しほ)” の例文
しほの引く時泥土でいどは目のとゞく限り引続いて、岸近くには古下駄に炭俵、さては皿小鉢や椀のかけらに船虫のうようよと這寄はひよるばかり。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
僕の胃袋ゐぶくろくぢらです。コロムブスの見かけたと云ふ鯨です。時々しほも吐きかねません。える声を聞くのには飽き飽きしました。
囈語 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
和歌わかうらしほがさしてると、遠淺とほあさうみ干潟ひがたがなくなるために、ずっと海岸かいがんちかくにあしえてゐるところをめがけて、つるいてわたつてる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
あなたは、凡ゆる人生があなたの青春を此處まで運んで來たやうな靜かなしほに乘つて過ぎてゆくものと思ふでせうね。
水底みづそこ缺擂鉢かけすりばち塵芥ちりあくた襤褸切ぼろぎれくぎをれなどは不殘のこらずかたちして、あをしほ滿々まん/\たゝへた溜池ためいけ小波さゝなみうへなるいへは、掃除さうぢをするでもなしにうつくしい。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この冷氣はオホツク海から寒流がくるしほの加減だと書いてあつたがと、ウロ覺えの新聞知識で天文學者の卵でもあるかのごとく案じ、さういへば
あるとき (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
貫之つらゆきの哥に「しほのぼるこしみづうみちかければはまぐりもまたゆられにけり」又俊成卿としなりきやうに「うらみてもなにゝかはせんあはでのみこしみづうみみるめなければ」又為兼卿ためかねきやうとしを ...
こたびはしほはなの事とて忙しきまで追ひかけ追ひかけて魚の鉤に上り来れば、手も眼も及びかぬるばかりなり。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
私はそれをしほに何気なく後ろへ退き、皆の注視圏外へ出ると一散に寺の境の木立を目がけて走つた。そこにも誰かゞ見てゐるとは思つたが、思ひ切つて用を足した。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
しほてば水沫みなわうか細砂まなごにもわれけるかひはなずて 〔巻十一・二七三四〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
地震ぢしん場合ばあひおいこの引金ひきがねはたらきに相當そうとうするものとして、氣壓きあつしほ干滿かんまんなどいろ/\ある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
しほの様な虫の音も聞えぬ程、賑かな話声が、十一時過ぐるまでも戸外そとに洩れた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
橄欖オリワの林に隱顯せる富人の別業べつげふの邊よりははるかに高く、二塔の巓を摩する古城よりは又逈に低く、一叢ひとむらの雲は山腹に棚引きたり。われ。彼雲の中にみて、大海のしほ漲落みちひを觀ばや。夫人。さなり。
砂利やしほみづが、ざら、ざら、ざら、ざら流れてゐる
海恋ししほの遠鳴りかぞへては少女となりしちゝはゝの家
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
海恋ししほの遠鳴り数へては少女となりし父母の家
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
能々よく/\うんかなひし事かなされど二日二夜海上にたゞよひし事なれば身心しんしんつか流石さすがの吉兵衞岩の上にたふふし歎息たんそくの外は無りしが衣類いるゐは殘らずしほぬれ惣身そうしんよりはしづくしたゝり未だ初春しよしゆんの事なれば餘寒よかんは五體に染渡しみわたはりにてさゝれる如くなるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わがゆくかたは、八百合やはあひしほざゐどよむ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
ああみんなみしほ黒く、呼べばこたへむ波の涯
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
なごみたる海にもしほ滿干みちひあり
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
よるしほ みちくるときに
蛇の花嫁 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
燃えてはめぐる血のしほ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たゞ大しほの湧くがごと
天地有情 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
しほなごみぞはかられぬ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
貫之つらゆきの哥に「しほのぼるこしみづうみちかければはまぐりもまたゆられにけり」又俊成卿としなりきやうに「うらみてもなにゝかはせんあはでのみこしみづうみみるめなければ」又為兼卿ためかねきやうとしを ...
しほのさゝない中川筋なかがはすぢへ、おびたゞしいぼらあがつたとふ。……横濱よこはまでは、まち小溝こみぞいわしすくへたとく。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
定めし少女も小生と同様、桜の花や花崗岩みかげいししほしたたる海藻をおもひ居りしことと存じ候。これは決して臆測おくそくには無之これなく、少女の顔を一瞥いちべつ致し候はば、誰にも看取かんしゆ出来ることに御座候。
伊東から (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
英虞あごうら船乗ふなのりすらむをとめ珠裳たまもすそしほつらむか 〔巻一・四〇〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
別れのふちといふ名は、うみしほ川水かはみづの相逢ふ場所からの名で、古くから遊女歌舞伎たち、ここに船をうかべて宴を催し、「江戸雀」には、納凉の地といひ、舟遊びの船に、波のつづみ
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
さくらといふところに、つくつてあるところへ、つるいてわたつてく。その手前てまへにあるあゆちがた。そこはしほ退いてゐるにちがひない。それであゝいふふうに、つるわたつてくのだ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
海凪ぎぬ、朝ぼらけしほもかなひぬ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みちしほや風も南のさつき川
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しほのみちひをおぼゆめり
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
溢れたるしほを、逆卷さかまきて
なごみはしほのそれのみか
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
しほ遠き朝ぼらけ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しほかをる北の浜辺はまべ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しほ時々とき/″\かはるのであらうが、まつりは、思出おもひだしても、何年なんねんにも、いつもくらいやうにおもはれる。時候じこうちやう梅雨つゆにかゝるから、あめらないとしの、つきあるころでも、くもるのであらう。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
熟田津にぎたづ船乗ふなのりせむと月待つきまてばしほもかなひぬいまでな 〔巻一・八〕 額田王
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
和歌わかうらしほみちれば、かたをなみ、あしべをさしてたづきわたる
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
海凪ぎぬ、朝ぼらけしほもかなひぬ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しほにひたりて、そのおもて
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
しほ遠き朝ぼらけ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しほのひきたる煌砂きらゝずな
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
しほぐもりかな
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
うしてつちてからも、しま周圍まはりに、そこからえて、みきばかりも五ぢやう、八ぢやう、すく/\とみづからた、れない邪魔じやまつて、ふねけること出來できないで、うみなかもりあひだを、しほあかりに
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
海凪ぎぬ、朝ぼらけしほもかなひぬ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大川おほかはがよひさすしほ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
海凪ぎぬ、朝ぼらけしほもかなひぬ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しほみて浸しぬ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)