“掴:つか” の例文
“掴:つか”を含む作品の著者(上位)作品数
泉鏡花81
野村胡堂61
海野十三32
吉川英治26
中里介山25
“掴:つか”を含む作品のジャンル比率
文学 > 日本文学 > 小説 物語15.3%
文学 > 日本文学 > 小説 物語(児童)2.8%
文学 > 日本文学 > 評論 エッセイ 随筆1.4%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
事務所の角まで来ると何という事なしにいきなりみちの小石を二つ三つつかんで入口の硝子ガラスにたたきつけた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ベッドの上の衣服と、そのわきつるしておいた非常袋をつかむが早いか、部屋をとびだして、街路をけだした。
何でも親達おやたちは軍人にするつもりで、十ばかりのやつつかまえてウィインの幼年学校に入れたのだそうです。
「師匠の芸の神髄をつかんだ、と思ったのは真似まねだけだったのか――師匠は、女団洲なんて、いやだったろうなあ。」
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
けれども人々は、ただ雲をつかんで影をながめるばかりなのを……謹三は一人その花吹くそら――雲井桜を知っていた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、叔母さんは、をひの八五郎が乘りうつつたほどのあわてやうで、格子の外の平次の胸倉をつかみさうにするのです。
それは、私も松村と同様に、頭のよさについて、私の優越を示す様な材料がつかみ度いと、日頃から熱望していたからであった。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
見料けんりょうを払ったじゃねえか」と私は答えた。私の右腕をつかんでた男が、「こっちだ」と云いながら先へ立った。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
中学時代から、貧家に育った雄吉には、二十円というような大金をまとめてつかんだことは、そうたびたびある経験ではなかった。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
花房は前へ出した両手の指のよごれたのを、かがめて広げて、人につかみ付きそうな風をして、佐藤に見せて笑っている。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ようやくその人垣の背後まで辿たどり着いたとき、吾平爺はそのいちばん後ろに立っている一人の学生をつかまえていた。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
だが、二年もぶらぶら遊ぶことになると、その間に独学ででも文学をやるとしたら、何かつかむところがあるだろうと思った。
その紙片の上に書かれてある文字を見て、法水はギュッと心臓をつかまれたような気がした。検事は、むしろ呆れたように叫んだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
がけの中途に乱生しためたい草の株をつかむたんびに、右手の指先の感覚がズンズン消え失せて行くのを彼は自覚した。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
恐らく先生はその時、夏の晩方、石だと思ってつかんだのが、がまであったときのような感覚をされたことだろうと思います。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
されば今日もビナレスの寺院にハヌマン猴を夥しく供養し、また諸市のバザーに入って人と対等で闊歩し、手当り次第つかみ歩く。
その教えに任せて王これを三妃に頒つにその一人分をわしつかんで同じく子を求めて苦行中のアンジャニ女の手に落し入る。
死骸になっての、空蝉うつせみの藻脱けたはだは、人間の手を離れて牛頭ごず馬頭めずの腕に上下からつかまれる。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして、反絵の血走った片眼は、つかまれた頭髪に吊り上げられたまま、長羅の額を中心に上になり、下になった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
散々さんざ悪巫山戯わるふざけをした揚句あげくが、はしつめ浮世床うきよどこのおぢさんにつかまつて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
着物をつかまえて放さなかったり、玄関に立ちふさがったり、女中の見る目もいとわずに、出て行くのを妨げようとする。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
浅井さんは返事もしないで、いきなり私を引っつかんで自分の口へ入れようとするのです。わたくしは再び悲鳴をあげました。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや、これだけはっきり尻尾しっぽつかんだら、それこそ大納言様の名声もたちどころ、と云ったよりどころでござりますぞ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
文麻呂 さ、しっかりとおつかみ! しっかりとお掴み!……お前のいのちよりも大切な……(なよたけは死んでいる)なよたけ〓
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
(や、なぐり込みに来やがったな、さ、殺せ、)というと、椅子を取って引立ひったてて、脚をつかんでぐンとった。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ、もうそんな時刻かと、ぶらぶら当てどなく歩いたが、やつぱり、もう少し泥をつかむやうな、酔ひにかれてゆく。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
薪山まきやまからりだした松薪まつまきの山を崩して、それをつかむと、火口ひぐちきっと覗いた若者。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人の女優は二匹の猛獣のように争い続け、ウェールズ王女臨場の日の舞台の上で、血だらけなつかみ合いを始めてしまった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
妙な破目になつた祿兵衞は、主人筋の世之次郎へ、つかみかゝりさうな樣子を見せます。あまりのことに腹を据ゑ兼ねたのでせう。
騒ぎの面白さに、自分の巣へも入らず、あちこちと野次馬について歩いているのを、これはガラッ八に首根っこをつかまれました。
平次はその顔から、新しい情報をつかんでおりました。無駄なせんさくに、気の詰まるような事をしている八五郎ではありません。
振り払う、またつかみかかる、――相手は誰だか知らないのですが、その力のたくましい事は、到底ただものとは思われません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、私の声と同時に、給仕でも飛んで出て来るように、二人の男が飛んで出て来て私の両手をしっかりとつかんだ。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
