さは)” の例文
旧字:
るとぞつとする。こけのある鉛色なまりいろ生物いきもののやうに、まへにそれがうごいてゐる。あゝつてしまひたい。此手このてさはつたところいまはしい。
ればさはれば高慢かうまんしたたゞらしてヤレ沙翁シヱークスピーヤ造化ざうくわ一人子ひとりごであると胴羅魔声どらまごゑ振染ふりしぼ西鶴さいくわく九皐きうかうとんびトロヽをふとンだつうかし
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
けれどわたし如何どういふものか、それさはつてすこしもなく、たゞはじ喰出はみだした、一すぢ背負揚しよいあげ、それがわたし不安ふあん中心点ちうしんてんであつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それを基礎から打ち崩してかるのは大変な難事業だし、又必竟出来ない相談だから、始めより成るべくさはらない様にしてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さうして癇癪の強い、ほんの僅かな外気に当るか、冷たい指さきにさはられても、直ぐ四十度近くの高熱を喚び起した程、危険極まる児であつた。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しからん。みんなどいてくれ、さ、どいてくれ。さ、どいてくれ。誰もさはつちやいかん。近所に交番はないか……。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
食卓の下で、主人のひざにゴソ/\さはるものがあつた。取り上げて見ると、「早稲田工手学校規則書」と刷つてある紙だつた。Aさんが置き忘れた物だ。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
さはらぬ人にたゝりはない、おのれの気持を清浄に保ち、怪我けがのないやうにするには、孤独をえらぶよりないと考へた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
葉の厚い硬い山茶花にさはる音は深深と遠い虫によく似てゐた。しかも北国では雪がふりながらも椽の下でひいひい啼いてゐる虫を聞くことは珍らしくなかつた。
故郷を辞す (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
壁もとこはりも、巌であつた。自身のからだすらが、既に巌になつて居たのだ。屋根が壁であつた。壁が牀であつた。巌ばかり——。さはつても/\巌ばかりである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
手に取つて、さはつて見て、それからでなければ其様そんなことは信じられない。いよ/\こりやあ、僕の観察の通りだ。生理的に其様な声が聞えたんだ。はゝゝゝゝ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おばこ心持ちや池の端の蓮の葉のんまり水、コバエテ/\、少しさはるでど(でどはというとの意)ころ/\ころんでそま(そまはすぐの義)落ちる、コバエテ/\
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
で、しやくさはつて、故意わざと逆に、「もう死んでゐるのだ。姉さんはもう死んで了つてゐるのだ」
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
それは丁度朝日の光の薄氷うすらひにさしてゐるやうだつた。彼は彼女に好意を持つてゐた。しかし恋愛は感じてゐなかつた。のみならず彼女の体には指一つさはらずにゐたのだつた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
れない料理人れうりにんが、むしるのに、くらか鎧皮よろひがは附着くつゝいてたでせうか。一口ひとくちさはつたとおもふと、したれたんです。鬼殻焼おにがらやき退治たいぢようとふ、意気いきさかんなだけじつ悲惨ひさんです。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「もうそろ/\良縁があるんだらう。」寄るとさはるとかう言つてあたりの人々はうはさしてゐた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
少し私にはさはりが冷たいからだらうかと言つて、沈んでゐられた事もあつたさうである。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
雑木の葉は皆さはれば折れさうにこはばつて、濃く淡く色づいてゐた。風の無い日であつた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
風呂桶ふろをけさはらふ我の背の骨のいたくも我はせにけるかな』のしもの句を『く現れてありと思へや』と直し、憲吉・古実君の意見をも徴して、其をアララギの原稿にしたのである。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
指さきでそつとさはらうものなら、そのまま夢からさめて消えも入りさうな一重桜。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
落葉がいくらとなしに積って腐蝕した山の地面は歩むとへんにボコボコとした軟らかい足さはりがした。そして役にも立たぬ馬酔木あしび躑躅つつじがしょんぼり残された山一杯に木屑こっぱが穢なく散乱した。
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
あなたは、これから、さちよにさはつては、いけない。一指もふれては、いけない。なんて、嘘なのよ。あたしは、とてもリアリスト。知つてゐるのよ。あなたの言ふこと、わかつてゐるのよ。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
翌日あくるひ平生いつもの通り仕事に掛つて見たが、仕事が手に附かない。普請場ふしんばからがもう厭になつて来た。何処へ行つて見ても、何にさはつて見ても、眺めても、娘の事が想出されて、生別わかれの辛さをひしと思知る。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
