所以ゆゑん)” の例文
是天地方円はうゑんあひだ生育そだつゆゑに、天地のかたちをはなれざる事子の親にるに相同じ。雪の六出りくしゆつする所以ゆゑんは、ものかず長数ちやうすういん半数はんすうやう也。
以為おもへらく、写実小説は文学独立論を意味し、文学独立論は国民的性情の蔑視べつしを意味す、これ今の小説の国民に悦ばれざる所以ゆゑんなりと。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
そのぼんやりし過ぎた事を言つたのはタゴールの賢い所以ゆゑんで、彼は日本の阿父おやぢ阿母おふくろが余り理想的で無い事をよく知つてゐるのだ。
これらの聖恩が、たゞに徳川氏をしてその家祀を全うせしめたばかりでなく、明治維新の大業をして容易に成就せしめた所以ゆゑんなのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
で、禿はその通の病人だから、今ではあの女がひとりで腕をふるつて益す盛につてゐる。これすなはち『美人びじクリイム』の名ある所以ゆゑんさ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それは必しも万葉集の源氏物語を抜いてゐる所以ゆゑんではない。のみならず又両者の間に散文と韻文と云ふ掘割りの横はつてゐる所以でもない。
A イヤ、あれは本統ほんとうだよきみ。ちやんと新聞しんぶんいてあつた。それを精密せいみつ記憶きおくしてるのがすなはおれ頭腦づなう明晰めいせきなる所以ゆゑんさ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
国の進動する所以ゆゑんの者、此に存す、国民若し仰ぎて中心とする英雄なかつせば、其文明は到底唯物的の魔界に陥らざるを得ず。
只だ政府此の道に出でず、彼等に対する宛然さながら非人乞食を遇するが如くす。是れ人民をして益〻怨恨激発せしむる所以ゆゑんなり。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
狐疑こぎしてるやうなその容貌ようばうとは其處そこあへ憎惡ぞうをすべき何物なにもの存在そんざいしてないにしても到底たうてい彼等かれら伴侶なかますべてと融和ゆうわさるべき所以ゆゑんのものではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
所が、あにいづくんぞ図らんや、この堂々として赤裸々たる処が却つて敵をして矢を放たしむる的となつた所以ゆゑんであつたのだ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
されどわれは此一家の復た我に厚きを喜ぶと共に、人の我を恕するは我を輕んずる所以ゆゑんなるを思ふことを禁じ得ざりき。
斯樣かやうにすれば自分じぶん發明心はつめいしん養成やうせいし、事物じぶつむかつて注意力ちゆういりよくさかんにするやうになりませう。すなは學生がくせい自營心じえいしんやしな獨立心どくりつしんやしな所以ゆゑんでありませう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
いはゆる「百万人の文学」をいちばん問題とするのが新聞小説である所以ゆゑんだ。そして新聞小説に登場することこそ、世の通俗作家の本懐なのである。
かくの如き旋渦せんくわを生ずる所以ゆゑんならず。稜立かどだちたる巌壁の間に押し込まれたる水は、潮の漲落に際して屈折せられ、瀑布の如き勢ひをなして急下す。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
然れども俗化するは人をして正常の位地に立たしむる所以ゆゑんにして、上帝に対する義務も、人間に対する義務も、いにしびとが爛熳たる花にたとへたる徳義も
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
然れどもわれは早稻田文學と共に沒理想を説かず。烏有先生既に沒理想を一主義として辨じたれば、われは唯わが沒理想といふ語を取らざる所以ゆゑんを言ふ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
汝若しまた嫁せずといへる福音の聲をきけることあらば、またよくわがかく語る所以ゆゑんをさとらむ 一三六—一三八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
またぱうからへばきん解禁かいきんをなすことが日本にほん經濟けいざい立直たてなほしを將來しやうらい財界ざいかい安定あんてい招來せうらいする所以ゆゑんである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それがこの評判を生じた所以ゆゑんである。然し義雄自身に取つては、今やただ敷島ひとりしかゐないのである。またその他の女を思ふ餘地が存してゐないのである。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
... ぐる所以ゆゑんかくごと而已のみ』と。孔子こうしつて弟子ていしつていはく、『とりわれぶをり、うをわれおよぐをり、けものわれはしるをる。 ...
