つじ)” の例文
それといふのが、時節柄じせつがらあつさのため、可恐おそろしわるやまひ流行はやつて、さきとほつたつじなどといふむらは、から一めん石灰いしばひだらけぢやあるまいか。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
クリストフはそれに抗弁して、音楽はつじ馬車の中で聴くようにできてるものではなくて、もっと心をこめて聴くべきものだと言った。
そこにも街路があり、四つつじがあり、広場があり、袋町があり、動脈があり、汚水の血が流れていて、ただ人影がないばかりである。
町もつじも落ち葉が散り敷いて、古い煉瓦れんがの壁には血の色をしたつたがからみ、あたたかい日光は宮城の番兵のかぶとに光っておりました。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
祝言の三日まえ、午後から雨になった日のことであるが、孝之助が城をさがって来ると柳のつじのところで、岡村八束に呼びとめられた。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
カルルのつじなる『カッフェエ・ロリアン』に入りて見れば、おもひおもひの仮装色を争ひ、中にまじりし常の衣もはえある心地ここちす。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
つじのところへると、雑沓ざっとうなかで、千人針にんばりたのんでいるおんながありました。とおおんな人々ひとびとが、そのそばにあしめていました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
田圃たんぼが広々と開かれて好い樹蔭こかげがなくなると、家が近ければつじにはかえってきて、昼間の食事だけは家でする風習も生じたのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その自動車はそのまま、どんどん走っていったが、しばらくいくと、つじを左にまがって、極東薬品のへいにそって進んでいった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんでも、神崎かんざきの遊女をひかせて、難波なにわ合邦がっぽうつじあたりに囲っており、そこから通っているのだと、長屋中ではいっていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法願ほうぐわんこほさうかねげてちらほらとおほきかたまりのやうな姿すがたうごいてるまではちからかぎつじつてかん/\とたゝくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
板橋がよひのがたくり馬車がつじを曲りかけてけたゝましくべるを鳴らしてゐた。俥、荷車、荷馬車、其が三方から集ツて來て、此處でちよつと停滞する。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
米俵を二俵ずつ、左右へ積んだ馬をひいて、汗衫かざみ一つの下衆げすが、三条坊門のつじを曲がりながら、汗もふかずに、炎天の大路おおじを南へ下って来る。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
例へば、うそをつくと死んでから、閻魔えんまさんに舌をぬかれるといつたり、つじで銭をひろふと、厄病やくびやうが家へやつて来る、といつたりするのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
其中そのうちまた拍子木ひやうしぎを、二ツ打ち三ツ打ち四ツ打つやうになつて来ると、四ツつじ楽隊がくたい喇叭らつぱれて段々だん/\近くきこえまする。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
とぢて居ければ此上はことばを以て諭さん樣もなく拷問がうもんに及ぶより外はなしと思はれしなり然れどもなほしづかに長庵を見られ如何に長庵ふだつじ人殺ひとごろしのつみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
青山、上野、ふだつじ、品川と一晩のうちに全然方角をことにして現われおる。そのため、ことのほか警戒がめんどうじゃ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そんな風に色々考えて見ますと、そこには、どうもつじつまの合ぬ所が、表面に現われている事実だけでは解釈の出来ない秘密が、ある様に思われます。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じゃ、伝六ッ、なんとやら団兵衛とかいった一家の者は、例のようにつじ番所へでも始末してな。おばあさんはこっちのお駕籠かごだ。お乗りなせえまし」
四つつじや小店の前に立ってやってるんで、弥次馬連がそのあとを追っかけ回しているんですよ。さあ行きましょう
かれこれするうちにつじは次第に人が散って、日中の鐘が鳴ると、遠くから来た者はみな旅宿りょしゅくに入ってしまった。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
働いてこのパンフレットを長くつづかせたいものだと思う。冷たいコーヒーを飲んでいる肩を叩いて、つじさんが鉢巻をゆるめながら、讃辞さんじをあびせてくれた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その時は、千住からすぐに高輪たかなわへと取り、ふだつじ大木戸おおきど、番所を経て、東海道へと続くそでうらの岸へ出た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人間の作ったもののうちで、あの中の一つ、「お休み」や「菩提樹」や「春の夢」や「道しるべ」や「つじ音楽師」に匹敵する美しい歌が他にあったであろうか。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それはありがたいと、云って負われると、大宮二条のつじまで行って、(ここで降りてくれ)と云う。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして水天宮すいてんぐう前の大きな四つつじ鎧橋よろいばしの方に向いて曲ると、いくらか人脚ひとあしが薄くなったので、頬を抑えながら後から黙っていて来たお宮を待って肩を並べながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お増は笑いながら、とある四ツつじの角に立ち停った。水のような風が、三人の袂や裾を吹いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これより程遠からぬところに鍵屋かぎやつじというのがある、鍵屋の辻へ行こう、音に聞く荒木又右衛門が武勇を現わしたところじゃ、そこで一番、火の出る斬合いをやって
