女房にょうぼう)” の例文
女房にょうぼうは、にこにことして、なにかぼんにのせて、あちらへはこんでいました。こちらには、びっこのむすめが、さびしそうにしてっている。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今年二十一歳になる数馬のところへ、去年来たばかりのまだ娘らしい女房にょうぼうは、当歳の女の子を抱いてうろうろしているばかりである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくし三浦みうらとついだころは五十さいくらいでもあったでしょうが、とう女房にょうぼう先立さきだたれ、独身どくしんはたらいている、いたって忠実ちゅうじつ親爺おやじさんでした。
「仙人になる術を知っているのは、おれの女房にょうぼうの方だから、女房に教えて貰うがい。」と、なく横を向いてしまいました。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ふん。むかしいまもあるもんじゃねえ。隣近所となりきんじょのこたァ、女房にょうぼうがするにきまッてらァな。って、こっぴどくやっけてねえッてことよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
だが——やがてやっと事情を聞きとると、この女房にょうぼうの死ぬ気もちになったことを、ふたりはもっともだと思わずにいられなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女房にょうぼうは色青ざめ、ぼろの着物のすそをそそくさと合せて横坐りに坐って乱れた髪をき上げ、仰向いて三人の顔を見て少し笑い
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「和太さんが、日ごろから、子どもがほしい、女房にょうぼうはいらんが、といっていたのを天でおききとどけになって、さずけてくれたのじゃねえか」
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
外に案内に出る者もないので、男が起き上って行って門を開いた。すると、侍らしい男が二人と、女房にょうぼうらしい女が一人、下女を一人連れている。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
山頬やまぎわの細道を、直様すぐさまに通るに、年の程十七八ばかりなる女房にょうぼうの、赤き袴に、柳裏やなぎうら五衣いつつぎぬ着て、びんふかぎたるが、南無妙。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
種吉では話にならぬから素通りして路地のおくへ行き種吉の女房にょうぼうけ合うと、女房のおたつは種吉とは大分ちがって、借金取の動作に注意の目をくばった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
これから助右衞門の女房にょうぼうせがれが難儀を致しますお話に移りますのでございますが、鳥渡ちょっと一息きまして申上げます。
かれはもう五十をすぎたが女房にょうぼうも子もない、ほんのひとりぽっちで毎日生徒を相手に気焔きえんをはいてくらしている
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
俺の隣りのベッドに舶大工ふなだいくがいる、子供三人に女房にょうぼうを置いて来たと云って、一週間目に貰った壱円足らずの金を送ってやっていた。そんなものもあるのだ。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
で自分一人の事ですからどうやらこうやらその日その日を過して行かれるですが、俗人の貧乏人は女房にょうぼうがある。そこへ子供でも出来たらそれこそ大変です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
女房にょうぼうや、」と靴屋くつやった。「みせって、一ばんうえたなに、赤靴あかぐつが一そくあるから、あれをってな。」
と呼ぶのも、もう可笑おかしいようになりました。熊本秋子さん。あなたも、たしか、三十に間近いはずだ。ぼくも同じく、二十八歳。すでに女房にょうぼうもらい、子供も一人できた。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
一方はいつもかみの毛をくしゃくしゃにさせた、ふとっちょの女房にょうぼうであったし、もう一方はそれと好対照をしている位にせっぽちの、すこし藪睨やぶにらみらしい女房であることだ。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
浦粕うらかすでは娘も女房にょうぼうも野放しだ」と、はっきり土地の人たちは云っているが、それでも嫉妬しっとぶかい人間もたまにはいて、ときにすごいような騒ぎの起こることも幾たびかあった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから今一つは男は心がやさしく、いつでも孝養したいと思うのだけれども、その女房にょうぼうがはなはだよくない女で、年寄りをうるさがって棄ててしまいなさいと始終すすめる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
教育するという事がはたしてわれわれの理想であるとすれば、必ずしも役人となるを要しない。家にいて下女げじょ下男げなんの教育もできる。また自分の女房にょうぼう子女を教育することもできる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かれはコスモといって、女房にょうぼうのコスマと二人で、諸国しょこくをへめぐっている人形使にんぎょうつかいでした。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
たらぬがちの生活にも、朝な朝なのはたきの音、お艶の女房にょうぼうぶりはういういしく、泰軒は毎日のように訪ねて来ては、その帰ったあとには必ず小粒こつぶがすこし上がりぐちに落ちている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
七蔵しちぞう衣装いしょう立派に着飾りて顔付高慢くさく、無沙汰ぶさたわびるにはあらで誇りに今の身となりし本末を語り、女房にょうぼうに都見物いたさせかた/″\御近付おちかづきつれて参ったと鷹風おおふうなる言葉の尾につきて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おれは即夜そくや下宿を引きはらった。宿へ帰って荷物をまとめていると、女房にょうぼうが何か不都合ふつごうでもございましたか、お腹の立つ事があるなら、っておくれたら改めますと云う。どうもおどろく。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