然しながらその死の原因となるものは、その美を飾る所以ゆゑんではない。それ程明かに分つては居なかつたけれども、富之助は内心この矛盾の爲めに煩悶したのであつた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
もく辭退じたいすな/\、にはかとみつくらずとも、なんぢこゝろにてしとおもふやうにさへいたせばし」とるところをかたしんじてひとうたがたまはぬは、きみ賢明けんめいなる所以ゆゑんなるべし。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
東坡の其の決して南山を望むに非ざるを知る所以ゆゑんなり。今、細数落花、緩尋芳草と云へば、留意甚し、故に之をふと。又云ふ。荊公多く淵明の語を用ひ而かも意異なる。
仏蘭西フランス風の軽快と洗錬との美をまつたく欠いた点がやがて独逸ドイツ文明の世界に重きをなす所以ゆゑんであらうが、自分達の様な体質や気質を持つた者には容易にしたしみにくい文明である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
著者は主人公の人物を説明するに於てすこぶる前後矛盾の筆を用ゐたり。請ふその所以ゆゑんを挙げむ。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
尚書しやうしよいはく、農は国の本、本固ければ国安しとありて、和漢とも、農を重んずる所以ゆゑんなり。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さうしてそれがまた、あの案内の女が、しやべりつづけに喋つて居るその家の由来に就て、何の興味も持たぬらしく、ただ無愛想に空返事そらへんじを与へて居るに過ぎなかつた所以ゆゑんででもある。
来る客の望をかなへるのは、クリストの意志をみた所以ゆゑんであるから、拒んではならない。折角来た客に隠れて逢はないでは残酷である。こんな風に云はれて見れば、一々道理はある。
人は生きてゆく所以ゆゑんでもあるのだが、母も亦私も、祖母も亦他の弟達も、死ぬが死ぬまで、死ぬだらうと思ひながらも死ぬのだとは思つてゐなかつたので、いよいよ死んでしまつた時には
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
かくの如き才を草莱さうらいに埋めて置かないで、下総守になり鎮守府ちんじゆふ将軍になりして其父の後をがせ、朝廷の為に用を為させた方が、才に任じ能を挙ぐる所以ゆゑんの道である、それで或は将門をすゝむる者もあり
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其樣そのやう取亂とりみだして悲嘆なげかしゃるは、たゞしうあいさっしゃる所以ゆゑんい。
全國社友大會の近づく際、特にこれらの言をなす所以ゆゑんである。
樹木とその葉:07 野蒜の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
我等が直立して歩む所以ゆゑんの使命を
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まことに人を懼るるとば、彼の人を懼るる所以ゆゑんと、我より彼の人を懼るる所以とす者とは、あるひややおもむきことにせざらんや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
春水の斯の如くに程朱の一端にはしりし所以ゆゑんのもの、決して怪しむに足らず、何となれば渠は選択の時代に生れたればなり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
而して今にして知りぬ、古人が自家見証につきて語る所の、毎々つね/″\いたづらに人をして五里霧中に彷徨はうくわうせしむるの感ある所以ゆゑんを。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
操縦することは出来なかつた、——或は我々人間に操縦されることは出来なかつた。それは彼のヨセフではない、聖霊の子供だつた所以ゆゑんである。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其の兵器を鳩集きふしふする所以ゆゑんのものは、あたか上国孱士じやうこくせんしの茶香古器をもてあそぶが如し。東陲とうすい武夫もののふ皆弓槍刀銃をたしなまざるなし、これ地理風質のことなるにるのみ。
が、妻が見て居る以上、さうすることは却つて彼女に疑惑を起させる所以ゆゑんだつた。信一郎は、おづ/\と封を開いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
筆を進めて其謬見の謬見たる所以ゆゑんを精窮するは評家の義務かも知れず候へど、自明の理を管々くだくだしく申上ぐるも児戯に等しかるべく候に付、差控へ申候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
畢竟するにその所謂いはゆる公明なる所以ゆゑんのものは、暗黒の「影」の比較的に薄きに過ぎず、照明なる時間の比較的に長きに過ぎず、真の大知、大能、大聖に至りては
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
宗教家の形式、禪家の一かつ、神祕家の沈默、すべてこれらは實行的自我を逸する、否、無にする所以ゆゑんだと。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
是時淑女、萬物を見る者に照らして、わがもだ所以ゆゑんを見、汝の熱き願ひを解くべしと我にいふ 四九—五一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
姫は君が友の色の蒼さよ、病めるにあらずやとさゝやきぬ。われはたゞさることはあらざるべしと答へしが、我心は明に友の面色土の如くなりし所以ゆゑんを知りたり。
A それだからいけないよ、きみは。なんでも相手あひてにさせるんだよ。相手あひてにしなけりや承知しようちしないとふんだよ。それが政治機關せいぢきくわん改造かいざうする所以ゆゑんなんだらうぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
且亀田鵬斎ぼうさいの如く、篁墩とともに金峨の門に出で、蘭軒と親善に、又蘭軒の師友たる茶山と傾蓋ふるきが如くであつた人もある。わたくしの今これに言及する所以ゆゑんである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
大忠だいちう(九〇)拂辭ふつじするところく、(九一)悟言ごげん(九二)撃排げきはいするところく、すなはのちその辯知べんちぶ。親近しんきんせられてうたかはれず・(九三)これくすを所以ゆゑんなり
場内を卓から卓へ軽卒あわたゞしく歩き廻つて何人なにびとにも愛嬌あいけう振撤ふりまくのを見ると其れが人気者たる所以ゆゑんであらう。僕がこの人と物を言ふのは今夜が初めで多分又同時に最後であらう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
すんでのところ。——つこちるのでも、身投みなげでも、はつときとめる救手すくひては、なんでも不意ふいはう人氣にんきつ。すなはち同行どうかう雪岱せつたいさんを、いままでかくしておいた所以ゆゑんである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)