最中さいちゅう)” の例文
けれどこんなことでまごまごしている最中さいちゅうに、バルブレンのおっかあのまだ生きていることを知って、わたしは大きな満足まんぞくを感じた。
こうしたことはみんな、太鼓に合せて踊っている最中さいちゅうに行われるのです。うったえられたほうの者も、同じようにずるがしこくそれに答えます。
「さあ、はやく、おじょうさんの留守るすそう……。」といって、仕度したくをしている最中さいちゅうに、ふいにおじょうさんがへやへはいってきました。
風船球の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが深山氏は閣下にいろいろとくわしく説明していた最中さいちゅうなのです。深山氏がしゃべっているのに、閣下はウーンといってたおれられたのです。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
半身裸体のままの者まで入って来て、折重おりかさなった女の子の間に割込み、やすいの、高いのと、わいわい言っている最中さいちゅうである。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
悲痛な風が田舎の隅まで吹いて来て、眠たそうなや草を震わせている最中さいちゅうに、突然私は一通の電報を先生から受け取った。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
物質と物質との戦いの最中さいちゅうに精神論を強調し、今最も精神を必要とするときに、精神を忘れているのではなかろうか。
硝子を破る者 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ピータ はて、樂人がくじんさん、何故なぜうて、いま乃公おれこゝろなかでは「わしこゝろ悲哀かなしみに……」がはじまってゐる最中さいちゅうぢゃ。
これより余は著述に従事し、もっぱら西洋の事情を日本人に示して、古学流の根底よりこれを顛覆てんぷくせんことを企てたる、その最中さいちゅうに、王政維新の事あり。
ムニャムニャと茨右近が妙な返答をするから、見ると、喧嘩屋の先生、いつの間にか地べたに寝ッころがって、いい気持ちそうに白河夜船の最中さいちゅうとある。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その光にかして見れば、これは頭部銃創のために、突撃の最中さいちゅう発狂したらしい、堀尾一等卒その人だった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしがそうした無邪気むじゃき乙女心おとめごころもどっている最中さいちゅうでした、不図ふと附近あたりひと気配けはいがするのにがついて、おどろいてかえってますと、一ほん満開まんかい山椿やまつばき木蔭こかげ
小笠原の物々しい屈託顔くったくがおを前にして独りで笑ったりおしゃべりしている最中さいちゅうに、麻油は急に悪戯いたずらっぽい顔をして舌でも出してみたいような気持になってしまうのだが
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
おのれの居場所いばしょけもどってきてみると、一方そこでも、なにやら問題がおこっている最中さいちゅうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど仕事の最中さいちゅうに一言でもよけいなことを口に出したら、親方の金づちがごつんとんで来ます。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
やつにいわせると、あのたまらなくくせにおい本当ほんとうおんなにおいだというんだ。うそだとおもったら、ろんより証拠しょうこ春重はるしげうちってねえ。って、いまうれしがりの最中さいちゅうだぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
小栗等の目的もくてき一意いちい軍備のもといかたうするがために幕末財政ざいせい窮迫きゅうはく最中さいちゅうにもかかわらずふるってこの計画けいかくくわだてたるに外ならずといえども、日本人がかかる事には全く不案内ふあんないなる時に際し
ぼくがこの片田舎かたいなかのアイピング村へやってきたのは、だれにもじゃまされないで、思うように研究けんきゅうをやりたいからなんだよ。実験じっけんをやってる最中さいちゅうにさまたげられると、たまらないからね。
と見ると三人を相手に光一は奮闘最中さいちゅうである。一旦いったん逃げたふたりは引きかえして共に光一につかみかかった。光一は一人ひとりの頭をけった。けられながらにその男は光一のあしを一生懸命につかんだ。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「そうだよ、お役所へ上げられてお調べの最中さいちゅうだよ」
なに、わたしにあのふねえないことがあるもんか。あのふね昨日きのう晩方ばんがた、あらしの最中さいちゅうにどこからかこのみなとうちげてきたのだ。
カラカラ鳴る海 (新字新仮名) / 小川未明(著)
町木戸まちきど大番屋おおばんや召捕めしとられた売女の窮命されている有様が尾にひれ添えていかにもむごたらしく言伝えられている最中さいちゅうである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「早くねどこにおはいり」と親方は女中が火をたいている最中さいちゅうわたし言った。わたしはびっくりしてかれの顔を見た。なぜねどこにはいるのだろう。
卓子のシーツのすそが、まだゆらゆられている最中さいちゅうに、金博士がぬっと入って来た。どうしたわけか、金博士は、頭の上から肩のへんにひどく泥をかぶっていた。
烏帽子えぼしの老人、市女笠いちめがさの女、さむらい、百姓、町人——雑多ざったな人がたかって、なにか評議ひょうぎ最中さいちゅうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日はどんな模様だなと、例の築山の芝生しばふの上にあごを押しつけて前面を見渡すと十五畳の客間を弥生やよいの春に明け放って、中には金田夫婦と一人の来客との御話おはなし最中さいちゅうである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さて一同いちどう裏庭にわいてみますと、そこではいま大騒おおさわぎの最中さいちゅうです。ふたつの家族かぞくで、ひとつのうなぎあたまうばいあっているのです。そして結局けっきょく、それはねこにさらわれてしまいました。
