黒煙くろけむり)” の例文
……のまだはなれないうちに、さしわたし一町いつちやうとははなれない中六番町なかろくばんちやうから黒煙くろけむりげたのがはじまりである。——同時どうじに、警鐘けいしよう亂打らんだした。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丹羽にわ五郎左衛門長秀は、船楼に立っていたが、ふと湖北に連なる一山から立ち昇る黒煙くろけむりに、思わず声を大にして、左右へ訊ねた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その内にふと気がつきますと、どこからか濛々とした黒煙くろけむりが一なだれに屋根を渡って、むっと私の顔へ吹きつけました。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
伊豆南方いづなんぽう洋底ようてい航海中こうかいちゆう船舶せんぱく水柱みづばしら望見ぼうけんし、あるひ鳴動めいどうともなつて黒煙くろけむりのあがるのをることもあり、附近ふきん海面かいめん輕石かるいしうかんでゐるのに出會であふこともある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
と言葉残して芳野が一条ひとすじ黒煙くろけむりをおき土産に品川を出帆されました。此方こなたの花里でございます。
……しかも、そんな大きな事実に二十年もの永い間、気付かないで、コンナ桁外けたはずれの研究に黒煙くろけむりを立て続けて来た吾輩のアホラシサが、今更にシミジミとわかって来たからサ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
濛々として黒煙くろけむりなびき、とどろくエンジンの音が人々を息ぜわしく焦立たせた。セーニャは幾度か飛び込もうとして、支えられた。石垣と舟との距離が一けんになり二間になり三間になった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
離れて合うを待ちび顔なるを、いて帰るを快からぬを、旅に馴れて徂徠そらいを意とせざるを、一様につかねて、ことごとく土偶どぐうのごとくに遇待もてなそうとする。こそ見えね、さかんに黒煙くろけむりを吐きつつある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒煙くろけむりたち濁る地平の果てに
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
「火事——」と道の中へと出た、人の飛ぶ足よりはやく、黒煙くろけむりは幅を拡げ、屏風びょうぶを立てて、千仭せんじん断崖がけを切立てたようにそばだった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、多寡たかをくくっていた敵は、寝ざめの喊声かんせいにうろたえた。中山のとりでからやがて黒煙くろけむりが揚った。——早くも奇襲の兵が火を放ったのである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その梁のよこたわった向うには、黒煙くろけむりが濛々と巻き上って、しゅはじいた火の粉さえ乱れ飛んでいるではございませんか。これが私の妻でなくて誰でしょう。妻の最期でなくて何でしょう。
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山腹をありまで見えやしまいかと思うくらいハッキリと岩の角々が太陽に輝いている……と思う間に、その大山脈の絶頂から真逆落まっさかおとしに七千噸の巨体が黒煙くろけむり棚引たなびかせてすべり落ちる。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一同うなることかと顔を見合せて居りましたが、追々怪我人けがにんは増えますばかり、義気に富みたる文治はこらえ兼て、突然いきなり一本の棒を携え、黒煙くろけむりの如き争闘の真只中まったゞなかに飛込んで大音だいおんを挙げ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
右から左へ、わずかに瞳を動かすさえ、杜若かきつばた咲く八ツ橋と、月の武蔵野ほどに趣が激変して、浦には白帆のかもめが舞い、沖を黒煙くろけむりの竜がはしる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宵から泰然とかまえていた曹操も、ぎょッとして、窓を押し開いてみると、陣中いちめん黒煙くろけむりである。それにただ事ならぬ喊声かんせいと人影のうごきに
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長襦袢ながじゅばんぱっと燃える、片身を火に焼いたようにつッと汽車を出たその姿は、かえって露の滴るごとく、おめきつどう群集は黒煙くろけむりに似たのである。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝の空に、火焔と黒煙くろけむりを高く挙げて、新府の城は今し焼け落ちようとしている。ちょうど明け方のこく頃(午前六時)にみずからけた火であった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とドンとふすま打附ぶッつかって、まなこの稲妻、らいの声、からからからと黒煙くろけむりいて上る。ト、これじゃおもりが悪いようで、婆さん申訳がありますまい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただ今、御やぐらの物見どもから申しまいりましたが、西北方の遠くの空にあたって、先ほどから黒煙くろけむりが見え、初めは、山火事かとおもわれましたが、次第に所を
