しん)” の例文
旧字:
モリエエルなどのきよ匠の作を演ずる日が削減されるのは遺憾なことであるから、マス君の議論はしんに発言の時を得たものであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そこをさかのぼると、自分のうつっている血をとおして、遠い大祖おおおやたちの神業かみわざと、国体のしんが、いつか明らかに、心に映じてくる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我々は教育の結果、習慣の結果、ある眼識で外界を観、ある態度で世相を眺め、そうしてそれがしんの外界で、また真の世相と思っている。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、主人しゅじんは、さとすように、いったのでした。これをいたときに、信吉しんきちは、いままでの自分じぶん意気地いくじなしが、しんずかしくなりました。
風雨の晩の小僧さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
この家へきたときからこのくらいか、あるいはいつごろから調子ちょうしがよくなったかとうのであった。安藤はしんの花前のともである。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
めばことをもくなり。彼が手玩てすさみと見ゆる狗子柳いのこやなぎのはや根をゆるみ、しんの打傾きたるが、鮟鱇切あんこうぎりの水にほこりを浮べて小机のかたへに在り。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この藩に居た所が何としても頭のあが気遣きづかいはない。しん朽果くちはつると云うものだ。どんな事があっても私は中津で朽果てようとは思いません。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「どうと言うてしんさん、今宵こよいはここへ泊って、明日はおとなしゅうお帰りなさるがお前のため、わたしのためでござんしょう」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかして遠景の大雨たいうにかすみ渡れるさまは薄墨の描法しんに驚くべきものあり。Henriアンリー Veverヴェヴェール が蒐集中の一板画もまた甚だし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夜中、やみに紛れて左膳は、こっそりと……しんにこっそりと、夜泣きの刀の大、乾雲丸を、鈴川庭内の片隅に土を掘って埋めたのだが——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「今死ぬ私が、いい加減な事を言うものですか、——何を隠しましょう、これはお駒も知らない事ですが、私はお駒のためにはしんの父親——」
夙起はやおきの癖故にそなたまでを夙起はやおきさしてなお寒き朝風につれなくそでをなぶらする痛わしさと人をかばう御言葉、しんぞ人間五十年君に任せて露おしからず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
シカシしんにそうだネ、モウ罷した方が宜い。オイ内海、笑ッてしまおう。マア考えて見給え、馬鹿気切ッているじゃないか。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
巻中の画、老人が稿本かうほん艸画さうぐわしんにし、あるひは京水が越地にうつし真景しんけい、或里人さとびとはなしきゝに作りたるもあり、其地にてらしてあやまりせむることなかれ。
ロテイのいた日本はヘルンの描いた日本よりも、しんを伝へない画図ぐわとかも知れない。しかしかく好画図たることは異論を許さない事実である。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて、はしごがスルスルと天井に引きあげられ、穴ぐらの入り口は密閉され、地下室はしんのやみになってしまいました。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
要するに、予の半生はんせい将死しょうしの気力をし、ややこころよくその光陰こういんを送り、今なお残喘ざんぜんべ得たるは、しんに先生のたまものというべし。
巻中の画、老人が稿本かうほん艸画さうぐわしんにし、あるひは京水が越地にうつし真景しんけい、或里人さとびとはなしきゝに作りたるもあり、其地にてらしてあやまりせむることなかれ。
何故此家ここに居ると思つたか、此家に来ると其人が言つて出たのか、又、若ししんに用があるのなら、午前中確かに居た筈の加藤へ行つて聞けば可い。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
米国のはいになり米国の土になった彼女は、しんに日本が米国につかわした無位無官の本当の平和の使者つかいの一人であったと。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「滅相もない。古式厳格の暗闇祭。なんでそんなものがございますものか。まっ暗もまっ暗、しんやみでございます」
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その主意たるや、要するに矢野弦光が、その日、今朝、しんもって、月村一雪、お京さんの雪の姿に惚れたのである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少くとも彼等の所謂いわゆるしん」なるものが、科学的の真理にもせよ倫理上の真理にもせよ、極めてアヤフヤな、不安定な性質のものである事はたしかである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どんな詰まらぬよろこびでも、どんな詰らぬなげきでも、己はしんから喜んで真から歎いて見るつもりだ。人生の柱になっている誠というものもこれからは覚えて見たい。
志「いや、これは僕のしん知己ちかづきにて、竹馬の友と申してもよろしい位なもので、御遠慮には及びませぬ、何卒どうぞちょっと嬢様にお目にかゝりたくって参りました」
