また)” の例文
観念もまた実際の生活で食慾色慾物慾、観念なしにそれらのものが野放しにされてゐるやうな生活は、その方が実在するものではない。
観念的その他 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
しかりといえども、本校の恩人大隈公は余を許してその末に加わらしめ、校長・議員・幹事・講師諸君もまたはなはだ余を擯斥ひんせきせざるものの如し。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
我当局の忌違きゐに触れん事疑なきの文字少からず。出版当時有名なる訴訟そしよう事件を惹起じやくきしたるも、また是等艶冶えんやひつるゐする所多かりし由。
季子は剣を墓にかけて、故人の意にむくいたと云うから、余もまた「猫」を碣頭けっとうに献じて、往日の気の毒を五年後の今日に晴そうと思う。
世の伝うるところの賽児の事既にはなはだ奇、修飾をらずして、一部稗史はいしたり。女仙外史の作者のりてもって筆墨をするもまたむべなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何となれば古代の聖者も、ただ理性によりて、それが果して神の啓示であるか否かを決定したのであった。われ等もまた理性に訴える。
此書このしよ全部ぜんぶ六巻、牧之老人ぼくしらうじんねふりかる漫筆まんひつあづさまたざるの稿本かうほんなり。ゆゑ走墨乱写そうぼくらんしやし、また艸画さうぐわなり。老人らうじんしめして校訂かうていふ。
それで犯人は一も二もなく恐れ入って、裁判はすぐに落着らくぢゃくしたので、丁はそれを上官の姚忠粛に報告すると、姚もまたすこし考えていた。
谷川の趣もまたこの周囲を取り巻く森林に依って、明るくなったり暗くなったりする。それが人の心をも同様に支配するから面白い。
渓三題 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それは一つの科学であるといい、これを防ぐのにもまた科学的頭脳を要することを説いた。結局南博士もスパイ説にくみしたのである。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小大(の事)、これるも行なわれざる所あるは、和を知って和せんとするも、礼を以て之を節せざれば、また行なうべからざればなり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
我が書きたるものに振仮名を附くる事と、日毎の新聞より『閑天地』切り抜くを勤めなりけるその人も、また今我と共にこゝにあり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いつも時平の腰巾着こしぎんちゃくを勤める末社まっしゃどもの顔ぶれを始め、殿上人てんじょうびと上達部かんだちめなお相当に扈従こしょうしていて、平中もまたその中に加わっていた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大尉は、目をみはって、アンを探した。赤外線標識灯は、台ばかりになっていた。アンは、その下に倒れていた。ボジャックもまた……
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此書このしよ全部ぜんぶ六巻、牧之老人ぼくしらうじんねふりかる漫筆まんひつあづさまたざるの稿本かうほんなり。ゆゑ走墨乱写そうぼくらんしやし、また艸画さうぐわなり。老人らうじんしめして校訂かうていふ。
二十分程のうちにそのうしろの空に火の色の雲が出来た。最終のはことに大きく長く続いてセエヌ河もまた火の河になるかと思はれる程であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
甘酒あまざけ時間じかんみじかいのとかうぢすくないのとであつつくむのがれいである。それだからたちまちにあまるけれどもまたたちまちに酸味さんみびてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこで、県警察部でも兼五郎を召喚して、これまた峻烈しゅんれつな取調をしたが、兼五郎の所為せいでないから、どうすることもできなかった。
唖の妖女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おかみさんとしては経営の趣旨にも反するわけであったが、それだからと云って、これもまたすぐ出てもらうというわけにも行かなかった。
早春 (新字新仮名) / 小山清(著)
あんなに睡眠不足で、気苦労をして、それでろくに頭は育たないのだと思うと気の毒になり、女の天職もまた易からずと思わざるを得ない。
その時の祖母の喜びようと来たら全く地獄で仏に会ったようであったが、自分もまた御同様で全くこの祖母を拝みたい位に思ったのである。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たとひ自らは、竿を執らざるにせよ、快き気もせざれば、間もなく此処を去りしが、観音堂手前に到りて、また一の狼籍ろうぜきたる様を目撃せり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
三味線音楽がまたこの劇中に於て、如何に複雑に且つ効果鋭く応用されてゐるかは、已に自分が其の折々の劇評に論じた処である。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
山も湖も、空もまた異郷の地でありながら、富岡は、仏蘭西人のやうにのびのびと、この土地を消化しきれないもどかしさがある。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
併し何と云われても、信頼する事の出来ない重臣に取捲かれて居るより、愛妾寵臣の側に居た方が快適であるし、また安全であるに違いない。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
従つて自我にとつて不満足があり不自由があらうとも其度に自分の生活を破壊し捨て去つては恐らく日もまた足りないであらう。
