すぐ)” の例文
「多加ちゃんがあすこへはいるとすぐに、日曜学校の生徒からだって、花を一束ひとたば貰ったでしょう。さあ、お花だけにいやな気がしてね」
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
疲労つかれと心配とで、私も寝台の後の方に倒れたかと思うと、すぐに復た眼が覚めた。一晩中、お房は「母さん、母さん」と呼びつづけた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
駅から駅への電話が、この中津川で行先不明の私たちをやっと捉えると、すぐにも引き返さねばならぬ重大用件を取りついだのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
普通の際なれば、すぐにも吹き出してしまう所でしょうが、その滑稽こっけいな問答を、私達はまるで果し合いの様な真剣さで続けたものです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
氏郷勢よりは多かったので、兵が少くては何をするにも不都合だからであることは言うまでも無い。板谷山脈を越えればすぐに飯坂だ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あの見ゆる所湯本なれば、この道筋をすぐに行けば出ずるなり」とよくよく教え、「御縁あらば重ねて」といとまごいして別れけり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
うむを見て男魚をなおのれ白䱊しらこ弾着ひりつけすぐ女魚めな男魚をなほりのけたる沙石しやせきを左右より尾鰭をひれにてすくひかけてうづむ。一つぶながさるゝ事をせず。
「おやもうそつちのはうつたのかい、それぢや彼處あすこたゝくんだよ」内儀かみさんはいつてわかれた。おつぎはすぐ自分じぶん裏戸口うらどぐちつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それこそ松原のすぐの蔭で、隣接する家とてもなく、いまだに門に人力車を乗りつくる事も出来ぬといふ不便の地点の一軒家である。
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
あの娘が居ればこそ永い間貧乏世帯を張って苦労をしながらこうっていたが、お久が居ないくらいなら私はすぐに出て往っちまうよ
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それより、自分の手にかけて殺し、自分もすぐにその後を追ってやはり、死んでからも親子であるという考えからやったことだといった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
若いお内儀さんが夜半よなかねやをぬけ出して、下女部屋へ忍んで来た仔細はすぐに判った。判ると同時に、お菊は差当りの返事に困った。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まあ、あたし初茸御飯なんて初めてですわ。どんなでしょう。松茸ならおいしいと思いますけれど。今晩すぐに炊いて見ましょうか。」
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ここにおいてわたくしは、外崎さんの捜索をわずらわすまでもなく、保さんの今の牛込うしごめ船河原町ふながわらちょうの住所を知って、すぐにそれを外崎さんに告げた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「なに、八四二区か。ふむ、それは本当に油断がならないぞ。敵機が着陸したら、すぐ毒瓦斯どくガス部隊で取り囲んで、敵を殲滅せんめつしてしまえ」
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今の諸侯の中で、心から国を憂い、また皇室へも、心からすぐな心をよせている者は、政宗をいて誰もいない——というのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わかい女の片肌が、ふっくりと円く抜けると、麻の目がさっと遮ったが、すぐ底澄そこずんだように白くなる……また片一方を脱いだんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それも一つは原料の泡立て方が足りないとこの位明けてもすぐに縮まります。原料の泡が固い位に出来ていると少し位明けても平気です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
近江さんが近頃下宿を此処ここに変へられた事を知らぬ自分達はその奇遇に驚いたが、氏のお世話ですぐこの家の一室へ落附く事が出来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そして一目見るとすぐに、すこしあけツはなしのてんのあるかはりには、こせつかぬ、おツとりとした、古風こふう顔立かほだてであることを見て取ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この句を読むとすぐに蕪村の「うぐひすや家内揃うて飯時分」を思い出す。「食時分」はやはり「メシジブン」とよむのであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
代助はそうかと答えたまま、留めもしない、と云ってすぐ分れもしなかった。赤い棒の立っている停留所まで歩いて来た。そこで
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは男の晴やかな額を見てもすぐ分る。いつもは優しいことばを掛けていても、その底にすきうかがっているような、意地の悪い心持ちがあった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
貴女が可厭いやだつたらすぐに帰りますよ、ねえ。それはなかなか好い景色だから、まあ私にだまされたと思つて来て御覧なさいな、ねえ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
日についで支度にかゝれば二月の末には萬々ばん/\用意はとゝのひたり爰に皆々を呼集よびあつ評定ひやうぢやうに及ぶ樣はすぐさま江戸へ下るべきや又は大坂表へ出て動靜やうす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
