異様いよう)” の例文
旧字:異樣
と声があって、その衝立のうしろから現われた異様いような人物。長い中国服を着、その上に白い実験衣をフワリと着ている猫背ねこぜの男だった。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
異様いような、帆船はんせん姿すがたが、ありありといたおもてえたかとおもうと、また、その姿すがたは、けむりのごとく、しだいにうすれてえてしまった。
びんの中の世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして異様いような力から解放かいほうされた若者は、黒い影法師を老人の足もとにのこしておいたまま、池の方へ下っていって、みぎわまでくると立ちどまった。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そのゆくえにつられて、いっせいに、空へうわむきになった群集ぐんしゅうのひとみは——ハッと一しゅんに、なにか異様いようなものにつきあたったかのように
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この地方の牧場でその害をこうむらないものはなく、深夜はるかにその長くひいた異様いようなほえ声を聞くと、たれでもぞっと身ぶるいがするという。
まつろうひざもとから、黒髪くろかみたばりあげた春重はるしげは、たちまちそれをかおてると、次第しだいつの感激かんげきをふるわせながら、異様いようこえわらはじめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
よくもわずかの間に、とんでもないことを仕出しでかしたものだと、むかしの友人のかわりはてた異様いようなすがたをながめながら、ケンプ博士はくしがたずねた。
川音清兵衛かわおとせいべえ殿とのにまで申しあげます。拙者せっしゃの乗馬朝月あさづきが、こよい異様いようにさわぎまして、くらをかみます。そこで、鞍をつけてやりますと、静かにあいなりました。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
その人びとの中にまじって、一人の異様いような紳士が——満身にすばらしい香水の匂いをプンプンさした紳士が、右手をスプリング・コートのポケットへ入れたまま
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
横なりに、くの字にねたまま、砂の上にかみをじかにくっつけている。笑ったものも、手をたたいたものも、だまりこんでしまった。異様いようなものを感じたのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
地理学者や探険家たんけんかならばちょっと標本ひょうほんって行けそうなものではありましたがまだまったくあたらしく黄いろと赤のペンキさえられていかにも異様いように思われ、その前には
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一たんは、はっとおどろきましたが、それがなにかのお通報しらせであろうとがついてこころちつけますと、つづいて瀑布たき方向ほうこうあたって、みみがつぶれるばかりの異様いよう物音ものおとがひびきます。
どこか岩壁がんぺきのあいだに適当てきとうな物置きぐらがなかろうかと富士男は四、五人とともに、北方の森のなかをさがしまわった、するととつぜん異様いようのさけびがいんいんたる木の間にきこえた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そして、それが先生の言っているのと同じ気持ではないだろうか、という気がして、異様いような興奮を覚えたが、やはり、口に出しては何とも言いかねた。すると、先生は、急に笑い出し
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
はじかれ寒気さむけおぼえ、吐気はきけもよおして、異様いよう心地悪ここちあしさが指先ゆびさきにまで染渡しみわたると、なにからあたま突上つきあげてる、そうしてみみおおかぶさるようながする。あおひかり閃付ちらつく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
全員が掘っているため、彼らは自分たちの様子をうかがっている異様いようないでたちの一団がそば近くにいることに気がつかなかった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
慟哭どうこくして抱き合うかのごとき異様いような声がやがてそこに聞えた。走り寄ったふたりは、すぐ、主君の身をたすけ起していた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このはなしをきいていたとりたちは、びっくりしました。またそのはなしのうちでも、やさしい人間にんげんすくわれたということが異様いようかんじられたのでありました。
小さな金色の翼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それにでえいち、あのこえがいけやせん。おせんの浴衣ゆかたかたからすべるのを、ていなすったまでは無事ぶじでげしたが、さっといでりると同時どうじに、きゃっとこえた異様いよう音声おんせい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ここでわたくし竜神様りゅうじんさまのおやしろって、いろいろお指図さしずけたなどともうしますと、現世げんせ方々かたがたなかにはなにやら異様いようにおかんがえになられるものがないともかぎりませぬが、それは現世げんせ方々かたがた
「さあ池の方へ歩いてゆきなさい。」若者はいわれた通り歩こうとした。けれども異様いような力が背後からひっぱっていることに気がついた。「歩きなさい。」と老人は命令するようにいった。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
春は目の前にきていながらめずらしく雪のる中を、ひとバスおくれた大石先生は、学校前の停留所ていりゅうじょからかさもささずに走って、職員室にとびこんだとたん、異様いよう室内しつないの空気に思わず立ちどまり
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
このとき異様いよう震動しんどうとともに、幼年者たちの泣き声がきこえた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
異様いような顔をした機械人間ロボットは、階段をおりきると、谷博士と五人の少年がかたまっているところへ、金属音きんぞくおんの足音をひびかせながら近づいた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふたたびをつぶってふえきますと、一人ひとり一人ひとり異様いようかたちをした人間にんげん自分じぶんのまわりにして、わらったりねたり、はなしをはじめるのでした。
赤い船のお客 (新字新仮名) / 小川未明(著)
