ひま)” の例文
それで、ひすいを見分みわけるために、御殿ごてんされた老人ろうじんは、きさきくなられると、もはや、仕事しごとがなくなったのでひまされました。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それだけにしばしの不埓ふらち容赦ようしゃされたいというのが、せめてもの彼の願いであった。そして、ひまさえあれば、足は柳島の方へ向った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「——すぐに帰ってきますから、どうぞ、二十日はつかほどおひまを下さいまし、ほんとに、今いったような、知らせが来ているのですから」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はひまで/\仕樣のない日を、一杯呑むほどの工面くめんもつかず、相變らず埃臭ほこりくさい粉煙草をせゝつて、八の來るのを待つて居るのでした。
わたしも絵馬をあつめるのが道楽で、ずいぶん無駄なぜにを使ったり、無駄なひまを潰したりしているが、お前の主人は道楽が強過ぎるぜ。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まだ中学に居る頃からの宿題で、寐てもめても是ばかりは忘れるひまもなかったのだが、中学を卒業してもまだきまらずに居たのだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
所が今日はもう出勤前だから又明朝来てれ、くる朝早く行くと、人が来て居て行かないと云う。如何どうしても教えてれるひまがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
らつたうへうしてひまつぶして、おまけに分署ぶんしよおこられたりなにつかすんぢや、こんなつまんねえこたあ滅多めつたありあんせんかんね
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
読書好きな人で、ひまさえあれば居間にこもって書物を読んだり書き物をしたりしている。利殖りしょくの道にはうとい人だと、誰でもが言っていた。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「もうこの羽目はめになった上は、泣いてもわめいても取返しはつかない。わたしは明日あすにも店のものに、ひまをやる事に決心をした。」
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はちかつぎはあさばんもおかままえすわって、いぶりくさまきのにおいに目もはないためながら、ひまさえあればなみだばかりこぼしていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
平「此の程は役がかわってから稽古場もなく、誠に多端たゝんではあるが、ひまの節に随分教えてもやろう、其のほうの叔父は何商売じゃの」
てる (云ひにくさうに)こんなこと申し上げてすまないんでございますけれど、今日限り、おひまをいたゞきたうございます。
秘密の代償 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
で、そっちを見ないようにして、上の土人が網を受取っているひまねらって、鋏をあげ、えらいいきおいでそいつを目がけて飛びついて行きました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
「下男の人が返事を待っていたんだよ。今日はちょうどお前はひまだと、私は言っておいた。その時間には、お前は何も用がないでしょう。」
方角はいへ裏手うらての様にも思へるが、遠いのでしつかりとはわからなかつた。また方角を聞きけるひまもないうちにんで仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何故なぜ今朝彼女が拘引されなかつたか、でなければ少くとも、何故主人からひまを出されなかつたのかと不審でならなかつたのだ。
大岡殿聞れ大分其方は神妙者しんめうものと見える昨年より當年へかけ傍輩はうばいうちいとまを取てさがりしと云ふ者か又は不首尾ふしゆびにてひまやりしとか何か五兵衞方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかも、私は犬のほうなどを詳しく検査しているひまはなかった。Fがたちまちに自分の部屋からころげ出して来たのである。
書生は気味悪がって、たじろいでいるひまに、事に慣れた恒川警部は、いち早くお菊の側に駈け寄り、上半身を抱き起して、大声に名を呼んだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし、さすがに僧たちも、裸の姫には手を触れかね、躊躇ちゅうちょしているひまに姫はびっくりして苫船の中へげ込み、着物をかぶって縮んでいました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ヘルンが学校に行ってる間、夫人はひまぬすんで熱心に読書をし、手のおよぶ限り、日本の古い伝説や怪談の本をあさりよんだ。
これでは到底のぞみがないと思ってひまをやったわけだがしかしこれはあの女ばかりに限った話ではない。今の若い女は良家の女も芸者も皆同じ気風だ。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「めっそうな、うらがひまつぶしにこしらえたんじゃ、進ぜるわいの。——今日び唐津からつびきのもあるけんど冬は冷たいせに」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
ヂュリ ほんにさうもあらうか、わたしものではないゆゑ。……(ロレンスに)御坊樣ごぼうさまいまひまでござりますか、あらためてばんのお祈祷頃いのりごろまゐりませうか?