身を起すに容易なるその最中さいちゅうに、自家の学問社会をかえりみれば、生計得べきの路なきのみならず、蛍雪幾年の辛苦を忍耐するも、学者なりとして敬愛する人さえなき有様なれば
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ロミオ 二はれいでもはなしませう。仇敵かたきいへ酒宴しゅえん最中さいちゅう、だましうちわしきずはしたものがあったを、此方こちからもはした。二人ふたりけたきず貴僧こなた藥力やくりきればなほる。
するとその最中さいちゅうに、中折帽なかおれぼうをかぶった客が一人、ぬっと暖簾のれんをくぐって来た。客は外套の毛皮のえりに肥ったほおうずめながら、見ると云うよりは、にらむように、狭い店の中へ眼をやった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「師匠。——おや、こいつアいけねえ。ゆうべのお疲れでまだ夢の最中さいちゅうでげすね」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
はいったりしている最中さいちゅうでございました。
細君は夜になってから初めて驚き、台所の板のかえるの如くしゃがんで、今しも狼狽あわててランプへ油をついでいる最中さいちゅう
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このときはちょうど『下剤げざいをかけた病人』という芝居しばいをやっている最中さいちゅうでツールーズでははじめての狂言きょうげんなので、見物もいっしょうけんめいになっていた。
母親ははおやは、まだおさなおとうとりをしながら、内職ないしょくいそがしいからです。そして、北国ほっこくは、いまふゆ最中さいちゅうでした。
おきくと弟 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ゴソリ、ゴソリと、その不気味な物音は、糸子の睡る天井裏をっていった。何者であろうか。召使いたちも、白河夜舟しらかわよふね最中さいちゅうであると見え、誰一人として起きてこない。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は兄さんからこう詰寄せられた時、だんだんあやしくなって来るような気がしました。けれども前後の勢いが自分を支配している最中さいちゅうなので、またどうする訳にも行きません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暗夜あんやの空を一文字もんじにかけり、いまや三かくせんのまっ最中さいちゅうである人穴城ひとあなじょうの真上まで飛んできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私もはなはしって居るので、尋ねて参れば何時いつも学問の話ばかりで、その時に主人は生理書の飜訳最中さいちゅう、その原書を持出もちだして云うには、この文の一節が如何どうしてもわからないと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
僕もその時は立入ってもかず、それなり別れてしまったんだが、つい昨日きのう、——昨日はひる過ぎは雨が降っていたろう。あの雨の最中さいちゅう若槻わかつきから、飯を食いに来ないかという手紙なんだ。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
万事を忘れて音楽を聴いている最中さいちゅう、恋人の接吻せっぷんっている最中、若葉のかげからセエヌがわの夕暮を眺めている最中にも、絶えず自分の心に浮んで来た。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あしたもしカピが芝居しばい最中さいちゅうに、口輪くちわを食い切るようなことがあるといけませんから、まえからそれをはめておいてらしてやらないでもいいでしょうか。
すると、いま二人ふたり小僧こぞうさんがかおにして、たがいにけまいとしてんでいる最中さいちゅうでした。
日の当たる門 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは我が国人が殖産工商の道に迂闊うかつなるがゆえなり、工業起さざるべからず、商法講ぜざるべからずとて、しきりにこれを奨励して、後進の青年を商工の一方に教育せんとするその最中さいちゅう
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「はははは。きみは、見かけに似合にあわず臆病おくびょうだね。そんなことでは、これからきみに見せたいと思っていたものも、見せられはしない。見ている最中さいちゅう気絶きぜつなんかされると、やっかいだからね」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
物の湿ることは雨の降る最中さいちゅうよりもかえって甚しく机の上はいつも物書く時手をつくあたりのとりわけ湿って露を
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、あかくなって、おこした。このあらそいの最中さいちゅう、ふとづいたのは女中じょちゅうのおたけでありました。
人間と湯沸かし (新字新仮名) / 小川未明(著)
その流行病最中さいちゅう、船にのって大阪につい暫時ざんじ逗留とうりゅう、ソレカラ江戸にむかっ出立しゅったつと云うことにした所が、およそ藩の公用で勤番するに、私などの身分なれば道中ならびに在勤中家来を一人れるのが定例で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし話の相手になっていた役者は舞台の方へ降りて行った後で、廊下と階段には同じ兵卒や士官にふんした者たちが上って来たり下りて行ったりしている最中さいちゅう
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あらそいの最中さいちゅうに、小西こにしのひじが、青木あおきかおたると、眼鏡めがねびました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)