踏み切りに立って子を背負ったまま旗をかざす女房にょうぼう、汗をしとどにたらしながら坂道に荷車を押す出稼ともかせぎの夫婦——わけもなく涙につまされる葉子は、定子のそうした姿を一目見たばかりで
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
(うむ、ひょっとすると、この女は、自分の女房にょうぼうであるかもしれない)
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おばさん、あのあかいかきのをとっておくれよ。」と、二郎じろうは、うらにあったかきのをさしていうと、女房にょうぼうは、仕事しごとをしながら
お化けとまちがえた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗右衛門はまだ七歳のせんに読書を授け、この子が大きくなったならさむらい女房にょうぼうにするといっていた。銓は記性きせいがあって、書を善く読んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
のうきちちゃん。たとえ一まくらかわさずとも、あたしゃおまえの女房にょうぼうだぞえ。これ、もうしきちちゃん。返事へんじのないのは、不承知ふしょうちかえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こういって、いたいたしげに行者の足をみたのは、道づれになっている女の巡礼じゅんれい——坂東ばんどう三十三ヵしょふだなかにかけた女房にょうぼうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その涙にかして見れば、あの死んだ女房にょうぼうも、どのくらい美しい女に見えたか、——おれはそんな事を考えると、急に少将が気の毒になった。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
でも折角せっかくたのみでございますから、かく家出いえでした女房にょうぼう行方ゆくえさぐってますと、すぐその所在地ありかわかりました。
女房にょうぼうを死なせるくらいなら、あのラプンツェルをとってきてやれ。どうなったって、かまうものか。」
飯のつけようも効々かいがいしい女房にょうぼうぶり、しかも何となく奥床おくゆかしい、上品な、高家こうけの風がある。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまりは田のすくない新開地しんかいち女房にょうぼうたちが、仕事のひまひまに畠の産物を持って、稲作いなさくのいそがしい村々へ売りに行ったので、それにつごうのよいような籠背負かごしょいというものが
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鬼の女房にょうぼ鬼神きじんたとえ、似たもの夫婦でございまして、仙太郎の女房にょうぼうお梶は誠に親切者でございまするから、可愛相な者があれば仙太に内証ないしょで助けて遣りました者も多くあります。
いたずらに壁破りの異名を高め、しじみ売りのずるい少年から、うそ身上噺みのうえばなしを聞いて、おいおい声を放って泣き、蜆を全部買いしめて、家へ持って帰って女房にょうぼうしかられ、三日のあいだ朝昼晩
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
つまり博奕打の女房にょうぼうという鉄火てっかな自意識をさすのであり、そのためには、亭主の負けがこんでくると、片膝かたひざ立ちになって赤いものをちらちらさせるという、特技を演ずることも辞さなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
隆吉は、千穂子より一つ下で世間で云う姉女房にょうぼうであったが、千穂子は小柄なせいか、年よりは若く見えた。実科女学校を出ると、京成けいせい電車の柴又しばまたの駅で二年ばかり切符きっぷ売りをしたりした事もある。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
すると山嵐はともかくもいっしょに来てみろと云うから、行った。町はずれの岡の中腹にある家で至極閑静かんせいだ。主人は骨董こっとうを売買するいか銀と云う男で、女房にょうぼう亭主ていしゅよりも四つばかり年嵩としかさの女だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と夜具をりにかかる女房にょうぼうは、身幹せいの少し高過ぎると、眼のまわりの薄黒うすぐろく顔の色一体にえぬとは難なれど、面長おもながにて眼鼻立めはなだちあしからず、つくり立てなばいきに見ゆべき三十前のまんざらでなき女なり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼はちょうど女房にょうぼうのおしんも留守なので、きょうこそはお艶所望の件を持ち出して、めかけで承服なら妾、また家へ入れてくれなければ嫌だというのなら、どうせ前々からあきあきしている古女房だから
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
せがれは、たび奉公ほうこうにやられて、女房にょうぼうは、主人しゅじん留守るすうちでいろいろな仕事しごとをしたり、手内職てないしょく封筒ふうとうったりしていたのでした。
お化けとまちがえた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
暖簾のれんしたにうずくまって、まげ刷毛先はけさきを、ちょいとゆびおさえたまま、ぺこりとあたまをさげたのは、女房にょうぼうのおこのではなくて、男衆おとこしゅうしん七だった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
どこの百姓ひゃくしょう女房にょうぼうであろうか、櫛巻くしまきにしたほつれをなみだにぬらして、両袖りょうそでかおにあてたまま濠にむかってさめざめといているようす……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姫やわかの顔、女房にょうぼうののしる声、京極きょうごく屋形やかたの庭の景色、天竺てんじく早利即利兄弟そうりそくりきょうだい震旦しんたん一行阿闍梨いちぎょうあじゃり、本朝の実方さねかた朝臣あそん、——とても一々数えてはいられぬ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくし他所よそ情婦おんなをつくりましたのは、あれはホンの当座とうざ出来心できごころで、しんから可愛かわいいとおもっているのは、矢張やは永年ながねんって自家うち女房にょうぼうなのでございます……。
女房にょうぼうや、ちょいとなよ、とりるから。ちょいとあのとりな! いいこえでうたうから。」
……寺の坊主が前町の荒物屋の女房にょうぼうと悪いことをしやアがって、亭主を殺して堂の縁の下へ死人しびとを隠して置いたのさ、ところで其の死人に此奴こいつつかまって出たと云う可笑おかしい話だが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)