それからも彼は、市立公園やつじの広場で、日に幾度となくその人に出逢った。彼女は一人っきりで、いつ見ても同じベレをかぶり、白いスピッツ犬を連れて散歩していた。
さてそれより塩竈しおがま神社にもうでて、もうこのつぼいしぶみ前を過ぎ、芭蕉ばしょうつじにつき、青葉の名城は日暮れたれば明日の見物となすべきつもりにて、知る人のもとに行きける。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
独逸ドイツに留学したことがあること、住宅は大阪の天王寺区からすつじに借家していて、現在は娘と二人で「ばあや」を使って暮していること、娘は夕陽丘ゆうひがおか女学校に通っているが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
朝早く出掛でかけ間際まぎわに腹痛みいづることも度々たびたびにて、それ懐中の湯婆子ゆたんぽ懐炉かいろ温石おんじゃくよと立騒ぐほどに、大久保よりふだつじまでの遠道とおみちとかくに出勤の時間おくれがちとはなるなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その日の焼亡はまことに前代未聞の沙汰さたで、しもは二条よりかみ御霊ごりょうつじまで、西は大舎人おおとねりより東は室町小路をさかいにおおよそ百町あまり、公家くげ武家のやしきをはじめ合せて三万余宇が
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
彼は早く灯火の見えるつじへ出たかった。丁度、そうして夕暮れ鉄材を積んだ一隊の兵士と出会った場所まで来たとき、溌剌はつらつとしていた昼間の栖方を思い出し、やっと梶は云った。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
まもなく四つつじに来ました。ここで子どもたちはわかれたにちがいありません。だって、両方の道に足跡がついていますもの。これでいよいよ、望みはなくなってしまったようです。
その頃よく町のつじなどに仁丹じんたんの大きな看板が出ていて、それには白い羽のふさふさとした大礼帽をかぶって、美しいひげやした人の胸像が描かれてあった、——それを見つけると
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
思う事が成るかならぬかと云いながらクララが一吹きふくと種の数が一つ足りないので思う事が成らぬと云うつじうらであった。するとクララは急に元気がなくなって俯向うつむいてしまった。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やみなかを、ねずみのようになって、まっしぐらにけて堺屋さかいや男衆おとこしゅうしん七は、これもおこのとおなじように、柳原やなぎはら土手どてを八つじはらへといそいだが、夢中むちゅうになってはしつづけてきたせいであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのころも、芭蕉ばしょうつじが仙台の中心という事になっていて、なかなかハイカラな洋風の建築物が立ちならんではいたが、でも、繁華な点では、すでに東一番丁に到底かなわなくなっていた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けれども私の店へ行くにはつじを一つよぎらなければならない。茶屋町通りを横断しているこの通りは、南は鷲神社わしじんじゃの裏を過ぎて千束町に、北は金杉下町を通り抜けて三の輪にまで達している。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
と書いたビラを重吉は村のつじ々へはりだした。もう船を下りたのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
それから夜の町をぶらぶら見物に出ていくと、町には芝居が興行中であるらしく、そこらにつじびらのようなものを見受けたので、僕も一種の好奇心に釣られて、その劇場のある方角へ足をむけた。
マレー俳優の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
頬かむりをしてスタスタふだつじまでやって来ると、いきなり暗闇から
須磨すまでちょっと町を歩いて、市の防火宣伝の建札たてふだつじに立っていたのに注目されたり、人形や菓子の並んでいる店や、魚屋や市場のまえに立ち止まってもの珍しそうにそれを眺められました。
その世界に何故渇仰かつごうの眼を向け出したか、クララ自身も分らなかったが、当時ペルジヤの町に対して勝利を得て独立と繁盛との誇りに賑やか立ったアッシジのつじを、豪奢ごうしゃの市民に立ち交りながら
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おもへばわたし惡黨あくたうひとでなし、いたづらもの不義者ふぎものの、まあなんといふ心得違こゝろえちがひ、とつじつてあゆみもやらず、横町よこちやうかどふたまがりていま我家わがやのきえぬを、ふりかへりてはあつなみだのはら/\とこぼれぬ。
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、流沙河りゅうさがの最も繁華な四つつじに立って、一人の若者が叫んでいた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
また市役所の測量工夫のようにつじから辻へ走ってゆくのである。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それを見てつじの巡査は出かゝった欠伸あくび噛みしめ
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「君、此処だよ。合邦がっぽうつじ※魔堂と書いてある」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)