味噌みそ)” の例文
火事できのこが飛んで来たり、御茶おちゃ味噌みその女学校へ行ったり、恵比寿えびす台所だいどこと並べたり、或る時などは「わたしゃ藁店わらだなの子じゃないわ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ラムネの玉くらいの小さい頭も全部ばりばりみくだいてたべるのである。頭の中の味噌みそはまた素敵においしいという事になっていた。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
二合ばかりの酒、冷たくなった焼き味噌みそ、そんなものが勝手口の戸棚とだなに残ったのを半蔵はさがし出して、それを店座敷に持ち帰った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うだこたれ、だまつてりや隣近所となりきんじよでもわかんねえもんだが勘次等かんじらえゝしばら味噌みそせえくしてくんだから、一杓子ひとつちやくしりやしねえんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かて味噌みそなべとをしょって、もう銀いろのを出したすすきの野原をすこしびっこをひきながら、ゆっくりゆっくり歩いて行ったのです。
鹿踊りのはじまり (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
博士は、わしが好んで特使に立ち、好んで味噌みそをつけるのだといわれるでしょうが、わしは自分の名声のために特使に立ったのではない。
なんでも晩年味噌みそを買いに行き、雪上がりの往来で転んだ時にも、やっとうちへ帰ってくると、「それでもまあふんどしだけ新しくってよかった」
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何かが破裂はれつしたのだ。客はギクリとしたようだったが、さすがは老骨ろうこつだ。禅宗ぜんしゅう味噌みそすり坊主ぼうずのいわゆる脊梁骨せきりょうこつ提起ていきした姿勢しせいになって
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
俳諧歌となりと、狂歌となりと、味噌みそとなりと、くそとなりと思ふやうに名づけられて苦しからず。われらは名称などにかかはらざるなり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
味噌みそは擂鉢ができてからかも知れぬが、それ以前の食物であった豆のゴの汁、また多くのあえ物類は、すべて臼によるのほかは無かった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
味噌みそ醤油しょうゆ砂糖を買い、さて食事の支度したくとなると、炭がなかった。炭を買うと金はもう残り少なくなる。この寒空に火鉢ひばちもなくてはならない。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
あんなところにはちをかけられては、味噌部屋みそべや味噌みそをとりにゆくときにあぶなくてしようがないということをはなしました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
客「イヤハヤ僕は味噌みそをさえ摺る事が下手へたですからとても駄目だめです」妻君「男の人は誰でも台所の事を軽蔑してめしきようも知らんとか、 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もう十月のなかばで、七輪のうえに据えた鍋のおつゆ味噌みその匂や、飯櫃めしびつから立つ白い湯気にも、秋らしい朝の気分が可懐なつかしまれた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母はせがれの心尽くしですから、魚もきらいな人がこれだけは喜んで食べ、味噌みそ醤油しょうゆにつけなどしてたくわえて食べたりしました。
と、あたまだけぜんすみへはさみすと、味噌みそかすに青膨あをぶくれで、ぶよ/\とかさなつて、芥溜ごみため首塚くびづかるやう、てられぬ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「何の、東北の熊襲くまそに、味噌みそも見識もあるものか。彼らも、力行実践でやって来たのだろう、そのときに、吾々も、一剣をもってむくえば足る」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
米、味噌みそ、茶わん、はし飯櫃めしびつのような、われわれの生命の維持に必需な材料器具でもない。衣服や住居の成立に欠くべからざる品物ともちがう。
読書の今昔 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
味噌みそ醤油しょうゆ、雑貨から呉服類、草鞋わらじ、たばこまでひさぐ大きな店ができたために、従来の町内の小商人が、すっかり客をとられて難渋なんじゅうしている。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
また、かまどを塗り、井を掘り、味噌みそ、酒を製し、新むしろを敷くに至るまで、一定の吉日と凶日とがある。かくのごときの類、実に枚挙にいとまあらぬ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
日のくれぐれに一袋の米と味噌みそを背負って宗忠は帰って来た。ここは狭いから老人は下の小屋へ泊るというて、何やら入った袋をさげて下りてゆく。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
そして私の身辺には、かまなべ、茶碗、はし、皿、それに味噌みそつぼだのタワシだのと汚らしいものまで住みはじめた。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
俗に「くそ味噌みそも一しょにする」というが、味噌みそを見てくそのようだというのと、糞を見て味噌のようだというのとは、その人の態度たいどに大差あるを証明する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
夜店の二銭のドテ焼(ぶたの皮身を味噌みそつめたもの)が好きで、ドテ焼さんと渾名あだながついていたくらいだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
母親は眼も口も一ツにして大驩おおよろこび、尋ねぬ人にまで風聴ふいちょうする娘自慢の手前味噌みそしきりによだれを垂らしていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
火をく、味噌みそる、魚鳥ぎょちょうを料理する、男世帯おとこじょたいの目つらをつかむ勝手元の忙しさを傍目よそめに、関翁はじめ余等一同、かわる/″\川畔かわばたに往って風呂の馳走ちそうになる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
