“積(つもり)” の例文
後(のち)に僕の死んでゐるのが、そこで見出されるだらう。長椅子に掛けてある近東製の氈(かも)を、流れ出る僕の血が汚(けが)さないやうにする積(つもり)だ。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
「私(わたい)を口説く気で、可(よ)うござんすか。まったくは、あの御守殿より、私の方が口説くには煩(むずかし)いんだから、その積(つもり)で、しっかりして。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十字軍とは余り大袈裟(おほげさ)にあらずや、凡神的とは多分、禅道を唱へらるゝ天知翁を苦(く)るしめる積(つもり)にて、唯心的とは僕をいぢめる積ならむ。
人生の意義 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ペリカンを追い出した余は其姉妹に当るオノトを新らしく迎え入れて、それで万年筆に対して幾分か罪亡(つみほろ)ぼしをした積(つもり)なのである。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう一仕事する積(つもり)で来た処が、まア斯(こ)ういう訳になりましたから何卒(どうぞ)私へ縄を掛けて突出してお呉んなせえ……やい番頭、さ、己を縛れ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夫人は「先生は結局お出に成らねばなりますまい。併(しか)し其(その)代りに政府は先生の製作を買つて此(この)家をロダンの博物館(ミユウゼ)と致す積(つもり)でせう」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
そこで衆人(みんな)の心持(こゝろもち)は、せめて畫(ゑ)でなりと志村(しむら)を第(だい)一として、岡本(をかもと)の鼻柱(はなばしら)を挫(くだ)いてやれといふ積(つもり)であつた。自分(じぶん)はよく此(この)消息(せうそく)を解(かい)して居(ゐ)た。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いや番をする積(つもり)でいたのは、多分私だけだったかも知れません。主任も巡査も、昼間の手紙のことなんかてんで問題にしていないのです。
盗難 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
如何(いか)に悪人でも、義理の姉を手にかける事は出来ないさ、あの洞穴の中で飢死させてから、底無し沼へ沈める積(つもり)だったのだろう。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「私の東京に参りましたのは、そういうことには寧(むし)ろ関係しない積(つもり)でおます。別段こちらに居りましても、二人の間にはどうという……」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
だが、高木氏の考へは少し拙(まづ)かつた。そんな事を教へて今の紳士達がすつかり達者になつて、長生(ながいき)でもしたら何(ど)うする積(つもり)だらう。
いかにも言(い)はれる通(とほり)で、其(その)頭痛(づつう)のために出立(しゆつたつ)の日(ひ)を延(の)ばさうかと思(おも)つてゐますが、どうして直(なほ)してくれられる積(つもり)か。何(なに)か藥方(やくはう)でも御存(ごぞん)じか。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
其時両君は登山する積(つもり)であったそうだが、遂に果すことが出来なかった。自分は南日君に慫(すす)められて、同年の八月に登山した。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
隨分(ずいぶん)急(えそ)えだ積(つもり)だつけがこんなに遲(おそ)くなつちやつて、何(なん)ちつても日(ひ)は短(みじか)くなつたかんな、さう云(ゆ)つても怪我人(けがにん)ちや有(あ)るもんだな
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
危険と言ふのは其処である、卵の如き青年の頭脳へ、社会主義など打ち込んで如何(どう)する積(つもり)であるか、ツイ先頃も私(わし)が子女等(こどもら)の室を見廻はると
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「いや、昔風の手堅い商家だそうです。大番頭が妻の身寄のものですから、家の様子は能く分っている積(つもり)ですし、尚お幾らでも問い合せます」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼は絨毯の上を、しつかりと歩んでゐた積(つもり)であつたが、もし傍観者があつたならば、その足付が、宛然(まるきり)躍つてゐるやうに見えたかも知れない。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
