小柄こがら)” の例文
ここへ、台所と居間の隔てを開け、茶菓子を運んで、二階から下りたお源という、小柄こがらい島田の女中が、逆上のぼせたような顔色かおつき
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘は小柄こがらからだではあるが、健康そうで、縹緻もゆい子より一段とたちまさっていた。実科女学校中退、年もゆい子より二つ若かった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
左側の料理場らしい処から男の声がすると小柄こがらじょちゅうが出て来たが、あがる拍子にみると、左の眼がちょとうるんだようになっていた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老師は五尺にも足りない小柄こがらな人で、年はもう八十に近かったが、子供のようなあどけない顔をしており、心も童心そのものであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
婆奴等ばゝあめら、そつちのはう偸嘴ぬすみぐひしてねえで、佳味うめものつたら此方こつちつてう」先刻さつきくび珠數じゆずいた小柄こがらぢいさんが呶鳴どなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたくし祖父じじ年齢としでございますか——たしか祖父じじは七十あまりで歿なくなりました。白哲いろじろ細面ほそおもての、小柄こがら老人ろうじんで、は一ぽんなしにけてました。
思いきり小柄こがらなのに、曳裾トレーヌを長々と曳き、神宮参道をヨチヨチ歩いている七五三の子供の花嫁姿のようで、ふざけているのだとしか思えない。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その部屋のてすりにもたれて、ひらひらと髪の花簪はなかんざしを風に鳴らし乍ら、ぼんやりと川をみていた小柄こがらな女が、おどろいたようにふりかえった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
かれのがんじょうな五体は、さすが戦場のちまたできたえあげたほどだけあって、小柄こがらな若者を見おろして、ただ一げきといういきおいをしめした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年から青年になったばかりのような、内気らしい、小柄こがらな岡の姿は、何もかも荒々しい船の中ではことさらデリケートな可憐かれんなものに見えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その一方の店の奥にきょとんと坐っている白い碁盤縞ごばんじまのシャツを着た小柄こがらな老人を認めたのち、次の花屋の前にさしかかると、何んとその奥にも
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もうかなりの、五十歳を越したくらいの、頭の禿げた小柄こがらなおじさんが、派手なパジャマを着て、へんな、はにかむような笑顔で私たちを迎えた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところが、同じ時に尾張国おわりのくに片輪の里に力強き女がいた。この女は、きわめて小柄こがらの女であった。大力の聞え高い元興寺の道場法師の孫に当っていた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一人は老婆であったが、もう一人の方は十六七の娘で、金色の髪を小柄こがらな頭に大変手際よく、綺麗に撫でつけていた。
「そんなものはらない。」と毛だらけの胸の上に小柄こがらのお千代を抱き寄せながら、「一緒に這入はいろうよ。なア。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あね小柄こがらの、うつくしいあいらしいからだかほ持主もちぬしであつた。みやびやかな落着おちついた態度たいど言語げんごが、地方ちはう物持ものもち深窓しんそうひととなつた処女しよぢよらしいかんじを、竹村たけむらあたへた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
先刻せんこくから、賛否さんぴいずれともいわなかった、年のころ二十五、六さい小柄こがらな紳士は、そのとき突然とつぜん立ちあがって
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
血色けっしょくの鮮かな、眼にもまゆにも活々いきいきした力のあふれている、年よりは小柄こがら初子はつこは、俊助しゅんすけの姿を見るが早いか、遠くからえくぼを寄せて、気軽くちょいと腰をかがめた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
誰一人、あの方以外にはその女を、そんなに美しいと思ふものはまつたくなかつたのですから。その女は、小柄こがらな小さな人で、まるで子供みたいだつて云ひます。
いままでも、小柄こがらせていた千穂子ではあったけれども、子供を産んでしまうと、なおさら小さくなったようで、与平は始めて、薄暗い燈火の下で千穂子の方を見た。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
十四五にもなるでせうか、なんとなく目鼻立の惡くない方ですが、發育不良らしく痩せ衰へた上小柄こがらで青白くて日蔭に吹きかけた雜草の花のやうな感じのする小娘です。
彼はルイザとおなじように小柄こがらで、せていて、貧弱ひんじゃくで、少し猫背ねこぜだった。としのほどはよくわからなかった。四十をこしているはずはなかったが、見たところでは五十以上いじょうに思われた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
小柄こがらなからだをかろやかにのせて、村はずれの坂道にさしかかると、少し前こごみになって足に力をくわえ、このはりきった思いを一刻も早く母に語ろうと、ペタルをふみつづけた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「ホホホ、小柄こがら華奢きゃしゃで、そうしてあんよのお上手な旦那、またいらっしゃいよ」