その最後の日、死ぬ数時間前に私が持つて行つたサンキストのレモンの一顆いつかを手にした彼女の喜もまたこの一筋につながるものであつたらう。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
うまほうでもまたわたくしによく馴染なじんで、わたくし姿すがたえようものなら、さもうれしいとった表情ひょうじょうをして、あのおおきなからだをすりけてるのでした。
大「いえ中々お立派なお方だ、う五十五六にもなろうか……拙者も近い所にいるから、また度々たび/\お尋ね下さい、拙者もまたお尋ね申します」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『いえ、其では困ります。何も私は貴方等を御助け申すやうなことは無し、私はまた、貴方等から助けて頂くやうなことも無いのですから。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
禅刹をみな真宗に改めるもまた妙ではないか、肉食妻帯お構いなしの処などは、今時の禅坊さんの尤も歓迎するところである。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
一にいはく、やはらぎを以て貴しとし、さかふこと無きをむねと為せ。人皆たむら有り、またさとれる者少し。これを以て、或は君父きみかぞしたがはずして隣里さととなりたがふ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ひと交際かうさいすることかれいたつてこのんでゐたが、其神經質そのしんけいしつな、刺激しげきされやす性質せいしつなるがゆゑに、みづかつとめてたれとも交際かうさいせず、したがつまた親友しんいうをもたぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
唯一人杉山ばかり自分と一緒に其志を固くつて、翌年の四月陸軍幼年学校の試験に応じたが自分は体格で不合格、杉山はまた学科で失敗して
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
十四歳の少年の自分が中学入学のをり父につれられてY町に出て行く途上で聞いた松の歌が此処こゝでもまた耳底に呼び起された。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「厨者ノ作料ハ婦人ノ衣服首飾ナリ。天姿アリ、塗抹ヲ善クスト雖モ、しか敝衣襤褸へいいらんるナラバ西子せいしまた以テかたちヲ為シ難シ……」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
始終しゞゆうくるつたやうにまはつてた二ひき動物どうぶつは、きはめてかなしげにもまたしづかにふたゝすわみ、あいちやんのはうながめました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「しかも慈悲なき厳酷の正義は非基督教なると共に、正義を破壊する如き慈悲もまた等しく非基督教なる事を忘るべからず。」
れば今僕は君の進退を賛成して居るから、君もまた僕の進退を賛成して、福澤は引込ひっこんで居る、うまいといって誉めてこそれそうなものだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
巻十九(四一九二)の霍公鳥ならびに藤花を詠じた長歌に、「夕月夜かそけき野べに、遙遙はろばろに鳴く霍公鳥」とあるのもまた家持の作
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
よつせいいへせり。の・老子らうしまなものすなは儒學じゆがくしりぞけ、儒學じゆがくまた老子らうししりぞく。『みちおなじからざれば、あひめにはからず』とは、あにこれ
字引をり/\やつてみると、手紙もまた造作もなく書けた、もつとも余り名文でもなかつたかも知れぬが、兎に角意味の通じる程には書けた積りだ。
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
身体つき容貌まで何やら山の姿、峯のおもかげに似通って見えた。西国の山は冬は脱ぎ夏は緑を装った。こどもたちもまた冬は裸に夏は藤ごろもを着た。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかれども君自ら間違なりと曰はるれば間違に間違なかるべし。君の漢文が御上手にや御下手にや余また素人也何ぞ解せん。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
余もまたわかかりしよりこの事を学びしが、迷ひてわからざりし。ふと解する所あり。学令のむねにしたがひて、それ/″\の古書をよむがよしと思へり
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私もまた畏敬と讃嘆の念を以ての挨拶に聞入った。但し、それ以外に若干の不審の表情をも私は浮かべたのかも知れぬ。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私がわざわざ妻を連れて来たのは妻もまたテツさんと同じように貧しい育ちの女であるから、テツさんを慰めるにしても
列車 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わずかにかえり見れば小きまろきうつくしき虹の我身をめぐりて目の下に低く輝けるあり。我動くところに虹もまた従いて動く。
滝見の旅 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
當日たうじつせきでも聞合きゝあはせたが、居合ゐあはせた婦人連ふじんれんまたたれらぬ。くせ佳薫いゝかをりのするはなだとつて、ちひさなえだながら硝子杯コツプしてたのがあつた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼等もまた自分達の食料として取って置いた米さえ差押えられて、軒下に積まさっていながら、それに指一本つけることの出来ない「小作人」だった。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)