真白まっしろ)” の例文
旧字:眞白
森は雪におおわれて真白まっしろになりました。高い大きな枯木かれきの上で、カラスが拡声器をすえて、今しきりに、こんなことをしゃべっています。
ペンギン鳥の歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それだから一夜に事の起った時は、冬で雪が降っていたために、鳥博士は、帽子も、服も、靴まで真白まっしろにしていた、と話すのであった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外は十二月の夜で、月が真白まっしろい霜にさえておりました。蟹の出たのは神戸こうべある宿屋の中庭だったのです。あたりはしんとしております。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
ついでにおじいさんの人相書にんそうがきをもうすこしくわしく申上もうしあげますなら、年齢としころおおよそ八十くらい頭髪とうはつ真白まっしろ鼻下びかからあごにかけてのおひげ真白まっしろ
岩で出来た岸をぐるっと取巻いて、海は白い泡となって砕けていましたが、ただ一方の岸だけは、雪のように真白まっしろな砂浜になっていました。
といいながら、おじさんは井戸いどばたに立って、あたりをながめまわしていた。ほんとうに井戸がわまでが真白まっしろになっていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
残暑の夕日がひとしきり夏のさかりよりもはげしく、ひろびろした河面かわづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まっしろなペンキ塗の板目はめに反映していたが
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
振返ってみると、なるほど、梅ヶ谷のような大女おおおんな、顔を真白まっしろに塗立てたじんばけ七が、しきりに手招きしながら追っ掛けて来る。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
唄の声はまさしくお葉であった。重太郎は枯柳にひし取付とりついて、酔えるように耳をすましていた。雪はいよいよ降頻ふりしきって、重太郎も柳も真白まっしろになった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はまだ三十にもならぬに、濃い髪の毛が、一本も残らず真白まっしろになっている。このような不思議な人間がほかにあろうか。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かあさん、」とマリちゃんがった。「にいさんはまえすわって、真白まっしろなおかおをして、林檎りんごっているのよ。 ...
病に疲れてものうく、がさして、うっとりとして来るにつれて、その嫁入衣裳のキレは冷たい真白まっしろな雪に変る。するとそりの鈴の音が聞えて来る。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
やがてその火も消え、女中がふたをとると、真白まっしろい湯気がもうもうと立ち上がる。たき立てのご飯のにおいが、ほのぼのとおなかの底までみ込むような気がした。
おにぎりの味 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そうして何か木の葉木の皮ようの物を綴って着ている。歯は真白まっしろだが口の香が甚だ臭いとまでいっている。労賃はにぎめしだとある。材木一本に一個二本に二個。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と云いながら様子がおかしいから瞳を定めて能く見ると、透通って見えるような真白まっしろな足を出して、赤い蹴出けだしがベラ/″\見えましたから、慌てゝ立上りながら
三人が村を出た時は、まだ河の流れに朝霧がかかって、河原かわらの石の上には霜が真白まっしろりていました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
真黒まっくろ帽子ぼうしをかぶり、真黒まっくろふくをつけ、真黒まっくろくつをはき、手にまがりくねったつえっていました。かおには真白まっしろひげえて、そのあいだから大きなが光っていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
また谷間をS字形に縫っている真白まっしろな行手の自動車道ドライブ・ウェー蒼翠そうすいの間に見出しながら、いつでも千々岩灘と千々岩松原を、両山脚の間に見て、一気呵成かせいにおりて行く趣きは
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
先生のうちでめしを食うと、きっとこの西洋料理店に見るような白いリンネルの上に、はし茶碗ちゃわんが置かれた。そうしてそれが必ず洗濯したての真白まっしろなものに限られていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤裸な雑木林のこずえから真白まっしろな富士を見て居た武蔵野むさしのは、裸から若葉、若葉から青葉、青葉から五彩美しい秋の錦となり、移り変る自然の面影は、其日〻〻其月〻〻の趣を
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうしていま私のぼんやり立っているこの小径こみちからその芝生を真白まっしろさくあざやかに区限くぎって。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ほのおを高くささげながら、じッと、あわだつ水面をかしてみていると、やがて真白まっしろあわがブクブクときあがって、そのなかから、よもぎのような、人間の黒髪がういてみえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うっすら明るい梅の下に真白まっしろい顔の女が二つの白い手を動かしつつ、ぽちゃぽちゃ水の音をさせて洗い物をしているのである。盛りを過ぎた梅の花も、かおりは今が盛りらしい。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そこには真白まっしろ綿わた蒲団ふとんいて、その上に青いエメラルドの宝石が一つっていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すすきすらあまりえない、古塚の中から、真白まっしろうちぎを着て、九尾きゅうびに見える、薄黄の長い袴で玉藻たまもまえが現われるそれが、好評であったので、後に、歌舞伎座で、菊五郎が上演しようとし
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