さはるものみな親し善き人の優しき手紙ふみに独り笑みつつ
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
ちくちくさはる粉雪よ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
戸外そとさむい。そらは高くれて、何処どこからつゆるかと思ふ位である。手が着物にさはると、さはつた所だけがひやりとする。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
御扶手おんたすけて此世このよすくたまうてより、今年ことしまで一千二百十二年いつせんにひやくじふにねんになるが、このあたしにはおたすけい。しゆ貫通つきとほした血染ちぞめやりがこのさはらないのである。
職員室の片隅には、手の明いた教員が集つて、寄るとさはると法福寺の門前にあつた出来事のうはさ。蓮太郎の身を捨てた動機に就いても、種々さま/″\な臆測が言ひはやされる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
加之それに用心深ようじんぶか其神経そのしんけいは、何時いつ背負揚しよいあげて、手紙てがみさはつたわたしにほひぎつけ、或晩あるばんつまつた留守るすに、そつ背負揚しよいあげしてると、手紙てがみはもうなかにはなかつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
でも、おまへさまは、尊いおん神に仕へてゐる人だ。おれのからだにさはつてはならない。そこに居るんだ。ぢつとそこに蹈みとまつて居るものだ。——あゝおれは死んでゐる。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
地体ぢたいなみのものならば、嬢様ぢやうさまさはつてみづ振舞ふるまはれて、いままで人間にんげんやうはずはない。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まるで「さはつの」のある虫のやうに、いつもひりひりとさとり深い魂を有つてゐるものだ。
抒情小曲集:04 抒情小曲集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
五六歩歩くと、智恵子の柔かな手に、男の手の甲が、の葉が落ちてさはる程軽く触つた。寒いとも温かいともつかぬ、電光いなづまの様な感じが智恵子の脳を掠めて、体が自らかたくなつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ついでに狐退治の極意を披露すると、田舎の一軒屋などでは、夜が更けると狐がとん/\とを叩いて悪戯いたづらをする事がある。その時狐は後向うしろむきになつて持前の太い尻尾でさはつてゐるのだ。
私にはそのばさばさしてどこか手さはりの渋いカステラがかかる場合何より好ましく味はれるのである。粉つぽい新らしさ、タツチのフレツシユな印象、実際さはつて見ても懐かしいではないか。
桐の花とカステラ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はてしなき悔いに更けゆき白壁の荒きにさはり独り愛しむ
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
「この野郎! 誰にことわつてトロにさはつた?」
トロツコ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
目鋭めざとい叔父は直にそれて取つて、一寸右のひぢで丑松を小衝こづいて見た。奈何して丑松も平気で居られよう。叔父の肘がさはるか触らないに、其暗号は電気エレキのやうに通じた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さうして加減かげんのところで、突込つゝこんでさぐつてると、たしかさはるものがある。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
私にはそのばさばさしてどこか手さはりの渋いカステラがかかる場合何より好ましく味はれるのである。粉つぽい新らしさ、タツチのフレツシユな印象、実際さはつて見ても懐かしいではないか。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
参謀本部さんぼうほんぶ編纂へんさん地図ちづまた繰開くりひらいてるでもなからう、とおもつたけれども、あまりのみちぢやから、さはるさへあつくるしい、たび法衣ころもそでをかゝげて、表紙へうしけた折本をりほんになつてるのを引張ひつぱした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
教誨の聖書学びに来しへやに大き雁来紅かまつかの鉢ありさは
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
きてたやうにおもはれて、一寸ちよいとさはるのもはゞかられる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
吸入器の湯気のさはりの頬にゆくいくたびか拭きてなほ暫時しましあり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
野薊にさはればおゆびややいたし汐見てあればすこし眼いたし
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ハヽヽ、わらびさはつた。」
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さはりさへすれば火が出さうに動いてゆく。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さはる帯の繻子、やはらかなこな
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
薄い硝子にさはるやうな……
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蚕豆にさはれば
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)