M〓bius 一派の人が、名のある詩人や哲学者を片端からつかまえて、精神病者として論じているも、そこに根柢を有している。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ばかめ、こんな爺さんをつかめえて、剣突けんつくもすさまじいや、なんだと思っていやがんでえ、こう指一本でもしてみろ
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供がつかまり立ちをするころに、K―の手から裏の大工へ譲り渡されたその家を、笹村は立ち退かなければならなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつ棄てられても、困らないことにさえしておけば、欲につながる男心の弱味をいつでもつかんでいられそうに思えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼はこの言葉で狼狽あわてながらも、懐中から先刻貰ったプログラムと真新らしいハンカチとを一束いっそくたにつかみ出した。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
むくむくと動きだしそうになる手足や、絶対者にむかって投げ出された胴、痙攣けいれんして天をつかもうとする指……。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それは、すこしでも精神異常者なら、たとえ犯跡は巧妙にくらましても、なにかのことでいつかは尻尾をつかませるはずである。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
鳶すなわち飛び下って薯をつかみ、空を飛び舞いて地へおとすを、他の鳶が拾うて空を飛び廻ってまた落すと、薯二つに割れた。
後の二人は逃げ出した。すぐに狼が飛びついた。そうして喉笛のどぶえを噛み切った。虚空こくうつかむ指が見えた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とのさばりかかり、手もなくだきすくめてつかみ行く。仕丁しちょう手伝い、牛の背にあおむけざまに置く。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どう間違ってもつかみ合いになる心配はなし、昼日中ひるひなかが太古のような静かさで、お雪は自分一人がこの温泉にいるような
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はもう、気味が悪いやら怖いやら、がたがたふるえておりますと、お神さんがね、貴方、ざくりと釘をつかみまして、
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下男げなん兩人りやうにんこしたない蒋生しやうせいかゝへて、背戸せどへどんとつかす。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御意は可しで、飛鳥のごとく、逃げるのを追懸おッかけて、引捕ひッとらえ、手もなくうなじぶちつかんで
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とずっと出すと、びったり額を伏せて、しっかりと膝をつかんだが、苦痛を堪えるおそろしい力が入って、しびれるばかり。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一喝いっかつして首筋をつかみたる様子にて、じょうの内外一方ひとかたならず騒擾そうじょうし、表門警護の看守巡査は
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「いつ? 今日? どこで?」と言いながら、彼女は両手を彼の口へ差しのべた。両手で彼の答えをつかまえようとするかのように。
ぼんやりと、そんな物を見ているうちに、誰か背後うしろへ来て、自分の帯へ手を入れた者があるので、ばばはその手をつかんで、
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘉兵衛は、共に泣きながら、酔いどれでも引っつかむように、無理無態に人混みから山門の方へ、彼をらっして行った。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そればかりを、薊は思っていた。水は、真っ黒に濁って、彼をつつんだが、彼はつかんでいる物を死力をもって掴んでいた。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「親分、こいつはあきらめものかも知れませんよ。銭形の親分に三月越し塩をめさせて、影法師もつかませねえんだから」
そいつは肩をつかまれたとたんに、かねて予期した如くひょいと振り返り、財布を両手に捧げ持って、ぱっと最敬礼をいたしました。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「ソレニ、ドウセ自動車ガルト思ッタノデ、ヤットノ〓デつかマエテ来マシタ」彼女ハ独得ノ意地ノ悪イ眼デ僕ノ眼ヲ覗イタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「またステッキさん、あんな人つかまえてるし、……」「あのステッキ・ボーイやったら誰もうらやましいことないなあ」いうて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると、そこにもう一人の青年がいて、これを受けとめ、不具者の肩をつかんで自分の方へ向けると、又グンとひたいをついた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と宮裏の手をつかまえて、手の平を指で押して、承諾するときはその指を握るので、嫌なときは握らないのだと説明する。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
靴を穿いて格子を出るのを、お妙は洋燈をせなにして、かまちの障子につかまって、じっと覗くように見送りながら、
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「よォし、無いと判ってりゃ、よいのだ」大尉はそう云うとクルリと身をひるがえし、いきなり星宮学士の両腕をグッとつかんだ。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして意見がましいことをいうのに、虎狼ころうのような心になっている私は、床の間の置物をつかんで、姉に投げつけようとした。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
お銀は格子につかまって、窓へ上ったり下りたりしているその子供の姿をじっと眺めていた。その姿はどこか影が薄いようにも思えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
仏頂寺弥助は、ついに長い刀の物打ものうちの上あたりを半紙でつかんで、左の手で襟を押しひろげて、その腹を撫ではじめました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
噴泉のくように、突如としてかられ始めた朗々たるピアノの音が信一郎の心をしっかとつかんだのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は席から滑り落ちた。メルキオルは手荒く彼をまたすわり直させ、手首をつかんで鍵盤にぶっつけた。彼は叫んでいた。
