はて)” の例文
四五日しごんちすると夫人が来る。そこで今度は二人してまた東西南北をけ廻った揚句のはてやはりチェイン・ローがいという事になった。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにも痴情のはてではあるまいし、屍体を素裸にして、ストーブの中に逆さ釣りにして燃やすなんて手数のかかることをするものですか
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ぞなし居たり感應院が食事しよくじ仕果しはてし頃を計り寶澤も油掃除あぶらさうぢなしはて臺所だいところへ入來り下男げなん倶々とも/″\食事をぞなしぬむねに一物ある寶澤が院主ゐんしゆの方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「情死じゃアねえが、大方痴戯いたずらはてだろうよ」「いや、菊屋のかみさんが残酷ひどいからだ、以前このまえもあそこの下女で井戸へ飛んだ者がある」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ゆびさして、それを、もとのわが家なる木戸の際に、みちおおいて繁りたりしかの青楓のはてなりと、継母の語りし時、われは思わず涙ぐみぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは先年せんねん西海せいかいはて崩御ほうぎょあらせられた貴人きじん御霊みたまであったが、それを拝すると共に眼前めさきくらんで馬から落ちたのだと云う噂であった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
猟奇のよ、卿等けいらは余りに猟奇者であり過ぎてはならない。この物語こそよきいましめである。猟奇のはて如何いかばかり恐ろしきものであるか。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さだまりの女買おんながい費込つかいこんだ揚句あげくはてに、ここに進退きわまって夜更よふけて劇薬自殺をげた……と薄気味悪るく血嘔ちへどを吐く手真似で話した。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
風流の道というものは長崎のはての先生でも、奥州の人とも手紙の遣り取りをして交際つきあいをするものだがね、久馬様はおなくなりになって
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はてしがないからいい加減に見当を付けて降り始めたが、忽ち急な雪渓が私達の足を封じてしまった。どうも東へ寄り過ぎたようだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あげくのはてが、永井荷風ながいかふう先生、宇野浩二先生、瀧井孝作たきいこうさく先生方を始め悪口雑言あっこうぞうごん無礼妄言ぶれいもうげんの数々、性来のオッチョコチョイで仕方がない。
インチキ文学ボクメツ雑談 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
其樣そんなものに鼻毛はなげよまれてはてあとあしのすな御用心ごようじんさりとてはお笑止しようしやなどヽくまれぐちいひちらせどしんところねたねたしのつも
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
野母のも半島の彼方かなたには、玄界灘がはてしもなく、別にまた橘湾と玄海を結びつける天草灘があり、大小の天草列島が、その間に星散碁布せいさんきふする。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
いろいろの花をつないだくさの糸は、湖のまわりを一まわりしてもまだ余るほどで、はては広い野原のくさにかくれて見えなくなっております。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
岸つづきの珍らしい山河や、夜になると明るくなってくる都会が、この岸つづきのはてにあるのだ。おれはそれを考えるとたまらなくなる。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
厳寒地の生鮮蔬菜そさいの貯蔵の問題は、満州などでも大分騒がれているようであるが、樺太の北のはてではどうなっているのであろう。
ツンドラへの旅 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
今や僕の力は全く悪運の鬼にひしがれて了いました。自殺の力もなく、自滅を待つほどの意久地いくじのないものと成りはてて居るのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そこで、これははてしがない、少しはしょッてという気になって、前号の終りに以後一年半ほどの事を、ひとまとめに、こう書いてしまった。
「出来る」「いや出来ぬ」「見事拙者がやってお目にかけよう」「何んの貴殿如き」と、はてしもなく意地を張り続けました。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
一体今度の革命軍と云ふものは内外人の心が北京ペキンの政治に厭きはてたと云ふ都合のよい機運に会したので意外の勢力となりつつある様であるが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
温泉場で懇意になったのが縁となって、帰京の後にも交際をつづけ、はては縁組みをして親類になったなどというのもある。
温泉雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ関東以西には猟を主業とする者が、一部落をなすほどに多く集まっておらぬに反して奥羽のはてに行くとマタギの村という者がおりおりある。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
はてはますます暴動つのりてすべよく米を渡さぬ家は打毀うちこはしなどする程に、市街の騒擾そうじよう大かたならず、は只浪花なにはのみならず諸国に斯る挙動ありしが
はて腑甲斐ふがいなき此身おしからずエヽ木曾川の逆巻さかまく水に命を洗ってお辰見ざりし前に生れかわりたしと血相かわ夜半よわもありし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日常生活から、部屋の様子、器具の置場などまでして話して下さるので、どんなだろうか、あんなだろうかと想像をも加えて、はてがありません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
