真白まつしろ)” の例文
旧字:眞白
金線にかざられた黒い四角な帽子をかぶり、真白まつしろな服の上に、赤と金との模様のついた上衣うはぎをつけて、太い長い珠数を手にしてゐました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
肩越かたごしに、のへりを、ゆき装上もりあがるやうに、しづくさへしと/\と……とき判然はつきりえたのは、きむらがつた真白まつしろはなである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たちまともしびの光の消えてくやうにあたりは全体に薄暗うすぐらく灰色に変色へんしよくして来て、満ち夕汐ゆふしほの上をすべつて荷船にぶねのみが真白まつしろ際立きはだつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なにしろ、真白まつしろで、銀のやうに光る髪をもつて、するどい眼附めつきをしてゐる婆さんなので、豆小僧は気味が悪くなつて、仕方がなかつたのです。
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
ことつたら、ひとたちのつてゐるしゆ御血汐おんちしほで、このなほるかもれぬ。おもふことも度々たびたびだ。このなら咬付かみつける。真白まつしろだ。
おくでは殿様とのさま手襷掛たすきがけで、あせをダク/\ながしながら餡拵あんごしらへかなにかしてらつしやり、奥様おくさまは鼻の先を、真白まつしろにしながら白玉しらたまを丸めてるなどといふ。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
客は少し飲んで、真白まつしろになつて崩れずにゐるシガアの灰を見て、何か考へてゐるやうだつたが、ふいとかう云ひ出した。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
けれども、お風呂から上つて、毛がかわくと、それはそれは目もまぶしいくらゐに美しく真白まつしろになりました。
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
鼻緒の色はとにかく草履を穿いてゐる事もわかつた。もう一人ひとり真白まつしろである。是は団扇も何も持つて居ない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「孔子様の隣りに、老子らうし様を描くのです。老子さまは、おつさんのおなかに、七十年居たのださうな。だから産れた時、もう髪が真白まつしろで、歯が抜けてゐたのだつて。」
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
近江さんに案内して頂いて自分達はイザル川を横ぎり森の中を雨に濡れながら歩いた。川は石灰いしばひとかした様に真白まつしろな流れがげきして居た。森には種種いろ/\が鮮かに黄ばんで居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ベンヂヤミン・フランクリンがある冬馬につて田舎に旅行をした事があつた。雪の多い頃で、夕方ゆふかた田舎の旅籠屋はたごやに着いた頃には、馬も人も砂糖の塊のやうに真白まつしろになつてゐた。
「とゞの詰りは真白まつしろな灰」になつて何も浮世のらちが明くのである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
恐ろしきほど真白まつしろ白粉おしろいつけたとぼけがほ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真白まつしろかいの銀世界
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
真白まつしろな胸に
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
残暑ざんしよ夕日ゆふひが一しきり夏のさかりよりもはげしく、ひろ/″\した河面かはづら一帯に燃え立ち、殊更ことさらに大学の艇庫ていこ真白まつしろなペンキぬり板目はめに反映してゐたが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「天の羽衣とはどんなものか、一寸ちよつと見せなさい。」と言つて、見るものもありました。けれどもそれは一寸見たゞけではただ真白まつしろな絹布のやうに見えました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そしてそのおもちやの熊は死んでゐました。また、けものが出て来ました。真白まつしろ犬位いぬぐらゐあるやつなんです。これはと思つて引金を引きました。レオは飛んでゆきました。
お姫さまと猟師 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
さあ、のつぺらぱうか、目一めひとつか、おのれ真目まじ/\とした与一平面よいちべいづらは。まゆなんぞ真白まつしろはやしやがつて、分別ふんべつらしく天窓あたま禿げたは何事なにごとだ。顱巻はちまきれ、恍気とぼけるな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おい! 万作さん!」と大きな声で呼んだものがあるので万作は吃驚びつくりしてを開けてみると、そこに白いひげを長くのばした老爺ぢいさんが真白まつしろい着物を着て立つてゐました。
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
午後五時前にとをばかりの飛行機が引出されたが、風が強いので皆地をつて発動機モツウルの具合を試したり、滑走試験を続けたりして居る。それ砂煙すなけむりを蹴立てるので広い場内が真白まつしろに曇つて仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ひげ真白まつしろと云はんよりは、寧ろ黄色きいろである。さうして、はなしをするときに相手あいて膝頭ひざがしらかほとを半々はん/\に見較べるくせがある。其時のうごかしかたで、白眼しろめ一寸ちよつとちらついて、相手あいてに妙な心もちをさせる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なんこはいものですか、真白まつしろかたですもの。
鉛粉おしろい真白まつしろけでまるふたつ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
電燈は三百しよくの明るいのをつけてありましたし、テーブル掛は真白まつしろだしするものですから
お猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子古川アヤ(著)
爾時そのときは、まぶたはなして、はらりと口元くちもと半帕はんけちおほうてた、某子爵夫人ぼうしゝやくふじんうなづくやうにき/\、きよらかな半帕はんけちしごくにつれて、真白まつしろきぬの、それにもかげすやうにえた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
の人々の中に長吉ちやうきち偶然ぐうぜんにも若い一人の芸者が、口には桃色のハンケチをくはへて、一重羽織ひとへばおり袖口そでぐちぬらすまいめか、真白まつしろ手先てさきをば腕までも見せるやうに長くさしのばしてゐるのを認めた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
子良はもう立派な漁夫れふしの少年です。親父おやぢ伯良はくりやうたすけて漁に出ます。けれども母のことばかり考へてゐました。子良の幼ない記憶に残る母は鼻の高い、色の真白まつしろな、せいの高い美しい人でした。
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
寝台ベツドの上にいた蒲団を見ると真白まつしろである。うへへ掛けるものも真白まつしろである。それを半分はんぶはすぐつて、すその方があつく見える所を、ける様に、女は窓をにして腰を掛けた。足はゆかに届かない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
りません。たゞ真白まつしろかたです。
やまゆウき真白まつしろだ。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
えだ々のなかの水田みづたみづがどむよりしてよどむでるのに際立きはだつて真白まつしろえるのはさぎだつた
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とても、ずるい、小さな、真白まつしろいあひるさんです。そして、耳長さんに言ひますのに
耳長さん と あひるさん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
あり座敷ざしきがる時候になつた。代助は大きなはちへ水をつて、其なか真白まつしろなリリー、オフ、ゼ、ヷレーをくきごとけた。むらがるこまかい花が、い模様のふちかくした。はちうごかすと、はなこぼれる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……こがらしかれぬまへに、雪国ゆきぐにゆき不意ふいて、のまゝ焚附たきつけにもらずにのこつた、ふゆうちは、真白まつしろ寐床ねどこもぐつて、立身たちみでぬく/\とごしたあとを、草枕くさまくら寐込ねこんで
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あかりが、背中せなかからあはして、真白まつしろちゝしたすかす、……おびのあたりが、薄青うすあをみづつて、ゆら/\とながれるやうな、したすそつて、一寸ちよつとかげどうかられたかたちで、むねらした
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
真白まつしろなのがくらまぎれ、歩行あるくとしもえてくやうな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)