東洞院では同じ長屋住ひで味噌みそ醤油しょうゆの借り貸し、妻の瑚璉尼が飲める口であつたので、彼はよい飲み友達にして湯豆腐づくめの酒盛りなど、度々したものだつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
料理はダニューブの魚と野菜に独特な美味なものがあったが、味はどれも味噌みそに似たマヨネーズで統一をつけてあるためか、梶には少し単調にすぎて塩辛しおからかった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それにも老人の味噌みそがあって、彦根屏風びょうぶの絵姿などからひねり出した理窟ででもあろうか、地唄の三味線というものは、大阪風に、膝へ載せないで弾くのがいい。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして日々にち/\飯米はんまいはかつて勝手へ出す時、紙袋かみぶくろに取り分け、味噌みそしほかうものなどを添へて、五郎兵衛が手づから持ち運んだ。それを親子炭火すみび自炊じすゐするのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかも、いゝ年輩の戸主連がこの揃ひの紙衣裳で町を練り歩かねばならないといふことが味噌みそだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
昼飯ひるめしの残りを蒸返むしかえし、てっか味噌みそ焼海苔やきのりとをさいにして、独り夕飯を食べてしまってから、重吉は昨日きのうの午後お千代を呼んだ芳沢よしざわ旅館へ電話をかけて問い合わすと
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鳶に油揚あぶらげさらわれると云うのは嘘ではない。子供が豆腐屋へ使いに行ってざる味噌みそこしに油揚を入れて帰ると、その途中で鳶に攫って行かれる事はしばしばあった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「なに、田川の奥さんが、木村っていうのに、味噌みそさえしこたますってくれればいちばんええのだが」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
うかがないので、味噌みそとか、ゴマのようなものを混ぜて買って来ては、結構利潤りじゅんがのぼっていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
味噌みそこしげてはしたのおあしにぎつて米屋こめやかどまではうれしくけつけたれど、かへりにはさむさのにしみてあしかじかみたれば五六軒ごろくけんへだてし溝板どぶいたうへこほりにすべり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たとえば味噌みそるためには摺子木すりこぎは棒の形を有することが必要であるが、棒の形を有しておる以上は、これを一種の棒として犬の頭を打つために用いることもできる。
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
付村の探訪めあかし薩摩傳助さつまでんすけ赤貝あかがひ六藏の二人をつれのどかわきし體にて此寺へ這入り水をこひのまんとしながら樣子をうかゞひ居たるにお芳は味噌みそたらぬとて臺所へ來り老僕おとなに味噌を出させるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
他国はしらず、その山言語やまことばとは、○米をくさ味噌みそをつぶら○しほをかへなめ○焼飯やきめしをざわう○雑水ざふすゐをぞろ○天気のよきをたかゞいゝ○風をそよ○雨も雪もそよがもふといふ。
八ヶ月位であろう どうか育ちそうでもあるから。急に男共に手当をさして。まず例にって暖かい味噌みそ湯を母牛に飲ませ。寝わらを充分にしかこうしを母牛の前へ持来らしめた。
牛舎の日記 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「それが、怪我ぐれえのとこならいいのだがよ、こちらの松島さんは機械に食われてさ、胴がまるで味噌みそのようになったんでねえか! 人の話だがよ。おれは見ねんだどもな」
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
露宿をなして以来此汁をすすること二回、其味そのあじはなはだなり、くわふるにかつほの煑出しを以てす、偶々たま/\汁をつくることあるも常に味噌みそを入るるのみなれば、当夜の如き良菌りやうきんを得たるときは
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「間拔けだからな、自分の臍を覗いて見る恰好かつかうなんてものは、色氣のある圖ぢやないぜ。第一お前の出臍でべそなんか拔いたつて、使ひ物にならないとよ。味噌みそがきゝ過ぎてゐるから」
パーマネントの流行はやりと逆にいったところが味噌みそなのだが、それにしても、濡れた着物のようにピッタリと皮膚にまといついた、ジュニヤ好みのプリンセス型のドレスとよくうつって
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
立ち上ると自分の服を脱いだ場所にかけて行き、小さな平たい板と小刀と、ビニールに包んだ味噌みそらしいものを持って戻って来た。何をするのかと五郎は少年の動作を見守っている。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
住井すみい貿易商を襲った強盗事件でさんざん味噌みそをつけて、警視庁からお目玉を頂戴ちょうだいしている矢先のことでもあるので、西村商会社長の変死事件に対しては近来まれにみる緊張ぶりを示した。
五階の窓:02 合作の二 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
すなは今時こんじ内職ないしよく目的もくてきかゆあらず塩にあら味噌みそあらず安コートを引被ひつかけんがためそろ安縮緬やすちりめん巻附まきつけんがためそろ今一歩をすゝめて遠慮ゑんりよなく言はしめたまへ安俳優やすはいいうに贈り物をなさんがめにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
畜生メ! お初ちゃんともあろうものが、今度はすこし味噌みそをつけたよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
みんなが大根を味噌みそで煮たり、鮭の卵の汁などをこしらへて食べてゐるのに、父はただ飯に白砂糖をかけて食べることなどもあつた。併し僕には何のために父がそんな真似をるかが分からなかつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
水飯すいはん味噌みそを落して濁しけり
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)