うつばり)” の例文
しかるに形躯けいく変幻へんげんし、そう依附いふし、てんくもり雨湿うるおうの、月落ちしん横たわるのあしたうつばりうそぶいて声あり。其のしつうかがえどもることなし。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それら、花にもうてなにも、丸柱まるばしらは言うまでもない。狐格子きつねごうし唐戸からどけたうつばりみまわすものの此処ここ彼処かしこ巡拝じゅんぱいふだの貼りつけてないのは殆どない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公宗と両探題は、息もつまる思いでヒレ伏しているうちに、一かつ震雷しんらいのようなお声がうつばりから頭上へ落ちて来たかと思った。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一しきり焔をあふつて、恐しい風が吹き渡つたと見れば、「ろおれんぞ」の姿はまつしぐらに、早くも火の柱、火の壁、火のうつばりの中にはいつて居つた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
妻がそれを救う法ありやと問うたから、また占うて、某の年月日に本府の太守がうつばりが落つる厄にあうべしと知った。
家具にも家の柱やうつばりにも、使いみちがますます増加してきて、りっぱな木をそいで屋根などに葺くことが、なんだかもったいないように考えられはじめた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彦右ヱ門并に馬一疋即死そくしさい嗣息せがれは半死半生、浅右ヱ門は父子即死、さいうつばりの下におされて死にいたらず。
すると何処やらでくす/\と忍び笑いをするのが聞えて、忽ちうつばりに吊るしてあった用心籠がめり/\鳴るかと思うと、其処から「わあ」と云いながら仙吉の顔が現れた。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
他人の眼にある塵を見て自己の眼にあるうつばりを見ないのか、私はこう自分自身に向って叫びたい。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
その時はまだ捜索隊がいて、毎日昼は家の内外をあらために来る。天井板をずばりずばり鎗で突き上げる。彼はうつばりの上にいながら、足下に白く光るとがった鎗先を見ては隠れていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
良人であったその剣客の肖像も、すすけたままうつばりのうえにかかっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
うつばりや春来てかじる野鼠のおもしろと聴けばなほと居るなり
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
むなぎうつばりは燃え、下には虐殺が行われている。8115
つく/″\とれば無残むざんや、かたちのないこゑ言交いひかはしたごとく、かしらたゝみうへはなれ、すそうつばりにもまらずにうへからさかさまつるしてる……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そういう詮議せんぎだてさえしているいとまのないほど現在の綽空は、吉水の法門がその日その日の心のうつばりであった、張りつめていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわんやこの清平の世、坦蕩たんとうの時においておや。而るに形躯けいくを変幻し、草木に依附いふし、天くもり雨湿うるおうの夜、月落ちしん横たわるのあしたうつばりうそぶいて声あり。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彦右ヱ門并に馬一疋即死そくしさい嗣息せがれは半死半生、浅右ヱ門は父子即死、さいうつばりの下におされて死にいたらず。
ある時は、飢えにせまってした盗みのとがで、裸のまま、地蔵堂のうつばりへつり上げられた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
玉のきざはし、黄金のうつばりとはこう云う御殿のことであろうかと、夢に夢見る思いがいたして、ゆくりなくも斯様な所へ御奉公に罷り出た身のなりゆきの不思議さを驚くばかりでござりましたが
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
歌ふこゑ澄みぬるきはよすべからくうつばりに塵もとどめざるべし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
だがお前方はあの屋根の搏風はふを支えたうつばり
大神おほがみの住むうつばり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかり、明星の天降あまくだって、うつばりを輝かしつつ、丹碧青藍たんぺきせいらん相彩る、格子に、縁に、床に、高欄に、天井一部の荘厳を映すらしい。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冴え切っている一党の神経に、種々いろいろな情報が入って来る。乾ききった冬夜とうやうつばりのように、みりっといえば、みりっと響く。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜は鼓を打ち笛を吹いて音楽を奏したが、その音楽の響はうつばりの塵を落して四辺あたりにただようた。それはちょうど仙人のいるところを望むようであった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なれどその時、燃え尽きたうつばりの一つが、にはかに半ばから折れたのでござらう。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まへにいへるがごとく、雪ふらんとするをはかり、雪にそんぜられぬため屋上やね修造しゆざうくはへ、うつばりはしらひさし(家の前の屋翼ひさし里言りげんにらうかといふ、すなはち廊架らうかなり)其外すべて居室きよしつかゝる所ちからよわきはこれをおぎなふ。
