かうべ)” の例文
我は彼等のかうべなる黄金こがねの髮をみとめしかど、その顏にむかへば、あたかも度を超ゆるによりて能力ちから亂るゝごとくわが目くらみぬ —三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一体いつたい東海道とうかいだう掛川かけがは宿しゆくからおなじ汽車きしやんだとおぼえてる、腰掛こしかけすみかうべれて、死灰しくわいごとひかへたから別段べつだんにもまらなかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
或時蘭軒が病んで久しきにわたつたので、諸家の寄する所の見舞物が枕頭に堆積せられた。蘭軒は褥中にあつて猫のかうべを撫でつつ云つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
張揚はりあげコリヤ憑司只今傳吉夫婦が言立る所は如何にも明白めいはくなり然すれば其方そのはうは公儀をいつは罪人ざいにんこゝ不屆ふとゞき者めと白眼にらめらるゝに憑司はハツとかうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
街の曲り角にて、大なる噴井あるところに、母上は腰掛け給へり。我は水よりさしのぞきたるサチロ(羊脚の神)の神のかうべの前に立てり。
声ざまに聞き覚えもござれば、「しめおん」がかうべをめぐらして、その声の主をきつと見れば、いかな事、これはまがひもない「ろおれんぞ」ぢや。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
疾翔大力、微笑して、金色こんじきの円光をもっかうべかぶれるに、その光、あまねく一座を照し、諸鳥歓喜充満せり。則ち説いていは
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
一二一鬼畜きちくのくらきまなこをもて、一二二活仏くわつぶつ一二三来迎らいがうを見んとするとも、一二四見ゆべからぬことわりなるかな。あなたふとと、かうべれてもだしける。
大佐たいさばかりでない、快活くわいくわつなる武村兵曹たけむらへいそうも、其他そのた水兵等すいへいらも、電光艇でんくわうていより上陸じやうりくした一同いちどうは、こと/″\色蒼いろあほざめ、かうべれて、何事なにごとをかふかかんがへて樣子やうす
正直しやうぢきかうべかみ宿やどる——いやな思をしてかせぐよりは正直しやうぢきあそんでくらすが人間にんげん自然しぜんにしていのらずとてもかみまもらん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
山を下つて新市街を過ぐる時、アカシヤ並木の若葉が持つ柔かな鮮緑を車上より幾たびもかうべかへしつつ歎賞した。
有一日あるひ伏姫は。すゞりに水をそゝがんとて。いで石湧しみづむすび給ふに。横走よこばしりせし止水たまりみづに。うつるわが影を見給へば。そのかたちは人にして。かうべは正しく犬なりけり。」云々しか/″\
われ等も一應はかうべをかたむけたが、勇猛直前ぢきぜんは勇士の本意、たとへば風を剪つて飛ぶ矢のごとくで、おのれが向はんとするところへ向ふよりほかはござるまい。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「中古ニ隠士徳本ナル者アリ、甲斐ノ人也。常ニ峻攻ノ薬ヲ駆使シテ未ダかつテ人ヲ誤ラズ。かうべニ一嚢ヲ掛ケテ諸州ヲ周流シ、病者ニ応ジ薬ヲ売リつぐなひヲ取ルコト毎貼十八銭——」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
初音町はつねてうといへばゆかしけれど、世をうぐひすの貧乏町ぞかし、正直安兵衛とて神はこのかうべに宿りたまふべき大薬罐おほやかんの額ぎはぴかぴかとして、これを目印に田町より菊坂きくざかあたりへかけて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
演芸会は比較的さむい時に開かれた。としは漸く押しつまつてる。人は二十日はつか足らずのさきはるを控えた。いちきるものは、いそがしからんとしてゐる。越年えつねんはかりごと貧者ひんしやかうべに落ちた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
印度衰亡史は云はずもの事、まだ一册の著述さへなく、茨城縣の片田舍で月給四十圓の歴史科中等教員たる不甲斐なきギボンは、此時、此歴史的一大巨人の前におのづからかうべるるを覺えた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひとかたまり豚の児がかうべうち振るが可哀かはいや張りつめし母の八乳房やちぶさの上に
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かたへの墻より高粱の殻一本を抽きて、これを横たへて、帯を解きてその上に掛け、かうべを引いてくびるるまねしたり。少婦はこの状を見て、果して哂ふ。なかまのものも亦うちはやしぬ。婦去りて既に遠くなりぬ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
すると心がゆるんで、われ知らず机にかうべを垂れて假寢うたたねをし出した。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
祇喜囘頭無所悔 たゞ喜ぶかうべをめぐらして悔ゆる所なきを
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
梅子は又たかうべを垂れぬ、長き睫毛まつげに露の白玉ける見ゆ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
