あきらか)” の例文
若し、私の感受性を信頼すれば、私は、「新しき命」に納められた数篇の中に、あきらかにその独自な気質の映像を認められると存じます。
野上弥生子様へ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
とあって、あきらかに山犬となっている。これは『風土記稿』の編者が俗にいうお犬さまに当てた字で、所謂いわゆるオホカミを指したものである。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
されどここに言へる取合とは二種の取合をいふ者にして、洒堂の如く三種の取合をいふに非るは、芭蕉の句、許六の句を見てあきらかなり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
比較的有名ならざる作家の、比較的有名ならざる俳句の中にどんなものがあるか、それは本書に挙げる実例があきらかに示すはずである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
私の名が書いてある切りで、あきらかに郵便で来たのではない。裏にも何も書いてない。女中を呼んで聞くと、先刻さっき車夫が持って来たと云う。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
天上の最もあきらかなる星は我手わがてに在りと言はまほしげに、紳士は彼等のいまかつて見ざりしおほきさの金剛石ダイアモンドを飾れる黄金きんの指環を穿めたるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それは六章七章の彼の答においてあきらかなるが如く(一)友の頼むに足らぬことを悟り(二)神に対する誤想より離れ始めたのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
日誌の文では晴潭の死したのは病のためであったか、あるいは風災のためであったかあきらかでない。それ故ここに日誌の文を抄録する。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あきらかに見、明に考へることが出来るやうに成つた。眼前めのまへひろがる郊外の景色を眺めると、種々さま/″\追憶おもひでは丑松の胸の中を往つたり来たりする。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
蕪村に多きもまたあきらかなり、写生文、歌、雑筆等においては、これを偉人の事業としては、むしろ論ずるに足らずというを適当なりとせん。
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
さうして見れば、今その反対に、自分が歌や発句を作る事の出来ない人間と見られたにしても、それを不満に思ふのは、あきらかに矛盾である。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
気の毒だという同情があってしかるべきである、殊に私のような招かれて来た者に対する礼儀としても笑うのは倫理的でない事はあきらかである。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殊に昔より日本人は国外の思想や文化を鑑識する事を以て得意としている。現に我国の今日あるは外国に負うこと多きに見てもあきらかである。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかしこの三つの者を以て人格の要素となす前に、これらの作用が実地において如何なる事実を意味しおるかをあきらかにして置かねばならぬ。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
これらの輪未だ長く𢌞めぐらざるまに(かくいひて目を天にむく)、わがことばのなほよく説明ときあかす能はざるもの汝にあきらかなるにいたらむ 八八—九〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
およぜいかたきは、もつくことるのかたきにあらざるなり(五七)またべんあきらかにするのかたきにあらざるなり
唯今布気田ふげたも申す——三晩、四晩、続けて、森の中に鉄槌の音を聞いたというが、毎夜、これへ参ったのか、これ、あきらかに申せよ。どうじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その衰勢すいせいに及んではとても自家の地歩を維持するに足らず、廃滅はいめつの数すでにあきらかなりといえども、なお万一の僥倖ぎょうこうを期して屈することをさず
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
切に願ふ、朝廷此情実をりやうとし給ひ、みことのりを下して朝野の直言を求め、奸佞かんねいを駆逐し、忠正を登庸し、邪説を破り、大体をあきらかにし給はむことを。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
じつ前後ぜんご形勢けいせいと、かの七せきふね有樣ありさまとでると、いま海蛇丸かいだまるあきらか何事なにごとをかわが軍艦ぐんかんむかつて信號しんがうこゝろみるつもりだらう。けれどわたくしいぶかつた。
美なるかなランプ、あきらかなるかなガスランプ、一度ひとたび点じ来て、我々の街頭に建列するに及びてや、満街白昼の観をなさしむ。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ところが人種や民族の異同などが文献上の徴証を有たぬ場合には、それを推知するにはあきらかに科学的方法が具わっている。
神代史の研究法 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
されば、常に、水のめん、石の上に、群を成して遊べる放生ほうじょう石亀いしかめは、絶えて其の影だに無く、今争ひ捜せる人々も、目的は石亀に在りしやあきらかなりし。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
哲學的に思索もする。要するに彼は、形而下けいじかから、また形而上から自然の本體を探ツて、我々人類生存の意義をあきらかにしようと勤めてゐるのであツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
およそ陸鳥りくてうは夜中めくらとなり、水鳥すゐてうは夜中あきらか也。ことにがんは夜中物を見る事はなはだ明也。他国はしらず我国の雁はおほくはひるねふり、夜は飛行とびありく。
三十二哩を十六時間で泳げる筈がないではないか。一時間に二哩だ。彼はそれをあきらかに見送りの人々に言つた。素人をだますのもいゝ加減にするがいゝ。