實(じつ)に前後(ぜんご)の形勢(けいせい)と、かの七隻(せき)の船(ふね)の有樣(ありさま)とで見(み)ると、今(いま)や海蛇丸(かいだまる)は明(あきらか)に何事(なにごと)をか我(わが)軍艦(ぐんかん)に向(むか)つて信號(しんがう)を試(こゝろ)みる積(つもり)だらう。けれど私(わたくし)は審(いぶ)かつた。
「それは何方(どつち)だツて可(よ)うございますけれども、私は何も自分から進むで貴方(あなた)と御一緒になツたのぢやございませんから、何(ど)うぞ其のお積(つもり)でね。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
日曜の数一歳すべて五十日、積(つもり)て十年に及べば五百日あり、二十年にして千日あり、三十年にして千五百日あり、すなわち四歳有一月(ゆうひとつき)の光陰なり。
日曜日之説 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
当人達は隠す積(つもり)でも其家の者が黙って居ません、警察へ馳附るとか隣近所を起すとか左も無くば後で警察へ訴えるとか何とか其様な事を致します
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
振り起しイザヤ他の酒樓に上りて此の憂悶を散ずべし豫(かね)て此(こゝ)にて大盛宴を開く積(つもり)ならずや我輩勞(つか)れたりと云へどよく露伴太華の代理として三人分を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
人は老しても無病なる限りは唯(ただ)安閑としては居られず、私も今の通りに健全なる間は身に叶う丈(だ)けの力を尽す積(つもり)です。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
やあ、僕の理想は多角形で光沢があるの、やあ、僕の神経は錐(きり)の様に尖(とン)がって来たから、是で一つ神秘の門を突(つッ)いて見る積(つもり)だのと、其様(そんな)事ばかり言う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
次第に積(つもり)たる雪所(ところ)として雪ならざるはなく、雪光(せつくわう)暗夜(あんや)を照(てら)して水の流(ながる)るありさま、おそろしさいはんかたなし。
同臭のものを尋ねて欧洲(おうしゅう)大陸を半分位は歩いていましょう。何でも親達(おやたち)は軍人にする積(つもり)で、十ばかりの奴(やつ)を掴(つか)まえてウィインの幼年学校に入れたのだそうです。
種々(いろいろ)言はれる為に可厭(いや)と言はれない義理になつて、若(もし)や承諾するやうな事があつては大変だと思つて、家(うち)は学校へ出る積(つもり)で、僕はわざわざ様子を見に来たのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
端書の表面には「趨町下六番町泉様方にて」とあって、何うして上京したのか、妹二人は何うしたのか、これから何うする積(つもり)か、そんな事は何も書いてなかった。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
自分はかう云ふ暴逆的×××主義を宣伝する積(つもり)ではないのであつた。自分が云つた改革は、訓練と教育との力を待つて、自然に起る変化の道程を示すと云ふことであつた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
二三年勤める積(つもり)で、陸軍には出た。大尉になり次第罷(や)めるはずである。それを一段落として、身分相応に結婚して、ボヘミアにある広い田畑を受け取ることになっている。
相変らずの油照(あぶらでり)、手も顔も既(も)うひりひりする。残少なの水も一滴残さず飲干して了った。渇(かわ)いて渇いて耐えられぬので、一滴(ひとしずく)甞める積(つもり)で、おもわずガブリと皆飲んだのだ。
この暑中休暇は東京で暮す積(つもり)だと言つて来たのを、故家(うち)では、村で唯一人の大学生なる吾子の夏毎の帰省を、何よりの誇見(みえ)にて楽みにもしてゐる、世間不知(しらず)の母が躍起になつて
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「まあ、眼鏡はもう二三年懸けない積(つもり)です。懸けた方が目の為には好(いい)と言いますけれど」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「趣味の遺伝」で時間がなくて急ぎすぎたから今度はゆるゆるやる積(つもり)です。もしうまく自然に大尾(たいび)に至れば名作、然らずんば失敗、ここが肝心の急所ですからしばらく待って頂戴。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お辰が御前に惚たも善く惚たと当世の惚様(ほれよう)の上手なに感心して居るから、媼(ばば)とも相談して支度出来次第婚礼さする積(つもり)じゃ、コレ珠運年寄の云う事と牛の鞦(しりがい)外れそうで外れぬ者じゃ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところが僕はきょうでも立たれる積(つもり)だ。この厭な部屋の外へ出てさえしまえば、僕はたしかに生れ変ったような人間になる。このままにしてここに置かれては、僕は一日一日危険を
