恰好かつかう)” の例文
天城も下田街道からでは恰好かつかうな場所がない。舊噴火口のあとだといふ八丁池に登る途中からは隨所に素晴しい富士を見る事が出來た。
かうもくろんだので、私は、腰掛にずつと深く腰をかけ、さも計算にせはしいふりをし、顏を隱すやうな恰好かつかう石板せきばんを抱へ込んでゐた。
「お前さんは一体、どうなすつたぢや。赤鬼が桃太郎に降参したやうな、そんな恰好かつかうをして……一体こりや、何ちふことぢやのう。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
女陰などといふとすさまじく聞こえるが、実は支那の古篆こてんの『日』の字のやうな恰好かつかうをしてゐるものに過ぎない。男根でもさうである。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
あひるさんは大変おしやれでしたから、自分の足の恰好かつかうのことはたなへあげて、きりぎりすさんのこしらへてきた靴を一目見ていひました。
あひるさん の くつ (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
金時計きんどけいだの金鎖きんぐさりいくつもならべてあるが、これもたゞうつくしいいろ恰好かつかうとして、かれひとみうつだけで、ひたい了簡れうけん誘致いうちするにはいたらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
て、うなると、この教育けういくのあるむすめが、なにしろ恰好かつかうわるい、第一だいいちまたちやうがわるい、まへ𢌞まはしてひざつてなほせといふ。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
舞妓まひこは風を引いてゐたと見えて、下を向くやうな所へ来ると、必ず恰好かつかうい鼻の奥で、春泥しゆんでいを踏むやうな音がかすかにした。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それからしよく供物くもつ恰好かつかうよくして總代等そうだいられてつた注連繩しめなはもみからもみつて末社まつしやかざりをした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それが腹をなでて、子豚はくすぐつたくてたまりません。鳴いたり笑つたりして、くすぐつたいをかしな恰好かつかうで、舞台の上を歩きまはります。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
想ふにこの女子まだ十五ばかりなるべけれど、脊丈せたけ伸びて恰好かつかうなれば、行酒女神ヘエベの像の粉本とせんも似つかはしかるべし。
白い股引もゝひき藁草履わらざうりを穿いた田子たごそのまゝの恰好かつかうして家でこさへた柏餅かしはもちげて。私は柏餅を室のものに分配したが、皆は半分食べて窓から投げた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「今日楢雄を見ましたよ。この暑いのに合服を着て、ボロ靴をはいて、失業者みたいなみすぼらしい恰好かつかうでしたよ。」
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
一方に於てはエスペラントなるものが此需要を満足する恰好かつかうの言語であることを証拠立てるとまあいふべきでせう。
エスペラントの話 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
その後から八五郎が、自分の彌造を追つ驅けるやうな恰好かつかうで、ホクホクといて行つたことは言ふ迄もありません。
そして、番人の女があれだけしツかり物であるらしいのを見ると、それと同じ年恰好かつかうのお鳥もその獨り旅の汽車の上をさう心配してやるにも及ぶまい。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
以て訴ゆべしとて役人は歸へけり此家の番頭はお竹が父親なりしかば大いに悲みお竹の亡骸なきがら取納とりをさめける扨利兵衞はむすめきくを呼て其方盜賊の面體めんてい恰好かつかう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それで軍人の階級なぞは好く分からない。併し先に立つて行つた四角な顔の太つた男は、年も四十恰好かつかうで、大佐か中佐かだらうといふことだけは分かつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
だいぶ疲れてもゐましたし、自分たちのやうな恰好かつかうでは、なんだか仲間はづれのやうに思はれもするのでした。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
『えゝ、つててよ!』とあいちやんがさけびました、この最後さいご言葉ことばには頓着とんちやくせずに。『それは植物しよくぶつだわ。ちつとも人間にんげんのやうな恰好かつかうをしちやなくつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
こはれたすゞりのはしをのこぎりつきつて、それを小さな小判形(印章屋では二分小判と称する)に石ですりまろめて、恰好かつかうをとゝのへたが、刻るのは造作ざうさなかつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
気の小さい二人は、「済まない/\。」と、口癖に云つては居るが、さて恰好かつかうな仕事口も無いので、兄の筆耕をしたり、走使なぞしてブラ/\日を送つて居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
してお内儀かみさんはと阿関の問へば、御存じで御座りましよ筋向ふの杉田やが娘、色が白いとか恰好かつかうがどうだとか言ふて世間の人は暗雲やみくもに褒めたてたもので御座ります
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『えらう遲い御參詣ごさんけいだすな。さアお上りやす。』と、すみの方の暗いところから、五十恰好かつかうふとつた女將おかみらしい女が、ヨチ/\しながら出て來て、かすれた聲で言つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
愚助は指尖ゆびさきで、雲の恰好かつかうを教へて置いて学校へ行きました。そして一日何にも覚えないで帰つて来ますと、画家さんは大きな紙に、立派な壺の絵を描いてありました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
文章を書くとふよりは柔術やはらを取りさうな恰好かつかうで、其頃そのころ水蔭亭主人すゐいんていしゆじん名宣なのつてました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「え、え、あそこは——。汚ない恰好かつかうをして近くへ寄つて来るので御座いますもの——」