従来藤原村ふじはらむら三十六万町歩即凡そ十三里四方ありとごうする者はたしてしんなりやいなや動植物どうしよくぶつおよび鉱物の新奇しんきなるものありや否等をきはむるにり、又藤原村民の言に曰く
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
例へば「老松」の「紅梅殿」でいふならば、しんじよまひは常はシテが舞ふのであるがそれをツレの天女に譲り、シテはイロヘがかりの短い舞をまふだけになつたり
演出 (新字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
此方こちらしんから尽す気でも取りやうに寄つては面白くなく見える事もあらう、勇さんだからとてあの通り物の道理を心得た、利発の人ではあり随分学者でもある
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「さあ、その仮定かていしんなりという証明ですが、これは針目博士に会って聞けば、一番はっきりするんです。しかし困ったことに針目博士は姿を消してしまった」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なぜなら事実において、私の仲間の努力と、多種多様な才能とはしんに称讃すべきものではあったけれども、それでもなお、彼の思案に余るような場合があったからだ。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
とは、しんの男子の態度であろう。男もこの点まで思慮しりょが進むと、先きに述べたる宗教のおしうる趣旨にかのうてきて、深沈しんちん重厚じゅうこう磊落らいらく雄豪ゆうごうしつとの撞着どうちゃくが消えてくる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それは当時の塩田良三りやうさんで、即今の塩田しんさんである。辛亥の歳には柏が十七、良三が十五であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
勝伯かつはくが徳川方の大将となり官軍をむかえ戦いたりとせよ、その結果けっかはいかなるべきぞ。人をころざいさんずるがごときは眼前のわざわいぎず。もしそれしんの禍は外国の干渉かんしょうにあり。
藤木さん夫婦は妹娘をしんにして柳橋でパリパリの××家のおとっさんおっかさんになってしまった。手拭てぬぐいゆかたの立膝たてひざで昔話をして、小山内さんや猿之助を煙にまいていた。
静に底から洩いて来て、外へ溢れてゐた。その泉のやうに、自分はしんの生活をしてゐたのだ。そこへあの女が来た。今では尼になつてアグニアと呼ばれてゐる女である。
「へーえッ! そうですかなあ! 本当に済まないなあ!」私はしんから済まないと思った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
みちを学びしんを修めたから、その功が満ちぎょうって、照道大寿真しょうどうだいじゅしんと呼ばれるようになっておるが、近ぢかのうちに、地仙ちせんせきを脱して、天仙てんせんになることになっておる、この霊窟れいくつ
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
◎龍馬の生れた日ですか、天保てんぽ六年の十一月十五日で丁度斬られた月日(慶応三年十一月十五日)と一緒だと聞ひて居るのですが書物には十月とあります、どちらがしんだか分りませぬ。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
その言しんしかり。しかれども秋時京に行きたりとも、春時奈良に行きたりとも、全くその趣味欠くに非ず。否、京も秋ならざるべからざる所あり、奈良も春ならざるべからざる所あり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
なぜなら、そのうちの前には小さなしんちゅうの看板かんばんが二まいぶら下がっていて、それがどうしたって音楽の先生の看板ではなかった。そのうちはどう見ても床屋とこやの店のていさいであった。
かう言つて、俳優やくしやのやうにしんから草臥れたらしい顔つきをして船長を見かへした。
然り而して其の文をるに、各々奇態きたいふるひ、啽哢あんろうしんせまり、低昂宛転ていかうゑんてん、読者の心気をして洞越どうゑつたらしむるなり。事実を千古にかんがみらるべし。たまたま鼓腹こふくの閑話あり、口をきて吐きだす。
「わたしはしんぜんについてかいています。けれどだれもそんなことに耳をかたむけてはくれないので、わたしはまったく絶望ぜつぼうしていますよ。なにしろこれはわたしにはだいじなことなので。」
一首の意は、淡海おうみの湖に、その湖の夕ぐれの浪に、千鳥が群れ啼いている。千鳥等よ、お前等の啼く声を聞けば、しんから心がしおれて、昔の都の栄華のさまを偲ばれてならない、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あいつしんに甲州へ絹の仕入れに行き、江戸へ帰るべく今夜布田に泊る者とすれば、もうこの土地に姿を見せぬはず。もしあいつが暗闇の前後に、まだ府中の土地を踏んでいるとすれば、もう確かだ。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
むなしく帰ればどんな罰をこうむるかも知れないので、あしかけ二十年の間、ここにさまよっていたのですが、今度みなさん方のお蔭でろうしてしんとなし、無事に使命を勤めおうせることが出来ました。
じりじりッと燈芯とうしんちるおとが、しばしのしじまをやぶってえあたりをきゅうあかるくした。が、それもつか、やがてあぶらきたのであろう。行燈あんどんたちまえて、あたりはしんやみかわってしまった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
地球では、しんの勝利はないのだし、まことのさちあがめない。
けれどしん休息きうそくは、その要のないものの上にだけりる。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
その次に起こった光景はしんに恐ろしいものであって
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)