なほ)” の例文
すべ富豪かねもちといふものは、自分のうちに転がつてゐるちり一つでも他家よそには無いものだと思ふと、それで大抵の病気はなほるものなのだ。
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「どつさりあるからいくらでも上げるけれど、丸子はやつと病気がなほつたばかりだからね。百合子は少し余計食べてもかまはない。」
二人の病人 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
液汁みづしたばかりにやちつたえてえとも、そのけえしすぐなほつから」勘次かんじはおつぎを凝然ぢつてそれからもういびきをかいて與吉よきちた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
楢夫も一郎もその手のかすかにほほの花のにほひのするのを聞きました。そしてみんなのからだの傷はすっかりなほってゐたのです。
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
良吉はふと頭の頂點てつぺん禿はげを指して、「疳をなほすために漢法醫にハツボとかいふものをかけて貰つたゝめにこんなに禿げたのだ。」
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
化物ばけもの屋敷へ探険に行つたり悪霊あくりやうかれたのをなほしてやつたりする、それを一々書き並べたのが一篇の結構になつてゐるわけです。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御城代樣ごじやうだいさま御容態ごようだいは、づおかはりがないといふところでございませうな。癆症らうしやうといふものはなほりにくいもので。』と、玄竹げんちくまゆひそめた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ことつたら、ひとたちのつてゐるしゆ御血汐おんちしほで、このなほるかもれぬ。おもふことも度々たびたびだ。このなら咬付かみつける。真白まつしろだ。
家へ帰つて少しの間静かにしてゐればなほるだらう。さうすれば誰にも知られず、又叱られもしまい。さうだ。黙つてゐよう。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
てゐる病人を君にるのはいやだ。病気がなほる迄君にれないとすれば、夫迄は僕がおつとだから、おつととして看護する責任がある
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ナニ大丈夫だいぢやうぶだ、決して左様さやうな心配はないのどつぶれても病気さへなほればそれからう。登「イエのどつぶれては困ります。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
左の眼の上の傷は、もうすつかりなほつて、繃帶も解いてしまひましたが、傷跡は少し殘つて、一種の惱ましい感じでした。
さうして私は何も知らないので、肺病といへば、時の經過と看護で、間違ひなくなほせる何か輕い病氣なのだと思つてゐた。
だがわたしはこの御返答には躊躇ちうちよしたのだ。娘は現に神経衰弱を起してゐる。これは親の手許てもとなほさねばならない。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
する病ならばなほして、よく生きなければいけないといはれてゐるのだ。つぎの「衣食御書いしよくごしよ」ととなへられてゐるのを見れば一層その趣意がよくわかる。
それや、人によつては、別の道を選ぶかも知れませんが、結局、なほらない疵は癒らないんですからね。
命を弄ぶ男ふたり(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
私は今見た夢の中の心持ちの続きも交つて居て恐しさにどうすればいかなどゝ思つて居た。十五分程して桃が帰つて来たので嬉しかつた。頭痛はもうなほつて居た。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ごらんなさい、私の手のひらは傷だらけぢやありませんか。手を接吻して頂戴。さうすれば屹度なほるわ。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
旦那だんなさまわらつて、あまこゝろつかぎた結果けつくわであらう、さへおちつければなほはづおつしやるに、いなそれでもわたしふにはれぬさびしい心地こゝちがするので御座ござります
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ベンヺ 馬鹿ばかな! そこがそれ、おさへられ、げんぜられるためしぢゃ。ぎゃく囘轉まはるとうたのがなほり、ぬるほど哀愁かなしみべつ哀愁かなしみがあるとわすれらるゝ。
大切におし、旅で病んでは心細い、私も今度は頼りなかつたと、私も紅葉をまた火にくべる。ほんとにね、それでも早うおなほりになつてよかつたと、妻もまた紅葉をくべる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ル・ゴフさんの処方で病気がなほつたので再びアンデパンダンの絵を観に行つた。セエヌ河の下流の左岸の空地くうちに細長い粗末な仮屋かりやを建てて千七百点からの出品がならべてある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その巫女はこの世にある限りの、どんな病気でもよくなほすといふので、大変な評判だつた。
其青葉を食ひ、塩をめ、谷川の水を飲めば、牛の病は多くなほると言つたことを思出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「あ。なほりました。」實際じつさいりよはこれまで頭痛づつうがする、頭痛づつうがするとにしてゐて、どうしてもなほらせずにゐた頭痛づつうを、坊主ばうずみづられて、がしてしまつたのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