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「こゝへかう持つてくより外仕方がないな。」と、押入の左手の、半間幅の中塗の壁へあてがつて、恰好かつかうを見てお出でになる。額はやゝ太目の赤い絹の打紐で吊すやうになつてゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
かれ容貌ようばうはぎす/\して、何處どこ百姓染ひやくしやうじみて、※鬚あごひげから、ベツそりしたかみ、ぎごちない不態ぶざま恰好かつかうは、宛然まるで大食たいしよくの、呑※のみぬけの、頑固ぐわんこ街道端かいだうばた料理屋れうりやなんどの主人しゆじんのやうで、素氣無そつけなかほには青筋あをすぢあらは
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しやがんで居たる四十恰好かつかうの男
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
すると良寛さんは、びつくりしたやうな恰好かつかうで、背後うしろへそつくりかへる。以前からの約束で、さうしなければならないのである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
いはば西洋文字のHの様な恰好かつかうになつたのである。すると其の川に住んでゐる魚族が一度にむらがり死ぬといふ現象が起つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
幼君えうくんこれを見給みたまひて、「さても恰好かつかうかな」とちてのたまへば「なるほどよろしくさふらふ」とかごなかにてこたへたり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それがふくれると自然しぜん達磨だるま恰好かつかうになつて、好加減いゝかげんところ眼口めくちまですみいてあるのに宗助そうすけ感心かんしんした。其上そのうへ一度いちどいきれると、何時いつまでふくれてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
百兵衞は謎々の理由を訊かれると、餘つ程それが言ひ度くなかつた樣子で、挨拶もそこ/\、逃げるやうに外へ——不器用な恰好かつかうで飛出してしまひました。
他の土地へ移るといふも億劫おくくふだし、矢張り沼津を——私が越して來てゐるうちに沼津町から沼津市に變つてゐた——中心として恰好かつかうな空家は無いかと探し始めた。
樹木とその葉:04 木槿の花 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
してお内儀かみさんはと阿關おせきへば、御存ごぞんじで御座ござりましよ筋向すぢむかふの杉田すぎたやがむすめいろしろいとか恰好かつかううだとかふて世間せけんひと暗雲やみくもめたてたもの御座ござります
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時の弟子の恰好かつかうは、まるで酒甕を転がしたやうだとでも申しませうか。何しろ手も足もむごたらしく折り曲げられて居りますから、動くのは唯首ばかりでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
毎日まいにちひとつに自分じぶんにもさういへば身體からだ恰好かつかうまでどうやらさうえてたと勘次かんじこゝろおもつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
申すやと有しかば雲源うんげんまつたいつはりは申上ず私し盜賊たうぞくまぎれ之なく候御仕置おしおき仰付おほせつけらるべしと云に大岡殿おほをかどのいや彼の吉三郎は其方と兄弟にあらずや人相にんさう恰好かつかう音聲おんせいまでもよく似たりなんぢおとゝ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「お一人でまあ、おさびしいでせう。一つあたし、恰好かつかうなお話相手を見つけませうか」
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
最初さいしよ、十にん兵士へいし棍棒こんぼうたづさへてました、此等これらみんな三にん園丁えんていのやうな恰好かつかうをしてて、長楕圓形ちやうだゑんけいひらたくて、隅々すみ/″\からは手足てあしました、つぎたのは十にん朝臣てうしん
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
玄關のがらす戸を明けて這入り、案内を乞ふと、番頭らしい四十恰好かつかうの男が出て來て受けついで呉れる。それに導かれて、長い廊下に添うて奧の客間へ通ると、既に二三人の客がゐた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
歩く時に非常に変な恰好かつかうをして身体からだを伸ばしたり縮めたりするのですが、それが、虫の仲間では恰好がよいといふ事になつてゐるので、尺取虫は年中、薬を調合しながら、横に鏡をかけておいて
こほろぎの死 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
利安は信濃産しなのうまれの侍女で、小笠原内藏助をがさはらくらのすけと云ふものの娘に年恰好かつかうの櫛橋氏に似たのがあるので、それを蚊帳かやの中に寢させ其侍女の娘が一しよに奉公してゐたのを蚊帳の外にすわらせ、話をさせて置き
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
父は威張つた恰好かつかうで尻を高くはしより再び街道の真中を歩いた。その老翁を乗せて後から来た人力車は今度は僕らをけて追越して行つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
今日の新太郎ちやんは、気が張つてゐたので、惣兵衛ちやんの家の前で、野良犬のやうな恰好かつかうはしなかつた。栄蔵のすぐあとに続いてしきゐをまたいだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
そんな事をいつて居る平次の後ろへ、踊るやうな恰好かつかうで近づいて來たのは、三十前後の下男風の男でした。
ことに廣い駿河灣一帶よりも直ぐ眼の下に見える江の浦の細長い入江を見るに恰好かつかうな所に當つてゐる。
それ東京とうきやう出來できなかつたら、故郷こきやう住居すまひもとめるやうに、是非ぜひ恰好かつかうなのを心懸こゝろがける、と今朝けさ從※いとこふから、いや、つかまつりまして、とつい眞面目まじめつて叩頭おじぎをしたつけ。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)