頭の上でガラガラと異様いようなものおとを聞いたかと思うと、四、五枚の青銅瓦せいどうがわらが、ひさしのはしから落ちてくるなり本殿ほんでん平屋ひらやかわらの上で、すさまじい金属音きんぞくおんを立てた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、まつろうは、次第しだいはないてくる異様いようにおいに、そのままそこへたたずんでしまった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それは丁度ちょうど悪夢あくむおそわれているようなかんじで、その無気味ぶきみさともうしたら、まったくおはなししになりませぬ。そしてよくよくつめると、そのうごいてるものが、いずれもみな異様いよう人間にんげんなのでございます。
蓄音機から出てくる音楽と、音叉から出る正しい振動数の音とがたがい干渉かんしょうし合って、また別に第三の音——一しゅ異様いよううなる音が聴えはじめたのであった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
竹童は、とくいの口笛くちぶえを吹きながら、ほかのさるとごッたになって、深林のおくへおくへとかけこんでいったが、ややあって、頭の上でバタバタという異様いようなひびき。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
からすは、さむさとつかれに、半分はんぶんじていますと、ふいに、そらのあちらから、異様いようひびきがきこえたのです。からすは、このおとくと、おもわずぞっとしました。
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それが一人は警官の帽子を着た老人です。もう一人は白い手術着のような上に剣をつった男で、何だか見たような人間だと云ってます。異様いよう扮装いでたちです」
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あたかも、くらくもやぶってつきらしました。つきは、うみうえをくまなく、ほんのりとあかるくしました。そのとき、しろはしで、異様いようかがやきをはなったものがあります。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……信長と名を聞くだに、すぐ異様いような眼をかがやかすこの中国だ。御着ごちゃくの家老たるわしがそこへ行ったなどと知れたら、たちまちかなえくような騒ぎになる。故に、あくまでひそかに参らねばならぬ。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博士は、思わず両手で目をおおったが、それはもうまにあわなかった。博士は一瞬間に目が見えなくなってしまった。そして異様いような痛みが博士の全長を包んだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まち工場こうじょうへは、まだくまいとおもっていた瞬間しゅんかんに、トロッコが脱線だっせんして、異様いようおとをたてたかとおもうと、こちらへすべってきてすぎの若木わかぎのかたわらにひっくりかえったので
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今や場内は異様いよう妖気ようきに包まれてしまった。これが東京のまん中であるとは、どうしても考えられなかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また、ふえあななかからびだして、まぼろしなかわらったりねたりした、異様いような、帽子ぼうし目深まぶかにかぶった洋服ようふくおとこも、ほんとうに、砂山すなやましたをてくてくとあるいているのでした。
赤い船のお客 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただどこやらから、地下戦車のエンジンの響きが聞えるのと、立っている人々の足に、じんじんじんと、異様いよう地響じひびきが伝わるのと、たったそれだけであった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
異様いようかんじたからであります。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
では、御免ごめん遊ばせ。まア博士せんせいの研究室の此の異様いようなる感覚は、どうでしょう! まるでユークリッドの立体幾何室を培養ばいようし、それにクロム鍍金めっきを被せたようですワ。
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうしたものかと考えこんでいるとき、どこからか、異様いようなうなり声を聞いた。それは猛獣が遠くでえているようであった。わわわンわわわンとトンネルへひびいた。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてもしも異様いような雑音が出たなら、それを録音しておくといいね。録音しておけば、あとでゆっくり分析も出来る。ぼくがやってあげでもいい。まあ力をおとさないように
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いや、そうじゃない。じつは昨夜からかぜをひいて気持がわるかったのだ。この部屋へはいったとき、異様いようなにおいがして、頭がふらふらとしたのだ。心配はいらんです」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのとき彼は、自分のうしろに異様いような気配を感じたので、はっとしてふりかえろうとした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、異様いようなその風態ふうていは、牛丸平太郎からなんども聞かされていた。鬼にもひとしい四馬頭目の残忍ざんにんぶりは、戸倉老人や牛丸平太郎から、耳にたこができるほど聞いていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
だがその異様いようないでたちの彼を何と思って眺めたであろうか、スカートの短いところでカムフラージュされるとしても、生憎あいにく彼にしなだれかかっていたコケットのおキミを見落みおとはずはなかった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてこの建物は異様いような形をしていて、だれも一度見ると忘れられない。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天地もひっくりかえるような大音響だいおんきょうが起った。入口の方からは、目もくらむような閃光せんこうが、ぱぱぱぱッと連続して光った。防空壕は、船のように揺れた。そして異様いような香りのある煙が、侵入してきた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そう大きくない音だが、肉を切るような異様いように鋭い音だった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)