彼は自分の体の下に、しっかりと一人の子供をおさえつけて、その頬ぺたを、両手でがむしゃらにつかんでいたのである。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
彼は手につかんだ小銭を渡して、それを受取るなり、群集の眼を恐れるように、こそこそと薄暗い横丁へはいって行った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「わツ、」とさけんで、咽喉のどつかんだまゝ、けやうとして振挙ふりあげた
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そんな風に声を掛けながら、伝平は、軽く肩のところを叩いたり、無雑作に口の中から舌をつかみ出したりするのだった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
赤袴の這身はいみで忍んで、あらかじめ、お冬さんの衣桁いこうにも掛けずたしなんで置いた、帯をつかみ出していたのです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その難問題をいとも簡単に勘所をつかんで説き起こし、説き去られるということは女史の聡明さを証明するものであろう。
鮟鱇一夕話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
武蔵は無造作に竹の一端をつかみ、一本一本打ち振ったところが、みな折れくだけて、たった一本だけが残ったのである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向柳原は繩張内で、平次も暮へかけて一と働きしましたが、こればかりは、雲をつかむやうで、全く手の付けやうがなかつたのでした。
その他に独立した新しい或る詩をつくり出そうというのなら、何か或る物をつかんで人をきつけるようにしなければならぬ。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「主人の弱い尻をつかんでいるのだろうとか、主人の命の恩人だとか言いますが、真当ほんとうのことは解りませんよ」
そのあいだに、二度三度、こう求めて、誰やらがひざまずいて、眼の前に捧げる弓を、引っくるようにつかむや否、
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒と女とに身を持崩もちくずしていたが、去る――にち、某酒楼にて飲み仲間の誰彼と口論し、遂につかみ合いの喧嘩となりたる末
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
豚吉の足が二本、井戸の中からニューと出ておりますから、驚いてすぐに走り寄って、その足を両方一時につかまえて、
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
私はおどろきを思わず声に出した。辻永が急に活発に歩きだしたのだ。どうやら何か又新しい手懸てがかりをつかんだものらしい。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その人はおどろきおそれて遂に馬から転げおちると、怪物は跳りかかって彼をつかもうとしたので、いよいよ懼れて一旦は気絶した。
つきの北山も片手に風呂敷包ふろしきづつみをもち、片手に瑠美子をつかまらせて、あっち寄りこっち寄りして
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところで彼が書いて『十月』や『成長』に発表する「職場にて」を見ると、それは十分労働者の心持をつかんでいない。
が、彼らにもようやくチャンスはめぐきたり今や彼等は駿馬しゅんめ尻尾しっぽの一条をつかんだような状況にあった。
珠はつかむ、酒の上じゃ、はじめはただ、御恩返しじゃの、お名前を聞きたいの、ただ一目お顔の、とこだわりましけ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
郎女は目をつぶった。だが――瞬間まつげの間から映った細い白い指、まるで骨のような――帷帳をつかんだ片手の白く光る指。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
と云っているところへ奥方が出て来たが、お菊の前の破れた皿を見るなり、お菊の髪をむずとつかんでこづきまわした。
皿屋敷 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
砂をつかむ、小砂利を投げる、溝泥どぶどろ掻廻かきまわす、喧嘩けんかはするが誰も味方をするものはない。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こん度は私がその日本語をまだ充分理解しない、しかし人なつこそうな神父につかまって、何かと訊かれる番になった。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
吾輩わがはいつかんでる。えうたゞつかんだひら時間じかんことだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こんな話しの出る席には、彼の母も加っているのが常であった。庸介のこの言葉は彼の母の心をぎゅっと荒らくつかんだ。彼女はすぐに、
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
伝右衛門氏は、それほどの女性ひとを、金でつかんでいるというふうに、好意をよせられないのもしかたがなかった。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かくておきみは、この老婆の手によつて、そのかぼそい咽喉元のどもとを完全につかみ取られてしまつたのであつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
若し彼等二人の間に道ならぬことがあるとしても其の真相をつかむことは迚ても今宵直には不可能のやうに思へて来た。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
それは細部に亙って客観的に一々調べてゆくというのでなく、先生自身の立場から直観的にその本質的な内容をつかむという風であった。
西田先生のことども (新字新仮名) / 三木清(著)
つまり貫之より前の六歌仙時代、短歌が文学的創作となりはじめの純抒情歌であった時代を鋭くつかんでいるのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
富岡は、そんな小説は読んではゐなかつたが、女を梯子にするとゆき子に云はれて、むつとした。ゆき子の腕をつかみ、引きずり寄せた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
猛然とつかみかゝる八五郎、二人は一瞬動物のやうにあらそひました。が、到頭八五郎が勝つて、鐵を膝の下にギユツと引据ゑます。
明け方から根気よく、納屋蔵にこもって責めていた東儀与力は、口書くちがきを引っつかんで、羅門のいる役室へ飛び出して来た。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年は余程激しい折檻せっかんを受けたと見えて、母親の姿を見ても、声さえ立てず、男に肩先をつかまれたまま、小さくなっている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)