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
通り候機(をり)出格子(でがうし)の中にて金談(きんだん)の聲致すにより何事やらんと承まはりしに彦兵衞事無心(むしん)の處折惡(をりあし)く百兩は御門跡に奉納の願ひにて御講中(おかうぢう)に差上る積(つもり)是(これ)見給(みたま)へとて彼女隱居は紙に包みし金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
第三編は前編の考を基礎として善を論じた積(つもり)であるが、またこれを独立の倫理学と見ても差支ないと思う。第四編は余が、かねて哲学の終結と考えている宗教について余の考を述べたものである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
小生なども其積(つもり)にて、日々勉学いたし候事に候。物書くこともあながち多く書くがよろしきには無之(これなく)、読む方を廃せざる限(かぎり)は休居(やすみおり)候ても憂ふるに足らずと存じ候。歳暮御忙しき事と御察し申上候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
お前さん達のお望(のぞみ)を愜(かな)えることなら、わたしにも出来る積(つもり)だ。875
して見るとトライチケは、独乙が全欧のみならず、全世界を征服する迄、此軍国主義国家主義で押し通す積(つもり)だつたかも知れない。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども僕の運命の怪しき力に惑(まど)うて居る者ですから、其積(つもり)で聴いて下さい。若(も)し原因結果の理法と貴様(あなた)が言うならそれでも可(よ)う御座います。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「此(こ)の野郎(やらう)こんな忙(せは)しい時(とき)に轉(ころ)がり込(こ)みやがつてくたばる積(つもり)でもあんべえ」と卯平(うへい)は平生(へいぜい)になく恁(こ)んなことをいつた。勘次(かんじ)は後(あと)で獨(ひと)り泣(な)いた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼は絨毯の上を、しっかりと歩んでいた積(つもり)であったが、もし傍観者があったならば、その足付が、宛然(まるきり)躍っているように見えたかも知れない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
手の汗を、ずぼんの横へ擦(こす)りつけて、清めた気で、くの字形(なり)に腕を出したは、短兵急に握手の積(つもり)か、と見ると、揺(ゆる)がぬ黒髪に自然(おのず)と四辺(あたり)を払(はらわ)れて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一言で云えば椙原家の財産が欲しかったからさ、我々を全部やっつけて、椙原家を自分の物にする積(つもり)だったんだ。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私の文学上の意見も大業だが、文学については先(ま)あ其様(そん)な他愛のない事を思って、浮れる積(つもり)もなく浮れていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「何の、私(わし)は寝たよりも醒(さ)めてる方が楽(たのしみ)だ——此の綿を紡(つむい)で仕舞(しま)はんぢや寝ないのが、私の規定(きめ)だ、是れもお前の袷(あはせ)を織る積(つもり)なので——さア、早くお寝(やす)み」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
無論(むろん)、妻(つま)は大佐(たいさ)の病氣(びやうき)次第(しだい)で早(はや)かれ遲(おそ)かれ歸(かへ)つて來(き)ますが、兒(こ)は永(なが)く/\——日本帝國(につぽんていこく)の天晴(あつぱ)れ軍人(ぐんじん)として世(よ)に立(た)つまでは、芙蓉(ふよう)の峯(みね)の麓(ふもと)を去(さ)らせぬ積(つもり)です。
それで少し安心して、こつちから吉田を出すことも控へて置いた。併し数人(すにん)の申分(まをしぶん)がかう符合して見れば、容易な事ではあるまい。跡部はどうする積(つもり)だらうか。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)