まず)” の例文
露子つゆこうちまずしかったものですから、いろいろ子細しさいあって、露子つゆこが十一のとき、むらて、東京とうきょうのあるうちへまいることになりました。
赤い船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
心からかなしんでいるのでした。ふたりはまずしい百姓ひゃくしょうでした。持っている土地といえば、わずかに庭ぐらいの大きさのものでした。
どんなにまずしい人でも、東京へさえいけば、なにかはたらく道もあるし、りっぱになれるということを村の人たちから聞かされていたからです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
やがてとうとう、その布団ふとんはもと、あるまずしい家のもので、その家族が住んでいた家の家主やぬしの手から、買い取ったものだということがわかりました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
けれども、ほんもののナイチンゲールのうたうのを聞いたことのある、あのまずしい漁師たちだけは、こう言いました。
第一幕と同じさびしき浜辺はまべ熊野権現くまのごんげんの前。横手にまずしき森。その一端に荒き丸太まるたにてつくれる形ばかりの鳥居とりい見ゆ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
釈迦しゃかが東西南北の門をで、あるいは病める者あるいは死せる者、あるいは老いたる者あるいはまずしき者を見て、人生観に新しき立脚地を開いたが
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
みやこでも近ごろはそなたのうわさをしばしば耳にする。いさましいことである。けなげなことである。そなたは、まずしくとも、信玄公しんげんこうの名をはずかしめない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まずしきといやしきとは人のにくむところなりとあらば、いよいよ貧乏がきらいならば、自ら金持ちにならばと求むべし、今わが論ずるところすなわちその法なり
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
然しこのまずしい小さな野の村では、昔から盆踊ぼんおどりと云うものを知らぬ。一年中で一番好い水々みずみずしい大きな月があがっても、其れは断片的きれぎれに若者の歌をそそるばかりである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……ひえか麦のまずしい握飯むすびを、尊い玉ででもあるかのように両手で捧げ持っている敬虔なようすも、見るたびに、無垢な感動を、キャラコさんのこころのなかにひきおこす。
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ズックのくつは、ちんぼつしかけたボートのようにへしつぶれて、先のほうから指がのぞいている。これがあとにもさきにもまずしいかれのただ一まいの着物、ただ一そくのくつだった。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
あるまずしい男にむすこが生まれましたが、なにしろひどい貧乏なので、名づけ親になってやろうという人が、たれひとり見つかりません。一軒いっけん一軒いっけんあるいてみましたけれど、むだぼねおりでした。
私は大いに感じまして、どうしてこんなまずしい家で子供に手習をさせるかと思って尋ねますと、この辺は皆農家であって地主じぬしに小作料をおさめます時分に字を知らないというと地主にごまかされる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まずな調度の中に、二枚屏風びょうぶを逆様にして、お君の死体は寝かしてありました。枕許まくらもとには手習机てならいづくええて、引っきりなしにこうひねっている五十男は、お君の父親で清水屋の亭主の市兵衛でしょう。
「あなたがまずしかったときおまえのあいしたこの人たちもね」
あつむべからずまずしきもの旅客たびびとのためにこれをのこしおくべし
聖家族 (新字新仮名) / 小山清(著)
はなしはべつに、あるまち病院びょういんで、まずしげなふうをした母親ははおや少年しょうねん二人ふたりが、待合室まちあいしつかたすみで、ちぢこまって、いていました。
きつねをおがんだ人たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、この村はどの家も、どの家もまったくまずしいくらしをしているので、どこでも清造ひとりを余計よけいやしなっておけるような家はなかったのです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
王室おうしつ御衰微ごすいびをなげくことと、戦国の馬塵ばじんにふみつけられてかえりみられないまずしい者をあわれむ心はつねに、この人々のむねえているところだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ですから、仕事にいそがしい、まずしい漁師でさえも、夜、あみをうちにでて、ナイチンゲールの歌声を耳にすると、思わず仕事の手をやすめてはじっと聞きいったものでした。
ある日のこと、その婦人が広間ひろまにすわって、糸をつむいでいると——これは、そのころの習慣しゅうかんだったんだ——ひとりのまずしい百姓ひゃくしょうがはいってきて、戸口とぐちこしかけに腰をおろした。
そのときのようすなどがにうつると、ごろから、一つの風船球ふうせんだまにも、まずしいひとたちのなみならぬ労力ろうりょくが、かかっているとおもった。
おさくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いや、戦国の武将ぶしょうたちは、みんなそれを忘れている。もうひとつ忘れていることがある。それはまずしい下々しもじもたみだ。われらの味方みかたするのはその人たちだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おかみさんもいい人でした。しかし、まずしい暮しをしている人は、時々自分でも思いがけないように腹をたてるものです。おかみさんにもそんなくせがありました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
歌をうたう小鳥は、まずしい漁師や、農家の屋根の上をも飛びまわりますし、陛下や、この御殿からはなれた、遠いところにいる人たちのところへも、飛んでいくのでございます。
