すみやか)” の例文
果して然らば、たゞに国体を維持し、外夷の軽侮を絶つのみならず、天下之士、朝廷改過のすみやかなるに悦服し、斬奸の挙も亦あとを絶たむ。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
(がぶりと呑んでてのひらをチュウと吸う)別して今日は御命日だ——弘法こうぼう様がすみやかに金ぴかものの自動車へ、相乗あいのりにお引取り下されますてね。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この書は書肆しょしの熱意にて、極めてすみやかに出来、ふりがなを一度失いしためにあるいは校正の麁洩そせつもあらんかとそれのみをおそれます。
鍛冶かぢとき仕事しごとつかへてたが、それでもういふ職業しよくげふくべからざる道具だうぐといふと何處どこでもさういふれいすみやかこしらへてくれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
我義塾の命脈を絶つものと云うべし、彼の印鑑の如きはすみやかに之を火に投じて可なりとて、その語気凜々りんりん、決する所あるが如し。
故社員の一言今尚精神 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おもうに、本校の目的たる、学生諸君をしてすみやかに真正の学問を得せしめ、早くこれを実際に応用せしめんと欲するに在るのみ(謹聴、拍手)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
長寿安泰なるようしまた定業じょうごうむなく薨去遊ばされるとしても、すみやかに仏の浄土に往生せられ、無上の仏果菩提ぼだいに登られるようにと願った。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
麦飯は最もすみやかに胃中を去るもの故アトニー症によし。しかし麦の蛋白質の五割三分は吸収せられずして体外へ排泄せらる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かゝるなりはひする女子の習として、財を獲ること多しといへども、隨ひて得れば隨ひて散じ、暮年の計をおもはねば、その落魄もいとすみやかなり。
「その方はここをどこだと思う? すみやかに返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責かしゃくわせてくれるぞ」と、威丈高いたけだかののしりました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……唐太からふと島の事につき魯国との関係をすみやかに処分し、両国の境界を判然各国に知らしむる事、実に今日の急務と臆想せり。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
彼岸ひがんに達せんとすれどもながれ急なればすみやかに横断すべくもあらず。あるひは流に従つて漂ひあるひは巌角がんかくぢていこひ、おもむろにその道を求めざるべからず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その度ごとにすみやかに変る表情を鶴見は目ざとくたどって、少しく不気味に思うこともある。どうかすると彼は神々にも鬼畜にも、たちまちのうちに変貌する。
旧組織が崩れ出したら案外すみやかにばたばたいってしまうものだ。地下に水が廻る時日が長い。人知れず働く犠牲の数が入る。犠牲、実に多くの犠牲を要する。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
で、どうぞ喜平を御見誤りなしに能く御了解下されて、すみやかに保釈なり責付を御許可いたゞけますよう、御許可頂けましたら裁判所の御命令通りいたします。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
少女はその晩から源のもとにおって、普通の細君のように仕えた。源はその女から囲碁を習ったが、上達が非常にすみやかで、僅の間にその地方第一の碁客きかくとなった。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
不知庵フチアンがこのしよわが文界ぶんかい紹介せうかいしたる勇氣ゆうきをこよなくよろこぶものなり。だいかんすみやかでんことをつ。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
しか其時期そのじきるべくすみやかこれ決行けつかうせざるをぬと決心けつしんしたのはみぎ事情じじやうによるからであつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「敵は川中島に陣取り、我が糧道を絶ちたるため、我が軍の糧食は今後まさに十日にして尽きん。すみやかに春日山の留守隊に来援を命じ甲軍の背後をかしめられては如何いかん
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今までの芸者屋とは違うぞ、世間の評もよろしくないから、友之助の留守にはんな男が来ても留守だから上げることは出来んと云ってすみやかに帰せよ、必ず浮いた心を出すな
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先生すみやか肯諾こうだくせられ、わずか一日にして左のごとくの高序こうじょたまわりたるは、実に予の望外ぼうがいなり。
それ怪しがりて抱き下ろして見るに、大師もとの姿になり給ひぬ。使驚きて帝にこの由奏す。帝、仰せられけるは、他国のひじりなり、すみやかに追ひ放つべしと仰せければ、放ちつ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ神の正義を伝えんが為にここに来た。諸君、諸君は神を信ずる。何がゆえに神に従わないか。何故に神の恩恵おんけいこばむのであるか。すみやかにこれを悔悟かいごして従順なる神のしもべとなれ。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
青々せいせいたる春の柳、家園みそのゆることなかれ。まじはりは軽薄けいはくの人と結ぶことなかれ。楊柳やうりうしげりやすくとも、秋の初風はつかぜの吹くにへめや。軽薄の人は交りやすくして亦すみやかなり。
独奈ひとりいかんせん、才おろそかニ識浅く加之しかのみならず、単身孤四字消剣、窮困資材ニとぼしき故に成功すみやかならず、然に略海軍の起歩をなす。是老兄の知所なり。数年間東西に奔走し、屡〻故人に遇て路人の如くす。
... 今爾がいふ処いつわりならずば、すみやか東道あんないせよ、われきてその獲物を取らんに、什麼そもそは何処いずくぞ」トいへば。聴水はしたり顔にて、「大王速かに承引うけがいたまひて、やつがれまことに喜ばしく候。 ...
