引揚ひきあ)” の例文
これを手繰たぐったら、市郎の身体は無事に引揚ひきあげられたかも知れぬが、その綱の端が彼の胴にくくられてあると云うことを誰も知らなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つて、それ引揚ひきあげたが、如何どうつてえられぬので、ふたゝ談判だんぱんかうとおもつてると、友人いうじん眉山子びさんしれい自殺じさつ
そういいてると博士をはじめ、幹部連はさっさと引揚ひきあげてしまいましたが、そうなると、今度はかえって、あとのさわぎが大変。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
機關兵きくわんへい機關室きくわんしつまもり、信號兵しんがうへい戰鬪樓せんとうらうち、一とう、二とう、三とう水兵等すいへいら士官しくわん指揮しきしたに、いま引揚ひきあげた端艇たんていをさめつゝ。
『じゃあ、和尚の鉄雲は、その川の中の金を俺に引揚ひきあげてくれ——とこう云うのだな。おれにゆずるというんだな』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まァようがす。とっととえてせろッてんなら、あんまりたたみのあったまらねえうちに、いい加減かげん引揚ひきあげやしょう。——どうもお邪間じゃまいたしやした」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
バスケツトを引揚ひきあげて、そこ一寸ちよつとてゝた。雨気あまけ浸通しみとほつて、友染いうぜんれもしさうだつたからである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時フと気の付いたのは、高浪を恐れて渚に引揚ひきあげられている、会社の小さいボートでした。
若い者が年寄としよりから、自然に聴き覚えていつ知ったともなく使うものなのに、それだけをアイヌが教えておいて、すっと引揚ひきあげて行ったなどとは、何としても考えられぬ話である。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
巨勢は少女がつる時、わずかを握みしが、少女が蘆間隠れのくいに強く胸を打たれて、沈まむとするを、やうやうに引揚ひきあげ、みぎわの二人が争ふを跡に見て、もとかたへ漕ぎ返しつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やがて復たザアと降って来た。到頭一同は断念して、茶屋の方へ引揚ひきあげた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはうである、……椙原家はもと仙台の伊達だて家の家臣であったが、今から凡そ二百五十年ほど以前に、蝦夷えぞ地開拓のため藩から選ばれて渡島し、間もなく同行の者たちの多くが引揚ひきあげた後も
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「みんな引揚ひきあげることにしよう。もうわれわれの力にはおよばない」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あくる日になると母は、町へ引揚ひきあげると言い出した。その朝、父は母の寝室しんしつへ入って、長いこと二人きりでいた。父が何を言ったか、だれも聞いた者はないけれど、とにかく母はもう泣かなくなった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
木山の本営ほんえい引揚ひきあげる前、薩軍さつぐんって官軍をふせいだ処である。今はけんの兵士が番して居た。会釈して一同其処を通りかゝると、蛇が一疋のたくって居る。蛇嫌へびぎらいの彼は、色を変えて立どまった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
せい凱歌かちどきこゑいさましく引揚ひきあげしにそれとかはりて松澤まつざは周章狼狽しうしやうらうばいまこと寐耳ねみゝ出水でみづ騷動さうどうおどろくといふひまもなくたくみにたくみし計略けいりやくあらそふかひなく敗訴はいそとなり家藏いへくらのみか數代すだいつゞきし暖簾のれんまでもみなかれがしたればよりおちたる山猿同樣やまざるどうやうたのむ木蔭こかげ雨森新七あめもりしんしちといふ番頭ばんとう白鼠しろねづみ去年きよねん生國しやうこくかへりしのち
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おほいに疲勞ひらうしてたので、引揚ひきあげやうかとかんがへてうち幻花子げんくわしは、口部こうぶだけけて、完全くわんぜんなる土瓶どびんを一掘出ほりだした。
大勢が手を揃えてその綱を繰上くりあげると、綱のはしにはすくなからず重量めかたを感じたので、不審ながらかくも中途まで引揚ひきあげると、松明たいまつの火はようやとどいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かろ服裝ふくさうせる船丁等ボーイらちうになつてけめぐり、たくましき骨格こつかくせる夥多あまた船員等せんゐんら自己おの持塲もちば/\にれつつくりて、後部こうぶ舷梯げんていすで引揚ひきあげられたり。
大沼おほぬま刻限こくげんも、村里むらざとかはう、やがて丑満うしみつおもふ、昨夜ゆふべころ、ソレ此処こゝで、とあみつたが、ばんうへ引揚ひきあげるまでもなく、足代あじろうへからみづのぞくと歴然あり/\またかほうつつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一番最後に引揚ひきあげるといった、初歩の勉強振りはいうまでもなく、自分の仕事振りを見せるためには、想像し得る限りの、あらゆる機会を利用して、その努力の蓄積を実行していったのです。
折角せつかく着込きごんでつた探檢服たんけんふくに、すこしもどろけずしてたくへと引揚ひきあげた。大學連中だいがくれんぢうみなとまみである。
漫々まん/\たる海洋かいやううへ金銀きんぎん財寳ざいほう滿載まんさいせるふねみとめたときには、ほうまた衝角しようかくをもつて一撃いちげきもとそのふね撃沈げきちんし、のち潜水器せんすいきしづめてその財寳ざいほう引揚ひきあげるさうである。
のまま雨中に立ち尽しては、あるいは凍えて死ぬかも知れぬので、遺憾ながら安行の捜索は一旦中止して、一同も空しく町へ引揚ひきあげて来た。市郎は其夜そのよ一睡もなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
またてく/\とぬま出向でむく、と一刷ひとはいたかすみうへへ、遠山とほやまみねよりたか引揚ひきあげた、四手よつでいてしづめたが、みちつてはかへられぬ獲物えものなれば、断念あきらめて、こひ黄金きんふなぎんでも、一向いつかうめず
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
破片はへんるけれど、如何どうおもはしいものがなく、やうや底拔土器そこぬけどき一箇ひとつくらゐで、此日このひ引揚ひきあげた。
其間そのうち正午ひるになつたので、一先ひとま座敷ざしき引揚ひきあげ、晝餐ちうさん饗應きやうおうけ、それからまた發掘はつくつかゝつたが、相變あひかはらず破片はへんくらゐやうやくそれでも鯨骨げいこつ一片ひとひらと、石槌いしづち打石斧だせきふ石皿いしざら破片はへんなど掘出ほりだした。