青眼先生は仕方なしに、薬籠の中から油薬を出して、繃帯一面にませて、こうやっておけばすぐに痛くないように繃帯が取れるであろう。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
なにかミハイル、アウエリヤヌヰチがふたのでるが、すぐみな掻消かききえてしまつた。くてアンドレイ、エヒミチは永刧えいごふめぬねむりにはいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれども誠に仕合せな事にはその沢山な人達が着くとすぐにヤクの糞を沢山に拾って来て、夜通しテントの中で火を燃して居るのみならず
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私はすぐってそこの廊下の雨戸を一枚けて、立って待っておると戸外おもておぼろの夜で庭のおもにはもう薄雪の一面に降っていた。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
あの事を止めてしまへば自分は「ただの女」となつてしまふ。一旦は喜んで貰へるかもしれないがすぐに又侮蔑がくるであらう。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
ムラサキ科のチサノキは関東地には無いから無論この品にあらざる事はすぐに推想が出来るが、しかし時とするとそれを間違えている人もある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
でもまず差当さしあたり牛込と浅草とを目差して先ず牛込へ行き夫々それ/″\探りを入て置てすぐまた車で浅草へ引返しました、何うも汗水垢あせみずくに成て働きましたぜ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
れは大変な事と思て、すぐ引返ひきかえしておもての方に居る公用方の吉岡勇平よしおかゆうへいにその次第を告げると、同人も大に驚き、場所に駈付かけつ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遠近のおかみさん達から完全な晴雨計と見做されていたということが書いてあるのを見て、すぐに思い出したのは故郷の赤城山のことであった
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一度ならず二度までもあまりといえば不思議なので翌朝よくあさ彼はすぐ家主いえぬしの家へ行った、家主やぬし親爺おやじに会って今日まであった事を一部始終はなして
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
生活に對する今日こんにちまでの經驗が何事によらずすぐと物の眞底を見透みすかして興味をいでしまふし、其れと同時に、路傍に聞く新しい流行唄はやりうたなども
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
アヽおまへこゝに居たネ、おつかさんが町へつれてつてれろといつたが、行くなら早く仕度をするがい、すぐと出るから
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
(突然活溌かっぱつになりて二三歩前の方へで、独言ひとりごと。)そのくせゆうべヘレエネと話しているうちにすぐにでもかき始められるように思ったのだが。
マーキュ さゝ、足下おぬしはイタリーでれにもひけらぬ易怒男おこりむしぢゃ、ぢきおこるやうに仕向しむけられる、仕向しむけらるればすぐおこる。
「馬車が出ます/\」と、炉火ろくわようしてうづくまりたる馬丁べつたう濁声だみごゑ、闇のうちより響く「吉田行も、大宮行も、今ますぐと出ますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お膳立をしてあの戸棚とだなへ入れときましたから、どうぞ……お嬢さま、もうすぐうござんすか? それじゃア行ってまいります
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
喬介はすぐ鉄蓋やねの上へい上った。——実際こんな処では、匐っていなければ墜ちてしまう——そして、その上の無数の跡に就いて調べ始めた。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
あつすぐねむくなつたり、懵然ぼんやりするものだから一しんに)こゝろうちかんがへてゐますと、突然とつぜん可愛かあいをした白兎しろうさぎが、そのそばつてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
東が白むと万作一家三人すぐと起きて、霞が浦の水掬いあげて顔を洗って、日輪さまを拝んで、それから鳥屋とやを明けて鶩を出してやるのがお光の役で
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かくてかれそのすぐなりし目を横に歪め、少しく我を見て後かうべをたれ、これをほかのめしひ等とならべて倒れぬ 九一—九三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すぐに公園のほうへぬけられる九尺幅の道をつけ、両側に、小料理屋だのカフェーだのを並ばせて、“親米小路”という名まえをつけたわけで……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
それにあるこーる、えーてるとうごと一時いちじひろがるものがちかくにあるとき、すぐ大事だいじ惹起ひきおこすにいたることがおほい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
おもいのほか金が散かったり品物がかけになったりして、資本の運転が止ったところで、去年よりも一層不安な年の暮が、すぐにまた二人を見舞って来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それ等のことは片耳にも入れで、ただ四辺あたりの静にさわやかなるを喜び、今日よりすぐにお借り申まする、敷金は唯今置いて参りまして、引越しはこの夕暮
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あたくしはね、すぐにあちらへ行くといふ譯には行きませんけれど、どうにか、看護婦志願は出來るのですけれど——
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)