二人ふたり旅行りょこうえてかえってたのは十一がつまちにはもう深雪みゆき真白まっしろつもっていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
真白まっしろりつぶされたそれらのかたちが、もなく濡手拭ぬれてぬぐいで、おもむろにふききよめられると、やがてくちびるには真紅しんくのべにがさされて、菊之丞きくのじょうかおいまにもものをいうかとあやしまれるまでに
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
折々——というよりはうるさく、多分下宿屋の女中であったろう、十二階下とでもいいそうな真白まっしろに塗り立てた女が現われて来て、茶をんだり炭をついだりしながらなまめかしい容子ようすをして
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
老婦人はもう髪の毛は真白まっしろであった。顔色が真蒼である。
最早もはや、最後かと思う時に、鎮守のやしろが目の前にあることに心着いたのであります。同時に峰のとがったような真白まっしろな杉の大木を見ました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銭湯せんとう今方いまがた湯を抜いたと見えて、雨のような水音みずおとと共にどぶからく湯気が寒月の光に真白まっしろく人家の軒下まで漂っている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしちながらつむってると、もなくそこ頭髪かみ真白まっしろな、せた老人ろうじん姿すがたがありありとうつってました。
由「じゃアねえさん、馬はれねえのを頼んでおくれ、いゝかえ馬に附ける物があるから、間違まちげえちゃアいけねえよ……何しろ虻が大変てえへんで……あゝ玉子焼が出来た、おゝ真白まっしろだ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
風もまた吹きつのって来た。天から降る雪と地に敷く雪とが一つになって、真白まっしろ大浪おおなみ小波こなみが到る処に渦を巻いて狂った。の凄じい吹雪ふぶきの中を、お葉は傘もさずに夢中で駈けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
麻糸はさらして真白まっしろにすることがむつかしく、また、木綿のようにあかや青のあざやかな色には染まらなかった上に、これで織った布が長くもつので、そうたびたびははたは立てなかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
勿論画面の調子から云って、吾人ごじんが既に充分に知っている赤外線写真と同じで、たとえば樹々の青い葉などは雪のように真白まっしろにうつって見えた。なんという驚くべき器械の魅力みりょくであるか。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大地が始終真白まっしろになって居るではなし、少し日あたりのよい風よけのある所では、寒中かんちゅうにも小松菜こまつな青々あおあおして、がけの蔭ではすみれ蒲公英たんぽぽが二月に咲いたりするのを見るのは、珍らしくない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
真白まっしろ名札なふだが立って、それには MISS のついた苗字みょうじが二つ書いてあったっけ。……そう、その一方が確か MISS SEYMORE という名前だったのを私は今でも覚えている。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
六尺のえんをへだてて広い座敷には、朱の毛氈もうせんがしかれ、真白まっしろな紙がちらばっていた。澄んだ秋の空気は、座敷の隅まではいって来た。そして床の間には、漱石そうせき先生の詩の双幅そうふくがかかっていた。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
はちと風とは林檎りんごの枝に音を立てて居た。もう五月になったのだ。庭にはあなたと母様とただ二人、真白まっしろな花びらが雪のように乱れて散る。あなたはお祖父じい様がこしらえて下すったブランコに乗った。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
先生は真白まっしろなリンネルの着物につつまれたからだを窓からのび出させて、葡萄の一房をもぎ取って、真白まっしろい左の手の上に粉のふいた紫色の房を乗せて、細長い銀色のはさみ真中まんなかからぷつりと二つに切って
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
雪は真白まっしろ 虹は七色
ペンギン鳥の歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
宮の森を黒髪にして、ちょうど水脈の血に揺らぐのが真白まっしろな胸に当るんですね、すそは裾野をかけて、うつくしく雪にさばけましょう。——
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このたけ高く細長き女の真白まっしろき裸体は身にまとへる赤き布片ふへんと黒く濃き毛髪とまた蒼然そうぜんたる緑色の背景と相俟あいまつてしん驚愕きょうがくすべき魔力を有する整然たる完成品たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云い掛けてほろりと涙をこぼしましたが、晋齋にさとられまいと思いますので、にわかに一層下を向きますと、頬のあたりまで半襟に隠れ、襟足の通った真白まっしろな頸筋はずッと表われました。
抱いて下へ連れてきてよく見ると、口のまわりも真白まっしろに白餅だらけになっていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
予は持て居た双眼鏡そうがんきょうかざした。前なるかしほろの内は、丸髷に結って真白まっしろに塗った美しい若い婦人である。後の車には、乳母うばらしいのが友禅ゆうぜんの美しい着物に包まれた女の児をいて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから睫毛まつげ矢張やはゆきのように真白まっしろ……すべてしろづくめでございます。
いよいよその別荘の真白まっしろさくが私たちの前に現われた瞬間しゅんかんには、その柵の中の灯りの一ぱいに落ちている芝生しばふの向うに、すっかり開け放した窓枠まどわくの中から、私の見覚えのある古い円卓子まるテエブルの一部が見え
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
俊吉は、外套がいとうしに、番傘で、帰途かえりを急ぐうちに、雪で足許あしもと辿々たどたどしいに附けても、心も空も真白まっしろ跣足はだしというのが身に染みる。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)