かん)” の例文
それは、じぶんで考えるほど、長い時間ではなかったのだろうが、そのかん、じぶんの眼がなにを見ていたのか、まったく記憶がない。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
勿論、そのかんの気合いは支那人のそれとはまるで正反対であるとしても、事実に現われた結果は極端と極端の一致で同じことになる。
何らそのかんにイヤな事もない、利休が佳とし面白しとし貴しとした物は、とこしえに真に佳であり面白くあり貴くある物であるのであるが
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そしていま、芦屋ノ浦からそのみよしを再度、赤間ヶ関へかえしている今日は、四月七日。そのかん、たった四十六、七日でしかなかった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵味方の砲声はあたかも心臓の鼓動に時を合わしつつ、ややかんあれば耳辺の寂しきを怪しむまで、身は全く血戦の熱に浮かされつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
このかんに母の亡くなつた知らせを受け取つたが、母の親身の妹で、彼の幼年時代に乾梨ほしなしや、非常に美味しい薬味麺麭などを持つて来たり
さしはさむ癖があった。別に必要でないところにも使うし、また説明しにくいところは「そのかん、いろいろの事情がありまして」
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
小次郎と武蔵との距離が一間余りに近寄ると見る「かん」。互の気合、小次郎はどっと倒れてしまうし、武蔵の鉢巻の手拭が切れて落ちた。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
古来日本国の上流社会にもっとも重んずるところの一大主義を曖昧糢糊あいまいもこかん瞞着まんちゃくしたる者なりと評して、これに答うることばはなかるべし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一 毎年一二月のかんになれば、胃を損じ、腸を害し、更に神経性狭心症けふしんしやうかかり、鬱々として日を暮らすこと多し。今年ことしまたその例にれず。
病中雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一剣を天地のかんに構えて、天地と争って一生を終る——所詮、天地の間に吐き出されて、また天地の間に呑まれおわるものと知るや知らずや。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
滋幹は、父がどう云う動機から酒をつに至ったのか、そのかんの事情をつまびらかにしないのであるが、彼がそれに気が付いたのは
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
来るものがあったらこばむまいと思いながら年を送るうち、いつか四十を過ぎ、五十の坂を越して忽ち六十も目睫もくしょうかんに迫ってくるようになった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのかん、これという変ったこともない。瑠璃子は益々美しく、わし達夫婦の仲は愈々いよいよ睦まじかった。すべて凡て、極楽世界の四字に尽きていた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのかん、彼はあらゆる角度から、妻君という女を味わってしまった。そのあとに来たものは、かねてとなえられている窒息ちっそくしそうな倦怠けんたいだった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
茶を品し花にそそぐのも余裕である。冗談じょうだんを云うのも余裕である。絵画彫刻にかんるのも余裕である。つりうたいも芝居も避暑も湯治も余裕である。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのままでかん。今井がオウ! と気合いをかけて一、二歩出る。長五郎が右へジリッと廻り込み、突き出した刀がスッスッスッと揺れはじめる。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
余はおのれが信じて頼む心を生じたる人に、卒然ものを問はれたるときは、咄嗟とつさかん、その答の範囲を善くも量らず、直ちにうべなふことあり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
年がれて春がき、夏がきてまた秋がきた。花前はなまえもここにはや一年おってしまった。このかん、花前の一身上しんじょうには、なんらの変化へんかもみとめえなかった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
事実約束よりも半月以上も長く働きは働いたが、ッぱつまった仕事ばかりなのでそのかんの仕事はとても無理なのだ。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ゆゑいはく、これ大人たいじんろんずればすなはもつおのれ(七二)かんすとせられ、これ(七三)細人さいじんろんずればすなはもつて((己ノ))けん(七四)ひさぐとせられ
私の居る二階の窓から、ほんとうに、ちょっと手を伸ばせば、折り取れるところに在って、それこそ咫尺しせきかんに於いて私は、火事を見ていたのである。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かんじんのこけ猿は、いまだに行方不明。日光御着手の日は、目睫もくしょうかんにせまっておる。申し訳にこの大之進、腹を
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ただそのかんの相違は、一月前まで、いやつい昨日までも、それはただの空想だったのが、今では……今では急に空想でなく、何か新しい、すご味のある
やがて司会者はって五、六分間、紹介のことばを述べた。このかんは僕にとって、生涯しょうがい忘れられぬ苦痛の瞬間しゅんかんである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
『さうらしいのよ』とつてあいちやんは、『でも、習慣しふくわんになつてしまつておぼえてられないわ——だッて、十ぷんかんまつたおなおほきさでられないのですもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
