手絡てがら)” の例文
も紅も似合うものを、浅葱だの、白の手絡てがらだの、いつも淡泊あっさりした円髷まるまげで、年紀としは三十を一つ出た。が、二十四五の上には見えない。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎日夕方からお湯に入りに行くことを日課にしているその女の意気がった髪に掛けた青い色の手絡てがらたまらなく厭味いやみに思うものであった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御倉さんはもう赤い手絡てがらの時代さえ通り越して、だいぶんと世帯しょたいじみた顔を、帳場へさらしてるだろう。むことは折合おりあいがいいか知らん。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父親の声に、丁寧に頭を下げたのは、結綿ゆいわたの髪に、桃色の手絡てがらをかけた、姉に似たキリョウよし、しかもなかなかのしっかり者らしかった。
お静は真っになって俯向うつむきました。赤い手絡てがら、赤いたすき、白い二の腕を覗かせて、剃刀かみそりの扱いようも思いの外器用そうです。
お島はこの頃ようやく落着いて来た丸髷に、赤いのは、道具の大きいやや強味きつみのある顔に移りが悪いというので、オレンジがかった色の手絡てがらをかけて
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
写真の合間にぱっと明るく電気がついて、自分の側に眉の濃い鳥打帽の男や赤い手絡てがらの女やを見出す時、彼は顔を上げ得られないような気持ちに浸っていった。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
つぶし島田に赤い手絡てがらの、こってりした作りで、あの女から夜中に襲われた生々しい体験を持つ宇津木兵馬は、その時のことを思い出すと、ゾッとしてしまいました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
縁側のところを通る時、若い細君の赤い手絡てがらが、くつきりと白い横顔と一緒になつて見えてゐた。
紅葉山人訪問記 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
のけぞっているので、まげは頭の下に圧しつぶされ、赤い手絡てがら耳朶みみたぶのうしろからはみ出していた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤い手絡てがらのおはなは、例の茶の間の長火鉢ながひばちもたれて、チャンと用意の出来たお膳の前に、クツクツ笑いながら(何てお花はよく笑う女だ)ポッツリと坐っていることであろう。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
重そうな黒縮緬くろちりめんの羽織が、で肩の円味をそのままに見せて、抜け上るような色白の襟足えりあしに、藤色の半襟がきちんとからみついて手絡てがらも同じ色なのがうつりよく似合っていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此時五十嵐の眼は細君の大きな丸髷の赤い手絡てがらに止つて涙の底に別樣の光りを漂はす。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
手織縞ておりじま單衣ひとへ綿繻珍めんしゆちんの帶を締めて、馬鹿に根の高い丸髷まるまげに赤い手絡てがらをかけた人が、友染いうぜんモスリンの蹴出けだしの間から、太く黒い足を見せつゝ、うしろから二人を追ひ拔いて、停車場ステーシヨンけ込んだ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
紋羽二重もんはぶたへ小豆鹿子あづきかのこ手絡てがらしたる円髷まるわげに、鼈甲脚べつこうあし金七宝きんしつぽうの玉の後簪うしろざしななめに、高蒔絵たかまきゑ政子櫛まさこぐしかざして、よそほひちりをもおそれぬべき人のひ知らず思惑おもひまどへるを、可痛いたはしのあらしへぬ花のかんばせ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
手拭てぬぐいで顔をふいたが、二人のわらいごえにつれられて、まげに赤い手絡てがらをかけた深水の嫁さんが、うちわをそッと三吉のまえにだすと、同時にからだをひきながら、ころころとわらいころげた。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
雪子が這入はいって来て見ると、長椅子一つだけを残して、テーブルや肘掛ひじかけ椅子を全部取りけ、絨毯じゅうたんを一方へグルグル巻きにして片寄せ、妙子が部屋の中央に、つぶし嶋田に鴇色ときいろ手絡てがらを掛けた頭で
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
尤も今では最初のやうに西洋髪などにはつてゐない。ちやんと赤い手絡てがらをかけた、大きい円髷まるまげに変つてゐる。しかし客に対する態度は不相変妙にうひうひしい。応対はつかへる。品物は間違へる。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
昨日ひさしつかねてあったお兼さんの髪は、いつの間にか大きな丸髷まるまげに変っていた。そうして桃色の手絡てがらまげの間からのぞいていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことばきまって含羞はにかんだ、あか手絡てがらのしおらしさ。一人の婦人が斜めに振向き、手に持ったのをそのままに、撫子なでしこす扇の影。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう二十歳はたちにもなって、大丸髷おおまるまげの赤い手絡てがら可笑おかしいくらいなお静が、平常ふだん可愛がられすぎて来たにしても、これはまたあまりに他愛がありません。
婿は綺麗な八字髯じひげを生した立派な男で、丸髷まるまげに赤い手絡てがらをしたせいの高い細君とはよく似合つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
来た当座丸髷まるまげに結って、赤い手絡てがらなどをかけているのが、始終帳場に頑張っている親父の気に入らないことが、素振りでも解って来た。そんなことを口へ出して言うこともあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
結城ゆうきから入ったいねというのを御寵愛になるげなが、この女子おなごは、昼はおすべらかしにうちかけという御殿風、夜になるとつぶし島田に赤い手絡てがら浴衣ゆかたがけといういきな姿でお寝間入りをなさるそうな。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
髪は銀杏返いちょうがえしにって、赤い手絡てがらをかけて、その下に、はちの開いた静脈の透いて見える広い額、飛び出した大きな両眼、平べったい鼻、口には猿轡がはめられ、派出なメリンスの着物の上から
