あく)” の例文
むしろそのあまりに強情かたくな性質せいしつ……一たんうとおもえばあくまでそれをとうそうとする、我侭わがまま気性きしょうめであったようにおもわれました。
伜幸吉には何の罪も無之、あくまでも成瀬屋をうらむは此冠兵衞に候。その證據として近々一家をみなごろしに仕る可く隨分要心堅固に被遊可あそばさるべく候 頓首
と、あくまで下からは出て居るが、底の心は測り難い、中々根強い言廻しに、却って激したか主人は、声の調子さえ高くなって
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
先刻さっきからの様子を見ると、彼はあくまでも無邪気である。彼は極めて明白に、正直に、自己おのれいつわりなき恋を語っているのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わつしはあくまで自分で仕込んだ子飼の職人だけでやつて行かうてえ方針でごわす。それでないと本筋の仕事は出来ませんて。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
所帯が苦しいゆゑの退学などとの風評を防ぐ手だてに、あくまで自発行動であることを世間に言ふやうにと父は言ひ付けた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
く追放仰付けられたのも、稻垣小左衞門が殿さまへ申し上げたことがあるに依って、己がお暇になったと、あくまでも稻垣を怨んで居りまする。
文壇ぶんだん論陣ろんぢん今やけい亂雜らんざつ小にながれて、あくまでも所信しよしん邁進まいしんするどう々たる論客きやくなきをおもふ時、泡鳴ほうめいさんのさうした追憶ついおくわたしにはふかい懷しさである。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
なんなりともかなひたるを、あくまでしよくすべし」と強附しひつけ/\、御菓子おんくわし濃茶こいちや薄茶うすちや、などを籠中かごのなかところせまきまでたまはりつ。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渦巻く淵の色はあくまで紺碧に冴えて、その中では蛇体の如く蜿曲した力強い水の幾うねりが無数の気泡を含みながら、白い尾を曳いて絡み合いもつれ合い
渓三題 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そのさい人間は、あくまで己れに内在する理性の光りで、是非の判断を下さねばならぬ。理性こそ最高の標準である。
臨川寺りんせんじの庭にきよして、獨り靜かに下瞰かゝんするに、水はあくまでみどりに、岩は飽まで奇に、其間に松の面白く點綴てんせつせられたる、更に畫圖ぐわとのごとき趣を添へたるを見る。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
そなたはあくまで木石の味方をされるゆえ、わたしは何処までも人情の味方をせずばなるまい。そなたと永劫離れぬ双生像にられるなら、娘もさぞかし本望ほんもうでござろう。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれども彼はもう一歩進んであくまでその真相を研究する程の権利をっていないことを自覚している。又そんな好奇心を引き起すには、実際あまり都会化し過ぎていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、あくまで、われ等の力の及ぶかぎりは、たとえ、千石であろうと、大学様に御家督ごかとくくだたまわるよう、公儀へおすがりすることは当然。それが成る成らぬは天意でござる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我儕われらエジプトの地に於いて、肉の鍋の側に坐り、あくまでにパンをくらいし時に、エホバの手によりて、死にたらばよかりしものを、」(十六章三)あの頃、死んだ奴は仕合せさ
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
因果いんぐわふくめしなさけことばさても六三ろくさ露顯ろけんあかつきは、くびさしべて合掌がつしやう覺悟かくごなりしを、ものやはらかにかも御主君ごしゆくんが、げるぞ六三ろくさやしき立退たちのいてれ、れもあくまで可愛かあゆ其方そち
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こたへてまづしよくをはりてテンプラの来由らいゆかたるべしといひつゝさけのてんぷらをあくまでにしよくせり。
それに南さんは色のあくまで白い、毛の濃い人でしたから、どんなものでも似合つて見えたのであらうと思はれます。目の細い、鼻の高い、そしてよくしまつた口元で、唇のあかい人でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
従来編輯の要務に当れる天知翁の申開まうしひらきありと聞けば、余は決して「文学界」全躰としての攻撃に当る事をせじ、唯だ余一個に対しての攻撃即ち人生問題に関しては、あくまで其責を負ふ積なり。
人生の意義 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あくまであざむく長庵が佞辯ねいべん奸智かんち極惡ごくあくたとふるに物なしと後にぞ思ひ知られけり十兵衞はあに長庵がたくみのありとは少しも知らず然樣さやうならば頂戴いたゞきますとおのれが出たる三兩を再び胴卷どうまきの金と一しよ仕舞込しまひこむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かようの次第で新藩主には徳川方より聊か嫌疑を受けられた結果であるか、遂においてけぼりを食わされたので、この上は帰藩してあくまで佐幕の旗を翻えし、赤心を明かにしようと決心された。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
それから奥さんの入院中に、だれかマントを着たまゝ奥さんの寝台の側の椅子にかけて話して行つたといふ見まひの人を、あくまで実家のお父さんだと言ひ通されたのも青木さんの気を悪くさせた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
うらわかき盲人まうじんのいろあくまで白く
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
対手あいてういう覚悟で居ようとは、重太郎は夢にも知らぬ。彼は母に甘える小児しょうにのような態度で、あくまでもお葉に附纏つきまとった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よつかなつとに好む所に、永く願はくは人間を辭せん、といつてゐる位に、名山の中にあくまでも浸りたがつた先生である。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