作業の都合上、三人の女の間に燈火ともしびが二つ据えてあり、部屋は可なり明るくしてあった。それに、立つと頭がうつばりにつかえそうな屋根裏なのだから、法師丸にはその室内の光景が一つ残らず眼に映った。
煤のみ深きうつばり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
でもひいひい泣きまして耳の遠い私でも寝られませんし、それに主公あなた、二日もああしてうつばりに釣上げて置いちゃあ死んでしまうじゃございませんか。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、呉城の高矢倉の窓から半身のり出して、左の手をうつばりにかけ、右の手で孫策を指さしながら、何か、口汚く罵っている大将らしいおとこがある。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よ/\、おなまぼろしながら、かげ出家しゆつけくちよりつたへられたやうな、さかさまうつばりつるされる、繊弱かよは可哀あはれなものではい。真直まつすぐに、たゞしく、うるはしくつ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時、唐突に、神殿の奥で、甲冑の触れ合う響きがして、二度まで拝殿のうつばりが揺れた。信長は、ものにでもかれたように、きっと眼をつりあげて
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのくりやかたには人の気勢けはいだになきを、日の色白く、うつばりの黒き中に、かれただ一人渋茶のみて、打憩うちやすろうていたりけり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風がふくと、壁やうつばりの土がこぼれる。そうした本堂に、寧子ねねは老母にかしずいて住み、僧房のほうには、身内の幼い者や年寄や侍女たちを住まわせていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こゝも用無き部屋なれば、掃除せしこともあらずと見えて、塵埃ちりほこり床を埋め、ねずみふんうつばりうづたかく、障子ふすま煤果すゝけはてたり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鎌倉殿から格別なお扱いをいただいて、三百ぢかい手下てかをバラ撒き、宮中なら御息所みやすんどころの床下から、清涼殿せいりょうでんうつばりの数まで読みそらんじている別拵べつごしらえな人間様だぞ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手を替え、品を替え、なでつねりつして口説いてもうむと言わないが、東京へ行懸けに、うつばりに釣して死ぬ様な目に逢わせて置いたから、ちっとは応えたろう。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うつばりにはすす、柱にはちり、なんとのう艶やかなはいがない。洞然どうぜん、光なく声なく道なき空洞に似ております。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて二かい寐床ねどここしらへてくれた、天井てんじやうひくいが、うつばり丸太まるた二抱ふたかゝへもあらう、むねからなゝめわたつて座敷ざしきはてひさしところでは天窓あたまつかへさうになつてる、巌丈がんぢやう屋造やづくり
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うつばりから落ちる微塵みじんごみが、忍法手灯にんぽうあかりに、チリと燃えて、土蔵の中の夜は更けてゆきます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて二階に寝床ねどここしらえてくれた、天井てんじょうは低いが、うつばりは丸太で二抱ふたかかえもあろう、屋のむねからななめわたって座敷のはてひさしの処では天窓あたまつかえそうになっている、巌乗がんじょう屋造やづくり
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うつばりちりを微かにこぼして、真っ暗な堂内の床には、よよと泣きむせぶ声ばかりだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もすそたたみにつくばかり、細くつま引合ひきあわせた、両袖りょうそでをだらりと、もとより空蝉うつせみの殻なれば、咽喉のどもなく肩もない、えりを掛けて裏返しに下げてある、衣紋えもんうつばりの上に日の通さぬ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それはそうでしょうが、家庭に妻のないのは、家屋にうつばりがないようなものです。皇叔のご前途はなお洋々たるものですのに、何故、一家の事を中道にとざして、人倫を廃さるるのです。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まはりつうねりつするのを、うをおよぐのか、とおもふと幾条いくすぢかのへびで、うつばりにでもをくつてるらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
呂布はなおさら烈火の如くになって、殿閣のうつばりも震動するかとばかり吼えた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて雪国の山家とて、けたうつばり厳丈がんじょうな本陣まがい、百年って石にはなっても、滅多に朽ちるうれいはない。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何もない堂の真ん中に、曲彔きょくろくに腰かけている骨と皮ばかりな老僧がいた。しかし老僧は眠っているのか、死んでいるのか、木乃伊ミイラのように、空虚うつろな眼をうつばりへ向けたまま、寂然じゃくねんと——答えもしない。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古びた雨漏あまもりだらけの壁に向つて、と立つた、見れば一領いちりょう古蓑ふるみのが描ける墨絵すみえの滝の如く、うつばりかかつて居たが、見てはじめ、人の身体からだに着るのではなく、雨露あめつゆしのぐため
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)