もし世間の笑いものになって、ここで生きて行かれぬというなら、から天竺てんじくはてまでも、いっしょに行く気でおりますわいな
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
大佐たいさいへは、海面かいめんより數百尺すひやくしやくたか斷崖だんがいうへたてられ、まへはてしなき印度洋インドやうめんし、うしろ美麗びれいなる椰子やしはやしおほはれてる。
国の名で申しますと、陸奥むつ陸中りくちゅう陸前りくぜん羽後うご羽前うぜん磐城いわき岩代いわしろの七ヵ国となります。昔の「みちのく」即ち道の奥と呼んだ国のはてであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
マーキュ はて、あの蒼白あをじろ情無じゃうなをんなのローザラインめが散々さん/″\やつくるしめるによって、はて狂人きちがひにもなりかねまいわい。
いつか私は彼に頼っていました。そうしてはてはこの友達に向って持前のいとけなさをさらけ出してしまいました。私は月にそっくり打ち明けて話しました。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
何もく旅でもなしいっそ人力じんりきで五十三次も面白かろうと、トウトウそれときまってからかれこれ一月のはてを車の上
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やがて我身のはてであるのだ。三人の悪者は、この歌をうたって、暗然として何等か涙を催すようなことがあろうか。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一生をモルガンにまかせて、何処ででもはてよう、国籍は、もう日本のものではないのだという覚悟が、はっきりした。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
北條某ほうじょうなにがしとやらもう老獪ずる成上なりあがものから戦闘たたかいいどまれ、幾度いくたびかのはげしい合戦かっせん挙句あげくはてが、あの三ねんしのなが籠城ろうじょう、とうとう武運ぶうんつたな三浦みうらの一ぞく
ソクラテスの女房は、うかして機嫌の悪い時には、一しきり我鳴りたてた揚句あげくはてが、いきなり水甕みづかめの水を哲学者の頭に、滝のやうにけたものだ。
不覚の名をけがし、今に落着相極あいきわまらず死せん事こそ口惜しけれ、依て残す一言あり、我れはてても仏事追善の営み無用たるべし、川合又五郎が首を手向たむけよ
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
其の内誰かお光坊は拾いっ子だ、捨てっ子だ、といい出して、はてはみんなが拾っ子やあいやあい、と囃し立てる。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
恋は悲しい、ついに添われぬ身のはてを嘆いて、お富もまた離ればなれにかみの手の岩から身を躍らしたと俚俗りぞくにいう。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
雨に打ち砕かれて、はては咲かなくなつて居た薔薇さうびが、今朝はまたところどころに咲いて居る。蜘蛛くもの網は、日光を反射する露でイルミネエトされて居た。
はてをめざして飛びゆく生命いのちの短き旅を終へんためわれ世に歸らば、汝の詞報酬むくいをえざることあらじ。 三七—三九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「かうすべいに、なじかは難からう。」と申しもはてず、やにはに緋の袍の袖をひらいて、「れぷろぼす」を小脇にかかいたれば、見る見る足下が暗うなつて
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
然に此篇のお夏は、主人の娘として下僕かぼくに情を寄せ、其情ははじめ肉情センシユアルに起りたるにせよ、のちいたりて立派なる情愛アツフヱクシヨンにうつり、はてきはめて神聖なる恋愛ラブに迄進みぬ。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
更にまた一夜に百金を散じた昔の榮華を思出してうゑやまひとにをのゝきながら斃れた放蕩息子のらむすこはてもあツたらうし
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
知識で究めるのははてしが着かないというなら、科学や哲学に何の権威がある乎。科学や哲学で究めても解らないものなら文学や宗教でどうして満足出来る乎。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
然し女に廃物すたりは無い。お春さんは他の東京からもらわれて来た里子のはての男と出来合うて、其私生児を残して嫁に往った。而して二人は今幸福に暮らして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのはては心靈の極度なる神に達して、神は花聟であるし、僕等は花嫁であるのだ。天は對を許さないから、僕等の状態は小い心靈全體の交通となるわけである。
神秘的半獣主義 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
偶然大金を拾ひ候ばかりに人殺ひとごろしの大罪を犯す身となりはて候上は、最早や如何ほど後悔致候ても及びもつかぬ仕儀しぎにて、今は自首致して御仕置おしおきを受け申すべきか。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのうちについ書くことが消えてしまい、そうしてとうとうそれは忘れるともなく全く忘れはててしまった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
はてしなき今昔こんじやくの感慨に、瀧口は柱にりしまゝしばし茫然たりしが、不圖ふといなづまの如く胸に感じて、想ひ起したる小松殿の言葉に、ひそみし眉動き、沈みたる眼閃ひらめき
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
しばしば彼に告ぐるに両親の悪意なきことを以てしけれども、なおことばを左右に托して来らず、ようよう疎遠の姿となりて、はてはその消息さえ絶えなんとはしたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)