わたくし決心けっしんあくまでかたいのをて、両親りょうしん無下むげ帰家きかをすすめることもできず、そのままむなしく引取ひきとってしまわれました。
異なる所は唯先達の指導精神があくまで徹底して、山の神聖を汚すような行為が絶対になされなかったことである。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
単なるドグマに捕えられず、あくまで合理的に真理を求めんとする心掛こころがけ——それでなければ神慮しんりょにはかなわない。われ等は心から、そうした態度を歓迎する。
受ければ悪人の同類だ、悪事が露顕すれば素首すこうべのない人間だ、毒を喰わば皿までというから貴公もあくまでやりな
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
父がそれ等の乱暴な俥夫の横理屈に対してあくまで自分をおさへて彼等の機嫌を取つてゐるのを私は屡々しば/\見た。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
時雄は芳子の為めにあくまで弁明し、汚れた目的の為めに行われたる恋でないことを言い、父母の中一人、是非出京してこの問題を解決して貰いたいと言い送った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
我儕われらエジプトの地において、肉の鍋の側に坐り、あくまでにパンを食いし時に、エホバの手によりて、死にたらばよかりしものを。汝はこの曠野あらのに我等を導きいだして、この全会を
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こたへてまづしよくをはりてテンプラの来由らいゆかたるべしといひつゝさけのてんぷらをあくまでにしよくせり。
あくまで単に東洋の神秘的の座興相手に擬せられたと信じて居るガルスワーシーは冷たくなった手を上衣うわぎのポケットへちょっと挟み込んで、其処で自国の神秘主義に就いての挿話を述べた。
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
現代の綱吉将軍や大奥や佞臣閥ねいしんばつや妖僧などのむらがりのように、下層社会を犠牲にはしていない。下等な贅沢ぜいたくあくなき消費だけを能にはしていない。庶民の自由を今のように迄は奪っていない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
保ち居るのみなりれば新規しんきかゝへの用人安間平左衞門と言は當年四十歳餘りなれども心あくまでよこしまにして大膽不敵だいたんふてき曲者くせものなり此者金銀を多く所持しよぢなし嘉川家身代しんだい仕送しおくりをするにより主人も手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、かれはたしていたちたぬきか、あるいは人の悪戯いたずらかと種々いろいろ穿索せんさくしたが、ついに其正体を見出し得なかつた。宿やどの者はあくまでも鼬と信じてゐるらしいとの事。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
こういうこともない例ではありませんが、あくまでも練れた客で、「後追あとお小言こごと」などは何も言わずに吉の方を向いて
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
はしらにも、ふるこけあつしてり、それがちりひとつなき、あくまできよらかな環境かんきょうとしっくりってりますので、じつなんともいえぬ落付おちつきがありました。
これに登って純白に輝く雪山の壮観をあくまで恣にしたというのが、此旅行の主なる目的であったのである。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
空氣はあくまで清澄にして、中に言ふべからざる秋の靜けさとさびしさとを交へたり。木曾川の溪流よりはあしたの水烟さかんに登りて、水聲のいさぎよき、この人世のものとしも覺えず。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
かの地上にありし日のイエスこそは、正に高き克己心と、清き熱誠との権化ではなかったか。彼はあくまでも自己を抑えて、真理の為めに一身を犠牲にすることを辞せなかった。
あくまで今日の着附けの自信を新吉に向って誇示しているらしかったが、やがて着物と同じ柄の絹の小日傘をぱっと開くと半身背中を見せて左の肩越しに新吉の方へ豊かな顎を振り上げた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
またはたのものも直ぐ駈けつけ参って詫言もしてやりますが、何をいうにも伊之吉へ一心を入れて情を立てる為にあくまで強情をはり、他人ひとの意見を用いませんので憎がられているときでげす。
見られ汝先年日野家に於て雜掌役ざつしやうやくの節は安田平馬と名乘しかと尋ねられければ平左衞門吃驚びつくりなせしかどもあくまで大膽だいたん者ゆゑ此事何所までも押隱おしかくさんとおもひ私し儀は然樣さやうの名にては御座なく候と云へば大岡殿打笑うちわらはれイヤ平左衞門又してもかくし立を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、彼は一概にこれを馬鹿馬鹿しいとけなしてしまうほどの生物識なまものじりでもなかった。市郎はあくまでも科学的にの怪物の秘密をあばこうと決心したのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御山谷は残雪は少ないが、草地続きで偃松の丈も低く、開豁で歩きよい。今日は途中待望の岳蕨だけわらびを採集し、中ノ谷で昼飯の際に味噌汁の実としてあくまで賞味した。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
なお自己おのが不幸に沈淪ちんりんしている苦痛を味わいかえして居るが如きものもあった、又其の反対にあくまでも他をあざけりさいなむような、氷ででも出来た利刃の如きものもあって
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うか……そうお前に強う云われたらもう是までじゃ、わしもどうせ迷いを起し魔界にちたれば、あくまでもよこしまく、私はこれで別れる、あなたはわずろうている身体で鴻の巣まできなさい
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)