虎吉は春に、「旦那からおひまが出たのだかどうだか、伺ってくれろ」と頼んだ。石田は笑って、「己はそんな事は云わなかったと云え」と云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかも働いてひまの無い人々にかわって、知識を捜索しまた新しい感動を求めて行くだけの、内助の力ならば与えられる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
豌豆えんどう隠元いんげんは畑に数珠じゅずりでも、もいでて食うひまは無い。如才じょさいない東京場末の煮豆屋にまめやりんを鳴らして来る。飯の代りにきびの餅で済ます日もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何處どこ姉樣あねさまからお手紙てがみやうぞ、眞赤まつかうそをと我家わがや見返みかへられて、何事なにごと御存ごぞんじなしによいおかほをしてひまくださる勿躰もつたいなさ、あのやうなどく
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そでを通しながらも、笑ったり、ふざけたりした。けれども、ママはもうその相手あいてをしているひまが一ぷんもなかったので、いそいで出て行ってしまった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
忙しい仕事から漸くひまを得たやうに、二つの若々しい健康さうなその顏は上氣して汗ばんでゐた。美しくさへあつた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
もう今頃は、隅田家すみだけの墓地へ着いて暗闇の中に警察の提灯ちょうちんをふっているころだろう。掘りだした屍体がここへ帰ってくるまでには、まだひまがあった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
着物のすそをひらいた長襦袢の膝でぺたりと坐るなり「なんや、まだたいてるのんか、えらいひまかかって何してるのや」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
かう言つて、二三日のひまを貰つて行つたが、日限が来ても、そのばゝあつひに帰つて来なかつた。二人目も五六日でいとまを乞ひに世話人のもとにやつて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
(彼の件)を見届け候以上はの家に最早用は無之これなく且つ居ては御身おんみあやうく候まま、明日にもひまをお取りなさるべく候——
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで彼は、もと勤めていた線路工夫に戻って、十七、八円の給料を貰う方がいいと思って、ひまをとろうとしたけれど祖母はそれをゆるさなかった。
と、れかられへとはなしつゞけていきひまい、ドクトルはみゝがガンとして、心臟しんざう鼓動こどうさへはげしくなつてる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
主人の方も事務所ひまやのんですさかい、何時になろうと大概たいがい待っててくれまして、阪神電車で梅田まで一緒に行き
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
トンネルの曲線カーブまで来たときに、そのはずれの方にあの男が立っている姿が遠眼鏡をのぞくように見えたのですが、もう速力をとめるひまがありません。
ひまもないと承っておりましたし、こうした問題はことにまたお避けになる必要があると存じましてその御報告をいたしますことも控えておりました。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ひまさえあればその事のほかに余念もなく、ある時は運動がてら、水撒みずまきなども気散きさんじなるべしとて、自ら水をにない来りて、せつに運動を勧めしこともありき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
安斉先生が相かわらずきびしいから、予習と自習で夜分はほとんどひまがない。それに当分の間柔道の寒稽古がある。これは早朝未明からだから苦しい。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
第一に年齢としちがせゐもあつたが、和上は学者で貧乏を苦にせぬ豪邁がうまい性質たち、奥方は町家の秘蔵娘ひざうむすめひまが有つたら三味線を出して快活はれやか大津絵おほつゑでも弾かう
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
いまのぼるのをなさい、なん神々かう/″\しい景色けしきではないか』とやさしく言葉ことばをかけるまで、若者わかものなにおもひまもなく、ただ茫然ばうぜん老人らうじんかほたのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
私の下僕はもうびくびくふるえて居る。で、まあどうなる事かと非常に心配して居る様子であったですけれども、下僕に対してそんな話をして居るひまもない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わけなんぞ、くことはないじゃないか。んでもあたしのいったとおり、ひまさえしてくれりゃいいんだよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
歩兵銃で射的をうつには、落ちついて、ゆっくりねらいをきめてから発射するのだが、猟にはそういうひまがなかった。相手が命がけで逃走している動物である。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
(おらにもああいう若ぃづぎあったんだがな、ああいう面白おもしろい目見るひまなぃがったもな。)嘉吉がった。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ある人が見かねて、郷里に帰り道具装束を整えてくるがいい、とすすめると、彼は答えていう、「郷里は遠方だ。途中にひまをかけて学道の時を失うのが惜しい」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
たまたま会員病むものあれば信徒こもごも不眠の看護をなし、旅立たびだちを送る時、送らるる時、祈祷と讃美と聖書とは我らの口と心とを離れしひまはほとんどなかりき
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)