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、唇か、まぶたか。——手絡てがらにも襟にも微塵みじんもその色のない、ちらりと緋目高のようなくれないが、夜の霜に山茶花さざんか一片ひとひらこぼれたようにその姿をかすめた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無理に押へて取出させると、あの野郎親の遺言ゆゐごんで女を斷つたやうなことを言つてゐるくせに、内懷中に、お孃さんの手絡てがらだの半襟だの、赤い可愛らしいものを
しかし年が大分違うので、まだ二十はたちにもならないのに、品子には四十女のような小型の丸髷まるまげを結わせ、手絡てがらもせいぜい藤色ふじいろか緑で、着物も下駄げたの緒も、できるだけじみなものをえらんだ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
津田は眼をぱちつかせて、赤い手絡てがらをかけた大丸髷おおまるまげと、派出はで刺繍ぬいをした半襟はんえりの模様と、それからその真中にある化粧後けしょうごの白い顔とを、さも珍らしい物でも見るような新らしい眼つきで眺めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかなるさまにや結いにけむ、手絡てがらきれも、結んだるあとのもつれもありながら、黒髪はらりと肩に乱れて、狂える獅子のたてがみした、俯伏うつぶせなのが起返る。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「隣の空家の二階ですよ。店中の者が飛んで行ったが、曲者は待ってはいません。窓のところに、何の禁呪まじないか知らないが、赤い手絡てがらほどの布が、ヒラヒラと下がっていたそうで」
そして浅井が何か言いかけると、「ハア、ハア。」と、行儀よく応答うけこたえをしていた。毛に癖のない頭髪あたまが綺麗にでつけられて、水色の手絡てがらが浅黒いその顔を、際立って意気に見せていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ね、ただ、おぐし円髷まげの青い手絡てがらばかり、天と山との間へ、青い星が宿ったように、晃々きらきらと光って見えたんですって。
「それじゃね、晩にお刺身を一人前……いいかえ。」と言って、お国は台所の棚へ何やらしまい込んでから、茶のへ入って来た。やわらかものの羽織を引っけて、丸髷まるまげに桃色の手絡てがらをかけていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
他に根懸ねがけ手絡てがらあり。元結あり、白元結しろもとゆひ黒元結くろもとゆひ奴元結やつこもとゆひ金柑元結きんかんもとゆひ色元結いろもとゆひ金元結きんもとゆひ文七元結ぶんしちもとゆひなど皆其類なり。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「大した身装なりじゃないか。商人の内儀かみさんが、そんな事をしてもいの」惜気もなくぬいてくれる、お島が持古しの指環や、くし手絡てがらのようなものを、この頃に二度も三度ももらっていた姉は
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浅黄あさぎ手絡てがらけかかって、透通すきとおるように真白まっしろほそうなじを、膝の上に抱いて、抱占かかえしめながら、頬摺ほおずりしていった。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
淺黄あさぎ手絡てがらけかゝつて、透通すきとほるやうに眞白まつしろほそうなじを、ひざうへいて、抱占かゝへしめながら、頬摺ほゝずりしていつた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
盲目めしいは、あかい手絡てがらをかけた、若い女房に手をかれて来たが、敷居の外で、二人ならんでうやうやしく平伏ひれふした。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
膝で豆算盤まめそろばん五寸ぐらいなのを、ぱちぱちと鳴らしながら、結立ゆいたての大円髷おおまるまげ、水の垂りそうな、赤い手絡てがらの、容色きりょうもまんざらでない女房を引附けているのがある。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小春時こはるどき一枚小袖いちまいこそであゐこん小辨慶こべんけい黒繻子くろじゆすおびに、また扱帶しごき……まげ水色みづいろしぼりの手絡てがらつやしづくのしたゝるびんに、ほんのりとしたみゝのあたり、頸許えりもとうつくしさ。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「身代り、」と聞返した時、どのかまたあかりの加減で、民弥の帷子かたびらが薄く映った。且つそれよりも、お三輪の手絡てがらが、くっきりと燃ゆるように、声も強い色に出て
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お三輪は気軽にと立って、襟脚を白々と、結綿ゆいわたの赤い手絡てがらを障子のさんへ浮出したように窓をのぞいた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……水浅葱みずあさぎ手絡てがら円髷まるまげ艶々つやつやと結ったのが、こう、三島の宿を通りかかる私たちの上からのぞくように少し乗出したと思うと、——えへん!……居士がおおきせきをしました。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その跫音あしおとより、鼠の駈ける音が激しく、棕櫚しゅろの骨がばさりとのぞいて、其処そこに、手絡てがらの影もない。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くれないなる、いろいろの旗天をおおひて大鳥の群れたる如き、旗の透間すきまの空青き、樹々きぎの葉のみどりなる、路を行く人の髪の黒き、かざしの白き、手絡てがらなる、帯の錦、そであや薔薇しょうび
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なあに、女のはませています、それにあか手絡てがらで、美しい髪なぞ結って、かたちづくっているからい姉さんだ、と幼心おさなごころに思ったのが、二つ違い、一つ上、亡くなったのが二つ上で
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンにかまち取着とッつきの柱にもたれた浅黄あさぎ手絡てがら此方こっちを見向く、うらわかいのとおもてを合わせた。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンにかまち取着とツつきはしらもたれた淺黄あさぎ手絡てがら此方こつち見向みむく、うらわかいのとおもてはせた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
姿こそ服装なりこそ変りますが、いつも人柄に似合わない、あの、仰向あおむけに結んで、や、浅黄や、しぼり鹿の子の手絡てがらを組んで、黒髪で巻いた芍薬しゃくやくつぼみのように、真中まんなかかんざしをぐいと挿す
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)