岩松は強か者らしいかうべを垂れて、暫らく唇を噛みます。
エケクロス打ち、長劍にかうべのまなか打碎く。 475
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
垂るゝかうべに、物おもふ、色青ざめし、金盞花
リシダス (旧字旧仮名) / ジョン・ミルトン(著)
私のかうべを取囲み、我が双の手を
つひにかうべにまとひ得ず。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かうべを垂れた男の魂と
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
たみかうべに、柔らかう
騎士と姫 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
見よ、一の魂、かうべ深處ふかみより目を我にむけてつら/\視、かくて高くさけびて、こはわがためにいかなる恩惠めぐみぞやといふ 四〇—四二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
おなとき賈雍將軍かようしやうぐん蒼梧さうごひと豫章よしやう太守たいしゆとしてくにさかひで、夷賊いぞくあだするをたうじてたゝかひたず。つひ蠻軍ばんぐんのためにころされかうべうばはる。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
疾翔大力微笑して、金色こんじきの円光をもっかうべかぶれるに、その光あまねく一座を照し、諸鳥歓喜充満せり。則ち説いて曰く
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「さらばおぬしは、今もなほ悪魔ぢやぼに仕へようず望がおりやるか。」と申すに、「れぷろぼす」はかうべたてに動かいて
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
水のあわと成ましたと語るに一座の者共夫はどう詮議せんぎ爲樣しやうは無事哉と云ば九助はイヱ夫に就て御話が御座ります天道てんだうと云者はあらそはれぬもので正直しやうぢきかうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのはじらひを含める姿はもとの如くなりき。男は其名を呼び、女は紛※てふきを振りたり。花束の雨はそのかうべの上に降れり。幕再び下りしに、呼ぶ聲いよ/\はげしかりき。
荘主あるじかうべたたみりて、御僧この事をなし給はば、此の国の人は浄土にうまれ出でたるがごとしと、涙を流してよろこびけり。山里のやどり八四貝鐘かひがねも聞えず。
少年ははんざふ、盥などを持ち出して、君前に於て剃刀を榛軒のかうべに加へた。そして剃るに時を費すこと頗る多かつた。既にして剃りをはつたので、榛軒は退出した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さきほどより愁然しゆうぜんかうべれて、丁度ちやうど死出しで旅路たびぢひとおくるかのごとく、しきりになみだながしてる。
印度衰亡史は云はずもの事、まだ一冊の著述さへなく、茨城県の片田舎で月給四十円の歴史科中等教員たる不甲斐なきギボンは、此時、此歴史的一大巨人の前におのづからかうべるるを覚えた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
泣きやまぬわらべかうべかい撫でさすり泣くなとは云へど我も泣き
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼女かれは弟の温き胸にかうべをよせて、呼吸も絶えなんばかり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
女巾着切のお兼は到頭觀念のかうべを垂れて了ひました。
かうべにのせぬ、可憐なる妻ははてなき涕涙に 495
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
かひこかと、人は皆かうべもたげぬ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
わが身の上の物語を己が身の上の事と知る、彼も尼なりき、また同じさまにてそのかうべより聖なる首帕かしらぎぬかげを奪はる 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
南無三なむさん膝を立直たてなほし、立ちもやらず坐りも果てで、たましひ宙に浮くところに、沈んで聞こゆる婦人の声、「山田やまだ山田」と我が名を呼ぶ、哬呀あなやかうべ掉傾ふりかたむ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
疾翔大力微笑して、金色こんじきの円光をもっかうべに被れるに、その光あまねく一座を照し、諸鳥歓喜充満せり。則ち説いて曰く
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
平兵衞はかうべふりかたじけなけれども明日は餘儀よぎなきことのあるゆゑに是非共今宵こよひかへらずば大いに都合あしかりなんかく御暇おいとま申さんと立上れば庄右衞門もやむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
黙然とかうべを垂れてゐた丈艸は、あの老実な禅客の丈艸は、芭蕉の呼吸のかすかになるのに従つて、限りない悲しみと、さうして又限りない安らかな心もちとが
枯野抄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かうべめぐらせば、斷崖千尺、斧もて削り成せる如くにして、乘る所の舟は崖下の小洞穴よりくゞり出でしなり。