掻いても掻いても痒さはなほらなかつた。それどころか、掻けば掻くほど痒さは広がつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
まず楢雄の夜尿症をなほした苦心を言ひ、そして今は癒つたが、しきりに爪を噛んだり、指の節をボキボキ折る癖があつて、先生、父もどんなにみつともないと気を揉んだことでせう。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
「いえ、かうしてをると、今にぢきなほります。はばかりですがおひやを一つ下さいましな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なほつてしまへば平凡になつてしまふからやはり駄目である。
結核症 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
とてもなほらぬ官僚主義で、つるつる禿げた凡骨ぼんこつを。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
なほるかに思はれた。と、さう思ひながら
いつかなほりて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
すべ富豪かねもちといふものは、自分のうちに転がつてゐるちり一つでも他家よそには無いものだと思ふと、それで大抵の病気はなほるものなのだ。
「なあにわかんねえよ、おつう毎日まいんちてゝもはなしやねえんだから、らどうせなほつかなんだかわかりやすめえし、らねえな」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
出入りの醫者に診て貰つて、それは、當時ではなほりやうのない業病ごふびやうと知つた時の、彌三郎の驚きはどれ程だつたでせう。
一月の刺すやうな空氣に、いびつになるほどふくれ上つてちんばを引いてゐた、あはれな私の足も、四月のやさしいいぶきを受けて、跡形もなくなほり始めた。
それうもかぬな、しかしさういふのには魔睡剤ますゐざいもちゆるとすぐなほるて、モルヒネをな、エート一ゲレンは一りんもう
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうも国へ帰りたくてね、丁度ちやうど脚気かつけになつたやつが国の土を踏まないと、なほらんと云ふやうなものだらうかね。」
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この二三ねん月日つきひやうやなほけた創口きずぐちが、きふうづはじめた。うづくにれてほてつてた。ふたゝ創口きずぐちけて、どくのあるかぜ容赦ようしやなくみさうになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やうやなほしてやつたれいが、たつた五りやうであつたのには、一すんりやう規定きていにして、あまりに輕少けいせうだと、流石さすが淡白たんぱく玄竹げんちくすこおこつて、の五りやうかへした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なほつて送り返された者で、青い顏をしてゐながらも、病中の苦痛は忘れたやうに、「結句お上に食はして貰つたゞけ得をした。」と云つてゐたものもあつた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
もうあらかた神経の方はしづまつたやうだが、人気ひとけのない医局に今夜寝かすのもどうかと思ふんだ。さうかと云つて、なほつたとも云へない者を普通に扱ふのも心配でね。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
らねばこそあれ眞實まめやかなることばにうらはづかしく、おもてすこしあかめて、いやとよ病氣びやうきなほりたり、心配しんぱいかけしがどくぞとらずわび言葉ことばに、なにごとのおほせぞ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しもやけのまだすつかりなほらない小さい手は、することがないので前垂まへだれの下へ入れて。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
注射だけで病気がなほると考へてゐるらしいのには驚いたが、しかしそんな嫌悪はすぐわが身に戻つて来て、えらさうな批判をする前にまづ研究だと、夜の勤務で昼の時間が暇なのを幸ひ
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
「病気はうだい。」「四五日でなほつて仕舞しまつた。」「さう早起はやおきなんかしてもり返しはしないかい。」「大丈夫だ、今日けふは徳永が君達の行つてる画室アトリエを観せると云つたから六時に起きたよ。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
隠居さんの御病気はもうなほつて今日けふから起きたと云つておいでになつた。お雛様の前で隠居さんとお話をして居るところへ奥様は御馳走を運んでおいでになつた。先生が画室から帰つておいでになつた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
トラホームは絶対になほらないと言ふものもあつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「宗教つて死んで地獄へく事でせう。それならば私は今日風邪を引いてゐるから、なほつてからゆつくり出掛ける事にしませう。」
「さうだよ、まつせえよおめえ、めでゝえさけだから、威勢えせえつければおめえ身體からだ工合ぐえゝだつてちつとぐれえならなほつちやあよ」ばあさんまたすゝめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)