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまっしぐらに立向った、火よりも赤き気競きおいの血相、猛然として躍り込むと、戸外おもては風で吹き散ったれ、壁の残った内はこもって、さっ黒煙くろけむり引包ひッつつむ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まったく反対な二号令が、同じ寄手から起っているまに、もう諸方から、もうもうたる黒煙くろけむりが立った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまわという時、立騰たちあがる地獄の黒煙くろけむりが、線香の脈となって、磊々らいらいたる熔岩がもぐさの形に変じた、といいます。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なお昨日今日あたりは、安土方面に炎々と黒煙くろけむりが望まれる——といっている旅人もあり、羽柴筑前守殿は、一部の兵をひきいて、はや長浜へ向われたと機微きびを告げる者もあった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大燒原おほやけはらつた、下町したまちとおなじことほとん麹町かうぢまち九分くぶどほりをいたの、やゝしめりぎはを、いへ逃出にげでたまゝの土手どて向越むかうごしにたが、黒煙くろけむりは、殘月ざんげつした
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
渺茫びょうぼう三百余里が間、地をおおうものはただ黒煙くろけむりだった。天をこがすものは炎の柱だった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地獄の口のいた中から、水と炎の渦巻を浴びて、黒煙くろけむり空脛からすねに踏んで火の粉を泳いで、背には清葉のまましい母を、胸には捨てた(坊や。)の我児わがこを、大肌脱おおはだぬぎの胴中へ
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなたさまは、裾野すそのからおいでになった鏃師やじりしとやらだそうでござりますが、あのとおりな黒煙くろけむりが、二日二晩もつづいて立ちのぼっているのは、いったいなんなのでござりましょう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もすそひらいて、もだくるしむがごとくにえつゝ、本尊ほんぞんたるをんなざうは、ときはや黒煙くろけむりつゝまれて、おほき朱鷺ときかたちした一団いちだんが、一羽いちはさかさまうつつて、水底みなぞこひとしく宿やどる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また織田信忠は、上諏訪かみすわに進攻し、諏訪明神すわみょうじんそのほかの諸伽藍しょがらんを焼きたて、沿道の民家までも黒煙くろけむりとしながら、残兵を狩り立てつつ韮崎にらさき、甲府へ向って夜も日もなく急進して来るという。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二の腕にさっひるがえって、雪なす小手をかざしながら、黒煙くろけむりの下になり行く汽車をはるかに見送った。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七月の陽が、海面うみづらをもくばかり高くなった頃、淡の輪の海上は黒煙くろけむりにみちていた。毛利方の船はほとんどといってよいほど焼き沈められた。風浪がつよい日なので、炎は高く壮観をきわめた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いぬどもの、みゝにはて、きばにはみ、ほのほき、黒煙くろけむりいて、くるまともはず、ひとともはず、ほのほからんで、躍上をどりあがり、飛蒐とびかゝり、狂立くるひたつて地獄ぢごく形相ぎやうさうあらはしたであらう
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夜空にあたって、奇怪な火の粉と、魔の雲に似た黒煙くろけむりが見えだしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
護摩壇ごまだんむかつて、ひげかみおどろに、はりごと逆立さかだち、あばらぼねしろく、いき黒煙くろけむりなかに、夜叉やしや羅刹らせつんで、逆法ぎやくはふしゆする呪詛のろひそう挙動ふるまいにはべくもない、が、われながらぎんなべで、ものを
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし、彼はその母と共に、伊勢湾から東国へ行く便船に乗って、荷物の間から燃える故郷ふるさとをながめていたのだった。津、松坂などの町々はもちろん伊勢は部落の方まで一円に黒煙くろけむりをあげていた。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七筋ばかり、工場の呼吸いきであろう、黒煙くろけむりが、こう、風がないから、真直まっすぐ立騰たちのぼって、城のやぐらの棟を巻いて、その蔽被おおいかぶさった暗い雲の中で、末が乱れて、むらむらと崩立くずれたって、さかさまに高く淀川の空へなびく。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七つ八つむねを並べている倉庫からは、もう濃い黒煙くろけむりを吐いていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
裸身はだかみに、あの針のざらざら刺さるよりは、鉄棒かなぼうくじかれたいと、覚悟をしておりましたが、馬が、一頭ひとつ背後うしろから、青い火を上げ、黒煙くろけむりを立ててけて来て、背中へつかりそうになりましたので
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おお、まだ今朝けさもあんなに、黒煙くろけむりが、あがっている」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るまに、二隻ばかりが、黒煙くろけむりの柱をあげた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)