うち)” の例文
二月になって、もとのように神田の或中学校へ通ったが、一週間たたぬうちまたわるくなって、今度は三月の末まで起きられなかった。
十六、七のころ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さればわが昨日きのふ遙かに御嶽おんたけの秀絶なる姿を群山挺立ていりつうちに認めて、雀躍して路人ろじんにあやしまるゝの狂態を演じたるもまたむべならずや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
宗俊の語のうちにあるものは懇請の情ばかりではない、お坊主ぼうずと云う階級があらゆる大名に対して持っている、威嚇いかくの意もこもっている。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、どこまで一所になるか、……稀有けうな、妙な事がはじまりそうで、あぶなっかしいうちにも、内々少からぬ期待を持たせられたのである。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平等主義に対する二つの決定的な反対論のうち、その一つは、経験上からも理論上からも、平等の状態は、人間本来の怠惰性を克服し
日ならずして、彼は二三の友達をこしらえた。そのうちで最も親しかったのはすぐ前の医者の宅にいる彼と同年輩ぐらいの悪戯者いたずらものであった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
別して巣林子の著作のうちに恋愛の恋愛らしきもの甚だすくなきを悲しまざるを得ず。けだし其のこゝに到らしめしもの諸種の原因あるべし。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
平次の顔を見ると、あわてて神妙な様子を見せる手代の文三郎は、この騒がしい空気のうちには、とにもかくにも不思議な存在でした。
なぞと考えまわすうちに、元来屈託のない平馬は、いよいよ気安くなって五六本を傾けた。こいの洗い、木の芽田楽でんがくなぞも珍らしかった。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
千早、赤坂、吉野のうち、赤坂、吉野は落ちたが、千早城のみは、賊の大軍に囲まれながら、金剛山に因んで、金剛不壊ふゑの姿を示した。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「どうせそんなのは、学校では出来ない学生なのですよ」こう云って、心のうちには自分の所へ、いつも来る学生共の事を考えている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、留学中の総決算をする積りで、腹のうち彼地あつちであつた色々の事を想ひ出してみた。そして鳥のやうにひとりでにや/\笑つてゐた。
不自由だって此方こちらさまでも仕事は夜でもいやアな、昼のうち店を明ッ放しにして、年もかねえ子供を置いて来て居ては困るからな
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
暑気あつさは日一日ときびしくなつて来た。殊にも今年は雨が少なくて、田といふ田には水が充分でない。日中は家のうちでさへ九十度に上る。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みなまた少時しばしもくしてしまふ。其中そのうちちやる。ドクトル、ハヾトフはみなとの一ぱんはなしうちも、院長ゐんちやうことば注意ちゆういをしていてゐたが突然だしぬけに。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そはわが用ゐて形をとゝなふ諸〻の火のうち、目となりてわがかうべが輝く者、かれらの凡ての位のうちの第一を占むればなり 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
牛でも鳥でもそのほか何の肉でもエキス分が沢山あって肉のまだ鮮しいうちはそのエキス分が分解作用を受けないから肉の外にあります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女房にようばうあるとし姙娠にんしんして臨月りんげつちかくなつたら、どうしたものか數日すうじつうち腹部ふくぶ膨脹ばうちやうして一うちにもそれがずん/\とえる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
またそのほかに私的の事件で扱ったものは、無数で、そのうちでも、実に錯綜した難問題で、颯爽たる役目をやったものもたくさんあった。
ところこのアルゼリヤこくうちでブリダアといふ市府まちひとわけても怠惰なまけることがき、道樂だうらくをしておくることが好きといふ次第である。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それに義歯を取つけているうちは、いささか気丈夫であるが、それがことごとく失われたとなると、一種の寂寥を覚えずにはいられない。
はなしの話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すずめは、こころうちに、こんな不平ふへいがありましたけれど、しばらくだまって、こまどりの熱心ねっしんうたっているのにみみかたむけていていました。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
数かぎりなき糠星の瓔珞のうち、あなあはれ不尽の高嶺ぞ、白妙の不尽の高嶺ぞ、今し今、一きは清き紫の朝よそほひに出で立ち立てり。
上野駅を一番列車で出発すれば、沼田から途中の湯宿ゆじゅくまで自動車、それからは歩いても其日のうちに三国峠下の法師温泉まで辿り着ける。
三国山と苗場山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
こうして、八日は湖水のふちをうろうろして、水を見て、橋を見て、また真白な霧を見て、ただにこにこしているうちに暮れてしまった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
