚内あまかわじんないなのです。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
坊主ぼうずにくけりゃ袈裟けさまでにくい」というのは、また同時に袈裟けさを憎む者は坊主ぼうず自身を憎むというへいおちいりやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
鮟鱇あんこう坊主ぼうずと、……唯今でも、気味の悪い、幽霊の浜風にうわさをしますが、何の化ものとも分りません。——
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)