まぬか)” の例文
然れどもつひに交合は必然に産児を伴ふ以上、男子には冒険でもなんでもなけれど、女人には常に生死をする冒険たるをまぬかれざるべし。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしながら河川が平穏のときに、堤防やせきを築き運河を掘っておくなら、洪水こうずいとなってもその暴威と破壊からまぬかれることができる。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
公の「遊戯」に関係した男女で無事に生命をまっとうしたものはまれであるのに、道阿弥が死をまぬかれたのは甚だ幸運と云わざるを得ない。
この報償として和蘭オランダ人だけは鎖国の令をまぬかかれて、長崎の一部を与えられ、この地に商業を営んで盛んに利益を獲得しつつあった。
今日いずれの国の法律をもってしても、殺人罪は一番重くばっせられる。間接ではあるけれども、ビジテリアンたちも又この罪をまぬかれない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
八五郎がひどい火傷で動けないのを、平次の怪我と感違ひし、ぬけ/\と惡事を續けたのは、矢張りまぬかれない天罰だつたのでせう。
同じこと幾度となくあれば、のちにはその家々も注意して予防をなすといえども、ついに火事をまぬかれたる家は一軒もなしといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして此等これら損失そんしつほとんど全部ぜんぶ地震後ぢしんご火災かさいるものであつて、被害民ひがいみん努力どりよく次第しだいによつては大部分だいぶぶんまぬかられるべき損失そんしつであつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ところがです、法律上の罰は、みごとにまぬかれましたけれど、恋敵の血の罰が、なおもはげしく、私にせめかかってまいりました。
按摩 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そんな事から議論に花が咲いて、しまいには全然それ等の事から離れたさまざまな問題にまで移り移ってゆくのをまぬかれなかった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
づこんなりふれた問答もんだふから、だん/\談話はなしはながさいて東京博覽會とうきようはくらんくわいうはさ眞鶴近海まなづるきんかい魚漁談ぎよれふだんとう退屈たいくつまぬかれ、やつとうらたつした。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
より高き価値に対して盲目であることは、いかなる場合にも偏狭のそしりをまぬかれない。道元はすでに年少のころよりこの偏狭を脱していた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
山の手の寺院にあるもの、幸にして舞馬ぶばわざわいまぬかれしといへども、移行く世の気運は永く市廛してん繁華の間に金石の文字を存ぜしむべきや否や。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
パリスどのと祝言しうげんするよりもいっ自害じがいせうとほどたくましい意志こゝろざしがおりゃるなら、いゝやさ、恥辱はぢまぬかれうためになうとさへおやるならば
仇家きゅうかに討入る以上、たといその場で討死しないまでも、公儀の大法に触れて、頭領始め一同の死はまぬかれぬということも知らないではなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
酔うたる人は醒むる時の来るが如く、たのしめる者、おごれるもの、よろこべるもの、浮かるるもの早晩傷み、嘆き、悔いうれうる時の来ることをまぬかれない。
で、何事もせねば非難も憎悪ぞうおまぬかれるのである。僕の知人にして、今は故人こじんとなったが、生前公職につき藩政にあずかって大いに尽した人があった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
是れは誠に恐入おそれいった話で、何も私共は罪を犯した覚えはない。是れはマア何処まで小さくなればまぬかるゝかと云うと、幾ら小さくなっても免れない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ネパールに這入はいってからもその事について取糺とりただしたが害が及んで居らんらしい。どうにかうまくまぬかれたものと見えるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まぬかれんとしても免れられない運命のほどを、この男のために悲しみ、かの旅行中の暴君のために怖れることは想像にも堪えられないはずなのに……
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
釣魚もおもしろいが養魚はなほさら佳趣の多いことで、二ヶ所の養魚場を見て、自分も一閑地を得たら魚を養ひたいナアと、羨み思ふをまぬかれなかつた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
人々は平八郎にせまつて所存しよぞんを問うたが、たゞ「いづれまぬかれぬ身ながら、少しかんがへがある」とばかり云つて、打ち明けない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
とっさに弁ずる手際てぎわがないために、やむをえず省略の捷径しょうけいてて、几帳面きちょうめん塗抹とまつ主義を根気に実行したとすれば、拙の一字はどうしてもまぬかれがたい。
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目を掛けましたから大きに親子の者も貧苦をまぬかさいわいを得て喜んで居る甲斐もなく、翌年宝暦四年正月の六日年越しの晩に娘の行方が知れなくなったので
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そういうことは工場の中にも、警察官の中にも、軍人の中にもしばしば聞くことで、どこの鉄道局のなかにも多少はまぬかれないことであると、彼はまた言った。
晏子あんし(五〇)戄然くわくぜんとして衣冠いくわん(五一)をさめ、しやしていはく、『えい不仁ふじんいへども、やくまぬかれしむ。なんつをもとむるのすみやかなるや』と。石父せきほいはく、『しからず。 ...
はげしい弾丸の雨の下、この近距離で、果して三吉は射殺をまぬかれることが出来るだろうか。否! 否!