もっとも今から四十年前のこと、そのうちに御維新になって種々の学校というものが出来た。出来たが皆おもに西洋の学問をさせた。
一旦いったん、師匠の家へ行った以上、どういうことがあろうとも、年季の済まぬうちにこの家の敷居をまたいではならんといったではないか。
それが、どういう理由わけであったかは、ほんの一部の人にしか、ハッキリは分って居りません。なぜか、事が秘密のうちに運ばれたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
結晶がとける心配はないのであるから、いくらでも良い写真がとれるはずであるが、実際は初めのうちはなかなか巧く行かなかった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そのうちにだんだんわびしくなり、少々やり切れなくなってきたところへ、こんどは『すみれ』の久美子が現われたというわけなのでした。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
伯父さん、あなたは料理部屋へいって、今夜北京ペキン亭からきている料理人コックを一人も逃がさないで下さい、そのうちの左利きの男が犯人です。
謎の頸飾事件 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
真理を発揮するのが文章の目的乎、人生を説明するのが文章の目的乎、この問題が決しないうちは将来の文章を論ずる事は出来ない。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼は指の股に挟んで居た専門器械をもって電光の早さのうちに鎖を切断した。山吹色の懐中時計は訳もなく彼の掌中へ転げ込んで来た。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
国太郎は夢中で足の方を持ったが、どっしりと重い死人の体は思ったより遥かに扱い難く、物の十けんと歩かぬうちにもう息切がして来た。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
他馬匹も同く、予は群馬のうちに囲まれて、いずれも予に接せん事を欲するが如く最も親しく慣るるは、此れ一種言うべからざるの感あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
六十年後の今日において、このうちのどれだけが残っているか知らぬが、余り他国に類例がないので資料としても珍重すべきものである。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
其方そちもある夏の夕まぐれ、黄金色こがねいろに輝く空気のうちに、の一ひらひらめき落ちるのを見た時に、わしの戦ぎを感じた事があるであろう。
そんなことをうめきながら、迂路うろつきまわっているうち、源吉の頭の中には、何時の間にか、恐ろしい計画が、着々と組立られていた。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それを言ったものである。その我ら仲間の批評というのは今俳書堂から出版している『俳句界四年間』のうちに収録してあるはずである。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ちょこんと小さく寝ている伯父を見ているうちに、その痩せた白い身体の中が次第に透きとおって来て、筋や臓腑がみんな消えてしまい
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
みぎうち説明せつめいりやくしてもよいものがある。しかしながら、一應いさおうはざつとした註釋ちゆうしやくはへることにする。以下いかこううてすゝんでく。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
清君が胸をわくわくさせてそんなことを考えているうちに、内火艇はエメラルド色の美しい波をわけて、めざす富士洞窟へさしかかった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
叔母のかたをばんでいるうち、夜も大分だいぶけて来たので、源三がついうかりとして居睡いねむると、さあ恐ろしい煙管きせる打擲ちょうちゃくを受けさせられた。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今日きょうはお嬢さんが上野の音楽会へ出かけて、一日お留守だった。お嬢さんが居ないと、己は非常にさびしい。まるで家のうち落寞らくばくとする。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つは彼れ如何に口重き証人にも其腹のうちに在るだけを充分吐尽はきつくさせる秘術を知ればお失望の様子も無くあたか独言ひとりごとを云う如き調子にて
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
只もう校舎をゆすってワーッという声のうちに、無数の円い顔が黙って大きな口をいて躍っているようで、何をわめいているのか分らない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼は少しずつ馬車の方向むきを変えはじめたが、あちらこちらへ向け直しているうちに、とうとう馬車が横倒しにひっくりかえってしまった。
『それも駄目だめだ』とこゝろひそかにおもつてるうちあいちやんはうさぎまどしたたのをり、きふ片手かたてばしてたゞあてもなくくうつかみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かういふふうにくろうとらしいうたをおつくりになつたので、歴代れきだい皇族方こうぞくがたうちでは、文學ぶんがく才能さいのうからまをして、第一流だいゝちりゆうにおすわりになるかたです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
心なき里人も世に痛はしく思ひて、色々の物など送りてなぐさむるうち、かの上﨟はおもひおもりてや、みつきて程もず返らぬ人となりぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)