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
さうした私の悪意をきはめた陰口と見え透いたお世辞とによつて彼は転校者として肩身の狭い思ひから巧に舎内の獰猛組だうまうぐみに親交を求め、すみやかに己が位置を築くことに汲々きふ/\としてゐた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
われこそはおと名高なだか印度洋インドやう大海賊船だいかいぞくせんなり、なんぢ新造軍艦しんざうぐんかんうばはんとて此處こゝつこと久矣ひさしすみやか白旗はくきてゝその軍艦ぐんかん引渡ひきわたさばよし躊躇ちうちよするにおいては、われに七せき堅艦けんかんあり
一旦夫人の委嘱いしょくを成就した彼に取っては、すみやかに奥御殿の警備が解かれ、たやすく夫人に接近し得る機会の来ることが望ましいので、こうして城中の不安を除こうと謀ったのであった。
この標品の始末をすみやかになし遂げる迄は、私は安泰としてはいられない気持でいる。
「貴下のなしつつあるすべては皆無益にしてかつ危険なり……すみやかに断念せられよ」
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
左様さうであつたとのことですナ」と篠田は首肯うなづき「しからば君、少しもはばかる所は無い、すみやか彼女かれを濁流より救ひ出だして、其愛情を全うするがいと、忠告致しました、所が彼は躊躇ちうちよして、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「被告ダメス王の鼻よ、汝に於て弁疏べんそせむと欲するところあればすみやかに述べよ」
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
予は今世このよの別れとは知り、忍びざるも、然れども露国に対するの戦端開け、又一が召集せらるるも近きにあらんか、依てすみやかに又一を札幌に出でしめ、責めては存命中に又一に面会せしめて
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
その人影は非常な勢ひで、オリムピツクの選手チヤムピオンの如くすみやかに此方へ駆けて居ります。注意して見るとそれはたしかに味方の兵士ではあるが、服装の様子がどうも違つてゐるやうに思はれました。
青白き公園 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
移してすみやかに北海道を経営するは今日開拓の一大急務にして——
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
おお釣鐘と白拍子と、飛ぶ、落つる、入違いれちがいに、一矢ひとやすみやかに抜取りまして、虚空こくうを一飛びに飛返ってござる。が、ここは風が吹きぬけます。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もし私にも御嫌疑被為在候へば、何等の弁解も不仕候間、すみやかに私御召捕おめしとりに相成、私一人誅戮ちゆうりく被為遊あそばされ、他之者は不残のこらず御赦免之御処置相願度あひねがひたく奉存候。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「その方はここをどこだと思ふ? すみやかに返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責かしやくはせてくれるぞ。」と、威丈高ゐたけだかののしりました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この食物はこうして料理すれば消化吸収がすみやかだという事を知っていて病家びょうかの人に注意するだけでも非常な利益になる。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一、物音は古楽器の外を禁ず、流俗に用ゆる所の器を携来たずさえきたり奏するものあらば饒舌じょうぜつおうすみやかに飛振すべし、しかあらん後はその人を謝絶して再び到る事を許さず
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けだ勝氏かつしはい所見しょけんは内乱の戦争を以て無上の災害さいがい無益むえき労費ろうひと認め、味方に勝算しょうさんなき限りはすみやかして速にことおさむるにかずとの数理を信じたるものより外ならず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
正義の為に富豪を罰する我が団体の名を断りなくかたりて、私欲の為に肉身をあざむく、その罪大なり。すみやかなんじの得たる金を差出せ、然らずんば我等は暴力をって汝に臨まん。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
何うか遺失主を調べて返したいと思って居た処、お持主が其のもとであればすみやかにお返し申すのみで、何も其の儘で壱銭も中の金銭かねは遣い捨てません、それがたしかなる証拠で
球ありて此卓上を走り、その留まる處の色は、賭者をして倍價の銀をち得しむ。傍よりうかゞふに、そのすみやかなることは我脈搏と同じく、黄白のたいは忽ち卓に上り又忽ち卓を下る。
其思惑資金そのおもわくしきんだけのきん用意よういしなければきん解禁かいきん出來できないとにが經驗けいけんをしたのであるから、したがつ今般こんぱん金解禁きんかいきんごとるべくすみやかにその決行けつかう必要ひつえうとする場合ばあひ投機思惑とうきおもわく圓貨ゑんくわたいしておこなはれ
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
人生に相渉るが故に人生を離るゝ事も亦たすみやかならんとす。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「それが怪しい、すみやかに去るがよい」
碧玉の環飾 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
執リテ矻々こつこつ事ニ是レ従フト雖モ俗累ぞくるいちゅうヲ内ニ掣シテ意ノ如クナラズ其間歳月無情ゆきテ人ヲ待タズ而シテ人生寿ヲクル能ク幾時ゾ今ニシテ好機若シ一度逸セバ真ニ是レ一生ノ恨事こんじ之ニ過グルナシ千思せんし万考ばんこうすみやかニ我身ヲ衣食ノ煩累はんるいト絶ツノ策ヲ画スルノ急要ナルヲ見又今日本邦所産ノ草木ヲ図説シテ以テ日新ノ教育ヲ
真綿を黄に染めたような、あの翼が、こうすみやかに飛ぶのに馴れるか。かつ感じつつ、私たちは飽かずにながめた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)