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
家の奧の方にゐた人は戸口まで出て見てゐた。自分の家の前をば無事に通り過ぎた赤い小鞄を見送つては、ほツとして、死神の來訪をまぬかれた喜びを顏一面に浮べた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この辺は関東の大地震の災害をも、また戦災をもまぬかれていて、一体の家並はひどく古めかしかった。○○寺はわりと小体な寺院であった。門構えも瀟洒で俗でなかった。
おじさんの話 (新字新仮名) / 小山清(著)
かつ所作の活溌にして生気あるはこの遊技の特色なり、観者をして覚えず喝采せしむる事多し。但しこの遊びは遊技者に取りても傍観者に取りても多少の危険をまぬかれず。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
彼女はもう絶対に殺人の嫌疑をまぬかれることは出来ないと信じ込んでしまったのに違いありません。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかなお連綿として六百余年の𤢖生活を継続しきたったのは、彼等が折々に里を荒して、婦女を奪い小児しょうにさらって行くが為に、辛くも子孫断絶をまぬかれ得たものと察せられる。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
社会の状態かくの如し、外交問題激起せざるも、到底とうてい革命はまぬかるべからざるなり。しこうしてさらに甚しきものあり。精神的革命の冥黙めいもくの中に成就せられつつあることこれなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
サッサッと糊刷毛のりはけで掃き、レッテルを貼り、押し、叩き、次の荷造場にづくりばへ送る中年おんなの活躍もさることだが、彼女らもまた同じ種の高麗鼠であるそしりは徹頭徹尾まぬかれない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかして羅瑪のわざわいまぬかれず。しかれども一日も王者なかるべからず、また一日も教なかるべからず。それ教なるもの人心をおさむるの具なり。心正しければ身おさまる。身脩れば家ととのう。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
〔評〕長兵京師にやぶる。木戸公は岡部氏につてわざはいまぬかるゝことを得たり。のち丹波におもむき、姓名せいめいへ、博徒ばくとまじり、酒客しゆかくまじはり、以て時勢をうかゞへり。南洲は浪華なにはの某樓にぐうす。
先生のきょ、同じく戒心かいしんあるにもかかわらず、数十の生徒せいとともな跣足せんそく率先そっせんして池水いけみずくみては門前に運び出し、泥塗満身でいとまんしん消防しょうぼう尽力じんりょくせらるること一霎いっしょう時間じかんよっかろうじてそのさいまぬかれたり。
ここで一寸ちょっと念のために申しますが、この旅籠屋も、昨年の震災をまぬかれなかったのに、しかも一棟ひとむねけて、人死ひとじにさえ二三人あったのです——蚊帳は火の粉をかぶったか、また、山を荒して
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されば人はつね神仏かみほとけ信心しん/″\して悪事あくじ災難さいなんまぬかれん事をいのるべし。神仏かみほとけしんずる心のうちより悪心はいでぬもの也。悪心のなき災難さいなんをのがるゝ第一也とをしへられき。今もなほみゝに残れり。
え死をまぬかれたわけやが、そこのおばはんいうのが、こらまた随分とうないりん気深い女子おなごで、亭主が西瓜すいか時分になると、大阪イ西瓜売りに行ったまンま何日も戻ってけえへんいうて、大騒動や。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
新太郎君はなぎさ伝いに散歩をしても宿で小説を読んでいても、常に太平洋を独占するような心持がした。淋しかろうとはもとより予期していたことだから苦情もなかったが、退屈をまぬかれない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
たとえ過去や未来の悔いや苦労にはたいした正体が無いものとたかをくくりながらも、さすがにわたくしも大人びて心の底の底には罪を重ね、とがを作り行く想いもまぬかれないためでしょうか
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
課役をまぬかれんとしたので、その荷物の差押えがあり、それには天王寺の商人の一人なる香取という者が関係しており、その香取が金策をして三条西家の屋根葺の費用を弁じたことが日記にある。
すっぽんも、ふつうひと癖もふた癖もいやな癖のあるのをまぬかれないものであるが、柳川産にはそれがない。このめずらしい特色は、今後ますます認識されて、いよいよ市価を高めてゆくであろう。
一癖あるどじょう (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ゆゑに身は唯継に委すとも、心は長く貫一を忘れずと、かくおもへる宮はこの心事の不徳なるを知れり、されどこの不徳のその身にまぬかあたはざる約束なるべきを信じて、むしろ深く怪むにもあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
三年一回の凶歳きょうさいありても飢餓きがうれいまぬかるべき割合ではありませぬか。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
第一回は宝永七年、第二回は安永九年、第三回は嘉永三年、——三回とも恐ろしい鬼火が現われてほとんど一家全部を殺生谷へ引込んでしまった。わずか他処よそへ出ていた者がその難をまぬかれて家を継いだのだ。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どうやらお山荒れは、まぬかれないらしい。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ふさげない事になつてにもにもまぬかれぬ弊風へいふうといふのが時世ときよなりけりで今では極点きよくてんたつしたのだかみだけはいはつて奇麗きれいにする年紀としごろの娘がせつせと内職ないしよくの目も合はさぬ時は算筆さんぴつなり裁縫さいほうなり第一は起居たちゐなりに習熟しうじよくすべき時は五十仕上しあげた
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
八五郎がひどい火傷で動けないのを、平次の怪我と勘違いし、ぬけぬけと悪事をつづけたのは、やはりまぬかれない天罰だったのでしょう。