こいでいるほうの男は、見たところ、まずしい漁師りょうしのようでした。こがらで、やせこけて、いかにも雨風あめかぜに打たれたという顔をしていました。そして、うすっぺらな、すりきれた上着うわぎを着ていました。
「これはえらひとだぜ。ただしい、まずしいひと味方みかたなんだ。おまえは、このひとっているのかい。」と、かれらは、たずねました。
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あるところに、おじいさんと、おばあさんとがんでいました。そのうちまずしく、子供こどもがなかったから、さびしい生活せいかつおくっていました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
始終しじゅう不自由ふじゆうをして、まずしくんでいった母親ははおやのことをおもうと、すこしのたのしみもさせずにしまったのを、こころからいるためもありました。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
このとき、あちらからきはらした、まずしげなおんながやってきました。そのおんなは、もうだいぶのとしとみえて、頭髪かみのけしろうございました。
強い大将の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
よるになったときに、おひめさまは、みんな自分じぶんのようなまずしいようすをした旅人たびびとばかりのまる安宿やすやどへ、はいってまることになされました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれは、この小学校しょうがっこう卒業そつぎょうしたのだけれど、いえまずしくて、そのうえ学校がっこうへは、もとよりがることができなく、小使こづかいにやとわれたのでした。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
それにしても、このまずしげなさまはどうしたのだろうと不思議ふしぎおもわれて、なおもその人間にんげんのゆくさきつづけていました。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
あきがたのことであります。まずしい母親ははおや二人ふたり子供こどもをつれて、街道かいどうあるいて、まちほうへきかかっていました。二人ふたり子供こどもおとこでした。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うつくしいつばさがある天使てんしが、まずしげないえまえって、心配しんぱいそうなかおつきをして、しきりとうちのようすをろうとしていました。
いいおじいさんの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なるほど、このまずしいみせさきをまわしても、このうつくしい、いきいきとしたあかはなはちよりほかに、をひくようなものはありませんでした。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むすめ母親ははおやは、ながあいだまずしい生活せいかつをしてきました。それは、自分じぶんうでひとつではたらいて、たくさんの子供こどもそだてなければならなかったからです。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
天使てんし自分じぶんさむいことなどはわすれて、ただこのまずしげないえのようすがどんなであろうということを、りたいとおもっているふうにえました。
いいおじいさんの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それを注意ちゅういするのは、まずしいいえまれておや手助てだすけをするために、はやくから工場こうじょうへいってはたらくような子供こどもらばかりだ。
ある夜の星たちの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
みんなは、うすい着物きものしかきていません。また、それほどいろいろのものをっている道理どうりとてありません。まったく、まずしいひとたちでありました。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
海岸かいがんに、ちいさなまちがありました。まちには、いろいろなみせがありましたが、おみやのあるやましたに、まずしげなろうそくをあきなっているみせがありました。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
露子つゆこは、まずしいうちまれました。むら小学校しょうがっこうがったとき、オルガンのおといて、なかには、こんないいおとのするものがあるかとおどろきました。
赤い船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女房にょうぼううちは、まずしかったのであります。主人しゅじんは、行商ぎょうしょうをして、晩方ばんがたくらくならなければかえってこなかったのでした。
お化けとまちがえた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これがかれこころおきてとなっていました。すこしでもりょうおおいのをよろこんだ、このあたりのまずしい生活せいかつをしている人々ひとびとは、わざわざかれみせへやってきました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
あわれなははは、まずしかったから、そのになんのかざりというものをつけていなかったけれど、あたまかみに、あおたまのついているかんざしをさしていました。
お母さんのかんざし (新字新仮名) / 小川未明(著)
このおじいさんは、たいそうさけきでしたが、まずしくて、毎晩まいばんのように、それをむことができませんでした。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ついに、秀吉ひできち母親ははおやが、学校がっこうされました。かれのすんでいる部落ぶらくは、まずしい人々ひとびとあつまりでもありました。
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、なかに、しあわせな、まずしい、自分じぶんはは姿すがたえがいて、どくおもわずにはいられなかったのです。
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そうです。あのまずしいいえ二人ふたり子供こどもも、もうとこなかをさましています。」と、やさしいほしはいいました。
ある夜の星たちの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)