富士男はドノバンの腕をぐっとつかむやいなや、右にひきよせて岩石がんせきがえしに大地にたたきつけた。それはじつにかんはつをいれざる一せつなの早わざである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
蒲田弁理公使がよろし樽爼そんそかんに折衝して、遊佐家を泰山たいざんの安きに置いて見せる。嗚呼ああ、実に近来の一大快事だ!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
裁判の執行ほ数日のかんあり、乞ふ今夜ただちに校訂に着手して、之を両兄に託さん入獄ののち之を世に出だせよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
まず、イゾンゾ方面に、兵力集結の偽装をおこない、そうして、伊軍の注意を、その方面にきつけておいて、そのかんに、こっそり攻勢の準備を整えていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
敵国にてかの者を扶持放たると思わずしてかんにも入るるかと思うて疑う故、敵国に逗留する事能わずしてついには我国へ帰りわが兵となる故これ二の宝なり。
その峰ある処、件の森の中へあからさまに入ったと思うと、牛は宙に躍って跳狂はねくるうのが、一ツならず、二ツならず、咄嗟とっさかんまなこを遮って七ツ数えるとんだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かん金解禁きんかいきん計畫けいくわくをしたのは一さいとゞまらなかつたが、種々しゆ/″\事情じじやうめに實現じつげん出來できなかつた。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
彼はただ彼が話し合つたそのかんの印象を頑固に信じてゐるのだつた。やがて幾らも經たぬうちに、笹沼氏が大臣となるに及んで、村人達も驚かねばならなかつた。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
仕掛ながれの末には杜若かきつばたなど咲き躑躅つゝぢ盛りなりわづかの處なれど風景よし笠翁りつをうの詩に山民習得ならひえて一身ものうかん茅龕ばうがんに臥しうみて松にかへつ辛勤しんきんとつ澗水かんすゐおくる曉夜を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そのかん、日本人の如く、軽々しく他人の立場を計量し思惑を働かせて、同情し、寛大となり、諦らめ
無題 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
はるさくらにぎわひよりかけて、なき玉菊たまぎく燈籠とうろうころ、つゞいてあき新仁和賀しんにわがには十ぷんかんくるまこと此通このとほりのみにて七十五りようかぞへしも、二のかわりさへいつしかぎて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのつたみせといふのが、新はし博品館はくひんくわんとなりの今はぼうになつてゐる雜貨店ざつくわてんで、狹い銀座通ぎんざとほりにはまだ鐡道てつどう車が通ひ、新はししなかんでん車になつたばかりのころだつた。
このかん、明治四十年に至るまでには、新富座興亡史があり、歌舞伎座が出来上り、晩年は借財に苦しめられた守田勘弥もりたかんや歿くなってしまうと、新富座は子供芝居などで
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
綿抜というのはあわせのこと、布子の綿を抜いて袷とするの意であろう。「南無阿弥陀どてらの綿よひまやるぞ」という一茶の句は、最も簡単にこのかんの消息を伝えている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
輸送が江淮こうわいかんに限られず、供給のますます豊富になって後まで、価値のようやくいやしきを思いつつも、なお莫大なる輸出をしていたのが、この洋上の小王国であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二人が生活の爲の職業も見付からず、文學者としての自分の小さい權威も、何年かかんの世間との約束からだん/\はぐれて了つた事が義男にはいくら考へても情けなかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
そのかんで、わたしは、はじめから小川の厄介にならず馬道の学校に入りましたが、何かあるたびにありようは、代用のみるから自由らしいところを羨やましいと思いました。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ただ、このかん二十分か三十分のことが、自分にはじつに実に長いことに思われてならない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
昭和十五年、ヒットラーが欧洲を平定して巴里に入り、ドーバー海峡越しに英本土を指呼しこかんにらんでいたあの最得意の時期において、既に伯林ベルリンの悲運のきざしが見えていたのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
さてどうも困る事には、これまで十五にちかんつゝしみで長休ながやすみをいたしてりましたところへ、御停止ごちやうじあけとなつて、またやすんで京都きやうとまでまゐらうといふものは一人もありませんで、誠に困りましたが
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
むろんこのかんずっとみつ枝に督励されてのことであるが、話がここへ来たとき、みつ枝は毎々のことながら眼をくるくるさせて、感に打たれて、かなりな程度情熱的に膝をすり寄せた。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ず予が先年寒中滞岳中の状況を叙述して、いささか参考に供する所あらんとす、既に人の知る如く、富士山巓は一枚だになき、極めて磽确こうかくなる土地なれば、越年八つきかんの準備は
しばしば迷眩めいげんを感ずるようになったのは、それからのことである。そういう状態が一進一退して、長いことかれを苦しめ抜いた。そのかんにあってかれの生活も思想もおのずから変って来た。
〔譯〕人は須らく忙裏ばうりかんめ、苦中くちゆうらくを存ずる工夫をくべし。