ひたいでるとこおりの様につめたいが、地蔵眉の顔は如何にも柔和で清く、心の美しさもしのばれる。次郎さんをはじめ此家の子女むすこむすめは、皆小柄こがらの色白で、可愛げな、そうしてひんい顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もう若い者はセルを着出したころだのに、あわせの上に薄綿の這入はいったジンベエを着て、メリヤスの足袋を穿いている彼女は、小柄こがらで、せていて、生活力の衰えきった老婆ろうばのように見えるけれども
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
代助のちゝには一人ひとりあにがあつた。直記なほきと云つて、ちゝとはたつた一つ違ひの年上としうへだが、ちゝよりは小柄こがらなうへに、顔付かほつき眼鼻立めはなだちが非常にてゐたものだから、知らない人には往々双子ふたごと間違へられた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小柄こがらぢいさんは突然いきなりたゝみくちをつけてすう/\と呼吸いきもつかずにさけすゝつてそれからつよせきをして、ざら/\につたくちほこり手拭てぬぐひでこすつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「生意気言うな!」末席の小柄こがらの俳優、伊勢良一いせりょういちらしい人が、矢庭やにわに怒鳴った。「君は僕たちを軽蔑けいべつしに来たのか?」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
母の京子は娘よりも十八年上であるが髪も濃く色も白いのみか娘よりも小柄こがら身丈せいさえも低い処から真実姉妹のように見ちがえられる事も度々たびたびであった。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
せてはいるが引緊ひきしまった小柄こがらからだの、小さな尻が、歩くたびにくりっくりっと動く。その歩きぶりが驚くほどまざまざと、少年時代の長を思いださせた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むかつてひだりはした、なかでも小柄こがらなのがおろしてる、さを滿月まんげつごとくにしなつた、とおもふと、うへしぼつたいと眞直まつすぐびて、するりとみづそらかゝつたこひが——
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その席で、小柄こがら白皙はくせきで、詩吟の声の悲壮な、感情の熱烈なこの少壮従軍記者は始めて葉子を見たのだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それとは別に、首領らしい男が一人離れて立っていたが、色白く小柄こがらな男であるがこの男の前に皆かしこまっていた。ほかに、手下らしい下人が二、三十人ばかりいた。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
るところお年齢としはやっと二十四五、小柄こがら細面ほそおもての、たいそううつくしい御縹緻ごきりょうでございますが、どちらかといえばすこしずんだほうで、きりりとやや気味ぎみ眼元めもとには
イワン・ペトローヴィッチはもっと背が高いのに、この男は小柄こがらで痩せっぽだ。
今朝けさ起きて見ると、裏庭うらにわ梧桐あおぎりの下に犬が一ぴき横になって居る。寝たのかと思うと、死んで居るのであった。以前もと時々内のピンに通って来たきつね見た様な小柄こがらの犬だ。デカがみ殺したと見える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼女は確かに美人だつたらしく、今もまだ容色ようしよくが衰へてゐなかつた。その令孃の、大きな方のエミイは、どちらかと云ふと小柄こがらな方で、あどけなく、顏付も擧止も子供つぽく、姿には趣があつた。
今日伝わっている春琴女が三十七歳の時の写真というものを見るのに、輪郭りんかくの整った瓜実顔うりざねがおに、一つ一つ可愛かわいい指でまみ上げたような小柄こがらな今にも消えてなくなりそうなやわらかな目鼻がついている。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お前は背が高い方だが、主人の市十郎は小柄こがらだつたな」
「そりやさうと、さけどうしたえ」小柄こがらぢいさんはひよつと自在鍵じざいかぎまゝ土瓶どびんもとへひきつけて、そこてゝた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おさいは昼のうち雑貨店のほうで働き、夕方からは洋食屋のほうを手伝った。色が黒く、小柄こがらで、縹緻きりょうもかなりいいし、勝ち気ですばしこくて、手も口も達者だった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
毅堂は小柄こがらですこし前へかがんで歩む癖があった。面長おもながで額はひろく目は大きく眉は濃かったので、壮年の頃には白井権八しらいごんぱち綽名あだなをつけられたほどの美男子であった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこには処女のように美しく小柄こがらな岡が雪のかかったかさをつぼめて、外套がいとうのしたたりをべにをさしたように赤らんだ指の先ではじきながら、女のようにはにかんで立っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それからすみれ蒲公英たんぽぽ桔梗ききょう女郎花おみなえしきく……一年生ねんせい草花くさばなせいは、いずれもみな小供こども姿すがたをしたものばかり、形態なり小柄こがらで、のさめるようないろ模様もよう衣裳いしょうをつけてりました。
そのお隣りに陣取っている人は、西脇一夫にしわきかずお殿。郵便局長だか何だかしていた人だそうだ。三十五歳。僕はこの人が一ばん好きだ。おとなしそうな小柄こがらの細君が時々、見舞いに来る。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
べにおもまぶたくれなゐがなかつたら、小柄こがらではあるし、たゞうご人形にんぎやうぎまい。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小柄こがらで顔色の悪い、ぶあいそな人でございます」
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)