ふことがあきらかみとめられるのであつて、それを整理せいりすることは、くに利益りえきからして當然たうぜんかんがへるのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
「蟻と蝉」「狐と鶏」「京都の鼠と田舎の鼠」「狼と羊」「狐と獅子」等著名の寓話は皆あきらかにイソップ種である。
春水と三馬 (新字新仮名) / 桑木厳翼(著)
その説にいわく、一家はなお一国のごとし、その子女を教育する、天道人理においてもとより父母の任たるあきらかなり。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
少くとも現代日本の官許教育方針を丸薬の如く服膺ふくよう出来ない点だけでも、あきらかに即刻放逐さるべき不良教師である。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
が、麻雀マアジヤンたちまちにして日本にほん社會しやくわい飛躍ひやくした。これは一めんあきらか麻雀戲マアジヤンぎそのものの魅力みりよくからだ。そして、一めん空閑緑くがみどり以下いか識者しきしや盡力じんりよくからにちがひない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
彼女が、瑠璃子夫人であるか何うかは、手記を読んだ後も、判然とはわからなかった。が、たゞ生易なまやさしく平和のうちに、返すべき時計でないことはあきらかだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
このへん飾馬考かざりうまかんがへ』『驊騮全書くわりうぜんしよ』『武器考證ぶきかうしよう』『馬術全書ばじゆつぜんしよ』『鞍鐙之辯くらあぶみのべん』『春日神馬繪圖及解かすがしんばゑづおよびげ』『太平記たいへいきおよ巣林子さうりんし諸作しよさくところおほあへ出所しゆつしよあきらかにす
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
祕密の何物なるかは、此封を開かばあきらかならん。これを我手に受けてより、はや二日を過ぎぬ。今おん身にわたしまゐらせて、我は約を果し侍りぬといふ。
それがあきらかになったからには、それを更にすこやかなものに育てる任務だけが吾々に残されているのであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかるに、このような、あるいさらに小さなものをもあきらかに見て、すこしもあやまらない人はむかしからけっして少くありません。この人たちは自分のこころをおさめたのです。
手紙 三 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
奴等は女の云う所に依れば、悪いんじゃないんだが、それにしてもこんな事はあきらかに必要以上のことだ。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
これをあらそう者あるべからず、あきらかみとむるところなれども、日本の武士道ぶしどうを以てすれば如何いかにしてもしのぶべからざるの場合を忍んで、あえてその奇功きこうおさめたる以上は
遺書を見るに及びてますます復讐ふくしゅうの志を固うす。偶々たまたま久吉順礼姿となりて楼門下に来り、五右衛門と顔を見合すを幕切まくぎれとす。これを読まばこの筋の評するねうちなきこと自らあきらかならん。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
書名の由来は籾山版にある序文にあきらかであるがこの序は旧文の意に満たぬものが多いという理由で先生がこれを削除せられたから、先生の意を体してここにも引用に及ばない。
「珊瑚集」解説 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
而るに今や利根水源を確定かくていして、加ふるに上越の国界をあきらかにするを得、衆皆絶叫ぜつけうくわいぶ、其勢上越の深山もくづるるが如し、深井君ただちに鋭刀をふるふて白檜の大樹皮を
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
妹の死から二十幾年を経て私の智慧ちえはいかほどかよりあきらかになったかもしれないが、年をとった私の気は目にみえて弱くなった。私は母を失う悲しみにくずおれてしまいそうだ。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
私どもは、優れたる婦人樋口一葉君の人物を最もあきらかに説明すると同時に、一葉君の作物のうちで最も勝れたものゝ一つである「日記」を唯其儘に葬つて置くのは如何にも残念で堪まら無い。
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
論者は快活楽天を以て国民の特質となす、されどひとり日本国民が先天的特質なりと言ふを得べきか、古希臘いにしへギリシヤ国民の如きも、また此の質を有し、且つ一層あきらかに此の特質を有せりしにはあらざるか。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
直ぐその考えをひるがえしてしまったという校長先生の保証の言葉との間に立ってわたくしはその真相が全く掴めなかったのに、いま決定的に悲観説があきらかになって来たので異常なショックを覚えました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まことに朕が訓導くんだうあきらかならざるにりて、民多く罪に入れり。めは一人ひとりに在り。兆庶てうしよあづかるにあらず。宜しく寛宥くわんいうを存せ令めて仁寿にんじゆのぼらせ、瑕穢かゑたらしてみずかあらたにする事を許すべし。天下に大赦だいしやし。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「ハ」はこれを横截して以てその畳める状をあきらかにす。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
沁々しみじみ言う彼の顔にはあきらかに絶望の影が動いてた。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と、坂と嶺とをあきらかに区別して書いてあるのは、坂の頂きが嶺であると思っていた昔の人のかんがえを示したものと解してよいように思われる。
(新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
五年を経過した今日になってもなおあきらか記臆きおくしているのである、『竹の里人選歌』なども、先生存生中に自ら選び直さるるならばとにかく
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)